「ふんふん、ふ〜ん」
それは有る日の事、鼻歌を鳴らしながら、妹は洗濯機に洗い物を放り込んでいた。
コイツも家事を積極的にやる所は、小さいながらも立派だと思う。
「ありゃりゃ、お兄ちゃん、このパンツ随分くたびれてるねぇ〜!
そろそろ新しいのおろしたらぁ?」
「ん? そうか、じゃあ捨てといてくれ」
「分かったー、コレは処分しとくねー」
元気な声で答える我が妹、それは非常によろしいが………
「 ち ょ っ と 待 て え ! ! 」
「ひゃぁ! お兄ちゃん、大声出さないでよぉ。ビックリするじゃない!」
「………俺はお前に『捨てといて』と言ったんだぞ。
何故お前はソレをポケットに仕舞うんだ?」
「あはっ、見つかっちゃった?」
妹はイタズラが発覚した子供のように、あどけない笑いを振りまいた。
そこだけ見れば、兄ながら実に愛嬌の有る笑顔だ。
他の奴らなら、その笑顔に惑わされて追求の手を緩めたかもしれない。
だが他人には効くだろうが、同じ血を分けたこの俺には効かぬ。
「だって…もったいないし」
もったいないと思うなら、まだ使うっての(パンツとして)
「一体何に使うってんだ、こんなもの」
まさか雑巾や布巾に使う積りじゃないだろうな?
使い古しのパンツでテーブルを拭くなんて嫌だぞ。
「変な事に使う積りは無いよー、ちょっと『嗅いだり』『抱き締めたり』『被ったり』
『履いたり』『(オナって)濡れたアソコを拭くのに使ったり』する位だよー。
あれ、お兄ちゃん… 急に床に手をついちゃって、なんでうなだれてるの?」
「………」
我が妹はダークサイドの道に陥ってしまった。
この深く険しい道に、この若さで踏み入ってしまうとは。
「後はー…、お兄ちゃんに去年かって貰ったクマさんのぬいぐるみに履かせて遊ぶ位かな」
ごめんなさいクマさん。
俺の使い古しのパンツなんか履かされて…
兄として、俺は一体どうするべきだろうか。
このまま諦めるか?
いや、コイツはまだ若い。
『更正の余地が存在しうる可能性が僅かながらも発見しうる希望が失われたと断定するには
尚早であると考えることも出来なくは無いかもしれない』
………早い話が更正は極めてゼロに近いと思うのだが。
「だって、お兄ちゃん私と最近遊んでくれないんだもーん」
お前は兄と遊べないと、兄のパンツで遊ぶのか?
「私だって寂しいんだよぉ! こんなに、こんなにお兄ちゃんの事好きなのに…
この間の日曜日もヘレナさんとデートで一日中会えなかったし」
「その先週はメアリーと旅行に行ってたから話も出来なかったしな」
「だから、せめてお兄ちゃんの匂いやぬくもりを感じていたいと思ったの〜」
ぬう、そんな風に言われると、俺の方にも非が有るように思えなくも無い。
最近家族サービスが足りなかったからな。
「分かったよ、俺も妹のお前と過ごす時間をもう少し増やせるよう努力してみる」
「えっ、ホント!!」
「ああ、妹のお前に寂しい思いをさせて悪かったよ」
「お兄ちゃん……… 嬉しいよぉ〜」
「だから、もう俺のパンツで遊ぶのは止めろ」
「 断 る ! 」
思いっきり拒否しやがった。
「お兄ちゃんのパンツで遊ぶのは、今や私の夜の日課よ。
ぬいぐるみのクマさんに履かせて、お兄ちゃんに見立ててえっちぃコトするの!
すでに生きがいと言っても過言では無い位よっ」
どうか他の生きがいを見つけてくれ。
「例えば、クマちゃんの顔についてるアクリルの鼻を、股間にぐいぐい押し付けつつ〜、
私はお兄ちゃんのパンツの匂いを嗅いで擬似69とか〜………」
いかに俺の下着を履かせたぬいぐるみと戯れているか(性的な意味で)
自慢げに話してくれる我が妹。
「という訳でー、お兄ちゃんのパンツは、私にとってすでに必需品なのです!」
「………これからは、他の女の家に居るときに下着を処分する事にするよ」
「え〜〜、なに聞いてたのよぉ! 他所の女の人じゃなくって、私にパンツちょうだ〜いっ」
「駄目だ」
「ぶーぶーぶー、あっ… そうだよ!」
何か閃いた顔をする我が妹、
どうせろくでもないコトでも考え付いたのだろうが。
「私だけ貰うから不公平になるんだよっ!! お兄ちゃんにも私の使古しのパンツあげるから。
そうすればおあいこだよね〜」
本当に、心底ろくでもないことであった。
「んなもん、誰が要るかっ!」
「えー、パンツを交換し合ってる兄妹なんて、萌えるシチュじゃなぁい?」
「絶対萌えん!」
こうして、下着一つをとってもコイツの馬鹿は相変わらずなのであった。
(終わり)