「お兄ちゃん! おっ帰り~」  
「ただいま、わが妹よ…」  
家に帰るなり甲高い声で出迎えられた。  
こいつの頭の螺子は母親に似てかなり緩んでいる。  
この母娘を見てると馬鹿は遺伝するものだという事が良く分かる。  
母親はよりによって俺の父親と結婚し、娘は異母兄である俺にベタ惚れだからだ。  
二親に似て顔だけは良いんだから、他所の男とでもくっつけばいいものを。  
「えへへっ…」  
「なんかいい事でもあったのか?」  
「えぇ! 何で分かったの~ ひょっとしてお兄ちゃんはエスパー?」  
「長い付き合いだ、その面みれば大概のことは分かる」  
「ふふっー そーだよねー」  
やけに嬉しそうな顔をしているが、一体何が起きたというのか。  
「実は~今日ケータイのけーやくするために、役所にいって戸籍謄本を取ってたのー」  
「ほう?」  
「そしたらねー 何があったと思う~!?」  
「分からないから聞いているんだ。聞かずに分かるならほんとにエスパーだっつーの」  
「えへへっ…  じゃーん!ぱんぱかぱんぱんぱ~ん!ぷっぷらぷっぷのぷぷっぷ~!」  
訳の分からない擬音を口にしながら、妹が取り出したのは戸籍謄本の写し(現在戸籍の全部事項証明)だ。  
「…これがどうした?」  
「んんー 分からないかな?良く見てみてよ?」  
………何が書かれているのかもう一度眼を通してみる。  
まず書かれているのは、本籍地、東京都千代田区秋葉原××番○○号… とくに何の変哲もなさそうだ。  
次に筆頭者、現在失踪中の我が父、妹尾 原増 …親父の本名をはじめて知った。  
手紙や電話も源氏名で来てたから、そっちが本名だと思ってた。  
しかし、親父の名前が妹を喜ばす原因にはならないだろう。  
父について書かれている内容も新事実はない。  
外国人だったとか、性転換してたとか、実はこっそり死んでいたとか、そういった類の記述はなかった。  
次に書かれているのは俺の母親の名前…すでに死別しているから、特に重要な点はない。  
その次、二人の長男である俺、大好について… これもすでに分かってる事項しか書いてない。  
さらに次、俺の父親の再婚相手で俺の義母… 特に重大な新発見はない。  
そして最後、俺の妹についてだが…  
 
「…お前、父親欄が空欄なのはどういうことだ?」  
「わぉ!さっすがぁ! 一発で分かっちゃったね?」  
顔面全部で驚いた表情を作りながら、後ろから俺にしがみついてくる。  
ついでに起伏に乏しい胸板を押し付けてきやがった。  
もう少しこいつは頭と胸に栄養を送るべきなのだが、生得的な問題というものは如何ともしがたい。  
ならば、頭も胸ももう少し何とかするべく努力したらいいものを…  
と、それはこの際置いておいて、  
どういう事だ?こいつは確かに俺の父と義母との間に生まれた娘だ。  
それに絶対に間違いはないはずだ。父と義母の証言もあるし、  
第一こいつの余りの馬鹿さ加減に『ひょっとして俺とは血縁関係がないのではないか?』  
と疑問に思って、以前密かにDNA鑑定をした事があるのだ。残念な結果に終わったが…  
そして、じっくり戸籍の記述事項を読んでいく。  
こいつが生まれた時には、俺の母はまだ生きていた。  
日本は重婚が認められていないから…  
「………」  
「にひひぃ、私のいいたい事分かったかな~」  
「いや、断じて分からん」  
「分からないなら教えて進ぜましょー。じつはー私はーパパにー認知されていなかったのでーす!」  
この馬鹿、心底嬉しそうな顔をしやがる。  
「認知さていないってことは~ さて、どういうことでしょうか~?」  
「是が非でも親父を見つけ出して、認知の届を出させないといけないな!」  
「えー、違うよ~お兄ちゃん」  
いつのまにか俺の正面に回って、真剣な顔になって見つめてきた。  
こういう時の顔は可愛さの中に妖しい魅力があって、学校の内外で大人気らしい。  
俺も学生の時に周りから言われた経験があるので分かる。  
「つまり、私とお兄ちゃんは、戸籍上血縁関係が無いってことなんだよ!」  
そう、戸籍を見て分かったのだが、こいつの父親欄は空欄。  
つまり俺と戸籍上血縁関係が無く、親父の後妻の連れ子という関係になるのだ。  
これが意味するところは一つ。  
 
「だからね、お兄ちゃん… 私とお兄ちゃんは結婚できるんだよ」  
「…」  
この馬鹿、なんて所に気が付きやがったんだ…  
「…お兄ちゃん? 嬉しくないの?」  
「…」  
「ぁあー!お兄ちゃんってば、私のこと大切な子だとか、好きだとか、愛してるとかいって  
 あんなことやこんなことをした癖に~! 私のあんな所やこんな所を舐め揉み弄りまくった癖に~!  
 毎晩毎晩嫌がる私の上に圧し掛かって無理やり体を開かせて手篭めにしたくせに~!  
 所詮私なんて性欲処理の道具でしかなかったんだ~!  
 お兄ちゃんの馬鹿!外道!鬼畜ー! でもそんな所も大好きだょ… ぐふぉぅ!」  
躁状態になった妹の鳩尾に俺の右拳が炸裂する。  
これ以上馬鹿になってはたまらないので、こいつを殴るときは腹に決めている。  
「ふぁぁあー」  
床の上でもだえる妹を無視して、俺はしばし考える…  
二十秒で纏まった。  
「おい、起きろ」  
「ふにぃ」  
「お前の言いたい事は分かった」  
「えっ お兄ちゃんが馬鹿で外道で鬼畜でも大好きって事?」  
「それはどうでもいいし、第一俺は無理やりお前とヤッた覚えはない」  
事実、妹と関係を持ったのは、こいつが迫ってきたからだし、  
『してくれなきゃ自殺する』とまで言い出したからだ。  
こいつは馬鹿だからやらなきゃ本当に死んでいた可能性が強く、  
まあそのうちブラコンも収まるだろうと思って関係したのが悪かった。  
予想以上にこいつは馬鹿だったのだ。  
 
「お前と俺が結婚できるってことだ」  
「あっ そうそう、それが重要なんだった!  
 そういうわけで結婚して!お兄ちゃん!」  
「簡単に言うがな、義母さんはなんていうつもりだ?」  
「『お兄ちゃんが大好きだから結婚します』」  
…直球勝負かよ。  
まあ義母も馬鹿とはいえ世間体ぐらいは持っている人だから、  
『娘が異母兄と結婚しました』なんて言いふらすようなことはしない。  
むしろ俺が恐れることは、親馬鹿が高じて娘を応援しかねないということだ。  
周りの人間たちには『実は血縁がなかったけど、娘の教育上実の親子ということにしてました』  
とか言えば格好はつく。  
「妹よ、俺とお前は戸籍上結婚が可能らしい。  
 しかし可能性で言えば俺は他の女とだって結婚できるんだぞ」  
「ほぇ!そうだった!」  
「そうだ、愛とだって香積とだって沙織とだって妙とだって奈々とだって初美とだって繭とだって  
 八重とだって蘭とだって和歌子とだって結婚が可能だ。  
 つまりお前はようやくスタートラインに立つことができた状態なんだ」  
「…」  
「俺と結婚したいなら、その気にさせてみろ。それが条件だ」  
少しキツイ言い方かもしれないが、余り曖昧な言葉にするとこいつには伝わらない。  
案の定、瞳に涙が浮かんできたが… おかしいな、顔は笑ってる。  
 
「お兄ちゃん、嬉しいよ… これまでずっとずっと諦めてきたんだもん。  
 私とお兄ちゃんは結婚できないんだって、いつか私以外の人と結婚しちゃうんだって。  
 たとえほんの少しの可能性だっていいんだよ!  
 いつかお兄ちゃんがその気になってくれれば結婚出来るとすれば、  
 とんでもない前進、いや飛躍、ううん宇宙開闢クラスの大々々進展なんだよ…」  
どうやら感極まって泣き出したらしい。  
まあ気持ちが分からんでもない。たとえ一パーセントの確率でも、ゼロとは比べようもない倍率だ。  
こいつと結婚する気は今のところ『あんまり無い』が、さっきまでは『まるで無い』状態だったのだから、  
俺の心境にもやはり微妙に変化が生じてるらしい。  
「ほれ、泣くな」  
こういう場合、ティッシュで涙を拭いてやるよりも、抱きしめてやる方が女は喜ぶ。  
「お兄ちゃん…」  
「女の涙は嫌いじゃないが、いつまでも泣かれると飽きる」  
「うん、お兄ちゃん。飽きられるのは嫌だからもう泣かないよ」  
素直でよろしい。  
「ところでー お兄ちゃん~………結婚の可能性が出てきたご祝儀に~ 今晩一緒に寝てもいい~?」  
「…妹よ、俺はさっき泉美と恭子と静と知恵と五人でホテルに行ってきたばっかなんだけど」  
 
   終  

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