この世に闇は必要ないと誰かが言った。
だがそう言ったものもまた闇なのだ。
「はい、この区域の怪物は駆除しました。」
「ご苦労だったデルタチーム。」
司令室に歓声が沸き起こる。
ある港町で大規模な人外のものへの掃討作戦が行われ、今まさに成功した瞬間だった。
「やりましたな。閣下。」
「うむ。これもひとえにみなの活躍があったからだ。」
「ですが…まだ東の果ての島国には人外が済んでいるという話ですぞ。」
「わかっている。すでに案は練ってあるよ。」
若き皇帝はそう大臣に伝えた。
東の果ての島国―日本。
ここにも人ではないものがいた。
やつらは人間の世界に潜み、人間と同じように暮らしているのだ。
それが明るみになったのは数年前。
ある地方都市で起きた不可解な事件。
…邪神と呼ばれるそれは突然現れたのだった。
「おかーさん、きょうね、おかーさんのにがおえかいたんだよ。」
女の子は描いた絵を母親に見せた。
「…ありがとう…。」
母親は小さな声で女の子に答えた。
母親というにはあまりにも小さい体。
だが彼女はこの女の子のれっきとした母親なのだ。
灰色の少女…アブホースは静かに娘の頬をなでた。
「アルファ1、アルファ2、投下。」
「同じくデルタチーム出撃するぞ。」
巨大な空中要塞から人型の機械が飛び降りていく。
いや、落ちるといったほうが正しいだろうか。
それはこの世のどの金属よりも強く軽い。
オリハルコン。
奇跡の金属で精製された全身鎧であった。
バッ!!
落下中だった人型兵器は魔術結界を作り出し、落下の勢いを弱めていった。
「気をつけろ。相手はあの「邪神」だ。」
「インスマウスの連中とは訳が違うと言う事か。面白い。」
デルタチームと呼ばれる彼等は他の者とは違っていた。
厳しい修行に耐えた者だけがなれる、まさに少数精鋭の部隊であった。
「デルタの方々に随伴出来て、光栄です。」
「アルファに入ったばかりの奴か。気を抜くなよ。」
デルタの隊長が新米の隊員に声をかけた。
「しかし奴等に人間の武器が効くのか?」
「効くと思えば効くさ。」
「おいおい。」
わははと通信機から隊員の笑い声が聞こえる。
隊長は静かに着地準備を始めた。
バンッ!!!
川原に着地するデルタチーム、そしてアルファ1と2のチーム。
目の前で鼻をたらした子供が固まっているが気にするな。
そのまま彼等は町のほうへ歩き出した。
「でもアレですよ、アレ。」
「アレじゃわかんないよ。」
女の子二人が話しながら歩いてゆく。
と、そのまま壁にぶつかってしまった。
…壁ではなかった。
魔力の鎧で覆われた戦士たちであった。
134 名前:名無しさん@ピンキー 投稿日:2006/06/12(月) 00:54:26 ID:HKMNKl7Q
「うわ…なにコレ…なんかのコスプレ?」
金髪の少女が思わず口にした。
「だめです…変な目で見ちゃだめです。」
茶色い髪の少女が呼びかける。
「そうなんだよ!今度始まるアニメの宣伝ムービーの撮影やってたんだ!」
隊員の一人が芝居を打つ。
「そ…そうだよ!「魔神兵器ドランベイル」って言うアニメのCM撮影なんだ!」
他の隊員もそれに乗った。
(…大丈夫だろうか…。)
隊長は少しばかり心配になった。
だが、隊長の心配とは裏腹に。
「すごい!CMの撮影なんだ!」
二人が目をキラキラさせている。
何とか上手く騙せたようだ。
二人から逃げるようにデルタチームの面々はその場を離れた。
「ナイス演技!」
「リーダー乙!」
といった通信記録が残っているかは定かではない。
「アルファ1、邪神の眷属と交戦中!!」
「まずい!!グレネードが効かない!!」
隊長の通信機にアルファ1からの連絡が届いた!
「隊長!」
「アルファ1を支援するぞ!!」
デルタチームは背面ブースターを起動させ、援護に向かった。
…そこは普通の小学校であった。
だが何かが違っていた。
人外がいる。
隊員たちの神経が研ぎ澄まされてゆく。戦いの始まりだ。
「わう…。」
「なんだアレは…。」
犬…というにはあまりにも醜い、ヘドロのような物がそこにいた。
「わうう〜ん!」
怪物が近づいてくる。
「ファイア!!」
容赦なく浴びせられる銃弾。
だが怪物には効かなかった。いや、当たらなかったのである。
「上田!!」
「どんとこい!!」
「違う…上にいるんだ!!!」
「わふふ〜ん!」
隊員の一人に怪物が飛び乗った!!
「データ解析完了!!こいつは…眷属なんかじゃない!!邪神だ!!」
「ティンダロスの…猟犬…。」
甘えるようにしがみつく猟犬。
「くそっ!!くたばれ化け物!!!」
ドン!!!
襲われていた隊員は魔銃の引き金を引いた!!
パーン!という音を立てて、猟犬は吹き飛ばされていった。
「大丈夫か!!」
隊長が襲われた隊員に近付く。
が、次の瞬間異変に気が付いた。
「…死んでいる!!」
「そんな…バカな!」
猟犬の方を見ると体中にべっとりと白い物がまとわりついていた。
先ほどとは違い、人間の形をしている。
「…まさか…一瞬にして精を絞りつくしたというのか…!」
「やはりけだものか!!消えうせい!!」
隊長は機関砲を構え攻撃する!
「わうっ!」
だが弾は当たる前に空間の中に吸い込まれてゆく。
「…仕方が無い!!コンテナオープン!!!」
ガシャン!!!
背中のコンテナからのこぎりのような剣を取り出した!!
「わうっ!?」
「怖いか…俺はお前達の方が怖いよ。」
隊長はためらうことなく剣を振り下ろした。
猟犬の手…前足か、それが廊下に転がっていた。
「わううう!!!!わああうううう!!!!」
手首を押さえ泣き続ける犬。
痛みのあまりに失禁してしまったようだ、独特の臭気が漂う。
「俺の仲間はもっと痛かったんだ。」
隊長の声は静かだった。
「わううあああ!!!ああああうううううう!!!!」
幼い少女の顔で涙を浮かべて命乞いをする犬。
だが隊員たちは決して許しはしなかった。
「リーダー。」
隊員の一人が話しかける。
「なんだ?」
「これ、両性具有のようですよ。」
「はあ?どういう事だ?まさか…こいつら生殖能力があるっていうのか!?」
「そうみたいですね…気持ち悪い。」
確かに、下半身を見ると両方の性器らしき物があった。
「おーい、だれかバーナーもってないかー?」
「私のコンテナにありますよ。」
がしゃん。
隊員のコンテナからバーナーが取り出された。
「焼却処理だ。」
完全消滅させてやる…とバーナーを構える隊長。
彼等の耳にアルファ2からの通信が入る。
「…デルタチーム。見つけたぞ…アブホースの隠れ家を!!」
「!…今すぐに行く…先にコイツ…ティンダロスの猟犬を消してからな。」
そう隊長が伝えた直後、最悪の言葉を聞くことになる。
「…子供がいる!」
「灰色の髪…この子は…まさか!!」
後編へ
続く