-*-+-*-+-*-  
 
 
「な、ななな何でここに…!」  
 
 あわわという擬音も相応しく、真琴は盛大な驚きを禁じ得なかった。  
 ドアの開く音もなく、気配という気配もなかった。それどころかさっき見たその場所には誰ひとり  
いなかったというのに…だのにあまりにも唐突に凜は現れ、薄暗い部屋に溶け込む服を着て立っていたのだ。  
 
「こ、これは違くて、えと、その…ぁぅ…」  
 
 突沸したように真っ赤になって言い訳を考えるけれども、そんなものが思い付くはずもなくて、ごにょごにょと  
口ごもってしまう。  
 顔を上げられない真琴に対し、凜は少しずつ歩み寄ってくる。  
 きしり、きしりと床が音を立て、それと共鳴するように心音がクレッシェンドする。  
 凜がベッドに腰掛けてスプリングの軋む音がすると、同時に一際大きく鼓動がした。  
 
「……君に」  
 
 微動だにできないでいると、暗闇の色に染まった瞳でたっぷりその顔を見つめた凜は、相も変わらぬ無表情で静かに穏やかに告げる。  
 
「…………逢いに…来た」  
 
 言葉の意味を理解すると、せわしなくうろたえていたのもどこか遠くへ飛んで失せた。  
 窓から吹き髪を撫でる冷涼な夜の風が、とてつもなく熱い蒸気のように思われる。それが自分の顔を熱し、真っ赤に茹でて  
しまっているように錯覚した。  
 
「ぁ……ぅ………」  
「…呼んだ、だろう……俺を…」  
 
 釣られた魚よろしく口をぱくぱくさせていた真琴は、追い討ちをかけられて黙り込み、さらにひどく赤面して俯いてしまった。  
 聞かれていたというのか。誰にも聞かせたくない、恋しい雄の名を呼ぶあの恥ずかしい声を。  
 顔の熱は疼きを蘇らせる呼び水となって、官能の炎がわずかながらも再び灯り始める。真琴は、確かに感じていた。  
 それを見取られまいとして真っ赤な顔を上げずにいると、ふと凜の両手が布団にかかっているのが目に入る。  
 
「やっ、そんっ……ダメぇ…」  
 
 凜の意を悟った動けない真琴の、弱々しい拒絶。  
 だって、おかしい。おかしいじゃないか。  
 いくら自分がそれを望んだからといって、こんな時に風のように現れて、いつもと違うこんなに甘い言葉を囁いて、  
何も尋ねずに願いを叶えてくれるなんて。  
 しかし凜は聞く耳を持ってくれなくて、するすると布団の布地が退かされていき、空気に触れる部位を涼しくも熱い感覚が  
追いかけていく。  
 布団を取り返すことも、本気で抵抗することもできず、肌蹴た凜のシャツの中、膝を抱えて横になった真琴の身体はついに、  
完全に外気にさらされてしまった。  
 もちろんここまで成育した身体を異性に見せるのは初めてだ。困る。恥ずかしい。顔から火が出てしまう。  
 でも凜には、凜ならば嫌ではなくて、むしろ。  
 
「可愛いな……俺のシャツで、…こんなに」  
 
 可愛いという言葉に赤面と照れ隠しの罵声を浴びせる間もなく、ゆっくりと手をのばした先…未だに脱いでいない  
純白のショーツ越しにそこを撫でられると、ただでさえ言葉で感じてしまっているというのに意思に反してはしたない  
声が出てきてしまう。ちろちろとした灯は大きくなって、もはや身体中に飛び火しているように感じた。  
 
(ゃ…じ、順番が…こういうのって、普通、き…キスからなんじゃ…!)  
 
 でもそんなことを聞けなくて、結局はなすがままにされてしまう。  
 粘着質の液体がそこを濡らしているのを確認したのか、凜は今度は手の平ごとそこに押し付け、  
十分に付着した粘液を真琴の腹部の上に塗り広げる。  
 
「ひゃ…な、何するのよぉ…」  
 
 そのまま円を描くようにさすられて、熱くぬるぬるとした感触に真琴は抗議する。  
 だがそれが偽りであるのは、真琴自身分かっていた。もういつの間にか、凜の行為を受け入れてしまっている  
自分がいる。石鹸のようにいやらしく塗り込まれていくのが自分の出した気持ちいい蜜だと考えると、  
身体の火照りがさらに増して、余計に分泌してしまう。それは甘美過ぎる感覚であり、そしてこの上なく  
抗い難かった。  
 
「や、やめなさ…あぁっ…」  
 
 円の軌道から外れて正中線をなぞる指が両胸の間に至ると、真琴は発言を中断せざるを得ない。  
 正直に言って、真琴の胸はさほど大きくはない。まだ発展途上であるということもあるが、それでも  
この間の身体測定では女子の平均を確実に下回っていた。  
 だから、あまり見せたくはなかった。別に胸の大きさで女の良さが変わるわけでもなし、と思って  
特に気にしないようにしていたが、心に想う相手ができてその方向性も変わった。やっぱり凜だって、  
きっと胸が大きい方がいいに決まってる。  
 真琴は思わず顔を背けてしまう。  
 
「な、なによ…小さいんだから、小さいって…ひゃん!」  
 
 はっきり言いなさいよ――と言おうとして、はっきり言えないのは自分の方だった。  
 暖かい両手がそっと覆うように添えられて、鮮やかな桃色の突起を指の股に挟んだのだ。  
 そのまま上下左右に揺すられて回転をつけて捻られると、小さな電流がぴりっ、ぴりっと流れて、  
身体がリズムよく震えてしまう。豊かでない乳肉が揺れるたびに、ゆるゆるとした快感がそれに続いた。  
 どうしよう。  
 自分に覆いかぶさっている凜が、かっこよく見えて仕方ない。  
 あんなに無口で、無表情で、根暗で、マイナスイオンの塊(?)みたいなヤツなのに、自分に視線を  
落とす彼を見ていると鼓動が熱く速くなる。胸の内壁を強く叩くのが聞こえてしまうのでは、と思ってしまう。  
 いや、もうそれは、この男の子のことが、好き…だからなのかもしれないけれど。  
 
「淋しかった、……だろう。今、慰めてやる」  
「ち、ちが…はあッ…!」  
 
 何が違うのかわからないまま反射的に言おうとすると、ショーツの脇から指が潜り込んで、身体が  
悦びにわなないた。  
 凜は既に十分過ぎるほど濡れたそこに指を遊ばせる。筋に沿った動きは途切れのない緩やかな快楽を  
もたらし、小さいながらも自己主張をする肉の突起には、電撃のような刺激を与えられる。そのたびに  
愛液が滴り、凜の手と下着とベッドをいっぺんに汚した。それは真琴から見えはしないけれど、動きがますます  
滑らかになっていくのでわかる。  
 しばらくすると一通り反応を楽しんだからだろうか、秘部をさする動きは停止する。  
 そして。  
 
「やっ、やだ、だめっ! そ、そこは…あぁっ!」  
 
 いとも容易く、そして唐突に、侵入してきた。  
 にゅるりとした生々しい滑りの感覚に加え、はっきり感じられる異物感、そしてどうしようもない熱さと快感に  
思わず拒絶の声を上げてしまう…しかしそこはやはりというべきか、意に介していないであろう内部で指を折る動作に  
よって、逆の感情からの悲鳴を上げさせられる。  
 
「遠慮は……いらない…ほら………」  
 
 さするのとは比べものにならない――そう千里が教えてくれたのを、真琴は文字通り体で実感することになった。  
 
「ふあっ! ゃ、やっ…ぃ…いい加減に……ぁぁっ…!」  
 
 やや鉤状に固定されたまま往復運動をされると、口からはやめてという虚言しか出ない――いやそれさえも、  
満足に言うことはできなかった。  
 ぎりぎりまで引き抜き、抜けきる寸前でもとあった場所に戻す…その繰り返し。  
 されているのはそれだけなのに、与えられるものは半端ではなかった。股間の最奥から蜜を掻き出され、身体は負ける  
ものかとでも言わんばかりに更なる蜜をこんこんと吐き出す。  
 さっき入口をさすってもらっただけでも相当に気持ちがよかったのに、快楽の蜜壷の中に広がる大事な所を擦ってもらい、  
鮮烈なまでの快感で目の奥に閃光が迸りはじめていた。  
 ちゅっ、ちゅっという水音と同時に真琴は高く澄んだ声で喘ぎ、あっという間に高みへ押し上げられる。  
 
「ひゃっ…ひあああッ…!!」  
 
 反射的に腕を凜の首に、脚を下半身にきつく絡ませ、真琴は全身を小刻みにぶるぶる震わせて達した。  
 可愛らしい小さな口を半分開いたままぎゅっと固く目を閉じて、痙攣と同時におびただしい量の愛の蜜を出す。  
 膣内の収縮はすこぶる強力で、そのぶん入ったままの指の形をはっきり感じることができる。今の真琴は飛び散りそうになる意識で、  
そのことに確かな幸福を素直に感じることができた。  
 収縮の後には弛緩がやってくる。痙攣が終わると全身から力が抜けきって、真琴は荒く息をしたままぐったりと横たわる。  
 その間、凜が言葉を紡ぐことはなかった…が、真琴にとっては逆に有り難かった。もしも果てる直前に耳元で甘い睦言を囁かれたりでも  
したら、意識まで飛ばされてしまったかもしれないから。  
 
「……可愛いよ、……真琴」  
 
 例えば、こんな。  
 
「っ、ひッ……はぁ、っ………」  
 
 たったそれだけで、痙攣が延長される。肉体的でない精神的な快感がある事を知った。  
 不意打ちに対するその反応を見てとると、凜はふっと微笑みを浮かべ、そしてその顔をぐしょぐしょになったそこへと近づける。  
 
「全部、見せて…」  
 
 言いながら体ごと下へ移動し、ショーツの両端をつまむ。  
 
「ゃ、ゃぁっ…ず、ずるいよ、わたしばっかり…ぁっ……」  
 
 やっぱり凜は話を聞いているようではなくて、するすると脱がせていって。  
 思わず顔を手で覆ってしまっているとさらに鼻先を近づけてきて。  
 「ここも綺麗だよ」なんて言ってくれて、それでそれから、あったかい舌が…はいっ、て――  
 
 
                      -*-+-*-+-*-  
 
 
 どこか遠くから、音が聞こえる。  
 毎朝聞き慣れたそれはだんだん大きくなり、耳にぼやけていた音質が次第にはっきりしてくる。  
 
「…だ、だめ…きたないからぁ…」  
 
 でもまだ、それが高いブザー音だと気付くには意識がはっきりしていなくて、真琴は脳裏に浮かぶ影法師に甘ったるい声で喘ぐ。  
 雨戸越しにも朝の光が室内に紛れ込んでいる。まして覆うもののない天窓からは、昇りきらない太陽が爽やかに照っていた。  
 
「な、なめちゃ…やだぁっ…なめ…な、い…で………?」  
 
 うっすらと目が開く。暗闇に順応した目はまだ拒否反応を示すけれども、それでも少しずつ開ききっていく。  
 ここまできてようやく、鳴っていたのが目覚ましであることに気付いた。  
 
「…ゆ……夢………?」  
 
 自分を慰めに来た想い人の姿はなく。  
 取り払われたはずの下着も、肌蹴たなりにちゃんと着ている。  
 おまけにアラームの鳴る音と、雀たちの羽音までもが聞こえるこの状況。  
 結論に至るまで、さほど時間はかからなかった。  
 さっと顔が赤くなるのが、自分でも分かった。  
 
「な、何よこんな夢ぇ! これじゃまるで変態じゃない、こんな…ああもう!」  
 
 布団に潜りながら、ばたばたと手足を動かす。ごろごろ転がってみる。  
 とりあえず、淫夢の体験はなかった。そういうのを考えるのはいやらしいオトコなのだと思っていたし、女の子はそういう夢は  
見ないものだ、とも。  
 ものすごく恥ずかしい、そしてイケナイことをしてしまったような気がして、真琴は勝手に顔が熱くなるのを感じた。  
 
(ッ、つ、冷た…い…?)  
 
 そんな中確かに感じた、ひんやりとした感覚。足の間に挟んだ手からだ。  
 もう一度よく感触を探ってみれば、股のあたりが気持ち悪い。  
 べたべたするというか、湿っているというか。その上皮膚に布が張り付いてくるというか…  
 
「あ……ま、まさか…」  
 
 恐る恐る手を引っ込めて、布団の端をつまむ。  
 
 少しずつめくっていくと、そこには――  
 
 
 ――その後真琴は、洗濯機の音に母が起きてこないかとビクビクする羽目にあい、神経を擦り減らし脳細胞を一千万単位で焼き切ることになった。  
 
 その翌週凜の顔をまともに見れなかったのも、また別の話である。  
 

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