「ふぅー! いい湯だ…」
親父臭いため息をついてしまうが、やはり朝風呂はいい。
特に昨晩のデートで疲れた体を癒すには風呂が一番だ。
朝帰りの体に染み付いた香水と酒の臭いが蒸発していくのは何ともいえない気持ちよさだ。
「お兄ちゃーん、背中流してあげるよー!」
…楽しい癒しの時間はいきなり終了した。
俺の愛しい妹様が突然浴室のドアを開けて侵入してきやがった。
一糸まとわぬ裸体をタオルで隠すことも無く、兄貴の前に晒している。
しかしタオルで隠すようなモノを持ち合わせていないのだから、
隠さなくても同じとも言えるのだが…
「ざっぱーん!!」
この野郎、体の汚れを落としてから湯船に入りやがれ。
「えへへ… お兄ちゃんとお風呂~」
にやけた面をして俺の股の間に腰掛けてくる。
「おにーちゃんと朝風呂するのは久しぶり~だね!」
「…我が妹よ、俺が朝風呂のひと時をいかに大切にしているか、知らないわけじゃないだろ?」
「知ってるよん、昨日はニコルさんと一緒だったんでしょ?」
当たりだ。勘がいいのか?それとも俺の携帯を盗聴しやがったか?
「えっへへー、パンツからニコルちゃんの香水の匂いがしたもーん」
「お前… 人様のパンツを嗅ぐのはやめろ」
「ニコルちゃんは結構激しいからね~ お兄ちゃんお疲れでしょ」
分かってるなら俺に安らぎの一時を与えてくれ。
「あぁーん 愛しいお兄様がお疲れなのに何にもしないでいては、妹として恥辱だよぅ」
訳の分からない理屈で悶える馬鹿は放っておいて、俺は少し考える。
ここで取るべき方法は幾つかある。
1.妹を風呂から放り出して、一人で湯船に浸かる。
…だめだ、放り出しても脱衣所で喚き散らすに決まってる。そんなことされたら安らぎのひと時が台無しだ。
2.妹を浴槽に沈めて大人しくさせる。
…いい案だが、上手に気絶する程度に沈めるほど俺は手加減が巧くない。
さらに『つい手が滑って』永久に大人しくさせてしまう恐れがあるので、この案は避けた方がいい。
となると取るべき方法は…
3.こいつの気が済むようにさせておいて、それから癒しの時間をやり直す。
…これしかないか。
「分かったよ、じゃあ『背中を』流してもらおうか」
「いひひぃ、背中以外も洗ってあげるよん?」
「必要ない、そもそも普段から日観子や瑞樹に洗わせてるからな」
「ぶぅぶぅー お兄ちゃんのイケズ~、せっかく私が『お兄ちゃんの日』にあげたプレゼントも
五ヶ月も経つのに全然使ってくれないじゃないのさぁ~」
「誰が使うか、ド阿呆」
お兄ちゃんの日とは、二月三日が「にい」「さん」になることから、
母の日、父の日に対抗してこの馬鹿が勝手に作った記念日だ。
その日にこいつが作ったプレゼントは一度も使用していない。
『肩叩き券』や『腰揉み券』のような微笑ましい物ならば、俺も使っていたかもしれない。
疲れた体を誰かに解してもらうのは、とても気持ちのいいものだ。
しかし、妹が寄越した代物は『朝尺八券』『玉揉み券』『壷洗い券』等のちり紙にもならないモノだった。
…無論即座にゴミ箱に放り込んだため、使えといわれても困る。
「じゃあ、お背中をお流ししますね、旦那様」
「旦那じゃないが、とっとと流せ」
「こうゆうのってムードが大切なんだよぉ!
お兄ちゃんはヤルだけヤって、終わったらすぐに女の子を追い出すタイプ?」
「うだうだ言わずにやれ、さもなきゃ消えろ」
「はーい」
ようやく背中を流し始めた… ってナニを使って洗う気だ?
「えへへ、気持ちい~い?」
「…ゴツゴツしてる」
どこで覚えてきたのか、自分の体にボディーソープを塗りたくって俺の背中に押し付けてきた。
ただしこいつの胸板は持ち主の脳みそに似てかなり発育が悪いので、
他の女に洗わせた時の様な柔らかな感触が無い。
「あれぇ?おかしいなー こうするとお兄ちゃん喜ぶよって聞いたのに~」
「…誰から聞いた?」
「ほぇ? 里香さんだよ」
…あのアマ、今度会ったらケツの穴にションベンしてやる。
と、それは置いておいて、
「うっ… じゃあじゃあ、私はお兄ちゃんをお風呂で喜ばすことができないのー?」
悲しそうな顔をして悔しがっている。
「里香の体とお前じゃ違いすぎるだろ、あっちと比べりゃエベレストと関東平野以上の違いだ。
もう少し育ってからにしろ」
「…でも~、私も里香さんみたいにボンキュンバ~ンになれるとは限らないし…」
馬鹿は馬鹿なりに考えるところがあるらしい。
仕方ない、少しフォローしてやるか。
「でもお前の体の方が、肋骨の凹凸がいい具合に背中に当たって汚れが落ちそうだぞ。
文字通り洗濯板の如しだ」
「………」
あれ、滑ったかな。
「………」
いかん、朝風呂の爽やかな雰囲気に似つかわしくない重い空気が漂い始めたじゃないか。
何とかこの状態を打破して安らぎの時間を取り戻さねば。
「あと無理して体全体を押し付けるのがよくないな。
お前の胸でも全く膨らみが無いわけじゃないんだから、そこを重点的に使うといいぞ」
「そうなの?」
「里香は胸にも腹にも脂がのってるけど、そうじゃないお前はもっと工夫が必要だ」
「んーっ …こんな感じ?」
「ああ、さっきよりマシになった」
あばら骨の硬い感触が伝わらない分だけかなり良くなった。
ただしそんな手間をかける位なら最初からスポンジで洗えばいいことだが。
「ぬふふぅ… こうして洗ってるとごほーししてる~って感じだねっ」
まあ好きにさせておこう。
「お兄さまぁん、痒いところとか御座いませんかぁ?」
「ない、全く無い」
「えー? 今のところは『実は竿が痒くて堪らん、掻いてくれ』とか言う場面でしょ~?」
思い切り拳で突っ込みを入れたい衝動に駆られるが、ここで付き合ってしまうとこの馬鹿の思う壺だ。
平穏な一時のために今は無視するに限る。
「ぬるぬるぬるる~ ぬるぬるる~ ぬるぬるぬるるの ぬるりひょん~」
しかし、こいつと風呂に入っているうちに疲れが蓄積されていく気がする。
風呂に入るぐらいで抜けるだろうか…
「えへへっ きれいに洗えたよ」
ようやく気が済んでくれたか。
「じゃぁ…お兄ちゃ~ん、背中をきれいに洗えたご褒美にといってはなんだけど~
私も早く里香さんみたいにできるように、今度は私のおっぱいを揉み洗いして欲しいなぁ」
「…(怒」
「いやぁん、お兄ちゃん! 眼にしみるから ぶっかけないで~
かけるならシャンプーじゃなくって、お兄ちゃんの濃いのをかけてぇ」
こうして俺のささやかな時間はこの大馬鹿によって台無しにされたのであった。
終わり
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