「精密発育検査・杉原菜月の場合」 13
菜月の両手はほぼベッドの上端にある。小さな少女の体が、ベッドの上に手足をいっぱい
に広げる形になった。
その伸びきった腕を何人かの手がつかむ。
(なにをするの……)
頭の上で起こっているので、首を曲げないことにはよく見えない。あらわになったわきの下
なども気になったが、余計なことをして叱られたくなかったので、菜月はじっとしていることに
した。
どうも太い帯のようなものを手首に巻きつけているようだった。
(やだ、まさか)
同じ検査を繰り返してきたからだろう、彼らの手際はよかった。菜月の不安は発生からほ
とんど間もなく現実のものになっていく。
菜月に取り付けられていたのは手首用の抑制帯であった。
患者が暴れるのを防ぐために使用されるこの器具は、安全かつ確実に人を拘束すること
ができる。
通常であれば腕は体の横の位置ということになるのだろうが、この場では菜月はバンザイ
の形をとらされての手首を固定されていた。
手枷となっている本体は、あらかじめベッドのフレームに結び付けられている別のベルトと
つながっているので、装着者は腕を動かすことがまったくできなくなる。
もちろんこれを着用させられてしまうと、自分でははずすこともできない。
抑制帯全体は病院にありがちなベージュ色だったが、材質はまったくやわなものではなく、
ごわごわしていかにも丈夫そうである。内側はまだしもやわらかいものの、手首が抜けるよ
うなことはなさそうだ。当たり前だが、少女の腕力で太刀打ちできそうなものではない。
菜月は両腕の自由を奪われたことを理解した。
裸のままベッドに縛り付けられてしまったのである。
これで菜月はこの拘束が解かれるまで、自分ではなにもできなくなってしまったのだ。
(な、なんで。い、いわれたとおりにしてきたのに)
今までも指示に逆らった少女が診察台に体を固定されたことはあったようだが、いうとおり
にしていれば、こんな風に扱われることはないと思っていた。
しかし菜月は現に身動きが取れなくされてしまっている。
(こ、これから、な、なにをされるの)
無機質な抑制帯は、人の手でされるのとは違う、問答無用の圧迫感を伴っていた。
これまで以上につらい検査が待っているのではないか……
自身の心臓がどくどくと強く脈打つのを感じて、なおさら緊張が高まる。
看護師たちはてきぱきと各自の作業をこなしていて、とても説明を求めることができる雰
囲気ではない。
菜月は怯えていると、続いて胸と腕、足にいくつも小さな器具を取り付けられた。コードの
ついた吸盤のようなそれは、心電図の検査で使用したものに似ているような気もするが、
よくわからない。
それから今度は下半身の番だった。
菜月の足をそれぞれ別の看護師がつかんで左右に広げ、頭の側に倒す。意地悪な看護
師にされたのと同じポーズ、少女の股間を徹底的に露出させる、いわばV字開脚とでもいう
べき姿だった。
足に取り付けられた器具は、コードに余裕があるので外れることはない。
(う――っ)
恥ずかしい部分の惜しげもない大公開を、菜月はひたすらこらえた。
確かに異性の前の全裸開脚でさえ、いまさらのものといえなくもないが、いやなことは何度
だっていやなものだ。
やはりというか、少女の大事な部分がライトアップされる。
さらに菜月は肛門にまたも刺激を受けた。
大きな注射器状の浣腸器を誰かが抱えている。もうないと期待していたが、ここで受ける
処置も浣腸なのだとわかった。わかったところで、できることなどないと菜月も観念しているが。
先ほどの浣腸のときは、あれやこれやしゃべってくる看護師がいたが、今度はそういう人
間はいない。
ほんの直前まで受けてきたのと同じ感触を、菜月は肛門に感じた。
浣腸器の先端が肛門に挿し込まれたのだった。
(うっ、う、う)
注入された液体は少なく感じたが、それだけで楽観などできないことを菜月はもう身をも
って思い知っている。
(はぁ、はぁ……)
これだけで終わりとは思えなかった。わざわざ場所を変えている以上、前の検査にはな
かった、なにかがあるのだろう。
肛門に受けたのは今までにない感触だった。浣腸液に続いて、なにか、グニグニとした
ものを押し込まれたようだ。
(う?)
ある程度押し込まれたそれは、温かみを増しつつ、ゆっくりと体積を増す。戸惑いを覚え
ている間に、菜月の肛門に近い部分の腸内を満たすように力強くふくらむ。
(な、なに、これっ?)
膨張を終えたそれは、指などよりはるかに太く菜月の肛門をふさいだ。
どうやら菜月は肛門に分厚いゴム風船のようなもので栓をされてしまったらしい。確かな
ことはわからないため、なにか説明はないのかと医者たちの間へ視線をさまよわせる。
その視線に気づいた看護師が菜月にいった。
「あなたは我慢だけ、していればいいから」
(えぇ?)
それだけでは菜月の期待する答えにほど遠かったが、菜月の下半身に取り掛かってい
る医師たちは、黙って処置を続ける。
足の付け根を布がくすぐった。細長いガーゼのようなもので肛門からへその下あたりまで
が覆われたらしい。ガーゼは最小限の大きさしかないようで、穴と裂け目をかろうじて見え
なくしているだけだ。
少し腰を浮かされたと思ったら、その周りにもなにかが巻きつけられた。感触からすると、
ゴム製のひもである。ひもといっても平べったく、指程度の太さがあるので、細いベルトとい
ったほうがいいかもしれない。強度もかなりありそうだ。
看護師たちは菜月の腰に手を回して、そのゴムベルトを適当な位置に直す。
どうやらこのゴムは、間にガーゼを挟んで菜月の股間を丁字に締め上げる形にされたよ
うだった。
Tバック下着の前部分の布がなく、後ろ部分の形状のみで前後が構成されている格好で
ある。
もしくはふんどしが近いが、普通のふんどしよりずっと細いし、本来なら股間を覆う布があ
るところには、小さなガーゼが申し訳程度に置いてあるだけだ。そのガーゼはかろうじて少
女の亀裂を見えなくするくらいにしか役に立っていない。
ゴムふんどしも下手にきつく締められているものだから、性器に食い込む寸前で、ないほ
うがよほどましな状況であった。
(な、なんなんだろ)
菜月は今の出来事をほとんど見ることはできず触感で想像しただけだから、混乱は深ま
るばかりだった。
どうも菜月はおしりの穴に栓をされた挙句、その栓が抜けないよう細いふんどしをしりの
割れ目に食い込まされたといったところらしい。
陰部への作業が終わったらしく、浮かせられていた両足が下ろされる。
続いて今度は足首になにかが巻きつけられた。これは手首に着けられたのと同じ抑制
帯のようだ。
(じゃあ、足も……)
案の定というほどでもないが、足首に着けられたベルトの先は、手とは逆側のベッドのフ
レームに結び付けられていた。しかも両足は左右に開かれて伸ばされ、菜月はベッドの上
でXの字の形に縛り付けられることとなった。
伸びきった手足を四隅に固定されては、菜月は少しも身動きが取れない。動くのはせい
ぜい首から上か、多少腰を振ることができるくらいなものである。
看護師が菜月の手足を拘束するベルトがゆるんでいないかもう一度確認していたが、医
者たちの仕事は終わったようで、入ってきたときと同じようにぞろぞろとこの区画から出て
行く。
「あ、あの、このあとは……」
菜月にはいったいなにが起こっているのかわからない。最後まで残っていた看護師に、
ようやくそれだけ尋ねる。
「しばらくこのままでいてね。そういう検査だから」
結局なんの答えも得られないに等しかった。だが、これだけいうとその看護師まで立ち去
ってしまったから、質問の続きもできない。
菜月はベッドの上に拘束されたまま、一人残されてしまった。
浣腸を受けたといっても、おなかが空っぽだからなのか、薬液が少量だからなのか、いま
だ便意は起きていない。
どれほど寝ていればいいのだろうか。
菜月は股間に異物の感触を覚えたまま、天井を仰ぎ見た。
「おい、こっちはなかなかだぞ」
頭の上のほうからの声に、菜月は注意を向けた。
一人になってからそれほど時間はたっていない。
「うん、悪くないな」
そんなことを話しながら、菜月の寝ている区画に入ってきたのは、三人の男性たちであっ
た。
(だ、だれ)
菜月は瞬間的に警戒を顔に表せて彼らを見た。
白衣を着ているが、三人ともずいぶん若い。にやにやと気に障る笑みを浮かべている。
女子生徒たちは仕切られた区画で一人一人検査を受けているのだから、ここには菜月
以外にいないが、他の医師たちが去ってから間もないというのに、どんな用があるというの
だろう。
「…………」
「へぇ」
菜月が黙っていると、三人組は菜月を取り囲むようにベッドの周りに立って、じろじろと菜
月の体をながめ出した。
彼らの視線は完全に好奇のものであるように思われた。
手足をX字に磔にされた格好の菜月は、股間のゴムふんどしを除いてほとんど全裸と変
わらない姿だというのに、男たちから体を隠すこともできず、見られるがままである。
彼らは目線を菜月の顔から胸、腰へとなぞらせた。
「あ、あの、なんの用ですか……」
黙ったまま菜月の裸を見ている彼らに、菜月は小声でいった。今の状況では、これが精
一杯だった。
「ん? ああ、検査。検査だよ」
一人が答える。
「状態をちゃんと記録しておかないといけないから」
そういって、白衣のポケットからなにかを取り出す。
彼が両手で構えたそれは、デジタルカメラだった。
(う……)
菜月の反応もおかまいなしに、さっさとスイッチを入れてレンズを向ける。
確かに、これまでも検査ごとに写真は撮られてきたが――
「まっすぐ向いててくれる?」
いちおう菜月がいわれたとおりにすると、彼はパシャパシャと次々にシャッターを切り始
めた。ゴム製のふんどしによって奇抜な姿になっている菜月の股間も、特に断りを入れる
でもなく撮影の対象としている。
他の二人は突っ立っているだけである。
菜月の周囲を移動しながらたくさんの写真を撮ると、十分だと考えたのかカメラをポケット
に収めた。
「今、どんな感じ?」
撮影が終わるのを待っていたのか一人が、遠慮のない口調で腰をかがめて菜月に体を
近づける。
(……な、なんなの……?)
「おなか、ゴロゴロしてる?」
いいながら、菜月の腹をなで上げる。
「い、いえ、まだ別に……ひゃ」
たどたどしく答える菜月に、別の一人が太ももに触れる。もう一人は、菜月の胸に手を伸
ばした。
「な、なに……」
「黙って。じっとして、大事なとこだから」
怪訝な眼を向けた菜月に、彼らは事務的な口調でいうと、菜月の体につけられた器具を
確かめたりしている。
だが彼らの手はすぐに菜月の皮膚の上に移った。
「少し変じゃないか?」
「どうだ?」
仲間内で疑問をぶつけ合いつつ、菜月の体のいたるところに触れてまわる。彼らの会話
にはところどころに菜月の理解できない専門語のようなものが混じっていた。
(やだ、なんでそんなとこまで……)
一人の手が菜月の胸の上を移動する。
菜月がなにもいわないでいると、他の者たちも少女の控えめなふくらみを次々に触ってい
く。さらに、彼らは代わる代わる菜月の胸をもみしだき始めた。
(なにしてるの、これ、こんなのって)
「特に問題なさそうだな」
「そうだな」
そんなことをいいながら、体を触られている菜月の様子を見たりもしている。
先端の桜色の突起まで指で転がされるにいたって、菜月は顔をゆがませた。
(この人たち……?)
菜月はよほどなにかいおうかと思ったが、ついに決心がつきかねた。そうでなくてもちょう
どそのとき、菜月は別の指示を受けたということもある。
「ちょっと、口を開けて」
仕方なくいわれるままにした菜月は、検査用の銀のヘラのようなものを口に入れられ、そ
の中をペンライトに照らされた。
こうした検査はすでに終わったはずだが。
(あう)
舌を押さえられた菜月はうまくしゃべることができない。
あごも強くつかまれ、首を振ることさえできなくなる。
「動いちゃダメだよ」
別の一人が菜月に声をかけた。と、その状態のまま、残った男の手が、両手を伸ばして
いるため無防備になっていた菜月のわき腹を指先でつまんだのだった。
(続く)