「・・・久しぶり」  
 女が隣りに座る男にそう言う。  
 佐伯仁志と奥寺咲。二人は幼馴染だ。いや、だった。  
「そうだな」  
「5年ぶりだね」  
 結婚式の前の日に咲が失踪さえしなければ。今はもっといい関係だっただろう。  
「5年か。お前・・・変わったな」  
 5年前の咲は高校生だと言うのに飾りっ気の無い素直な少女だった。  
 それが今はブランド物の衣類と少しきつめの化粧。  
「・・・うん」  
 仁志はタバコに火をつける。  
「よく俺の番号わかったな。番号変えたのに」  
「由香に教えてもらった」  
「アイツか」  
 由香とは二人にとってかけがえの無い友人。  
 お互いを除けば、唯一心から全てを話せる。そんな友人だ。  
 そんな由香ですら咲の失踪に付いては何も聞かされて居なかった。  
「でも、まさか仁志が東京に来てたなんて・・・知らなかった」  
 不思議な空気が二人を遮る。  
 同郷の幼馴染。けど、お互いに今は赤の他人よりも遠く感じていた。  
「で、今日は何の用事なんだ」  
 咲は何も言わず黙って下を向いている。  
「用が無いなら」  
「・・・ごめんなさい・・・」  
 咲の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちる。  
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい」  
 顔を両手で覆って、しばらく・・・嗚咽のように謝り続けていた。  
「落ち着いたか」  
「うん・・・ごめん・・・なんか、謝ったら胸が締め付けられて苦しくて」  
「もういい。5年も前のことだ。けど、俺ももう」  
 タバコを灰皿に押し付け立ち上がる。  
 咲が仁志の袖を掴む。  
「ねぇ、昔みたいに」  
「無理だな。結婚・・・してるんだろ」  
 咲が仁志から手を離し、左手を右手で隠す。  
「私・・・仁志が」  
「じゃあな」  
 
 呼び鈴が部屋の中に鳴る。  
「はいは〜い」  
 皆木由香がパジャマのままドアを少し開ける。  
 そこには、ずぶ濡れの咲が立っていた。  
「・・・ひょっとして咲?」  
 咲が小さくうなずく。  
「ちょ、風邪引いちゃう。早く入んなよ!!あ、タオルタオル。服とかそっちの洗濯機に入れといて」  
 由香はトタトタと部屋の中を駆け回る。  
「うわぁ」  
 あまりにも周りを見ずに駆け回るから、積み重ねてあった本とCDにつまづいて転んでしまった。  
「あはは・・・そういや、久しぶりだね」  
「・・・うん」  
 咲の顔に少しだけ微笑が浮かんでいた。  
 
「ふぅ」  
「・・・おいし」  
 ソファーに座ってコーヒーを飲む二人。  
 咲は由香のパジャマに身を包んでいた。  
「んで。どした」  
「・・・聞かないの?私がどうしてか」  
「話したければ話しなよ。ま、私たちに何も言わずに居なくなったんだからそれ相応の理由あるんだろうし、私からは聞かない」  
「・・・変わってないね」  
「アンタだって」  
 咲が首を横に降る。  
「私は変わったよ・・・仁志にもそう言われたから」  
「会ってきたんだ」  
「うん」  
「アイツは変わっただろ」  
「うん」  
「咲が話にくいなら、私が昔話でもしてあげよう」  
 そう言って由香は思い出すように上を向く。  
「アンタが居なくなって、あいつ荒れちゃってさ。合格してた大学に行かないで東京に単身出てきて。  
 私も3年前に短大出てこっち着てびっくりしたよ。なんだと思う?」  
「わかんない」  
「アイツ。結婚してたんだよね」  
 結婚。その言葉に咲は息を詰まらせる。  
「そうなんだ・・・奥さん・・・いるんだ」  
 
「正確には過去形だけどね」  
「え?」  
「元々体が悪かったらしくてさ、子供生んだ時に子供と一緒にね」  
 部屋に沈黙が訪れる。  
 咲はソファーの上で膝を抱きしめて泣きそうなのを必死で我慢していた。  
「彼女さ、実家に勘当されて出てきたらしくて。お墓とかも全部仁志が用意したんだ」  
「それじゃあ子供も」  
「うん。葬式にだって彼女の親族誰も来なかったんだから」  
「可哀そう」  
 由香が何かを思い出してカレンダーを見る。  
「あ・・・今日・・・命日だ」  
「え?」  
「仁志の奥さんと子供の・・・行ってみる?お墓の場所知ってるから」  
「・・・うん」  
 
「あれ」  
 夜の墓地。咲と由香の目的の墓石の前に仁志は立っていた。  
 仁志は二人には気づいていない。  
「悪い。お前の好きな花探してたらこんな時間になった」  
 墓には綺麗な真っ赤な花が生けられている。  
「今日さ。俺を残してどこかに行った幼馴染に会ったよ・・・結構変わっててびっくりした。  
 けど、お前が前からずっと言ってた通りだった。俺・・・まだアイツの事好き・・・みたいだ」  
 咲が息を飲む。  
「でも、もう会わない。お前を一人にはしない・・・あ、マキが居るから二人か・・・  
 お前を幸せに出来なかった分。俺だけ幸せになるわけにはいかないから」  
 仁志はその場にしゃがみこんで手を合わせる。  
「また近いうちに来るな」  
 仁志が立ち上がる。  
「・・・咲」  
 帰ろうとした時、咲の姿に気づく。  
「私も手を合わせていい?」  
「・・・あぁ」  
 咲と由香がお墓の前にやってくる。  
 
 その時だった。爆音を立ててながら派手な車が霊園に入ってくる。  
「・・・ウソ」  
 咲の顔が真っ青になる。  
 車は3人の側の通路に止まり、中から一人の男が出てきた。  
「よぉ、咲。探したぜ」  
「・・・なんで・・・なんでこの場所が」  
「いやぁ。最近の携帯ってすげぇな。場所がちゃんとわかるんだぜ」  
 男は咲の側によって来る。  
「お?誰だコイツら」  
「あの」  
「ま。誰でもいいや。帰るぞ。勝手に出て行くんじゃねぇよ」  
「いたっ」  
 男が咲の腕を取り引っ張る。  
 だが、その男の手首を仁志が掴みひねり上げる。  
「ててて、なんだてめぇ!!」  
「お前こそ誰だ」  
「あぁぁ?俺はコイツの旦那だよ旦那。なんか文句あるか?」  
 咲は怯えながらも否定しない。  
 二人にもそれが本当のことだと知った。  
「ん?お前どっかで・・・ひょっとしてコイツの元彼の・・・あぁ、傑作じゃねぇか。あ〜っはっはっは」  
「なんだと」  
「コイツがお前の元を去った理由。教えてやろうか」  
「止めて!!!」  
 咲が男の前に出る。  
「レイプしてやったんだよ。結婚式の3日前にな。写真撮って脅したら簡単に俺のとこにきやがった」  
「いや・・・やめて・・・言わないって・・・約束・・・なのに」  
 咲が崩れ落ちて涙を零す。  
「お前が約束破って家を出たからだろ。今夜はいつも以上にぶはぁぁっっ」  
 男が激しく吹き飛ぶ。  
「ひと・・し」  
 仁志は男の顔面を殴ったそのままで止まっている。  
「バカ野郎!!」  
 仁志の叫びが霊園に響く。  
「俺が・・・俺がその程度でお前を離すわけないだろ!!けど、一番のバカはお前を探せなかった俺だ」  
「仁志ぃ」  
 咲が仁志に抱き付く。  
 
「ごめんね・・・ごめんね・・・」  
「てめぇら・・・絶対にぶっころ・・・」  
 男の言葉が途中で止まる。  
 男の視線の先。霊園の入り口に真っ赤な光が瞬いていた。  
「警察だと」  
 パトカーだ。  
 その中の一台が男の車の側に止まり、中から2人の警官が出てくる。  
「由香」  
「こっちこっち。そいつよ」  
 仁志も咲も男もいきなりの展開に唖然となっている。  
 唯一由香だけが警官の1人に手を振っていた。  
「ごめんね。私の彼、警官なの。アンタの言ったことぜ〜んぶ携帯で流しちゃった」  
「婦女暴行及び恐喝の自供により逮捕する」  
 男の両手に手錠がかけられパトカーの中に連行される。  
 由香の彼と言う警官が戻ってきた。  
「由香。俺が巡回中だったからよかったものの」  
「巡回中じゃなくても来てくれるって信じてるし、ね、ついでに送って行って」  
「パトカーはタクシーじゃないぞ」  
「こんな場所から一人で帰れって?」  
「そこの二人が」  
「野暮なこと言わないの。ほらほら。あ、あの男が乗ってるのとは別なパトカーでお願いね」  
 由香が彼を押してパトカーの方に行く。  
「そだ」  
 途中で脚をとめ、二人の方に向く。  
「仁志!幸せになれないって言ったら、奥さん絶対に悲しむよ!奥さんと子供の分も幸せになりなさい!!」  
 それだけ言うとパトカーの中に消えて行った。  
「・・・びっくりした」  
「俺もだ」  
 二人はお互いに顔を合わせ・・・口付けを交わした。  
「そうだ。お墓に手を合わせていいよね」  
「あぁ」  
 咲はお墓の前にしゃがみ手を合わせる。  
「初めまして。咲と言います。私のことは仁志から聞いてると思うけど・・・私は仁志が好きです。  
 奥さんと子供さんの分まで幸せにさせてください。寂しくて化けて出るなら・・・たまには体貸して上げます。  
 だから・・・3人分。仁志には愛してもらいます。一緒に・・・幸せになりましょう」  
 咲が立ち上がって仁志の顔を見る。  
 笑顔だ。  
「人の承諾も無しに言うなよ」  
「ダメ?」  
「・・・今のお前・・・俺が一番好きだった頃の。お前だ」  
 
「はぁっ・・・ぁぁっ・・・ぅっ・・・っっっ」  
 仁志の手が咲の秘部を刺激する。  
「ひと・・・あぁ・・・んっっ」  
 胸の突起を刺激するたびに、仁志の指に強い圧迫が感じられる。  
「はぁっ・・・ん!?そこ・・・だめっ・・・あぁ・・・やめ・・・ひゃぅっっっ」  
 仁志が中で指を曲げる、ある一点を刺激すると咲は背中を仰け反らせて喘ぐ。  
 涙目になりながらも必死で快楽におぼれないように耐える。  
「ねぇ・・・ちょうだい・・・仁志の・・・」  
「あぁ」  
 仁志のペニスを咲は飲み込んで行く。  
「仁志の・・・久しぶり・・・ずっと・・・こうして・・・欲しかった」  
「これから。毎日してやる。この5年間分の全部」  
「うん・・・うん・・・あぁ・・・だめ・・・もう・・・くるぅ」  
 仁志が激しく腰を振る。  
「仁志」  
「ん?」  
「いっしょ・・・一緒に」  
 咲を抱き上げキスをする。  
 彼女の腰を掴み、激しく打ち付けるように動かす。  
「ぁ、ぁ、ぁぁ・・・はげし・・・すぎ。もう・・・んはぁぁっっっっ」  
 仁志は咲の耳元に口を当て。  
「愛してる」  
 囁くと同時に精液を吐き出した。  
 
「これ。アイツにやられたのか」  
「え・・・あ。うん」  
 咲の体には真っ赤なミミズ腫れや縄の痕が無数に付いていた。  
「変態だからさ。アイツ。女もいっぱい囲ってて。5年間一緒にいて、抱かれたの10回くらい。あとは叩かれたり」  
「綺麗にしてやる」  
「ぁっ・・・ん」  
 傷を一つ一つ消毒するかのように優しく舐める。  
「・・・ごめんね。ちゃんと相談・・・すればよかったんだよね」  
「もういい。今、お前がここに居るなら」  
「うん・・・仁志・・・私も愛してる。あの頃からずっと・・・仁志だけを  
 
「咲」  
「うん。全部証言した。恥ずかしいけど、仁志と一緒になるためにね」  
 警察署から出てきた咲を仁志は待っていた。  
「これから裁判とかあって、離婚とか慰謝料とかはその後。だから、結婚はまだ先だなぁ」  
「気長に待つさ。5年も待ったんだ」  
「その間に別な女の人と幸せに暮らしてたくせに」  
「う」  
 苦虫をかみ殺したような顔になる仁志を尻目に、微笑みながら振り返る。  
「冗談。前の奥さんの事、絶対に忘れちゃダメだよ。その人の分も仁志は私を幸せにしてくれなきゃダメなんだからね」  
「あぁ。もちろんだ」  
「ねぇ。お墓にいこ。もう一度ちゃんと言っておきたいから」  
 空には青空が広がっていた。  
 5年間凍っていた時間を溶かす、そんな日差しが2人に降り注いでいた。  
 

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