「精密発育検査・杉原菜月の場合」 11  
 
 
「ん――っ」  
 ブリブリ――ッとけたたましい破裂音をあたりに響かせながら、細かい破片上の便が浣腸  
液とともに噴射されていく。  
 通常ではありえない圧力を受けながら、出口を閉じられていた菜月の便は、解放のときを  
向かえて少女の小さな肛門からいっせいに飛び出したのだった。  
(……で、出てる……っ)  
 のぞき見たトレーの中は、当然のことだが茶色の汚物でいっぱいだった。  
 排便のあと、入れ替わるように今度はおしっこが噴き出した。すでにすませていたため、  
たいした量ではないが、ちょろちょろと尿瓶に吸い込まれていく。  
 便意の第一波が去っても、菜月の腹の中にはまだまだ液体が残っているようだ。それら  
はすぐさま菜月に新たな腹痛をもたらす。  
 もはや、菜月の意思では止められなかった。  
「うーっ」  
 ビッ、ビチャビチャッ、となおも細かい便が排出され続ける。どちらかというと下痢に近い  
状態の便だが、それは浣腸の液体のせいだろう。  
(まだ出る……)  
 ジャァーッと菜月の肛門から液体が流れ落ちた。本来の便はもともと少なかったのか、  
あらかたかき出されたらしい。  
(止まらないよ)  
 これで全部出たと思っても、次の瞬間にはさらなる排泄欲求が押し寄せる。便がまだ残  
っているのか、それとも薬が残っているせいなのかはわからないが、便意がいつまでも続  
くのだ。  
 菜月はせめて排便の勢いだけでもコントロールしようと肛門に力を込めるが、その都度、  
水道の蛇口をひねるように、一定量が、ジャッ、ジャッと漏れ出た。  
(わ、わたし……)  
 菜月を襲っていた、身動きの取れないほどの便意はかなり小さくなった。  
 しかし最大の苦痛から解放された結果、少女の羞恥心が反比例してよみがえる。  
(……いやぁっ)  
 菜月は顔の熱さを自覚した。耳の先に至るまで、自分の体とは思えないくらい熱い。火の  
出るよう、とはこのことだ。  
(こんなにたくさんの人の前で、な、なんでこんな目に……っ)  
 菜月は今、素っ裸で排便する姿を、若い男性たちも含めた多くの人たちに一部始終見ら  
れてしまったのだ。  
 あらためて自分の状況を理解し、菜月は極限の恥辱をかみしめて、瞳に涙があふれた。  
(やだやだ、見ないで、見ないでよぉ)  
 少女の心中など、いわれるまでもなく想像がつくだろうが、眼をそらす者はいない。  
 この瞬間を心待ちにしていた者さえいただろう。  
 菜月は今すぐこの場から逃げ去りたかったが、それは不可能だった。周囲の者たちの許  
可が出るまで、人生最悪の状態のまま、晒し者になっていなければならないのだ。  
(……最低っ)  
 菜月はもう見たくもなかったが、便器となったトレーには、彼女自身の便と浣腸液が水た  
まりを作っていた。トレーは特に工夫もなされていないただの入れ物でしかないから、すぐ  
さま、その便からは特有の悪臭が広がってきている。  
 菜月の排出した汚物は、少女を辱めるのに充分な臭いを放っていた。  
 便の量自体はたいして多いわけではないので、本人ならたいして問題とせず我慢できる  
ものであろうが、他人はそうはいかないだろう。  
 
 まず気分を悪くするだろうし、ひょっとしたら吐き気さえもよおさせるものかもしれない。  
 その、普段であれば決して人に知られることのないこの異臭は、今、一〇数人の男女の  
至近を漂い、彼らの顔をしかめさせていたのだった。彼らも、これが最初の経験ではないと  
はいえ、他人の便が放つ悪臭にはどうにも慣れないようだ。  
 菜月の腸内は空になったかに思えたが、少女の腸は本人の意図しないところで動き、さら  
にガスを噴出させた。  
 いまさらとめられないそのおならは、ブゥ――ッ、とわかりやすい音を立てた。  
(――っ! もういやっ)  
 以前のおならよりはるかに音が大きい。  
 これだけ大きな音なら、マイクは楽に拾えるだろう。菜月の排便は、浣腸の始めから排便、  
盛大なおならに至るまでなにもかもビデオに記録されてしまったのだ。  
「ひっ、ひっ」  
 菜月はしゃくりあげていた。涙がぼろぼろとこぼれて、シーツに染みを作った。  
 何度もその瞬間を想像して、覚悟を決めていたはずだったが、実際の衝撃にはまるで及  
ばなかった。  
(こんなことになるんだったらっ)  
 今日、こんな病院に来るのではなかった。後悔してもいまさら遅いが、そう思わずにはい  
られない。  
「だいたい、出た感じね」  
 看護師はまず尿瓶を横に避けた。少女が泣き出すのは想像の範囲内だったのだろう、  
まるで気にとめてない。  
 それどころか、  
「ぴいぴい泣いてんじゃないの、このくらいのことで」  
 菜月を責めるようにさえいう。  
「どうなの? 出終わったの? まだうんち残っているの?」  
 看護師の口調は強く、プライドをズタズタに傷つけられた裸の少女を服従させるには充分  
な力を持っていた。  
 問いに答えなければ、菜月は彼女に怒鳴りつけられると思った。  
「…………で、出ました、ひっ、ぜ、全部」  
 便意が完全に消え去ったわけではなく、いまだにおなかを力ませている菜月だったが、  
そろそろ、出るものはなくなったようだ。  
 それを確認して看護師は、菜月の下に置いたトレーを引っ張り出した。まだ排便が続い  
たときにそなえ、念のためか、代わりに新しいトレーを置く。  
 看護師が引っ張り出した最初のトレーには、汚物がいっぱいに入っていて、いかにも臭そ  
うであった。看護師は、それをそのまま慎重に、ベッドの傍らにあった別の台へと移動させる。  
 薬液と混ざった菜月の便は異様な姿で、とても少女に似つかわしいものではない。  
 しかしその持ち主は、肛門に異臭を残し、ベッドの上でなお全裸のまましゃがんで体を震  
わせているのだから、自身の汚物から逃れようがなかった。  
 菜月の真横で、白衣の集団がその物体を囲み、ガラス棒で突っつきまわす。女子生徒た  
ちのの排泄物は、この場で一度調べることになっているらしい。  
(そんなにじろじろ見ないで……)  
 彼らは口には出さないものの、トレーの便とその臭いを、非常に汚がっていることは表情  
でわかる。  
 その態度は、トレーの排泄物などより、菜月の心をバラバラにするようだった。  
 
 汚物の簡単な調査が終わると、彼らはふたたび菜月を囲んだ。菜月の産み落とした異臭  
は、まだ強く残っている。  
「さてと。いいかな?」  
 
 医者たちはあくまで非情だった。  
 菜月の涙は残っていたが、気にすることなく次の検査に移る気なのだ。  
「もう一回、浣腸しようね」  
(いやぁ……!)  
 またあの苦しみを味わうことになる。しかももう一回だけで終わるはずがない。前の少女  
はいったい何回浣腸を繰り返されただろう。  
「や、やだ」  
「いまさらなにいってんの。あきらめなさい」  
 具体的な苦痛を思い知って、浣腸をいやがる菜月に、看護師は手馴れたものだった。  
「あそこの椅子に縛りつけられたいの? あっちの検査はここの倍は浣腸するわよ?」  
「…………っ!」  
「ほら、いい子だから、いうとおりにして」  
 端的な脅迫だったが、充分だった。彼女の指差す『椅子』とは目立つ場所においてある  
診察台のことだ。  
 まさか浣腸液の量が倍になるというわけではないだろうが、回数くらいなら本当に倍にさ  
れる可能性はある。縛りつけられた上に、他の女子生徒の誰よりも長く浣腸を受け続ける  
自分を想像して、菜月は怯えた。  
(いうとおりにするしかない――)  
 一瞬だけ起きかけた、ささやかな反抗は消え失せた。  
 少女が今度こそ完全に屈服したのを察して、看護師は強い口調に変わる。  
「仰向けに寝なさい」  
 菜月は目元をぬぐった。  
 ずっとしゃがんだままだったためか、しびれる足を引きずって、菜月はいわれたとおりに  
した。普通に寝転ぶだけのことだが、肛門に残った汚れがシーツに付くのではと気になる。  
「――足を曲げて開きなさい。女の子の大事なところがよく見えるようにね」  
 看護師は逆らわなくなった菜月をいたぶるように、次の指示を与えた。これまでと違い、  
すべて菜月が自分で動くのに任せている。  
 少女が日頃は誰にも見られないようにしているその場所を、嫌々ながら自らさらして行く  
様は、男たちにとってこれまでにない見世物だった。ぎこちない一挙一動が、少女の心情を  
物語っている。  
「辛いだろうけど、もう少しだけ、我慢してね」  
 別の看護師だろうか、菜月を慰めるような声がした。  
 異性の前で性器を丸出しにしている少女に、看護師たちがときおり優しい言葉をかける  
こともあるのだ。だが、そのような言葉は、女子生徒たちにあらためて自分が異常な状況  
に置かれていることを確認させるものでしかならなかった。  
 看護師もわかっていっているのかもしれない。  
「そうね、自分で足を抱えてくれる? 太ももを持ってね」  
 そのなのだ。  
 いつだって、優しい言葉のすぐ後に続くのは、より屈辱的な指示だったのだ。  
 看護師は、あの赤ん坊がオムツを替えられるときの足を浮かせた姿を、今度は自分自身  
の手で再現するようにいった。  
(ひどい……)  
 菜月はとうとう、自分から股間を見せつけるように仕向けられてしまった。  
 これではベッドの上のストリップショーだ。いや、そんなショーだってここまでひどい格好と  
はならないだろう。  
(……やればいいんでしょ)  
 せめてもの向こう気で心を支えて、菜月はそのポーズをとった。これで少女の両足は充分  
に開かれて、陰部は完全に露出された。  
 
 親からも隠されるようになってから、決して異性の目に触れることのなかったその場所は、  
今日だけでいったいどれだけの男の視線を浴びただろう。彼らの好奇心に満ちたその視線  
は、この期に及んでも衰えることがなかった。  
 全裸の少女を全身くまなく眺めてきた男性たちであったが、羞恥心を捨て去ることなくほほ  
を赤く染める菜月の姿はなお魅力的だった。  
 ひときわ無神経な男が思わず「おおっ」などと口を滑らせた。  
(やっぱり恥ずかしい――)  
 ここで、カメラの位置がより適切な位置に直される。一台は完全に菜月の下半身を正面  
からとらえる。  
「よくできました。かわいいおへそからおしりの穴まで、とてもよく見えてるわ。あ、おしりの  
穴に、少しうんちが残っちゃってるね」  
 少女の秘部を観察するその声は、できるだけ抑えて、菜月だけに聞こえるようにしている  
ものだった。  
(うう……)  
 排便の直後なのだから汚れていようと仕方ないことなのに、それをわざわざ指摘して、  
看護師はおもしろがっているのだろうか。  
「じゃあ、おなかの中をきれいにしましょうね」  
 看護師は今度も、浣腸器を菜月に示しながらいった。二回目の浣腸は、先ほどのもの  
より少ないように見えた。  
 看護師が菜月の肛門をぬぐう。  
「一度きれいにしなくっちゃあねー」  
 一部の看護師たちは、言葉遣いが幼い子供に対してするような口調になっていた。それ  
だけでなく、その言葉の中は、女子生徒たちに対する暗い優越で満ちているのだ。  
 女子生徒たちもまた、はっきりと確信に至らなくても、彼女たちの情動を本能的に嗅ぎ取  
り、不安を抱いていた。  
「今度のはちょっと違うお薬を入れるから、前よりおなかが痛くなるかもしれないけど、がん  
ばってね」  
 菜月はその言葉どおりきっと前より痛くなるのだと思った。  
「はい。おしりにぶすっとしますからね」  
 ベテランらしい看護師は、ごくスムーズに、しかし手荒に浣腸器を菜月の肛門に差し込ん  
だ。彼女が力を込めて浣腸器を操作するのが、菜月の腸にそのまま伝わる。  
 体に入ってくるのは、どくどくとした、粘り気のある液体のように思えた。その液体は冷たく  
もあり熱くもあった。両方に感じられた。  
 ……浣腸液の注入は短かった。  
 見間違いではなく、今度の浣腸器に入れられた薬液は最初のものより少量だったのだ  
ろう。一度中身を出してしまっていたこともあるのだろうか、菜月のおなかは、比較すると  
ずいぶん短い時間で浣腸液を受け入れたようだ。  
 この分なら、薬が別のものであるとはいえ、一度目よりも長く耐えられるかもしれない。  
ビデオの件に気をつけるのなら、一度目より長く我慢することには意味がないはずだか  
ら、ギリギリまで苦しむことはないかもしれない。  
「すぐに効いてくるわ」  
 わずかな望みを抱いた菜月の耳に、どこか苛虐的な響きを持った声が聞こえた。  
「すぐに、ね」  
 期待はすぐに打ち砕かれることになるのだと、菜月は理解した。  
 
 
 
(続く)  
 

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