「ここか」  
 俺はこれから俺が住む部屋のドアを見つめる。  
 2LDK。築5年。駅徒歩10分。家賃7万5千円。敷金礼金0。  
 非常に美味しい物件だが、今までここに入居した人は全員1ヶ月以内に退去している。  
 そんな曰く付きの物件だった。  
 俺は恐る恐るドアノブを回す。  
 今日からここに住むのだ。会社にも近いここをどうしても手放したくはない。  
 幽霊?悪魔?出るなら出てみろ。俺は今までに妖怪とエッチしたことだってあるんだ。怖いものなんて。  
 勢いをつけてドアを引く。  
 そこにはおどろおどろしいお化けも、怖い顔の悪魔も、もちろん鬼も妖怪も居なかった。  
 ただ、代わりに。  
「ついに・・・ついに見つけましたわ!!!」  
 俺と同い年くらいの女性が、仁王立ちで立っていた。  
 
「つまりキミは、明治時代にこの土地に生まれた富豪のお嬢様で、許婚に殺されてしまったと」  
「そうよ」  
 女性は白いワンピースで、髪はセミロングをアップにしている。  
 肌は白く、化粧のしていない素の顔はとても綺麗だった。  
 唯一の装飾と言えば、左手薬指に光る小さなダイヤの指輪。  
「で、その生まれ変わりにとり憑いて殺すためにここに居たと」  
「ほう。んぐんぐ。おかわり」  
 今はその可愛らしい口に、俺の買ってきたシュークリームを頬張っている。  
 オヤツを食べる幽霊って。しかもおかわりを要求してくるし。  
「はいはい。ってことは、俺がその許婚の生まれ変わり?」  
 シュークリームを口に頬張りすぎたのか、口は動かさずに首だけをコクコクと縦に振っている。  
「あのさぁ、ウソをつくならもう少しマトモなウソを」  
「ウソじゃないわよ!閻魔様もそう言ってたもの」  
「閻魔様って」  
「ふぅ。ごちそうさま。ささ、さくっと私に殺されて・・・って、ちょっと。何するのよ」  
 俺は立ち上がった彼女の背中を押して部屋の外へと連れ出す。  
「シュークリーム食わせてやったんだ。いいだろ。ほら、自分の家に帰れ」  
「あの程度でわたくしが、懐柔されると思って?むしろ、懐柔しようとしたその心にブチギレ寸前ですわ」  
 ブチギレって、明治時代には無い言葉だろ。  
「はいはい。じゃあ、ちゃんと帰れよ」  
「はっ!?ちょ、ちょっとま」  
 ドアを閉める。ドアの外で何か叫んでいるがそのうち諦めて帰るだろ。  
 
「さてと、掃除掃除」  
「末期の掃除だなんて。変わってますのね」  
 !?  
「な・・・なんで」  
 さきほど家の外に追い出した女は、リビングに置いてあるテーブルの上を陣取って仁王立ちしていた。  
「幽霊にとって壁など無いに等しいですわ」  
 マジか?いや・・・待て待て。俺がここの部屋に入った時だってすでに居たんだ。  
 意外と隣人とかでどっかに抜け穴があるとか。  
「それにしても」  
 テーブルから降りて俺の目の前に立つ。  
 俺の頬に当てられた彼女の手は、ひんやりとしていた。  
「よく似ていますわ・・・あの方に」  
 彼女の瞳は黒く綺麗で、吸い込まれそうな魅力があった。  
「むぅ?」  
 眉が寄って不思議そうな顔をする。  
「あ。そだ警察警察」  
 俺は携帯電話を取り出して警察に電話をかける。  
「何を考えているのですか!!」  
 携帯をひったくられた。  
「何って」  
 電話を切って棚の上におかれる。  
 なんで明治生まれが携帯のこと知ってんだよ。  
「まったく。油断も隙もなさすぎですわ・・・そこまで似てなくてもいいのに」  
 女性はブツクサと小声で文句をたれている。  
「あのさぁ。マジで不法侵入で訴えるぞ」  
「わたくしを捕まえられるものなら捕まえてごらんなさい」  
 無造作に突きだされた腕を俺は掴む。  
「え!?」  
 何を驚いてるんだこいつは。掴めというから掴んだのに。  
「そういえば・・・先ほどもわたくしの背中を・・・はっ!?いつまで掴んでいるつもり!!」  
「あぁ。悪い悪い」  
 俺は手を離す。  
「でだ。お前は本当に何ものなんだ?」  
 女性は俺を睨むと、まだ新しいベッドの上に腰掛けた。  
 
「わたくしの名前は九条櫻。九条家第二女子ですわ。そして、貴方は河野聖さまの生まれ変わり」  
「河野?俺も河野だぞ、河野忠だ」  
「なんですって!?まさか・・・聖さまと同じ血を?」  
 櫻は俺の体を上から下まで舐めるように見る。  
「やはりそっくりですわ・・・生まれ変わりだけではなく同じ血を引いているのならば納得ですわね」  
「あのさ。その遊びに付き合ってやってもいいんだが・・・そろそろ部屋を片付けたいんだが」  
「遊びですって!?」  
「だって、さっきからおかしいだろ。言葉遣いとか携帯とか・・・明治生まれには見えない」  
「あぁ。それはこの部屋に住んでいた人たちから勝手に覚えさせてもらいましたの」  
 納得出来そうな出来なさそうな理由だな。  
 といか、コイツがいたから今までの入居者がすぐに退去したのか?  
 いやいや。納得してしまったらコイツが幽霊だと認めてしまうことになる。まぁ、幽霊の存在自体は否定しないけど。  
「あれ。じゃあ、さっさと俺を殺せばいいんじゃね?こんな押し問答してないでさ」  
 俺がそう言うと、鋭い視線で睨まれた。  
「ど、どうした?」  
「うぅぅ」  
 その瞳からポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちる。  
「やってますわ!先ほどから何度も何度も・・・けど・・・貴方は何ともないのですか?」  
「え?あ〜」  
 俺は自分で全身を見回す。  
 特に外見上の異常はない。別にどこかが痛いわけでもないし。  
「もうだめです・・・貴方を殺せない・・・わたくしは・・・地獄行き」  
「ちょっと待ってくれ。なんで、お前が地獄行きになるんだよ」  
「成仏を拒んで貴方を待ち続けたからです。ふふ・・・馬鹿みたい」  
 肩から力が抜け、腕がブランと揺れる。  
 けど、俺は何て言葉をかけていいのかがわからない。  
「・・・そんな悲しそうな顔をしないで・・・本当に・・・お優しいところまでそっくり」  
 先ほどから不思議な違和感があった。  
 コイツは自分を殺した許婚を酷く憎んでいるはずだ。なのに、たまに優しい笑顔と言葉を俺に向ける。  
「なぁ。本当にお前はその許婚のことを憎んでいるのか?」  
 震えていた肩が1回だけビクンっと大きく動き、そして顔をゆっくりと俺の方に向けてくる。  
「わたくしは」  
「本当のことを話してくれないか?」  
 
 櫻から聞いた話は衝撃的だった。  
 櫻は聖に殺されたわけではなかった。聖は人殺しをした。それは事故だったが、警察は殺人と断定したのだ。  
 聖が自首しようとしたその時・・・櫻は全ての罪を遺書に書き残し自殺した。  
 事件は櫻がやったということとなり聖に罪が及ぶことはなかった。  
 しかし・・・聖は櫻を失い・・・そして、罪の意識にさいなまれ・・・櫻の死から数年後。山の中でひっそりと命を絶ったというのだ。  
「しかし、聖さまは前世の業により、地獄行きとなると閻魔様がおっしゃいました。ですから私は」  
「聖を待って自分も地獄に落ちるってことか。あのさ、一つ気になるんだが、聖の魂ってもう地獄にいるんじゃねぇの?」  
 櫻は首を横に振る。  
「聖さまの魂は消滅し転生を果たしました。地獄に行く事なく」  
「あ〜。なるほど。それでか・・・俺が生まれ変わりだなんだってのは」  
 話はよくある怪談話だが、当事者となると少し変わってくる。  
 信じるわけにはいかないよな・・・信じたら殺されそうだし、しかも地獄行きだもんな。  
「それにしても。お前。本当にその聖ってヤツのこと好きなんだな」  
「え・・・あ・・・わたくしは」  
 顔を真っ赤にして俯く。  
 手をぎゅっと握り締めて軽く震えている。  
 先ほどまでの強気な態度とはうって変わって初々しい。  
「俺が死んでやることは出来ないけどさ。まぁ、そういうことなら、俺の部屋に居てもいいぞ」  
「え?」  
「って、ごめんな。俺と一緒に居ると許婚のこと思い出しちゃうか」  
 俺が笑っていると、櫻は俺の側に寄ってくる。  
「ありがとうございます。本当に・・・お優しいお方」  
 そのまま俺の胸に体を預ける。  
 温かい。こんなにも温かい幽霊なんて居るはずがない。  
「もう・・・貴方を殺すことは諦めました・・・元々出来ないことだったのです・・・聖さまを殺すことなど」  
 俺の胸の中で櫻は涙を流す。  
 そうだよな・・・身代わりになるほど愛している人物を殺せるはずなんてないじゃないか。  
「忠さまのお胸・・・温かい・・・まるで聖さまに抱いて頂いているよう」  
「櫻さん」  
 口が勝手に動いた。え?あ、ちょっと待って。櫻さんって。  
「櫻さん。もう、この腕で抱くことは出来ない・・・そう思っていました」  
「聖・・・さま?」  
「はい。100年ほど・・・お待たせしてしまいましたね」  
「ぁぁ・・・聖さま、聖さま。お待ちしておりました。この日・・・この刻を」  
 あ〜。マジか?これはマジなのか?  
 マジで幽霊とか生まれ変わりとかそういった類なのか?  
 
「んっ」  
 俺の体は櫻さんを抱き寄せ、その唇を奪っていた。  
「はぁ・・・聖さま・・・櫻は幸せでございます」  
「櫻さん」  
「はい」  
 何か勝手に話が進んでる・・・って、櫻さん、マジで幸せそうな顔してんな。さっきみたいな強気な顔や暗い顔の影は微塵も見えない。  
 それなら・・・ま、いっか。  
「このような場になって・・・本当に申し訳ない・・・私の妻となってくれないだろうか」  
「ぁぁ・・・はい・・・喜んでお受けいたします」  
 櫻さんは顔を両手で覆って大粒の涙を流している。  
「櫻さん」  
「ぁっ・・・聖さま・・・そんないきなり」  
 聖が櫻さんをベッドの上に押し倒す。  
「時間がありません。最後に貴方を感じさせて欲しい」  
「・・・はい。聖さま」  
 櫻さんは自分の着ていたワンピースを脱ぐ。  
「綺麗です。櫻さん」  
「恥ずかしい」  
 櫻さんの体は本当に綺麗だった。全身は白く綺麗な肌。  
 ほどよく膨らんだ乳房と、薄く毛の生えた恥丘。彼女は下着をつけては居なかった。  
「あ・・・あの・・・わたくし・・・知識があまりありませんの・・・どうか・・・お優しくしてください」  
「えぇ。私も実践は始めてですが、ある程度の知識はあります・・・だから心配なさらずに」  
「はい」  
 聖は両手で優しく胸を揉みながらキスをする。  
「んっ・・・ぁぁ・・・聖さま・・・声・・・出てしまいます」  
「出してもいいですよ。さぁ、櫻さんの可愛らしい声を聞かせてください」  
「ふぁっ・・・んっ・・・んっ・・・はぁ」  
 胸を揉んでいると、彼女の乳首が少しずつ固くなってくる。  
 今度はそれを指で摘んだり舌で舐めたりし始めた。  
「どうですか?」  
「はぅっ・・・なんだか・・・胸が切なくて・・・あぁ・・・締め付けられるよう・・・ぁぁぁっ」  
 乳首を噛むと、櫻さんは声をあげて背を反らす。  
 
「え?あ、きゃっ」  
 聖が櫻さんのお尻を高く持ち上げて、彼女のまだ湿り気の無い秘部に舌を這わせる。  
「聖さま・・・そんな・・・汚い場所をお舐めになるのは・・・はぅっ」  
「櫻さんに汚い場所なんてありませんよ・・・それに、舐めてほぐさないと、痛みがあるようですし」  
「痛み?」  
 櫻さんは本当に知識が無いのか、これから何をするのかがよくわかっていないようだ。  
「交わりには痛みを伴うと聞いております」  
「そう・・・なのですか」  
「怖いですか?」  
「・・・はい。けれど・・・わたくしは聖さまとでしたらどんな苦痛も耐えてみせますわ」  
 櫻さんが優しい微笑みを浮かべる。  
「櫻さん」  
「はい」  
 聖は櫻さんの秘部に自分の男根をあてがう。  
 ゆっくりとそれを差し込むと、櫻さんの顔が徐々に歪み始める。  
「い・・・っっっ」  
「あ、櫻さん!」  
「止めないでください・・・わたくしは大丈夫です」  
 櫻さんの瞳から大粒の涙が零れ落ちる。  
 二人は口付けを交わすと、お互いの顔を見て微笑む。  
「んっ・・・あぁ・・・っぅ」  
「はっ・・・ん・・・櫻さん・・・全部入りましたよ」  
「あぁ。聖さま・・・愛しております」  
 聖が腰をゆっくりと動かし始める。  
「はぁっ・・・聖さま・・・いた・・・い」  
「すみません。けど・・・櫻さんの中が気持ちよくて」  
「聖さま・・・かまいません・・・お好きなように」  
 櫻さんは横を向いて聖にされるがままになっている。  
 シーツを握りしめ、唇を噛みしめ、痛みを一生懸命に耐えている。  
「あ、は、あ、櫻さん、櫻さん」  
 聖はさらに腰を激しく動かす。  
 俺は・・・この身勝手な男が許せなかった。自分を懸命に待ってくれていた一途な女性だと言うのに。  
「・・・は・・・ひじ・・・聖・・・さま」  
 櫻さんの体から力が抜け、目も虚ろになってくる。  
 聖も櫻さんを好きなのはわかる。その気持ちは俺の中に入ってくるから。  
 けど・・・彼女を思いやるその気持ち・・・それが無いのは俺にはどうしても許せない。  
「んっんっ・・・櫻さん、気持ちがいいよ・・・はぁは!?」  
 急に体が重くなる。  
 いや・・・この感覚は。  
「櫻・・・さん?」  
 俺の目の前には櫻さんがいる。いや・・・それは先ほどから変わらないはずなのだが・・・  
 けど、この感じ・・・直に櫻さんに触れている感覚。ひょっとして。  
 俺は腰を動きを止めて、櫻さんの胸に手を当てる。  
 
「はぁっ・・・んっ」  
 小さいけど柔らかい胸が俺の手によって形を変える。  
 聖が消えたのか。俺が拒絶したからかな。  
「櫻さん」  
 俺は彼女の傷みがひくまで、ゆっくりと胸を愛撫する。  
「聖・・・さま?」  
「痛かっただろ。大丈夫か?」  
 櫻さんが俺の顔を見る。  
「・・・忠さま」  
「ごめん。聖・・・消えたみたいだ・・・」  
「・・・そう・・・ですか」  
 俺は悲しそうにうつむく彼女の顔を持ち上げ、口付ける。  
「んっ・・忠さま」  
「櫻さん」  
 軽く勃起した乳首を口に含んで舌で転がすように愛撫する。  
「ひゃぅっ・・・はぁ・・・忠さま・・・あ。あ」  
「気持ちよくしてあげるよ」  
 繋がったまま、胸と陰核を愛撫する。  
 先ほどよりもずっと濡れてきた、これくらいなら少しは痛みも和らぐだろう。  
「動くよ」  
「あ・・・はい」  
 辛そうな顔を見せる彼女に俺は微笑みを返す。  
「優しくするよ」  
 俺は動く範囲を極力少なくして、ゆっくりと腰を動かす。  
「んっ・・・んっっ・・・ぁっ・・・さきほどと・・・違う・・・あ・・・・あぁ・・・」  
 段々と櫻さんの口から熱い吐息が漏れ始める。  
「忠さま」  
「どう?」  
「・・・わかりません・・・なんだか・・・体が熱くて・・・あぁぁ」  
「気持ちがいい?」  
 俺がそう聞くと、彼女は首を縦に動かす。  
 彼女が痛みを感じていないのを確認して、俺は腰の動きを大きくする。  
「はっ・・・あ・・・あ・・・あぁ・・・なにか・・・きます」  
「俺ももう・・・櫻さん」  
「忠さま」  
 お互いに抱きしめ合い、口付ける。  
 同時に彼女の膣が俺の男根を締め付け、俺は精液を彼女の中に吐き出した。  
 
「忠さま」  
 ぼんやりとする頭の中で俺は彼女の声を聞いた。  
「今宵はありがとうございました」  
 彼女は両手で俺の手を握る。  
「聖さまと忠さま・・・わたくしは・・・忠さまを・・・」  
 唇に温かいものが触れる。  
「もう・・・いきます・・・さようなら・・・また・・・会いましょう」  
 
 俺の頭がはっきりとした時にはもう櫻さんの姿は無かった。  
 時間は・・・まだ3時前か。どうりで暗いわけだ。  
 彼女は本当に幽霊だったのだろうか。  
 櫻さんと聖。  
 夢か現か・・・ま、なんでもいいや・・・最後の櫻さんの顔が・・・とても幸せそうだったから。  
 俺はそんなことを考えながら眠りについた。  
 
「・・・時です・・・お目覚めの時間です」  
 体を誰かに揺さぶられ俺は目を覚ます。  
 ん?  
 まさか!櫻さん!?  
 俺は布団を跳ね除けて起き上がる。  
「おはようございます。今日からよろしくおねがいします」  
 ベッドの横に立ち、俺を見下ろしている女性。  
 不思議な感じのする茶色の瞳と、抑揚の無い声。  
「・・・って。キミ・・・誰?」  
 

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