東京から実家へ帰る途中、酒井則之は姉の好きな銘菓ひよこを買った。九州名物のく
せに、東京名物のような顔をしているこのお菓子を、姉の紗江子は好きなのである。
電車をいくつか乗り継ぎ、地元の駅に着いた時は、すでに故郷は薄暗くなっていた。祭り
があるのか、どこかからお囃子が聞こえてくる。
「そうか、夏祭りだ」
たかだか四年、故郷を離れただけで、そんな事も分からなくなっている自分を則之は笑う。
都会に毒されているつもりは無いが、心のどこかに田舎を笑う気持ちが芽生えているのか
もしれない。土産を手にしながら、則之は実家へ向かって歩き出した。
大通りからつま先上がりの細い道へ出る。ここは、子供時分から何千回と歩いた道だ。姉
と共に、小学校、中学校、高校と・・・その間、姉はいつも弟と手を繋ぎたがった。それを則
之は、子ども扱いだと嫌った。友達にお姉ちゃん子と笑われるのに耐えられなかったので
ある。
「でも、温かかったな、姉ちゃんの手」
たとえば冬の寒い最中、姉が凍えそうな自分を抱き寄せるようにして、コートの中へいざな
ってくれた事があった。また、暑い夏は一本のペットボトルを回し飲みしながら、家路を辿っ
たものである。身内ゆえ、間接的に唇が触れ合う事にも、何の抵抗も感じなかった。
駅から十分も歩くと、民家もまばらとなる。道はさらに細くなり、辺りは閑散とする。田舎ゆ
え、追いはぎの心配も無かろうが、それでもどこか心細くなる。と、その時、道の向こうから
提灯の明かりが近づいてきた。
「則之」
静かだが、透き通るような美声だった。それを聞き、則之は身が竦む。
「姉ちゃん」
「ああ、やっぱり・・・駅長さんが、電話をくれたのよ。あなたに似た子が電車を降りたって」
にっこりと微笑む紗江子は、白地に花を染め抜いた浴衣姿。則之にとっては四年ぶりに見
る、美しい姉の艶姿であった。
「生憎、お母さんたちは出かけてるけど、早くお入りなさい」
「うん」
紗江子は則之を先に玄関へ入らせ、自分は弟の靴を揃えてから家に上がった。裾が
乱れぬよう腰をゆっくりと沈めつつ、袖を気に留めながら──
「縁側へ行くといいわ。涼しいから」
「あ、うん」
まとめ上げた髪を、品良く整える姉の姿にあてられた訳でもないが、その動きが則之に
は気になった。なんて綺麗なんだろう。身内びいきを差っ引いても、そう思える美しさが
紗江子にはあった。
「お酒は、飲まないんだったわね」
「うん。麦茶でいい」
「すぐ用意するわ」
縁側に座った則之は、とっぷり暮れた夜空に満月を見る。都会暮らしをしていると、空を
見上げる機会が少なくなるが、その理由はやはり情緒の違いであろう。都会で見る月は
寂しげだが、ここで見る月は夜空を照らす力強さを感じるのだ。そう、夜道に迷わぬよう、
弟のために提灯を下げて迎えに来てくれる、姉のごとき頼もしさを・・・
「お待たせ。枝豆もあったから、食べるといいわ」
「ありがとう」
夏の定番、麦茶と枝豆。それらを紗江子が御盆に載せて持って来てくれた。則之は少し
はにかみながら、冷えたグラスを手に取った。
「そういえば姉ちゃん、裕子はどうしたの?」
裕子とは紗江子の娘で、今年四歳になる女の子。当然、則之の姪である。
「お母さんたちが、祭りに連れて行ったわ。孫が可愛くて仕方が無いみたい」
「そうか。じゃあ、この家には」
「私とあなた、二人きりよ」
この時、少し離れた場所で花火が打ち上げられた。ドーン、パラパラ・・・という音がした
後、紗江子は則之の隣に座った。
「二時間は帰って来ないでしょうね」
紗江子は則之の手を取った。
「姉ちゃん」
「今だったら、ここで何があっても・・・花火の音がかき消してくれるわ」
握られた手に力が込められている事に、則之は動揺した。
「俺の部屋は」
「昔のままよ。行ってみる?」
「うん」
姉弟は立ち上がり、縁側から離れへと向かう。その様はどこか悪戯っぽく、楽しそうで
あった。
廊下を進む間、姉弟は無言だった。紗江子が手を取り、則之がそれに従う様子は、幼少
の頃から重ねた愛情の結果である。その証拠として、共に無言のはずなのに、思いは同
じだった。
「姉ちゃん」
「あっ・・・」
部屋の前まで来た時、則之は紗江子を後ろから抱きしめた。まるで湯上りのような姉の
まろやかな香りが、則之の理性を焼こうとしている。
「則之」
紗江子も身を入れ替え、弟と向かい合うと同時に唇を重ねた。そして舌を絡め、互いの
体をまさぐりあうのである。
「ンッ・・・姉ちゃんの唇、甘い」
「ウフフ・・・こんな事もあろうかと、ガムを噛んでおいたの。どう?姉ちゃんのキス、美味
しい?」
「うん、美味しい」
「可愛い子・・・さあ、一緒にお布団へ入りましょう」
紗江子は則之を全身で抱き込み、部屋に続く襖を開けた。その時、またもや花火の音
が──しかし、今度は遠くに聞こえた。
冷房の無い部屋だが、窓を開け放してあるので暑くは無い。隣近所に家も無い田舎屋
敷ゆえ、どれほど騒いでも気に留める必要も無い。則之は紗江子の浴衣の帯に手を
伸ばし、それを解こうとしていた。
「俺、東京にいる間、ずっと姉ちゃんの事、考えてた」
「私もよ。さあ、早く奪って」
明かりを落とした室内で、紗江子は月明かりに照らされている。浴衣が畳の上に落ちる
と、ほどよい大きさの乳房と悩ましい腰のラインを包む、白いショーツが露わとなった。
則之は姉の前に傅き、女臭を漂わせる下半身へと縋った。縋り、救いを求めるように腰
を抱く。
「ああ、姉ちゃんの匂いだ」
「いやね、鼻息がすごいわよ」
紗江子は口に手を当て、笑いをこらえるように囁いた。
「姉ちゃん、姉ちゃん・・・」
「まるで駄々っ子ね。ちょっと待って、ショーツを脱ぐから」
腰にしがみつく弟を哀れみつつ、姉は尻を振って下着を脱いだ。わざと扇情的に、則之
をもっと興奮させようとしている。
「姉ちゃん、オマンコ舐めていい?」
「いいわよ、その間に髪を解くから。ああ、座ったほうが良いかしら」
「俺、寝転ぶから、顔をまたいでよ」
「フフ・・・いいわよ。そのかわり、アヌスも舐めてね」
「うん。もちろんさ」
部屋に敷かれた布団に寝転ぶ則之の顔を、紗江子はまたいだ。ちょうど、顔面騎乗の
状態である。
姉の性器を目の前にすると、則之はすぐ二枚貝を舌で掻き分け、肉の密集地を狙った。
血の繋がった肉親の秘部を啜るという行為に、何の躊躇も見せぬ浅ましさである。
「あ、あーん・・・いいわ、その下品な舐め方・・・」
見苦しい中年男がカップ酒を啜るような音を立てながら、則之は紗江子の女肉を味わっ
た。ちょうど、鼻先が桃尻の真ん中にあるので、小さなすぼまりから僅かに異臭もする
のだが、それがかえって則之に愉悦を齎すのである。
「じゃあ、私も・・・舐めてあげようかな」
解いた髪を揺らしながら、紗江子は前かがみとなって勃起した則之の肉棒を手にした。
そしてこちらも何の躊躇も見せず、すっぽりと唇で包み込む。
「ああ、姉ちゃん・・・気持ちいい」
肉棒はずずっと吸われたかと思うと、唇で甘く噛まれたり舌先で雁首をチロチロとやられ
たりするので、則之はたまらない。自分も負けじと姉の女肉を責めてみるが、どちらかと
いえば押され気味だった。
「ああ、臭いオチンチン・・・こんな物を、姉ちゃんに舐めさせるなんて」
「そう言う割には、すごく濡れてるね、姉ちゃんのここ」
則之は指で二枚貝を開き、その奥から流れてくる粘液を舐め取った。さらに、その上に
ある小さなすぼまりにまで舌を這わせ、穴を穿つのである。
「きゃッ!い、いいわ・・・」
「姉ちゃん・・・ケツ・・・舐められるの好き・・・だもんな」
「変態っぽくて、いいのよ・・・」
アヌスを舌で犯されると、そこがキュッキュッと広がったり、すぼまったりした。則之は
姉が後ろの穴弄りが好きな事を熟知しているので、たっぷりと可愛がるつもりだ。
「ねえ、則之。そろそろ、あなたのを入れてよ」
「うん。バックからでいいかい?」
「私がそれを好きな事、知ってるくせに・・・さあ、思いっきりやってちょうだい」
姉の乞うままに則之は膝立ちとなり、肉棒を女肉へあてがった。濃厚な愛撫で解された
そこは、淫らな蜜を溢れさせながら、逞しい異性を待っている。
「入れるよ」
「ああ・・・入ってくる・・・」
ギリギリと反った肉棒が、紗江子の女穴を深々と穿つ。柔らかくて、温かい。則之が今、
侵したそこは、かつて触れていた姉の手と同じ優しさに満たされていた。
「もっと、奥まで・・・壊れてもいいの」
「姉ちゃん・・・ああ、アソコでチンポをフェラされてるみたいに気持ちいい・・・」
紗江子は則之を迎え入れた瞬間、軽い絶頂を感じた。この弟に肉棒を突き込まれると、
いつもこうだった。そしてこの後は、決まって寄せて引くような快楽の波に、体が飲み込
まれていく。交わる相手が肉親だからこそ得られる、禁忌の愉悦だった。
「の、則之・・・姉ちゃんを、無茶苦茶に犯して・・・死ぬほどキツイのがいいわ」
「分かったよ」
則之は這い蹲る姉の体に己の体重をかけ、乳房を乱暴にまさぐった。そして、腰を激しく
動かし、それこそ渾身の力で、紗江子を犯すのである。
「あううッ!ひいッ!す、すごくいいわ・・・ああ、死んじゃうかも・・・」
まるで獣に圧し掛かられているような錯覚を紗江子は得た。だが、ドスン、ドスンと体ごと
ぶつかってくる弟の激しさを、姉はすべて抱きしめてあげたいと願う。
たとえ犯され死のうとも、微塵の後悔さえしない。むしろ、それこそが本望とでも言わんば
かりの貪欲さだった。
「姉ちゃん、姉ちゃん」
「いいわ・・・すごくいいの・・・」
激しく体を揺さぶられながら、紗江子は舌なめずりをする。自分の女を弟で満たされ、心
底、嬉しかった。乳房を乱暴に弄ばれても、赤子が母を困らせるために、悪戯をしている
くらいの気持ちでいられる。そう、姉にとって弟は人生の中で初めに愛する赤子なのだ。
「姉ちゃんの中、気持ち良すぎて・・・もう、駄目だ」
「イクのね?いいわ、精子は全部、姉ちゃんの中に出すのよ」
則之は姉の尻を掴み、小刻みな動きで絶頂に達しようとした。一番、感じる場所、雁首
を女肉で擦りあげ、激しく子種を放つつもりなのだ。
「出るッ!」
姉の膣内に、則之は己が子種を放出した。腰が抜けるほどの勢いで肉棒が痙攣し、尿
道を塊のような精液が流れ行く。二度、三度・・・まるでポンプのようにそれらは送り込ま
れ、そのすべてが紗江子の子宮を目指す。
「ううッ・・・す、すごいわ、則之の射精・・・ドクドクいってる感じ・・・」
膣口を締め、一滴も漏らさぬよう紗江子は努めた。弟の子を身ごもるかもしれないという
不安は無く、ただただ貪欲に則之の肉棒を愛するだけであった。
いつしか花火の音は消え、則之の部屋に静けさが戻っている。姉弟は布団の上で重な
ったまま、気がつけば世間話に興じていた。
「そんなに裕子って、俺に似てるの?」
「ええ、あなたの子供の頃にね。間違いなく、うちの血を引いてるって、みんな言ってるわ」
「俺の子だったりして」
「分からないわ。あなたも旦那も血液型、同じだし」
ふふ、と紗江子は口元を歪めた。冗談とも本当ともつかぬ態度である。
「どうして俺たち、姉弟なのかな」
不意に則之が言うと、紗江子は悲しげな顔をした。これまでにも二人が何度かぶつかった
問いであった。
「・・・姉弟だから、こうして一緒にいられるんじゃない。バカね」
「でも、ずっと一緒にはいられないじゃないか」
「だから、私をおいて東京へ?」
「あの時は、姉ちゃんが結婚するっていうから・・・耐えられなかったんだ」
則之は紗江子の胸の谷間に顔を伏せ、泣いた。
「ねえ、則之・・・今、思えば子供の頃って・・・幸せだったわね。誰はばかることなく手を
繋いで、一緒に笑って泣いて・・・なんて贅沢な日々だったのかしら」
紗江子の頬を涙が伝う。その真珠のような滴は、月明かりに弾かれて悲しく輝いた。
「姉ちゃん」
「何も言わないで・・・あと少しは・・・こうしていられるから」
「裕子・・・本当は・・・」
「それ以上は、言っちゃ駄目よ。あの子は、旦那の子・・・それでいいでしょう」
紗江子が則之の背に爪を立て、頭を横に振った時、夜空では流れ雲が月を隠し、この姉
弟が紡ぐ罪を隠してくれた。
そして、祭りの終了を意味する最後の花火が打ち上がり、大輪の花を咲かせたのである。
おしまい