「精密発育検査・杉原菜月の場合」 14  
 
 
 たいていの人の場合、わき腹は他人にもまれたりすると非常にくすぐったい部分である。  
菜月も特に例外ではない。  
 その結果、男の行為に菜月は思わず身をよじらせた。  
「ふううっ」  
 全身を硬直させビクッと体をはねさせるが、男の指も菜月のわき腹をつかんで離さない。  
(そこ、だめーっ)  
 彼はそのまま続けて、肋骨から骨盤のあたりまで位置を微妙にずらしながら、骨の形に  
そうように指先を押し込んでいく。  
「んっー、ふうう――っ!?」  
 菜月がうなり声を挙げるのもお構い無しに、少女の反応が強かったあたりを指で探りあ  
てたのか、その敏感な場所をピンポイントでグリグリとえぐった。  
「はふぁ、あううっ、あううう――っ!」  
 口にヘラを突っ込まれているため、菜月の叫びは言葉にならない。  
 菜月はたまらず体を動かそうとしたが、ベッドの四隅の抑制帯は少女の手足をがっちりと  
とらえて放さなかった。  
 今の菜月はいっさいの抵抗ができない状態で、体を思いっきりくすぐられているに等しい。  
わずかに動くことのできる分だけ体をくねらせてはかない抵抗を試みるが、ほとんど無意味  
である。  
「うあーっ、ふぅうう――っ」  
 くすぐったくてたまらないところに刺激を受けて菜月は悶えまくった。  
(やめてぇ、おかしくなっちゃううう)  
 そんな菜月に、一人がさして困った様子でもなく、  
「我慢しててくれないかな、そんな風に動かれると困るんだよ。いい? じっとしててよ」  
 今度は菜月のわきの下、肋骨の上辺りを試すように指でなぞってきた。じっとしていること  
などとてもできるものではなく、菜月はビクンと体を動かす。  
「ゃん――っ」  
「だから動いちゃだめだろー」  
(な、なんなの、これ、さっきから……こんな検査なんてあるの……?)  
 朝からの検査にすでに疲れきっていた菜月は、いろいろな疑問が頭をかすめながらもそ  
れを口にすることはなかった。  
 もともと抵抗することも悲鳴をあげることもできない状態にされていたが、大の男三人に  
囲まれて、なお疑問をぶつける勇気は今の菜月には残っていなかったのだ。  
「動かないように押さえてるしかないんじゃないか」  
「しょうがないな」  
 口々にいいつつ、彼らはよってたかって菜月の肩や二の腕、太ももなどを押さえつけなが  
ら、残っている手でわき腹からわきの下までを指先でなでまわす。  
(だ、だめ、やめてっ)  
 わき腹はもとより、乳房の横やわきの下でも、菜月が一番耐え難い場所を彼らは見つけ、  
その場所を集中的に指を立ててなぞった。  
「ふぁああんっ、ひゃっ、あはは、や、いや、あああぁんっ」  
 菜月の悲鳴はむしろ男たちの望むものだったかもしれない。  
 全身をくすぐられた菜月は、全身の筋肉に力を入れて全力で暴れようとしたが、実際に  
はわずかな動きにしかならなかった。拘束具の頑丈さを再度思い知っただけだ。少女の手  
足の動きに応じてベッドの枠と抑制帯のどこかがこすれ、ギッギッとわずかにきしんだ。  
 
(やめ、やめて、お願い――っ)  
 菜月はわけがわからないまま、三人の男たちの奇妙な処置を受け続けた。  
 
「はぁっ、はぁっ」  
 菜月が息も絶え絶えになってくると、やっと彼らは菜月の体をなでまわすのをやめた。菜  
月の全身には汗が浮かび、ライトを受けてきらきらと光っている。  
 口に突っ込まれていたヘラも抜かれたが、菜月は呼吸を整えるので精一杯で、彼らに抗  
議することもできなかった。  
「まあ、異常はないな」  
 しらじらしくいいながら、ぐったりとなった菜月に満足しているようだ。  
「おい」  
 まだ物足りなげな一人が、菜月の股間に眼を向ける。  
「ん?」  
「ずれてないか、直したほうがいいんじゃないか」  
「えっ?」  
 三人の男は菜月の股間をしばらくながめ、それから互いに顔を見合わせた。  
「そうだな」  
 菜月は自分越しに行われる会話にふたたび警戒心を持った。だが彼らはもう完全に菜月  
の抵抗など問題としていないようだ。もう、なにをしても菜月が無抵抗であると確信している  
のかもしれなかった。  
 そしてそれはほぼ間違いではない。  
「動くからずれるんだよな」  
(やだ、今度はなに)  
 彼らの目的はすぐに知れた。  
 男たちは菜月の股間に着用された、ゴム製のふんどしもどきを指をつまんで持ち上げて、  
菜月の陰部との間に隙間を作ったのだ。ゴムを持ち上げられた分、おしり側に余計深く食  
い込むが、問題はそこではない。  
(ちょ、ちょっと……っ)  
 いうまでもなく隙間の中は少女の秘部である。ゴムとガーゼでかろうじて隠されていた菜  
月の裂け目があらわになっているはずだ。  
 彼らはその隙間をライトで照らしつつ、顔を近づけて交互にのぞきこんだ。  
 男たちの鼻息を菜月は下腹部に感じた。  
(こ、こんなのって)  
 直すもなにも、股間をのぞいているだけだ。  
 彼らは検査にかこつけて自分の体をオモチャにしているだけではないのかと、さすがに  
菜月も思った。しかし菜月はやはりなにもいえなかった。もし、本当に検査の一部だったら、  
菜月が疑ったことに彼らは非情に怒るかもしれない。  
 それに素っ裸で手足を縛り付けられた菜月はいかにも無力である。心身ともに疲れきっ  
ている菜月は、もしいたずらだったとしても、黙って我慢していたらすぐに終わるのではと  
思うと、口をつぐむしかなかったのだ。  
「どうだ?」  
「キレイなもんだよ、ほとんどピンクだし。未使用かな?」  
「いやあこの御時世、わからんものですよ」  
 菜月がひたすら我慢し続けることを選択したのは失敗だっただろうか。三人の男たちは  
菜月が文句一ついわないのを見て、表向きの遠慮さえ消えてなくなったようだ。  
 ベッドのそばの台においてあった、菜月の検査カードを手に取り、その内容を勝手に見た  
りなどしている。  
「経験なしにマルしてある」  
 
「あーよかった、ほっとするよ」  
「自慰経験もなしか、ホントか?」  
 当の本人を前にして、好き放題いっているのを菜月は黙って耐えていた。  
(最低、この人たち、最低……)  
 あまりの屈辱に頭がどうにかなりそうである。彼らのしていることが例え本当に検査に必  
要な行為だったとしても、この態度はありえない。  
「ちょっと調べてみるとしますか」  
 見ているだけで飽き足らず、一人がガーゼの下に指をもぐりこませて、菜月の秘唇をまさ  
ぐった。  
「んっ、んんっ」  
 ごく浅い部分だったが、指が差し込まれるのを感じる。さらに彼は指を陰毛に絡ませ、軽  
く引っ張ったりもしてきた。少女の恥毛の感触を楽しんでいるようだ。  
「おいおい」  
「触診だよ、触診」  
 菜月は看護師にされた辱めを思い出していた。しかも今度は異性によるものである。怒  
りに加え、強い羞恥が菜月の顔を紅潮させた。  
 間もなく、この状況で決して知られてはいけなかった少女の秘密に、男が気づいた。  
 別に菜月は自分がとりたてて興奮状態にあるとは思わなかったが、このベッドに寝かされ  
てからの検査の処置などが、その場所にその痕跡を残してしまっていたのだろう。  
 それは男を喜ばすのに十分なものだった。  
「濡れてるぞ」  
 指を差し入れていた彼は嬉々として仲間に報告する。  
 好奇心に勝てなかったのだろう、その彼は菜月の体液で湿った自分の指を鼻先に付けて  
クンクンと匂いを嗅いだ。  
 いいようのない嫌悪感が菜月の心を押しつぶす。  
(ううう……)  
 他の二人も先の男と同じように指をガーゼの下に入れ、菜月の性器付近をなでまわした。  
彼らにも菜月の下半身の状態はわかったようだ。  
「本当だな」  
 くっくと笑いながら菜月をちらちらと見る。  
「これはいかんね、もっとちゃんと調べないと」  
 わけがわからないことをいった男は、ガーゼの下に滑り込ませた指で、あらためて菜月の  
性器をさぐり始めた。  
 菜月はこの後の流れが容易に想像できた。あの年配の看護師によく似た笑みを、この若  
い男も浮かべているのだ。  
(いや――)  
 菜月の心の叫びもむなしく、彼が探していたものはすぐに見つかってしまった。秘裂の中、  
神経の集中する肉の突起である。  
 自分の指が触れたのが目的のものであることを悟った彼は、少女の体でもっとも敏感な  
それを指先で盛んにいじった。  
「くぅっ」  
 菜月は思わず声を漏らす。  
 前の看護師に比べれば乱暴で稚拙な動きであったが、大きな感覚を菜月に与えるには  
十分だった。  
 男は熱心に菜月の陰核をこする。わずかな変化の兆しを見せたその肉の芽を、つまん  
でみたり、こねくり回したりもしている。  
(そんなの、痛いだけ――あうっ、あっ、あん)  
 無造作に触られたそこに、痛み以外の感覚が混じった。  
 
「それで感じてるのか?」  
「かわいい声出してるだろ、顔だって真っ赤じゃん」  
 ここまで来るとさすがの男たちも声をひそめるが、ほとんど思い通りになる少女の姿に、  
興奮は隠しきれていない。  
 カメラの存在を思い出した男が慌ててポケットから出して、菜月の撮影を開始する。  
 今の菜月はこれ以上ない魅力的な被写体であると考えたらしい。一時の記憶だけでとど  
めるにはあまりにも惜しいといったところだろう。  
(や、やめて――)  
 いおうにも恥ずかしさで声が出せない。この間も股間に刺激を受けている菜月は、あえぎ  
声を抑えるので精一杯である。  
 菜月の訴えがあったところで耳を貸すはずもないだろう彼らは、代わる代わる少女の性器  
をなぶり続けた。菜月が耳を覆いたくなるような卑猥な冗談も随所に混じる。  
「へぇ、敏感なんだなぁ」  
「こりゃ普段から触ってたな」  
(そんなことしてない、気持ちよくなんかない)  
「んっ、んんっ」  
 想いとは裏腹に、菜月は見知らぬ男たちを前に自らの性衝動を披露する羽目に陥って  
いた。  
 異性に不慣れな少女でなくても耐え難い屈辱である。  
 唯一の救いなのか、彼らの動作は以前の看護師よりもつたなく、気を確かにしていれば  
あの瞬間には至らなくてすむかもしれない。  
 そのために菜月は必死にその感覚を打ち消そうとしていた。  
 こんな連中の前で、そんな姿を晒したくはない。  
(耐えなきゃ――)  
 そのとき、彼らは夢中になっていた拍子で、ふと動かした腕がベッドの脇の台に当たった。  
その振動で乗せてあったものが落ちる。  
 男たちの注意がそれ、菜月は危機を脱した。  
 しかしそれは必ずしも菜月にとっての幸運を意味しなかった。落とされたのは脱がされた  
あとそこに置いてあった、菜月のパンツだったのだ。  
「おっ」  
 すぐに落ちたものの正体は男たちにもわかった。新しいオモチャを見つけた声で、一人が  
それを拾う。パンパンとほこりを軽く叩き落としてから、両手で広げる。  
 彼らにとっても、菜月にとっても、それは今やただの布切れ以上の存在である。  
「あれ?」  
 彼は怪訝な顔でそのパンツを見た。菜月の顔と見比べる。  
 それは菜月にとって最悪の再会をもたらしたのだった。  
「見ろよ」  
 残った者たちも菜月をいたぶるのをやめ、その下着に視線を移す。  
「なんだ?」  
「この子、あの子じゃん。アソコにアカためてて注意されてた子」  
「――ああ」  
 彼らの会話で菜月も思い出す。  
(――この人たちっ)  
 医者たちも看護師たちもみな似たような格好で、顔などいちいち憶えていられるものでは  
ない。彼らにとっても今日あったばかりの女子生徒をいちいち憶えていられるものではない  
と思われる。  
 それで今までお互い気づいていなかったが、彼らは午前の検査のとき、脱いで放置して  
あった菜月の下着を無断で手にとって遊んでいた連中のようだ。  
 女子生徒と医者の数を考えればそれほど大きな偶然というわけではないだろう。とはいえ、  
菜月はつくづく自分はついていないと思った。  
 
 
 
(続く)  
 

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