かつてこの世界に堕ちてきた青年がいた。
彼は様々な紆余曲折を経て拾い主の少女と絆を結び、幸せな日々を送っていた。
――その時が来るまでは。
イヌの国に存在する暗部を知ってしまった彼は、ヒトにしては高いポテンシャルを買われ
人体実験の検体としてその身を改造されることとなった。
やがて実験の結果、彼は暴走し、施設を破壊し逃走。
ネコの科学者に命を救われた彼は、彼を造り変えた組織と闘うことを決意する。
ブラックドック
「全滅!? 15体の黒殻犬兵が3分と経たずにか!?」
「今の俺は……化け物同然ってことか」
「《猟犬》の出動を許可する。いかなる手段を用いてもヤツを消去せよ」
「君の身体はまだ未完成だ。力の乱用は死期を早めるだけだと覚えておき給え」
「――――変身ッ!」
「ヒト怪人……貴様は……それだけの力を持ちながら……ネコ風情の味方を……!」
脚を全て叩き折られたクモ怪人が、自らの血に塗れながらも吐き出した呪詛と毒液を、
『彼』はその肥大化した右腕で易々と払い捨てた。
――ボディスーツのような黒の装甲に巻き付く神経のような赤のライン。
長剣にも匹敵する鉤爪を備えた巨大な右腕。感情を感じさせない無機質なフォルム。
一言で言ってしまえば――異形そのものだった。
「勘違いするな」
体内の魔法炉が稼働率を上げ、血中の魔法的マイクロマシン群に指示が下される。
「俺は」
脚部甲殻が赤熱。背部甲殻が展開、収納されていた装甲が迫り出し翼となる。
「ネコもイヌも、言ってしまえばこの世界の平和なんかどうでもいい」
黒い異形が飛翔し、足場もなしに反転。
「俺はただ――」
その瞬間、破城槌をも凌駕する一撃がクモ怪人を貫いた。
衝撃と高熱に耐えかねたクモ怪人の魔法炉が爆散、煉獄に匹敵する火炎が周囲を覆い尽くす。
ならば――その火炎地獄に悠然と立つその存在は、果たして何者か。
――奪い返してやるだけだ。
頭部装甲の内側で呟かれたその言葉を耳にした者は、彼以外には存在しなかった。
仮面ライダーマダラ――Coming Soon.