「ご主人さま ただいま戻りました」
半時ほど前から両肩に食い込んでいた収穫かごを下ろして僕は挨拶をする。
ご主人様はこっちをチラッと見てからあくびをしているだけだ。
重たかったのになぁ…
「ネコの方はスクラップ相場が落ちまくりだから…」
ご主人様はかったるそうに立ち上がるとボリボリケツを掻きながら新聞の相場欄を眺めている。
「これはどっちに売るんですか?」
う〜ん…
僕が担いできた籠の中身、それはこっちで落ちものと言われるヒトの世界から来たものばかりだ。
壊れて電源が入らなくなったリンゴマークのノートパソコン。
完全に壊れている原チャリのフレーム。
原形を留めていない何かの工作機械だったと思われる残骸。
ネコの国や犬の国、あとは蛇の国辺りから来ている組織的な回収業者が残していった…ほぼゴミ。
しかし、捨てる神有れば拾う神ありと言うのはこっちの世界でも当てはまるらしい。
僕はこっちの世界に落ちてきてからご主人様に拾われてこんな事ばかりしている…
「やっぱり犬の国の先物取引でにぎわってる中央市場だな、ここなら…」
そこまで言うとご主人様は僕を見た。
「あそこまで行くんですか?」
僕は恨めしそうに見返すしか出来なかった。
ピンと立った耳、しかし、髪はブチでぼさぼさ、決してスタイルが良いわけではない体。
やや歯並びの悪い口にバランスと配置の悪い顔の造作。
ネコ族と同じ系統に当たると自称しているが、僕のご主人様は…ハイエナ…
僕の第一印象はそれだった。
そして、生活の糧もハイエナだ、ネコやイヌの業者が残していったゴミを選り分けて各地の市場に持ち込んでいる。
「疲れてるところ悪いけど、さくっと行ってきておくれ、今は相場が良いはずだ」
自慢じゃないがウチのご主人様は相場の駆け引きが上手いほうだと思う、そして…
「あぁ、その前に少しでも軽くしてあげるよ…」
ご主人様、お願いです、舌なめずりしてこっち見ないでください、未だにちょっと怖いです。
最初はずいぶん引いたんですけどね…、って言うか、いきなり押し倒された時はドン引きだったんですがね。
「溜まってると…辛いでしょ?」
ご主人様…
僕の腰が立たなくなるまでするのは勘弁してくださいね。
明日の市場に持ち込んで売らないとダメなんですから。