「精密発育検査・杉原菜月の場合」 16
耐えられなくなった自分は、彼らの目の前で大便を漏らしてしまう。男たちは無責任に汚
物への嫌悪をあらわにするだろう。汚れ物の後始末をしなければいけない彼らは、きっと、
蔑みと嘲りを存分に菜月にぶつける。
それはどうしようもなくみじめで、救いようのない光景だった。
男たちは「なんだよ、本当に漏らすなんて、なにしてんだよ」と理不尽な悪態をつき、菜月
は「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣くことしかできない。
また、ベッドと自身の体に挟まれ、排泄された便は臀部に不快な生暖かさを広げる。それ
はこびりつき、拭き取っても、ひどい悪臭を菜月の体に残しはしないだろうか。
他の女子生徒たちや、帰り道、すれ違う人々が菜月から発せられるその異臭に気づいたら。
みなが汚物そのものを見るような眼で菜月に振り向く――
(いや、そんなのはいや……!)
悪夢だ。
いくらなんでもそこまでの恥を晒して、生きていきたくなどない。
それよりも、これまでにも何度か繰り返しているとおり、トレーへの排泄のほうがマシだ。
彼らに排便姿を見られることにはなるが、ベッドのあちこちと自身の体を汚物で汚すよりは
るかにいい。
「お、お願い、本当に限界なんです、ほ、ほどいて、ほどいてくださいっ」
「ほどく? なにを?」
わかっているだろうに、一人が訊き返す。
「手足の帯です、このままじゃ、も、漏れちゃううっ」
今度こそ、本当の限界が来ている。
男たちの眼の前で、許可なしに便を漏らしてしまう。そのこと自体だけでも、検査の過程
としての排便とは、また別の恥辱だった。
しかしもう我慢は不可能だ。
菜月は表情を失って、その瞬間が目前にあることを悟った。
(もうダメっ)
これ以上はどうにもならない。
(せめて……っ)
最悪の想像が現実のものにならないよう、できるだけ腰を浮かせる。たとえ便を漏らして
しまっても、自分の体を汚さないようにだ。
(で、出る……っ?)
が、予想に反して、その瞬間は来なかった。
「え、ええっ?」
少女の肛門からはなにも出なかった。
小さくなって消えると期待していた腹痛はそのまま残っている。
「ど、どうして、で、出ないっ」
普通であれば十分な力を込めても、便はいっこうに出ない。
感覚としては便秘のときのものに近い。便意は強いのに、その中身がどこかに引っかか
って、どうしても外に出ないような。
混乱している菜月を男たちがやはり笑って見ていた。
「どう、出せる?」
「な、なんなの、これ。ううう――っ、出したいのに、うんこ出来ない……っ」
「おしりの穴に栓をしてただろ? あれのおかげだよ。それで、本当の限界まで我慢できる
わけ」
忘れたわけではなかったが、ここまで強力に栓となっているとは思わなかった。本当に排
便することができないとは。
理由はわかった菜月はますます絶望的な気分になった。いわれたとおりなら、栓を抜か
なければ菜月は排泄できない。栓を抜くにはゴムのふんどしをはずす必要がある。手足を
X字に拘束された菜月は自分でそのゴムをはずすことはできない。そばに付き添う男たち
は菜月の手足を自由にする気もおしりの栓をはずす気もないらしい。
これでは菜月はひたすら苦しみ続けるしかない。
「そんな、本当に、もう限界なのに、こんな、あうう――っ」
すでに、菜月を襲う便意はひっきりなしになっている。一つ去っても間髪いれずに次の波
が来る状態だ。浮かせた腰を上下させたりと、可能な限りで体を動かすが、なんの気休め
にもならない。
菜月の命運は二人の男に握られている。
一度我慢を諦めかけたせいもあって、便意はとっくに限界を超えていた。菜月はなりふり
かまわず彼らに懇願した。
「は、はずして、栓を抜いて、もう、苦しいの、すごく苦しいのっ、お願いだからっ、ああ、あぐ、
あぐう……っ」
菜月の必死の訴えに、彼らもお互いに話し合う。
「ま、そろそろ限界か」
適当に人を呼びに行く役を決めたらしく、一人が菜月の検査区画を抜け出していく。
しかし、やっと動きを見せたとはいえ、菜月の排泄が許されるのは今の男が戻ってから
だろう。菜月は目の前が真っ暗になっていくようだった。
「お、お願いです、今すぐ、はずしてください……っ。このままじゃ死んじゃう……っ、痛い、
痛い、おなか痛い――、ぐうううっ、ううううっ」
一人残った男に懇願する。菜月は本当に死にそうなくらい自分が追い詰められていると
思った。
「いや、死にはしないと思うよ。怪我しない程度に調整してあるし」
一人になっても男の調子はあいかわらずである。
実際、彼のいうように、菜月の校門に押し込まれた栓は、完全に排泄を阻止するようなも
のではないのかもしれない。もっと強くその気になって全力で力めば、隙間からでも排便が
可能だろう。
ただそれをするには、便秘になったときの硬い便を肛門いっぱいに広げて押し出すときの
ような、あるいはそれ以上の痛みに耐える必要がありそうだ。そのとき、体が耐えられず、
肛門が引きちぎれるのではという恐怖に、菜月は無意識に怯え、完全に力むことができな
いのだ。
だが、その恐怖を越えなければ、今ある痛みは何度でも襲ってくる。菜月に逃げ場など
ない。
「う、うんこしたい、うんこしたい……っ。あぐううう、おなかが破裂しちゃう……っ」
菜月は極限まで高まった便意に、涙をぽろぽろとこぼしていた。この苦しみを取り除いて
くれるなら、排泄を見られる恥ずかしさなどどうということはないと思えた。
それどころか、今の菜月は訊かれればどんな秘密だろうと簡単にしゃべるだろうし、やっ
てもいない犯罪だって、それが解放の条件なら即座に認めるだろう。
(本当にこれじゃ拷問だよ……っ)
菜月は気が遠くなって失神しかけた。
どたどたと人が駆けつける音で意識を取り戻す。
「ああ、こりゃ限界ね、もういいわ」
直前に来ていた看護師だろうか、女性の声がする。
呼ばれてきたのは彼女一人のようだ。横に呼びにいったほうの男が立っている。
「足のベルトはずして、あ、それ取って」
彼女の指示に従って、二人の男が動く。
菜月は物理的にも精神的に抵抗できない状態で、されるがままだった。
彼らは菜月の両足を自由にしたあと、すばやくゴムの帯をはずしたが、まだ、栓は抜か
ない。軽く支えたままだ。
(は、早くはずして……っ)
男の一人一人が菜月の両足を左右から抱え、大きく股を広げる。
中央に看護師が銀のトレーを設置した。
「じゃ、抜くよ」
それから菜月は、肛門にふさぐ違和感が取り去られるのを感じ取った。栓が抜かれた
のだ。
(やっと出せるっ)
障害となっていたものはすべてなくなった。それ以上を待つことなどできるわけがない。
「んぅ――っ」
たまりにたまっていたものが、一挙に噴き出る。それでも菜月が感じていた圧力に比べ
れば勢いはまるで物足りなかった。あまりに便意が高まりすぎたせいか、思うように力む
ことができず、垂れ流すようにしか排泄できないのだ。
望んだほど爽快にとはいかなかったが、苦痛そのものは速やかに小さくなっていくので、
菜月はようやくほっとした。びちびちっと鳴り響く自分の排泄音もまるで気にならない。
(出てる……やっと出せてる……っ)
固形物はやはりあまり残っていなかったようだが、噴射とともに、自分のおなかが心地よ
くへこんでいくのを菜月は感じていた。
後始末の段になって、ようやく菜月は周囲を気にする程度の余裕を取り戻した。
菜月の顔の涙は乾いていたが、独特のごわごわとした突っ張りを目元に残していた。
(わたし、今日、すごいところ見られすぎ……)
感覚が麻痺したのか、どこか他人事に考えるまでになっている。
いまだに両手はベッドにくくりつけられたままだったが、菜月の下半身は、腰に引っ掛け
られていたゴムふんどしも取り除かれ、完全に身につけるものがなくなっていた。
看護師は菜月の汚物の入ったトレーを持ってどこかへ行ったようで、この場には二人の
男性が残っているだけだ。
彼らは拘束されたままの菜月を横目に、別の新たなトレーを用意している。
それを見ただけで、菜月はまた泣きそうな気持ちになった。
(そんな……もう浣腸するのやだよ……っ)
排便を我慢する苦しみを死ぬほど味わった菜月に真っ先に浮かんだはそのことだった。
今までに受けた他のどの検査でもいい、だけど強制的に我慢させられるこの浣腸だけは
もう絶対にいやなのだ。
怯えはあからさまに顔に出ていたのだろう、一人が冗談交じりに尋ねる。
「もう浣腸はいや?」
「…………っ!」
それだけの言葉で菜月は恐怖した。
顔が引きつっている。
そんな少女がおもしろかったのだろう、わざわざ彼は近くの台から浣腸器具を手に取って
菜月に見せびらかす。
「いちおう、まだあるけど」
「……ゆ、許してください、もう、お、浣腸だけは、ほ、他のことだったら、なんでもしますから、
浣腸だけは、や、やめてください……っ」
男たちは菜月の返答に、二人顔を見合わせてくっくと笑った。
菜月は彼らの態度が眼に入らないほどパニックに陥っている。
「ま、いい子にしてたらしないよ」
浣腸されるのかされないのか――それが菜月にとってもっとも重要なことだった。彼の返
答にやや安堵する。
彼らは菜月のしりの下にトレーを敷いた。菜月は寝たままの姿勢だから、そのままではト
レーが不安定になってしまうので、足に力を入れて腰をやや浮かせなければならなかった。
男が菜月の様子をうかがいながらいう。
「じゃあ、いまからきれいにするから、両足を開いてくれるかな」
隠すもののない股間を男の前に晒せという、普段であれば耳を疑うような命令を、菜月は
一切迷うことなく実行に移した。
それは女性が男のものをまさに受け入れようとしている姿そのものである。大人の、男慣
れした女性だって相手を選ぶポーズだ。だが、少女の中で、恐怖心が羞恥心を容易く打ち
破った。
その苦痛を体に教え込まれた菜月は、それよりも男の視線を浴びることを選択した。
実際のところ、もう浣腸が行われることはないというのに、ちょっとからかっただけでいい
なりになる少女の様子に、二人の男も一種の感動を覚えていた。
男性としての支配欲を実に刺激してやまない。
二人に徒労感などはなく、役割を果たすのをすっかり楽しんでいた。
両足をM字に曲げた菜月の股間に、一人がやかんのようなものを使ってお湯をかける。
熱湯などではなく、ぬるま湯だった。
(うあん)
その心地よさに思わず菜月は陶酔した。
「熱くない?」
いいながら、肛門だけでなく性器付近、それも手を伸ばして指を差し入れ、割れ目を広げ
つつ湯を注いでくる。菜月はなにも答えなかったが、どこかとろんとした目つきになっていて、
男たちもそれに気づいたようだった。
お湯が一通りかけ終ると、腰の下のトレーが持っていかれる。トレーは最初から湯を受け
るためだけに用意されていたのだ。
それからガーゼだろうか、布で性器を念入りに拭かれる。陰唇を丹念になぞり、陰核の上
を執拗に往復した。
(……うっ、うう)
彼らにとってもいたいけな少女をもてあそぶことができるのはこれが最後の機会だったの
だろう、思い残すことないよう菜月の体を徹底的に触っておくつもりらしかった。
彼らがそうしている間、菜月はまったく無抵抗をつらぬいた。ガーゼを大股開きの菜月の
股間に押し当て、上からもんだり振動を与えたりする男たちには、菜月がいやがったところ
で喜ばせるものにしかならない。
(う、く……)
裸を余すところなく見られ、性器の奥から排泄姿まで何度も晒してきた少女は、最後の
最後まで、下半身を男たちになぶられるままにされるしかなかった。
しかももともと少女を守る壁にはなっていなかったとはいえ、器具さえ取り払われた下半
身はあまりにもさびしく無防備だ。
男たちがカメラを持ち出した。菜月の体をもう一度撮影するつもりらしい。
もう撮り残していることもないだろうに、検査ごとに必要なのだろうか。菜月もさすがにお
おいに疑問だったが、口にする気力など残っていない。
二人のうちカメラを持たないほうが菜月の陰部に手をやって、また、その亀裂を指で押さ
えて開く。
(…………っ)
専門の器具を使われたわけではないが、可能な限り中の様子まで見えるようにされ、真
正面からシャッターが切られた。
縛り付けられていた両手が解放され、手首をさすりつつ、やっと終わりかとそれだけを考
えていると、次は四つんばいだった。突き出したしりにやはりレンズが向けられる。
撮影はまだ続いた。
(続く)