二番と書かれた札の下では、身体測定が行われていた。身長計、体重計など、学校にあ  
ったものとたいして変わらなく見えた。  
 しかし学校の身体検査では体操着姿で受けたというのに、今日の菜月の体にはパンツ一  
枚しか残されていない。  
(なんか人、増えてる……)  
 病院にやってくる患者が増え、その中にはあからさまに少女たちの検査を見物している者  
まで現れていた。彼らは少女たちの容姿や体型について、あれこれ話の種にしているようだ。  
 身長を計るときには、気をつけの姿勢をとるように注意されている。身長計の上に乗って  
からもできる限り体を隠そうとする少女も多いが、手を下ろして体の横にあてない限り看護  
師は数値を読み上げない。  
 それではいつまでたっても身長計の上から降りられないため、最後はあきらめて生徒たち  
はみな胸から手を離していくのである。  
 列に並んでいるうちにそういうことはわかるので、菜月も覚悟を決めて身長計の柱に背を  
あわせて直立した。看護師にいわれるまでもなく手は太ももあたりまで伸ばしている。当然  
胸のふくらみを隠すものはなくなるが、恥ずかしくても素直に指示に従うのが一番マシな選  
択なのだ。  
(見ないでよ……)  
 数メートル離れたところでは、一般の患者たちが行き来している。パンツも胸も丸出しに並  
べられている少女たちは、彼らにとっていい見世物となっていることだろう。  
「――センチ!」  
 看護師は必要以上に大きな声で数値を読み上げていく。他の女子生徒どころか、関係の  
ない患者たちにまで聞こえる大きさだ。  
 他の計測値であっても同様だった。体重であっても、その数字もまた、周囲の者に公開さ  
れる。  
 看護師の態度に女子生徒たちも顔をゆがめるが、どうにもならない。  
(あと胸囲と……? あ、それだけじゃない!)  
 せいぜいスリーサイズを測っておしまいだろうと思っていた菜月は、予想外の光景に気づ  
いた。  
 スリーサイズどころか、腕や脚の長さの他、考えられるありとあらゆる場所にメジャーがあ  
てられている。胸囲であれば、胸囲が最大となるトップバストだけでなく、ふくらみの下端であ  
るアンダーバストも測られている。  
 このとき、胸の大きさや形によっては、乳房が邪魔でうまくその位置を測ることのできない  
女子生徒もいて、そういった少女は、測定者に乳房を持ち上げられてその下にメジャーをま  
わされていた。  
 しかも自分自身で補助をすることは許されず、あくまで測定者たちの手に体をゆだねなくて  
はいけない。  
 女子生徒たちは、両手を水平に伸ばして足を肩幅に開いた大の字の姿勢で、測定が終わ  
るまでじっと動かず耐えなければいけないのだ。  
 
 菜月が特にいやだったのは、やはり胸囲と股下の長さを測るときであった。  
 ついていないことに、菜月の体を測定したのは看護師ではなく、白衣を着た若い男性だっ  
た。彼らは交代しつつ、検査を受け持っていた。  
 その男性は、あくまで無機質に機械的に少女たちに接しているとはいいがたいようだった。  
 胸囲を測るとき菜月の体にまわす彼の手は、不必要に皮膚の上を滑っていくように思えた  
し、本当にメジャーの位置を直すためなのか、乳頭の辺りで手が動いた気もした。  
(やだ……今の、わざとじゃ……?)  
 だが菜月に確信があるわけではなく、とても文句をいうことはできない。迷っているうちに  
他の数字と同じように大声で数値を読み上げられる。終わってしまってから蒸し返すように  
なにかいうことなどなおさらできない。  
 下手に目立つ行動をしてしまっては、医者たちにとって、女子生徒の一人でなくなってしま  
う。  
 
 少しの我慢だと自分にいい聞かせた。  
 足の長さを測られるのはさらに苦痛だった。  
 股からではなく、足の先からメジャーを伸ばすので、数値を見るために、測定者は菜月の  
股間に顔を近づけて確認してきたのである。  
(そんな近くに――。あ、いや、触らないで)  
 しかも彼は手を菜月の性器に押し当ててきた。両者を隔てているのは薄い布一枚でしか  
ない。  
 ぴったりと当てられた男性の手から体温が伝わってくる。こころなしか、微妙に動いている  
気さえする。  
 心臓の鼓動が速くなり、体が熱くなっていく。  
(やっぱりわざと……でも、勘違いだったら……)  
 菜月はなにもいえないでいると、彼の手も股間に押し当てられたままだった。  
 菜月の下着は今や湿って皮膚に密着してきているように思えた。まず大丈夫なはずだが、  
その心配は急速に大きくなっていく。  
(やだ……透けてるんじゃ……)  
 大の字のまま、同じ姿勢を保つようにきつくいわれているため、首を曲げて確かめることが  
できない。  
 菜月の動揺をよそに測定者は手を離した。もう片方の足を計るつもりらしい。  
 しかし彼の手が離れたことで、かえって見られたくない場所があらわになったようにも思え  
る。  
(いや……見ないで、見ないで)  
 菜月には測定がひどく長く感じられた。  
 他の女子生徒にとっても同じだったかもしれないが。  
 測定が終わってあわてて確認したその場所は、例えば陰毛などは、やはり、その黒いもの  
が透けて見えていたような気がした。  
 
 菜月はその後、指示されるとおりに検査を受けていった。ほぼ同じ検査を少し前に学校で  
受けているものもあったため、あまり迷いはない。  
 これらの検査も、当然パンツ一枚の姿で受けなければいけない。心電図や聴診など、服を  
脱がなくてはいけない検査では都合がいいのはわかるが、視力検査や聴力検査では、やは  
り違和感を覚えた。  
 次の検査はホールの壁際の場所だった。そこで行われる検査は骨格のゆがみを調べるも  
のだという。  
(え……これって……)  
 それはこの特異な検査会場であっても菜月を驚かせるには充分な光景だった。  
 少女たちは格子状の模様が書かれた壁に向かって立ち、光に照らされた裸の背中を透明  
な板をはさんでカメラで写真に撮られている。  
 よく見ると、裸なのは背中だけではない。  
 少女たちは、パンツをひざまで下げられて、しりまでむき出しにされていた。  
 両手は体の横に下げなければいけないので、体の正面を隠すこともできない。  
(そんな……)  
 最後に残ったたったひとつの衣服だけは、脱がなくてもいいと思っていた。  
 壁に面している場所とはいえ、一般患者たちの通る通路も近い。  
 まさか、こんな人目のあるところで。  
 少し横を通ってしまえば、少女たちの裸体を、前から見ることができてしまうというのに。  
 だが事実として今まさに下着を脱ぐように命令されている女子生徒がいる。  
 彼女は躊躇しつつも、おしりを半分見える程度にまでパンツを下げていた。  
「それじゃできないでしょ! もっとちゃんと下げなさい!」  
 不意に看護師の怒鳴り声が響いた。  
 彼女のやり方では検査ができないと、生徒をしかったものらしい。  
 
 その女子生徒は涙ぐんでいた。  
「でも……このくらい下げればいいはずです……」  
 彼女はこの検査について経験でもあるのか、気丈にも反論する。  
 ところが看護師はまるで聞く耳を持たないようだった。  
「ここではちゃんと脱ぎなさいっていってるでしょ! 正確に検査しないといけないんだから!  
 わからないの!? ちょっとっ」  
 なにごとかを決めたらしい看護師が少女に近づく。  
 看護師はひとりだけではなく、他にも若い医者たちも集まってきた。  
「ほら、やり方がわかんないなら、脱いじゃいなさい! これでいいでしょ!」  
「いや、やめて、やめて」  
 集まった看護師たちは、抵抗する少女の手を取り足をつかみ、下着を強引に脱がせてし  
まう。腕力も人数も違ってまるで力比べにもならず、少女はほとんど抵抗できないまま裸に  
されてしまった。  
「な、なにするの、やめ」  
 看護師たちの処置の早さから動転してしまったのか、少女の悲鳴は大きな声とならない。  
ただ自分の状態にショックは受けていて、その瞳にはみるみる涙があふれていく。  
 少女が泣き出すのもお構い無しに、看護師たちは少女の両手を引っ張って、隠すものの  
なくなった体を他の少女たちの正面に見せた。  
 少女の両手はそれぞれ別に人間が握っていて、彼女は晒し者にされている。  
「……いや、こんなの、いやぁ」  
 同性がほとんどとはいえ、大人数に裸を見られている恥ずかしさからか、少女は力なくうめ  
くのみだった。  
 看護師はそれでも容赦しない。  
「あんたがわがままいうせいで、いつまでたっても検査が終わらないのよ! わかってるの!?  
 みんなにだって迷惑でしょ! 謝りなさいっ」  
 看護師の少女の手を握る力は強く、彼女はかなりの痛みを感じているように見える。  
「謝れっていってるの!」  
 とっくに抵抗する気など残っていない少女は、誰に向かってというわけでもなく言葉を吐き  
出した。  
「……ごめんなさい、ごめんなさい――」  
 女子生徒たちが呆然と見守る中、全裸にされた少女は泣きながら謝罪を繰り返す。  
 それから看護師たちは泣き続ける少女を検査台のところに引っ立てた。  
「ちゃんと立つ! 震えてないでまっすぐ立ちなさい!」  
 しゃくりあげるしぐさはまったくおさまっていないが、少女はよろよろとカメラの前に進んだ。  
 少女は完全に逆らう気力をなくしている。  
 看護師のいわれるまま動いていた。  
 シャッターが切れる。  
「はい、いいわ。次の人! あなたじゃないの? 早く来なさいっ」  
 撮影が終わったとたん、もう用はないといわんばかりに、看護師はその少女を追っ払った。  
彼女は突き飛ばされるように検査台から降ろされてしまう。  
 列の先頭にいた女子生徒は、看護師にいわれて飛び上がるほどあわててカメラの前に立  
った。恥ずかしがっていたらどんな目にあうのかは、眼の前で見せつけられた。  
「はい、おしり出して! ひざまで下ろしなさい!」  
 少しのためらいさえ許されず、看護師の剣幕に負けてその生徒は自らの手で白い肉をさら  
け出す。彼女の撮影はすぐに終わるようだ。  
 撮影の合間になって、看護師の手が空くころ、  
「……あ、あの、返して、わたしの、返してください……」  
 ようやく涙を止めた悲運な少女が、おずおずと看護師に訴えた。  
 彼女の下着は、先ほど無理やり取り上げられたままだった。  
 奪い取った看護師がそのまま手に持っている。  
 
 裸のままでほうっておかれていたその少女に対し、看護師は「まだいたの?」と、邪険にあ  
しらった。  
 そして、彼女に非情の決定を下す。  
「あなたみたいに、いちいち脱いだり着たりで騒ぐ子がいたらやってられないでしょ。あとの  
検査はその格好で受けなさい」  
「えっ……」  
 なにをいったのか理解できなかったのか、一瞬あっけにとられていたが、すぐに彼女は顔  
色を変えた。  
 小さな布一枚とはいえ、この違いはとても大きい。なんといっても、少女の、誰にも見られ  
たくない場所を守る、最後の砦なのだ。  
 この検査のように、一時的に脱がなくてはいけないものがあるにしても、終わればすぐに  
着用できるのとそうでないのではまるで違う。  
 検査の待ち時間、各コーナーの移動。そういったとき、ひとりだけ素っ裸でいなくてはいけ  
ないなんて、多感な年頃の娘には、とてつもない屈辱だろう。女子生徒の中でもひときわ注  
目を浴びることになるのは間違いない。  
「そんな、お願いです、返して」  
「いい加減にしなさいっ」  
 少女のせつな願いは看護師に一蹴された。  
「あなたがぐずぐずしていたのがいけないんでしょう!? いつまで迷惑かける気! それと  
も、なに、あんたみたいな子がまた出てこないように――」  
 看護師は周りの女子生徒を見て、続ける。  
 自分の思いつきをたたえるようにうたいあげた。  
「残りの検査はみんな、裸になって受けてもらうしかないのかしら」  
 突然降りかかった提案に、女子生徒たちはみな目をむいて看護師を見た。それから、問  
題の少女を。  
 多くの生徒は、彼女に少なからず同情していたが、それもここまでだった。彼女がさらに話  
をこじらせて、自分たちまで同じ目にはあいたくない。  
「あ……」  
 今まで仲間意識のようなものを持っていた、他の少女たちからの無言の圧力に気づいた  
ようだった。こうなるとこの少女も引き下がるしかないだろう。  
 もう少女に味方はいない。  
 自分のせいでこんなことになったと、女子生徒全員から恨まれるのはなによりも恐ろしい  
はずだ。  
「わかったのなら、さっさと次の検査のところに行きなさい」  
 彼女はいわれたとおりにした。  
 胸だけでなく股間を必死に隠して、体を小さくさせて歩いていく。  
 もはや医師たちの指示に従わない生徒はまったくいなかった。  
 自分の番が来るとすぐさま医者の前に出て、指示されるより早くパンツを下ろしていく。目  
をつけられないように、検査がひたすら短時間に終わることだけを願っているのだ。  
 もちろん、菜月も例外ではない。  
 カメラに背中を向けて立ち、パンツをひざまで下ろそうと――したとき、気づいてしまった。  
(あんなところに人が……)  
 斜め前に人だかりがあった。  
 これまでに行われている中で、もっとも露出が大きくなる(というより事実上全裸になる)この  
検査のことを知った一部の一般患者が、少女の裸体がよく見える場所に集まっているのだ。  
 それでも菜月はためらうわけにはいかなかった。  
 ここで脱ぐことができなければ、残りの検査を素っ裸で受けることになってしまう。  
 菜月は股間の前を手で隠しながら、もう片方の手でパンツを押し下げた。  
 何呼吸かそのまま固まったあと、股間を隠していた手を離して、指定の格好を取る。しばら  
くして、後方からシャッターの切れる音がした。  
 

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