「うう〜ん?」
ふと目を覚ますと、窓の外はまだ薄暗い。
しかし何かが俺の胸の上に乗っかっている感触がある。
「むにぃ〜、お兄ぃちゃん… むにゃむにゃ」
何かと思えば、俺の妹の頭だ。
なんでコイツが俺のベッドに?
………んん?、そうか。
昨日は不二子とデートする約束だったがドタキャンされて帰宅し、その後コイツと久しぶりに寝たんだっけ。
「お兄ちゃん、もう入らないよ。私もうお腹いっぱい…」
随分幸せな夢を見ているようだ。
普段は時々殺意を覚えることがある程のバカだが、こうして眠っていると可愛い奴だ。
「ううっ、もう一本入れる気なのぉ? そんなの無理だよ……… もう我慢できないよぅ。トイレに行かせてぇ」
………前言を撤回する。幾ら眠っててもバカはバカだ。
「お兄ちゃんのイジワルぅ、もう許し… ふごっぉ!?」
豚のような鳴き声を上げて、我が妹は悪夢の世界から目覚めたようだ。
「???、おにひひゃん?」
「お早う、我が妹よ」
「ひゃんで、わたひ、おにひひゃんに、はなふっぐをひゃれてるの?」
「お前が悪い夢を見てうなされているみたいだからな。兄として放っておけなかったのさ」
そこまで言った後で、俺は妹の鼻から指を抜いてやる。
「ふごっ、酷い。穴が広がって元に戻らなかったらどうするのよぅ?」
「うるさい、勝手に自分の夢の中に俺を登場させやがって」
「あっ、そうだっ、久しぶりにお兄ちゃんの夢を見てたんだっけ」
できれば夢の中で俺を好き勝手するのはやめて欲しい。実害はないが、いい気はしない。
「あ〜ん、酷い酷い。ここ暫く見てないほどのすっごく楽しい夢だったのにぃ」
あれで?あの寝言で?
「………ずいぶん変な寝言を言ってたが、どんな夢だったのかね?」
「ええっ、恥ずかしくっていえないよお!」
顔を赤らめてクネクネしやがって。
そんな事で誤魔化せるとでも思ってるのか?
「大人しく吐け」
「おっ、朝っぱらから尋問プレイですかぁ? ………あっ、お兄ちゃんっジョークなんだから拳骨はやめて!」
「………」
「えっとね、夢の中でお兄ちゃんは私に『後ろの穴を使わせろ』っていきなり言い出したの」
イキナリですか?
「私が『後ろは汚いよ』って言ったら、お兄ちゃんは『じゃあ中まで綺麗に洗ってやろう、げへへ』って言うの」
その笑いは一体何?
「そしていきなり私を縛り上げて『ひひひ、お兄さまに縛られて興奮してるのか?この淫乱娘が!』とか言い出して……」
「…いや、もういい」
「えっ、これからが佳境に入ってく所なのよ?」
「大体分かった、もう言うな」
これ以上聞いたら俺の夢見が悪くなりそうだ………
「しかし、お前はその歳でそういったプレイに興味があるのか?」
「うんっ!」
即答かよ。
「だって『大好きな人に自分の全てを捧げたい』ってのが乙女心ってもんでしょ!」
「まあ…間違ってはいない気もするが」
「睦美さんも『女の子は処女を無くしても乙女心を無くしちゃ駄目よ』って言ってたよ?」
「そいつの言うことは信用するな」
「ええ〜?睦美さんは結構色々教えてくれるんだよぉ」
「あいつは俺が付き合ってる女の中で一二を争う嘘つきだ」
「そうかなぁ、じゃあお兄ちゃんとどっちがより嘘つき?」
「俺だ」
「………自信満々にいう台詞じゃないよ」
馬鹿め、嘘で女に負ける男なんかが、女を手玉に取れると思ってるのか?
「それよりも、お前思ったより寝言がひどいな」
「んんー、自覚は無いんだけどね」
「………まさかとは思うが、林間学校や修学旅行の時にそんな感じの寝言をいったことは無いだろうな?」
「えっ、そんな事無い…と思うよ」
女子生徒の情報網は光ケーブルより早いという。
一つ間違えば俺の人生とついでにこの馬鹿の人生は終わりかねない。
「他の奴らが居るときには、絶対寝言うんじゃないぞ」
「はーい」
不安だ、コイツが他人と一緒に寝るような機会がある場合は、必ず猿ぐつわを持たせる事にしよう。
ふう、この阿呆に付き合って貴重な睡眠時間が台無しだ。
これ以上疲れる前にとっとと二度寝しよう。
「俺はまた寝る。今日は朝飯いらないから昼まで起こすな」
「はーい。うふふぅ、さっきの夢の続きが見られるといいなぁ〜」
ああ、悪夢を食べるという霊獣『獏』よ。
もし本当にお前が存在するのなら、俺の妹の見る夢を食べてしまってくれ。
………ついでにコイツ自体も骨まで残さず食っていいから。
「お兄ちゃんと一発、お兄ちゃんと二発、お兄ちゃんと…」
「お前!、眠れないときは羊を数えろ!」
こうして俺はまた眠れない朝を過ごしたのだった。
(終わり)