「吉田さ〜ん」  
看護婦さんの声が聞こえた。  
行かなきゃ。  
早く私の中からこの子を追い出さなきゃ。  
…欲しくも無いのに与えられた命。  
でも…。  
「…ごめんなさいっ!」  
「吉田さん!」  
看護婦さんに背を向けて、私は一目散に走り出した。  
なぜだかわからない…でも、確かにそのとき声が聞こえた。  
(…まま…まま…)  
私のお腹の中にいる、私と「人ではないもの」との子供。  
嫌なはずなのに…私はこの子を最後まで中絶できずに、そのまま出産した。  
 
 
私が生んだ子供は幸い私に似ていた。  
…それから10年がたった春。  
娘は5年生になって元気に学校に通っていた。  
あの日までは。  
 
「…お嬢さん、ちょっと道を教えてくれるかな?」  
「…ん?」  
少女の娘…透子は後ろを振り返るとそこに一人の男がいた。  
顔の整った優しそうな青年だった。  
透子は何の警戒もせずに青年と一緒に地図に書かれた場所へ向かった。  
 
「ここだよー。」  
「ありがとうお嬢さん。良かったら、お礼をさせて欲しいな。」  
地図が示していたのは古ぼけた喫茶店だった。  
青年は透子にお礼としてケーキをご馳走してあげることにしたのだ。  
「…でも…いいのかな…。」  
「いいよ。ここは僕の姉さんがやってる店だから好きなだけご馳走するよ。」  
その言葉を聞いて、透子の目はきらきら輝いた。  
…最初に何の疑いもなく道案内をしたり、ケーキをご馳走になったり…。  
透子は良くも悪くも純真な子なのだ。  
…いや、厳しい言葉をかけるなら愚かとでも言えばいいのか…。  
 
ぎいいいいいい〜。  
扉を開けるとそこには紅茶の香りがいっぱいに広がっていた。  
「わあ〜、いいにおいだ〜。」  
「ハハハ、姉さんは味や香りに五月蝿い人だからね。」  
青年がそういったと同時に、  
「ん〜?呼んだかしら〜?」  
と、カウンターの奥の調理室から眼鏡をかけた女性が現れた。  
「あら、可愛い女の子連れてるじゃない。レキってば、そんな趣味があったんだ。」  
「違います。」  
きっぱりとレキと呼ばれた青年は答えた。  
「あはははは、冗談よ冗談。…それより…。」  
眼鏡の女性は透子に近づいた。  
「いらっしゃい、お嬢さん。」  
 
眼鏡の女性…セセカはレキと透子をカウンターの席に座らせた。  
数分後…透子の大好きな苺ショート(苺特大)と自家製ミックスジュースを振舞った。  
「おいひ〜。おねーちゃん、ありがとう。」  
セセカは透子の満面の笑みを見て、つられて微笑んだ。  
「可愛いね、透子ちゃん。」  
セセカはレキに話しかける。  
「うん…でも…。」  
レキの顔が曇り、沈黙が店の中に広がる。  
セセカは何かを感じ取ったのか、それ以上は何も聞けなかった。  
「そういえば〜。」  
透子の間延びした声が沈黙を破った。  
「ここは〜、おにいちゃんのおねえちゃんのおみせなんだよね〜。なんで道に迷ってたの〜?」  
「ああ、それはね…。」  
「レキが重度の方向音痴だからよ。」  
セセカは悪戯っぽくそう言い放った。  
 
「レキってば、地図を持ってないとまともに出かけられないのよ。しかも地図を持っていても一人で帰ってくる確立は50%」  
セセカの言葉にレキが続く。  
「あとの50パーは、さっき透子ちゃんに道案内してもらったように、誰かに手伝ってもらう…って感じかな。」  
透子は悲しそうな顔になって言う。  
「じゃあ…誰も助けてくれなかったら、おにいちゃんはもうおねえちゃんにあえなくなっちゃうの…?」  
「う〜ん…まあ、僕は大丈夫だよ。」  
透子を安心させる為にレキはそう答えた。  
…実際、警察沙汰になった事は何度もあって、一時サテライトシステム導入をセセカは考えたのだが…。  
 
だがこのレキの方向音痴には理由があった。  
彼の目には、生命体と、自分が「知っている」物質以外が非常に簡略化されて写るのだ。  
まるで、昔の3Dダンジョンゲームのワイヤーフレームのような…。  
「物覚えが悪いって、姉さんに良く怒られたこともあったっけ。」  
ははは、と笑いながらレキは答えた。  
「いちいち探しに行く私の身にもなってよね…ってあれ?」  
セセカが透子のほうを見ると、口の周りにクリームを付けたまま眠ってしまっていた。  
このままでは危ないので、セセカは透子をソファーに運んだ。  
「…むにゃむにゃ…ままぁ…。」  
…透子の幸せそうな寝顔を見たレキは逆に暗い表情になった。  
「姉さん。」  
いつになく真剣なレキの表情と声。  
「俺もういやだ。上からの命令だからって、こんな子供ばかり殺すのは。」  
 
 
「そこまでだ東京都板橋区在住のラジオネーム『モフモフ祭り』君。」  
「あっ!やっべえ!刺身Gメンだあ!」  
「ちょ・・・伏線張っておいてそれは無しだろお前!」  
「後は幼女レイプの後母親も美味しく頂く親子丼の後マジファック!脳姦しちゃうよp!」  
「それはだめです。倫理に反してます。」  
「この生体エロメイドめ!お前○宮ハ○ヒの○鬱の○門とキャラ被ってんだよ!」  
「違います。」  
「まあいいや、さっさとやらせろよ!」  
 
パン  
 
「…ALL DELETE…」  
 
 
セセカの携帯にメールが入った。  
「ALL DELETE 私達は自由」  
 
「…で、運命操作機関は壊滅か。」  
「そうね…あなたも…お疲れ様。」  
ヴィシュウウウウウンンン…。  
レキの生命活動は完全に停止した。  
「初めから…純粋な人間なんてココにはいないのよ…。」  
セセカは眼鏡を外すと一瞬にして姿を変えた。  
 
「にゃ〜…この本も変な世界だったにゃるら〜。」  
正直、罪の無い女の子が殺されるのとか嫌です。  
セセカを演じていた少女は改めてそう思った。  
その傍らで、彼女が宇宙で一番好きな人に似たメイドが微笑んでいた。  
 

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