「なぁ……」  
俺はテーブルの上に並べられたものを見てニヤニヤしながら目の前に居る人物を見る。  
「何が言いたいかなんとなく判るけど、言いたい事は、はっきり言いなさい」  
彼女はやや頬を膨らまして応じる。  
自分が悪いと思うが納得がいかない時の表情だ。  
こういった処は成長しても変わりがないんだなと思いつつ  
「何で味噌汁がないんだ? 」  
ずばりと切り込むように疑問点を聞く。  
毎日味噌汁を作ってくれと言わせてやると気合が入っていた美鶴に対して、味噌汁なら豆  
腐となめこが良いなと俺が答え、それを作って言わせてやる〜と豪語していた。  
だが実際、目の前に並べられたた料理の中には、豆腐となめこの味噌汁どころか、味噌汁  
自体がない。  
ちなみにメニューは鯛めしに鯛のお吸い物、鯛の刺身に鯛のかぶと煮、鯛のアラ炊き、冷  
奴、なめこのみぞれ和え、白菜の漬物と、ほぼ鯛尽くしと豪華なものではある。  
「うぅ……、まさかうちにもお味噌が無いなんて思わなかったわよ……」  
悔しそうに顔を歪めながら、力なく美鶴は呟いた。  
 
 
話は夕飯を作る前まで遡る。  
買い物に出かけた俺たちはまず、魚屋に向かった。  
っつうか俺は連行された訳だが、そこでお約束道理、  
「あ〜ら、美鶴ちゃんの彼氏? おや? なんだい、橘さんとこの美晶ちゃんじゃない。  
そうかい、そうかい、結局そうなったんだね〜。  
うんうん、昔っからそうなるんじゃないかな〜って、おばさん思っていたのよね。  
よっし、今日はサービスで安くするわよ、鯛なんかどう? 良いの入ってるわよ」  
魚屋のおばちゃんが人の話を聞かないマシンガントークを行いつつ、俺の背中をバンバン  
と力強く叩き、美鶴は否定せずうれしそうにニコニコしながら、  
「じゃ、それください。ほら、お金」  
そう言われて俺は金を払わされる。  
飯代を浮かして小遣いに回そうと考えていた俺は渋々と諭吉様を出しつつ、鯛の値段を  
見る。  
ぉぃ……、そりゃ、腐っても鯛って言われるくらいだし百円、二百円じゃ買えないと思っ  
たけどさ、鯛1匹に対して英世先生三人って……。  
しかも、諭吉様と交換された一人の一葉さんと二人の英世先生は俺でなく美鶴のほうに差  
し出され、当然のように美鶴が受け取り財布の中にしまう。  
「え〜と、おばさん、三枚おろしにして半身は刺身で、もう半分は切り身。あと頭は二つ  
に割っておいてください。アラも使いますので取って置いてくださいね。帰りに寄ります  
ので、お願いします」  
そう言い残し、俺を引き摺りながら次の店に向かう。  
同様の会話が、八百屋の親父、漬物屋の元お姉さん、豆腐屋の爺さんと繰り返され、その  
都度、手ぶらで出てきたはずの俺が手にする荷物が増えていく。  
それも買ったものよりオマケで荷物が増えるってどういうことだよ?  
八百屋の親父が、大根、生姜、なめこ、柚子、筍のオマケにニラ一把と山芋一本くれたの  
は、まぁ良いとしよう。  
漬物屋の元お姉さん(現肝っ玉かあちゃん)が白菜の漬物に対してニンニクの醤油漬け一  
袋を付けてくれたのも、まぁ許せる。  
けどな、豆腐屋の爺さん。  
豆腐買ってハブ酒一升(ハブ入り)を渡すのはどうかと思うぞ。  
仮にも高校生に対して……。  
美鶴も笑顔で受け取るんじゃない。  
「人の好意は笑顔で受け取るものよ」  
さいですか。  
新手の嫌がらせか拷問かと思う、市中引廻しの刑、もとい商店街めぐりを終えて魚屋に戻  
ると  
「美鶴ちゃん出来てるわよ、あとこれも持ってお行き」  
とか言われて解体された鯛とともに鰻の蒲焼を渡される。  
……田舎の人情を感じるよ、嫌な方向で……。  
 
戦利品? を抱えさせ意気揚々と家に帰った美鶴は早速台所に篭る。  
料理なんてお湯をかけるもの以外作れない俺は台所に行っても邪魔になるだけだろう。  
そう思い居間でテレビをつけて夕方のニュースを見る。  
アナウンサーの声をBGMに、鍋が吹き零れる音に混じって聞こえる悲鳴や、掛け声ととも  
に包丁を叩きつける音とかするが、とりあえず  
「新婚みたいだな」  
と言っておこう。  
言っておかないと俺の命にかかわるような気がする。  
テレビの画面になぜか映り込んでいる、包丁を持ってこっちを見ている美鶴は見なかった  
ことにして。  
「なに言ってるのよ〜、もぅ〜」  
タオルで手を拭きながら満更でもない表情で台所から出てくる。  
俺の正面に座り、机の上に載っているポットから急須にお湯を注ぎ、湯飲みにお茶を入れ、  
飲み干し一息つく。  
「とりあえず終わったのか? 」  
美鶴が台所に入って正味三十分、下準備をし、煮物などを火にかけて一段楽する時間だ。  
「えぇ、一通り終わったのだけど……。あんた、お味噌どこにあるか知ってる? 」  
「ん? 味噌なら冷蔵庫の上段、向かって右側に無いか? 」  
うちの母親はいつもそこに置いている。  
「冷蔵庫の中、見たんだけど無かったのよね〜」  
そう言って、目で  
『あんた見てきなさいよ』  
と指示を飛ばしてくる。  
『やれやれ』  
内心ため息を吐きながら立ち上がり台所に向かう。  
途中、まな板の上に魔女が毒薬を作るための材料みたいな禍々しいモノが蠢いていたよう  
に見えたような気がしたが、今と未来の生命を天秤にかける。  
『頑張れ将来の俺』  
問題を先送りにすることに決めて、何も見なかったことにし、冷蔵庫を開ける。  
「ん、確かに無いな〜」  
いつもの定位置に味噌の容器が無いことを確認する。  
俺の母親はこういった事はキッチリしているから、出しっぱなしにしてどこかに置き忘れ  
ているって事は無いはずだ。  
だとすると……。  
俺は分別されている燃えないゴミの袋を開け、中を確かめる。  
「ふむ……」  
ゴミの上のほうに、手抜き……じゃない、忙しい主婦御用達、  
『鰹節と昆布の出汁入り味噌』  
の容器を見つける。  
母親も俺が飯を、ましてや味噌汁を作るわけ無いと踏んで、昨日使い切って新しいのは旅  
行から帰ってきたら買うつもりらしい。  
 
「どうやら使い切ってないらしい」  
居間に戻り、状況証拠で固めた報告を依頼者に告げる。  
「そう……」  
俺の話を聞いた美鶴は顎に手を当てて考える。  
「なんなら買ってくるか? 」  
どの道味噌なんて最後の最後に使うのだろうから、今から買いに行っても十分間に合うは  
ずだ。  
まな板のアレを思い出し、コンビニに行けば俺の夕飯も確保できそうだし、上手くすれば  
美鶴の料理を食わなくて済むかも……、などの思いも働く。  
「いいわ、家から持ってきたほうが早いし」  
確かにうちと美鶴の家は徒歩10秒ほど。  
買いに行くより早いし、よく調味料の貸し借りはやっている。  
「それにあんたを買い物に行かせると何時まで経っても帰ってきそうに無い気がするのよ  
ね」  
ジロリと睨まれる。  
バ、バレてるし……。  
ま、まぁ、美鶴が家に帰っている隙に逃亡って手も……。  
「あぁ、それから、私が帰ってきた時に家に居なかった場合、どうなるか判っているわよ  
ね? 」  
「はい、家に居ます。居ますからどうかお手に持っているものを置いて、味噌を取ってき  
てください」  
いつの間にか手にしていた果物ナイフを光にかざして見ている、美鶴に土下座する勢いで  
言う。  
昼に食べた雑炊のことを考えれば、まだ料理を食べたほうが命の助かる確率が高い……気  
がする。  
「じゃあ、すぐに戻ってくるから、ちゃんと居なさいよ」  
そう念を押して、自宅に帰っていく。  
「ふぅ……」  
ひとまず生命の危機が去った俺は自分で湯飲みにお茶を注ぎ生きている事を実感する。  
と、えらい勢いで玄関の扉が開き、  
「もう〜、なんでよ〜」  
と叫びながら、足音も高々に俺の居る居間を横切り台所に飛び込む。  
「み、美鶴? 俺、自分の部屋に居るから出来たら呼んでくれ」  
台所に飛び込む寸前に見た、美鶴の形相と勢いに恐れをなした俺は、台所付近からの撤退  
を決め、奇声のする台所に恐る恐る声をかけて、二階にある自分の部屋に逃げ込み、ベッ  
トの上で漫画を読みながら時間が過ぎていくのを待ち、国営放送が夜のニュースを読み上  
げる頃に呼ばれ、料理を目の当たりにしたやり取りが冒頭だったわけだ。  
 
「お味噌汁が無くたって『毎日作ってほしい』って言わせる自信はあるから食べなさい」  
美鶴にそう言われて、俺は箸を手にし料理に伸ばす。  
「ん、確かにプリプリしてて美味しいな」  
食べた感想を美鶴に伝える。  
「……それは魚屋さんが切って、私はお皿に並べただけよ」  
鯛の刺身を箸で指して不機嫌そうに答える。  
「そ、そうか……、なら、こっちは……、うん、まぁまぁだな」  
多少、美鶴の手が加わったと思われる料理を食べ舌鼓をうつ。  
「私はその大きさに切って器に入れただけよ」  
冷奴を口に入れた俺に対して冷ややかな目で見る。  
「なら……」  
新たな料理に手を伸ばそうとすると  
「そんなに私が作った料理を食べたくないわけ? 」  
目を吊り上げて言う。  
ちなみに箸の向かっている先は白菜の漬物だ。  
「い、いや、そういった訳では……」  
と言い訳をするが台所にあったブツを考えると、今度は閻魔様と腕組んでコサックダンス  
を踊りそうな気がする。  
そうなったら帰ってくる自信は無いぞ。  
しかも、今回は全部見た目がマトモなだけに、どれが地雷だか判りゃあしない。  
「じゃあ、どういった訳よ」  
と言いながら自分の茶碗から鯛めしを箸に載せて  
「はい」  
俺に向けて差し出す。  
ん?ナンデスカソレハ?  
漫画に居るようなバカップルが行うような行為をリアルでやれと?  
「早く口を開きなさいよ。この体勢辛いんだから」  
そういって机越しに身を乗り出てあまつさえ箸の下、斜め30度から左手を添える。  
「いや……」  
そんな事をしなくても(文字どうり死ぬ気で)食べると口を開いた瞬間、美鶴は箸を俺の  
口に突っ込む。  
口の中に濃厚な鯛の味が広がる。  
 
「ん、旨い」  
箸が口から抜かれた後、俺は呟くように言う。  
鯛のアラで出汁をとり、それを酒と醤油で味を調えて炊いたらしい。  
具も身と筍だけというのが余計な味がせず、美味しさを引き立てる。  
どうやら鯛めしは地雷ではなかったらしい。  
と、なると地雷はどれだろうか……。  
恐る恐る他の料理に箸をつける。  
まずはかぶと煮だ。  
酒と塩だけで味付けされた頭の身は鯛ならではの淡白な味わいだ。  
「物足りない場合は醤油をつけて食べなさい」  
そういわれて、醤油をつけると淡白さが消え、鯛の甘味が前面に出てくる。  
次に、鯛のアラ炊きに手を伸ばす。  
俺の好みって言うより、うちの味付けを意識したのか薄味で、魚臭くなく、それでいて魚  
の臭い消しに使う生姜の香りもしない。  
「湯通しして臭みを抜いたのよ。そうしないと別の味が染込むから」  
ふむ、そうなのか。  
いろいろ考えてるんだなと思いながら、吸い物を口にする。  
吸い口に柚子の皮を使い、柑橘類特有のさわやかな香りが仄かにし、身を口にすると、つ  
るりとした食感がする。  
「出汁は鯛の頭で取って、醤油とお酒、塩で味を調えて、身は片栗粉をまぶして軽くゆで  
てるの」  
手が込んでるな……。  
「本当は豆腐となめこのお味噌汁にしようと思ったのだけど、うちもお味噌切らしていて  
から、蒸し焼きにしようと思ってた頭と幽庵焼きを作ろうとしていた切り身で急遽作った  
のよ」  
とっさにこれを作ったのかよ……。  
あの異次元から取り寄せた材料から料理を作っていたとしか思えない美鶴がね……。  
立派に成長したのは胸だけじゃないんだ……。  
しかし、今のところあの世に逝く位破壊力のあるやつに出会っていない。  
むしろ、普通に美味いモノばかりだ。  
手をつけていないものは、なめこのみぞれ和えと白菜の漬物だが、白菜の漬物は手が入る  
余地は無いだろうし、なめこのみぞれ和えも別段、手が加わっている様には見えない。  
あのまな板の上に載っていたブツは俺が過去の経験より見た幻覚か?  
まぁ、食えるものが出てくれば御の字だと思っていた美鶴の料理だから、これはうれしい  
誤算だ。  
安全で美味いなら食が進み、次々と料理が俺の腹に消えていく。  
その様子を美鶴はうれしそうにしながら自身も箸を進める。  
三十分後、食べるものが綺麗さっぱり無くなった皿を嬉しそうに鼻歌交じりで洗っている  
美鶴の姿が台所にあった。  
 
「はい」  
台所から出てきた美鶴が、机の上に中身の入った湯飲みと器を置くと、俺の本能が狂おし  
いほどに警告のアラームを鳴らす。  
……ここに来てついに恐れていた美鶴の才能が開花した物体が用意されたのか?  
俺は恐る恐る器の中を覗き込む。  
中には飴色がかった小さい半月状のものが十数個入っていた。  
「な、なぁ、美鶴? これはいったい? 」  
機嫌を損なわないよう、伺うように聞いてみる。  
「え? 漬物屋のおねーさんにもらったにんにくの醤油漬けよ」  
そういいながら爪楊枝で刺し、口の中に放り込む。  
「お茶請けに良いかも」  
湯飲みの中身を啜る。  
美鶴を観察するが変化はない。  
俺も爪楊枝を持ち齧る。  
普通のにんにくで特に変わりは無い。  
「ん、確かに……」  
そういって湯飲みの中身を飲む。  
口の中に生臭いような、青臭いような香りが広がり、喉から胃の腑にかけて熱い塊が落ち  
ていく……  
「……み、美鶴さんや? これはいったいナンデスカ? 」  
どう考えても未成年が飲んではいけない液体のような気がする。  
「ふふっ、えっとねぇ〜、ハブ酒をベースに〜、イモリの黒焼きでしょ〜、朝鮮人参でし  
ょ〜、マンドラゴラでしょ〜、ベニテングダケでしょ〜、チョウセンアサガオでしょ〜、  
それから……」  
あのまな板のモノは幻じゃなかったんだ……。  
しかも、何気に混ざっちゃいけないものも入ってるし……。  
って、ちょっとマテ。  
「美鶴、お前の飲んでる物って……」  
「よったんとおなじものだよ〜」  
顔をピンクに染め、トロンとした目つきになって、すっかり出来上がった状態で言う。  
しかも俺のことを  
『よったん』  
なんて昔の呼び方になってやがる。  
 
俺が絶句していると  
「ん〜、このへやあつぅいぃ〜」  
そう言って上に羽織る様に着ていた白い半袖のブラウスを脱ぎ捨て、下に身につけていた  
ピンクのTシャツに手をかける。  
「待てまてマテまてぇ〜」  
そう止める間もなくTシャツが宙に舞う。  
グラビアアイドルには劣るが、同姓がうらやみ、異性を惹きつけるグレープフルーツ大の  
双丘が顕わになる。  
元来白い肌が、酒によってピンクに染まり艶っぽいく、俺の目を惹きつけて止まない女性  
特有の曲線はピンク色でギャザーとフリルがふんだんに使われた総レースのブラジャーで  
覆われている。  
「よったん、目やらし〜」  
まじまじと幼なじみの成長した胸を見ていた俺に対して、美鶴は笑いながら抗議して体を  
捻って胸を隠す。  
「あ、いや、う、その……」  
なぜ俺が非難されなきゃいけないかと思いつつ、やましい気持ちを見抜かれた俺は言葉に  
ならない音を出して、美鶴より目を逸らし天井を見る。  
「と、とりあえず畝に何か羽織って……、のわぁ〜」  
さっき見た映像を頭に思い浮かべつつ俺は言おうとするが、いつの間にか背後に回った美  
鶴が俺の首に腕をまわし、背中に密着するように抱きついたことにより言葉は遮られる。  
『ムニュゥ』  
と擬音が聞こえそうなくらい柔らかいモノ二つを背中に押し当て、方にあごを乗せて頬を  
ピッタリとくっつける。  
微かな酒の臭いと、それを圧倒する女性特有の甘い香りが、俺の鼻腔をくすぐり、脳を蕩  
けさせる。  
だが、  
「あ〜、よったん。のんでくれてない〜」  
の一言で蕩けきる寸前の脳が一瞬にして元に戻る。  
『ギギギ……』  
と、音を立てながら首をひねり、美鶴を見て  
「酒とタバコはハタチからだろ」  
きわめて常識的なことを言う。  
「え〜、おちゃけとタバコはハタチまででちょ〜」  
小首をかしげた美鶴から、未成年が酒とタバコを嗜むのに使う王道の言い訳が返ってくる。  
「ちなみにハタチ超えたら? 」  
「ん〜、ほどほどに? そんなことはどうでもいいの〜、なんでのこしてるの〜? 」  
いや、俺、鎧武者の先祖に再会したくないし……、などとは言えない。  
言ったら……、今の状態だと間違いなく泣く、遠慮なく泣く、近所迷惑なほど泣く、隣にいる美鶴のおじさんが  
『美鶴を泣かした責任を取れ』  
と言って婚姻届と実印持って押しかけて来る位泣く。  
昔、散々体験したことだ。  
それで、俺が美鶴の用意したモノをすべて胃の中に片付けない限り泣き止む事がない……  
と思う。  
なんせ、胃の中に納めた後の記憶は残ってないからな。  
 
「むぅ〜、のまないのなら〜」  
遠い目をして昔を幻視している俺に焦れた美鶴は体を離す。  
俺の体から美鶴の感触と温もりが離れ、残念だと思う気持ちとホッとした気持ちがない交  
ぜになる。  
もう少し引っ付かれていたらどうにかなっていたなと、力を取り戻した己の下半身を睨む。  
いや、別に美鶴とそういう関係になるのが嫌だとかではないし、親しい友人位からしか好  
意的な言葉を言われたことの無い、女からすると圏外に位置すると思われる俺にとっては、  
美鶴の事実上、  
『お嫁さんにして貰うんだもん』  
宣言など、  
『これなんてエロゲー? 』  
的な出来すぎた状況だ。  
過去の俺に対して、どんなイベントが在って、どんなフラグを立てたか問い質したい。  
じゃないと、心配だ。  
BAD END程度ならいいよ。  
俺のことだからDEAD ENDが大量に用意されている気がする……。  
美鶴の手料理とか、美鶴の手料理とか、美鶴の手料理とか。  
俺的にはHAREM ENDが夢なんだがそんな美味しいもの用意されてるか疑問だ。  
『クイクイ』  
袖を引っ張られる感触であっちの世界に逝ってた精神が帰って来る。  
見ると、美鶴が俺の湯飲みを片手に持ち、目には涙を浮かべて、下から覗き込むように見  
ている。  
「よったんがみつるのことムシした……」  
うっ、普段強気の表情しか見ていないから、美鶴が捨てられた子犬のような顔をすると、  
なんていうかくるモノがある。  
「あ、いや、別に無視したわけじゃないぞ、ちょっと考え事していただけだ。うん」  
えらく罪悪感に駆られて俺はあわてて言い繕う。  
「じゃあ、のんでくれる? 」  
はい、といった感じで湯飲みを差し出す。  
「いや、それとこれとは話が別だろ」  
話に脈絡ないし。  
「やっぱりのんでくれないんだ」  
美鶴は悄然として、俯き湯飲みに口をつける。  
って、アレをまだ飲むのか!?  
唖然として美鶴の奇行を見ていると、いきなり倒れるようにして体を預けてくる。  
 
「お、おい、美鶴、大丈夫か? 」  
あんな変なものを大量に飲むからだと思いつつ胸に顔をつけている美鶴に声をかける。  
と、いきなり右腕が伸び頭を掴まれ固定されると、口に柔らかいものが押し付けられ、  
体重をかけられ押し倒される。  
滑ったもので唇をこじ開けられると、ぬるくなった液体を流し込まれる。  
勢い良く流し込まれた液体は咽喉を焼き、胃の腑を燃やしながら体の中を通り過ぎる。  
液体がなくなると、口の中に進入した美鶴の舌が何かを探すように蠢き、俺の舌を探り当  
てると相方を見つけたかように、なぞり、絡ませ、吸い寄せる。  
ファーストキッスなんてイベントはとうの昔にお互いがお互いで済ませてるからいまさら  
騒ぐべきことではない。  
しばらく、口の中で舌をやりとりしていたが、どちらともなく唇を離す。  
最後までお互い未練がましく絡めていた舌が離れ、銀色の糸が切れる。  
上気しピンク色に染まった頬、蕩けたような瞳、胸にあたる柔らかい双丘、白いスカート  
に隠れているが、跨っている太ももをぬらしているあそこの感触がアルコールと共に理性  
を溶かしていく。  
息子はすでに覚悟完了状態だが……。  
「あっと、美鶴? 家帰らなくてもいいのか? 」  
メトロダウン寸前の理性を振り絞って聞く。  
このまま返してもおかずは十分ある。  
「うん、ダイジョウブだよ〜、ちゃんとよったんのおうちにおとまりするっていってきた  
よ〜」  
おじさんとおばさん良く許可したな……。  
俺、信用されているのか?  
それならこの状態は拷問だよな……。  
「で、おじさんとおばさんはなんだって? 」  
首筋に顔をうずめ鼻を擦り付けている美鶴に聞いてみる。  
「ん〜、きょうは〜、かえってきても〜、いえにいれないっていわれた〜。それと〜、  
あしたはおせきはんで、まごはふたり〜だって〜」  
相手の両親公認……。  
孫OK……。  
ミツルハオレノコトガスキデ、オレハミツルノコトガスキ。  
スエゼンハオイシクイタダキマショウ。  
美鶴の言葉にベニヤ板で補強していた理性は雪崩をうって崩壊し、本能が支配し始める。  
メタルでネズミな変形ロボットの  
『ビーストウォーズ始まるよ』  
との言葉が本能が理性に取って代わる寸前の脳裏に響いた。  
 
 
「ナンデコウナッテルノカナ」  
思わず呟く。  
朝、俺は美鶴を貫き、腰をガッチリと足でホールドされ、頭を抱えられて胸に顔を埋め、  
口にピンクの突起を咥えているという抱いているんだか、抱かれているんだか判らない状  
態で、自室のベットで目を覚ました。  
「うぅっ」  
ピンクのさくらんぼを口の中で転がしたり、貫いているモノを美鶴の中で抜き差ししたく  
なる誘惑を振り切って上半身を起こすと部屋の中に立ち込める異臭に顔を顰める。  
さすがに天井やらベットから離れた所には飛び散っていないが、ベットの上や美鶴と俺の  
体にはこれでもかと言うほど情交の残滓が生乾き状態で残っていた。  
「はぁ……」  
俺はため息を吐きながら、美鶴の中に埋め込んでいたモノを抜き出す。  
部屋の惨状からかなり出したはずなのに、朝の所為なのか美鶴と俺の体液をまとわりつか  
せたそれは十分な硬度を保っていた。  
寝ている美鶴を再び見る。  
満ち足りた様子で寝ている様は子猫がミルクをたっぷりと貰って満足したような表情を見  
せている。  
顔を言わず体といわず髪といわずにこびりついた白いものさえなければ。  
抜いた場所からは  
『ドロリ』  
といった感じで粘っこい白い液体が逆流する。  
その様子を見てある事が頭の中を駆け巡る。  
 
「んんっ」  
美鶴が一瞬眉間にしわを寄せて、目を開く。  
「うぁ〜、酷い状況ね」  
俺と自分、ベットを交互に見やり呆れた様に言うが、その表情は晴れ晴れとしていた。  
「あぁ」  
俺は生返事を返す。  
「とりあえず窓を開けて空気を入れ替えて、お風呂に入りましょう。いくら好きな人ので  
もこの状態でいるのは、ちょっと気持ち悪いわね」  
そういって股間に手をやり、二人の体液が交じり合ったものを掬い上げ、手を広げる。  
粘度のある液体が指を伝い手に広がる。  
「あぁ」  
「シーツは……、捨てるしかないかな〜、血もついちゃってるし。ん、ニガ」  
自分の座っている付近を確認して、そう一人で結論付けると、指に付着している液体を舐  
めて顔を顰める  
「あぁ」  
見る人が見れば興奮するような光景なんだろうが俺はそれ処ではない。  
「あんたさっきからそればかりね〜。なにか気になることあるの? 」  
ふらつきながら立ち上がり、美鶴は机においてあるティッシュを手に取り、情事の始末を  
しながら聞く。  
「あぁ」  
そう答えて、分泌液が美鶴の太ももを伝う様を眺める。  
その視線に気づいて、隠すように体を捩り  
「あはぁ、大丈夫よ。ああは言ったけど今日は安全日だから。さすがにこの歳で子供は」  
美鶴はのたまう。  
あぁ……、その心配もあったか……。  
だが俺の悩みはそんなんじゃない、そんなんじゃないんだ。  
「じゃあ、何なのよ?」  
どうやら口に出して言ったらしい。  
美鶴に問われて思わず心の中にしまっておくべき言葉を叫んでしまう。  
「初めてだったのに、何度もヤッたのに……、記憶がないなんてあんまりだ〜!! 」  
一瞬、呆気に取られた美鶴は次の瞬間、方を震わせ怒りの表情を浮かべると、  
「美晶の馬鹿〜!! 」  
の絶叫と共に腰の入った世界を狙えるであろう左右のフックを一瞬で俺の顎に決め、部屋  
を出て行く。  
俺は腰を高々と上げ、床にキスをするといった屈辱的なオブジェのまま、しばらく放置さ  
れた。  
 
終われ  
 

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