「精密発育検査・杉原菜月の場合」 3  
 
 
 菜月は沈んだ気分のまま、大ホールを後にしていた。  
「次はエックス線だからね、ここを進んだ先の、階段の横の部屋に行って。少し距離がある  
けど、まっすぐだから」  
 さすがにこのホールだけではできない検査もあるらしい。  
 そういわれて、菜月は廊下を進んでいるのだ。  
 他の女子生徒もここを通るはずだが、たまたま人の切れ目だったのか、廊下を歩いてい  
るのは菜月だけだった。  
 自分以外にも同じ姿になっている女子生徒たちが大勢いる場所ではまだよかったことが  
わかった。  
 たとえ裸にされるにしても自分だけじゃないという安心感は確かにあったのだ。  
 検査カードで胸を隠して歩いていくと、患者だろうか、中年の男性がいた。  
(やだ)  
 相手も菜月に気づき、その格好が尋常ではないことを知ると、勝手に照れつつ、だが顔を  
背けるわけでもなく菜月の姿を眺めている。  
 菜月はたまらずに、小走りになって男性から離れていった。  
 彼のような一般人にまでじろじろ見られるいわれはないはずだ。  
 しかし、どんなところにも女子生徒への思いやりなどより自己の欲求を優先する人間はい  
るものである。  
 エックス線撮影を行う狭い専用の部屋で、菜月は男性の技師にまたも下着をひざまで下  
げるよう要求された。  
(そんな……別に脱がなくてもいいんじゃ……)  
 素人目にもそう思えるが、「ちゃんと脱いでくれないと正しい結果が出ないよ」といわれると  
逆らえるほど知識を持っているわけではない。  
 菜月は仕方なくここでもパンツを下ろし、裸の下半身に寒気と技師の視線を感じながら検  
査を受けた。  
 
 今度の検査は元のホールの中でも、珍しく多くのついたてが並べてある区画だった。どう  
も女子生徒よりも機械や検査の都合で並べてあるだけのもののようだが、それでもあるだ  
けいい。  
 少しでも一般の患者からは隠れることができる。やはり医者と無関係な人間では同じよう  
に見られるにしても意味が違う。  
 しかし、仕切りの奥に入った菜月は、めまいを覚えた。そこで行われていたのは、これま  
での検査などよりはるかに恥ずかしいものだったのだ。  
 直前の背面撮影やレントゲンなど、今度のものに比べればどれほどのものでもない。  
(あんなことを……されるしかないの……?)  
 検査を待っている生徒たちの思いは同じようで、目に見えてわかるほど震えている者もい  
る。  
 だが逆らうことはできない。  
 周囲には指示に従わない生徒を容赦なく叱りつける看護師が何人もいるのだ。  
 背面撮影で見た光景がよみがえる。  
 いうことを聞けなかったばかりに、よってたかって下着を取り上げられ、残りの検査を全部、  
全裸で受けなければいけない女子生徒。  
 下着姿の少女ではどうにもならない。  
 検査コーナーの入り口には、便宜上の数字と、生徒たちにも少しはわかりやすい名称の  
つもりなのだろうか――全身検査と書かれた札が取り付けられていた。  
 
 不安に満ちた時間のあと、菜月の番となった。  
 促されるまま、ベッドの横に立つ。  
「じゃ、脱いで」  
「……はい……」  
 医師にとっては数多い少女のひとりに過ぎない。  
 こともなげに命令された。  
 菜月は動けない。  
 背中を写真に撮られたときとは違う。  
 ひとつのベッド――菜月の周りは一〇人ほどの医者と看護師が囲んでいる。もちろん医師  
たちには男性が多い。  
(脱がなきゃ……脱がないと)  
 そうしなければ、これまで自分でできなかった少女がそうであったように、無理やり脱がさ  
れることになるだろう。そしてパンツは返してもらえない。  
 それはいやだった。だけど……  
 下着を脱ぐためのすべての行動が注目されているようだった。  
 それでも、周囲の視線をこらえて、菜月はパンツを下げ、足先に通す。  
 ついに生まれたときの姿、一糸まとわぬ姿になってしまった。菜月は何年かぶりに異性の  
いる前で裸になったのだ。  
 股間に陰毛が生えそろうような歳になってからは、初めての経験だった。  
 呼吸が感じられるような距離には、何人も男性がいる。  
 彼らは全員菜月を注視していた。  
(やだぁ……)  
 恥ずかしさでわけがわからなくなりそうだった。  
「はい、そのまま直立していて」  
「あっ」  
 菜月の感情を無視して、看護師が下着を奪い取っていった。  
「ほら、隠さない」  
 つい内向きに丸めようとする腕を、左右から引っ張られてしまう。  
 看護師たちはすぐに腕を離したが、手をだらりと下げ、やや体から離した、ペンギンのよう  
な姿勢を強要される。  
 自分を見つめる医師たちを直視することができず、目を泳がせた。まるで寒くないのに、  
足が震える。  
 体を見られ続けていると、顔がますます熱くなって、産毛が逆立っていくように感じた。  
(あ――っ、もう、やだ――)  
 医師たちはあれこれいいながら、ときには菜月の体に触って視診を続けていた。すでに胸  
や股間も、菜月の体で他人の目に触れていない部分はないといっていい。  
 しかし、これは始まりに過ぎないことは、待っている間によくわかっていた。  
 これから自分でも見たことのないような場所さえ、ひとつ残らずあからさまにされてしまうの  
だ。  
 しかも見られるだけではすまない。  
「ここに立って、ちょっとこっち向いてくれるかな」  
 そういった男性の持っているものはカメラだ。  
 今度は背中からではなく、菜月の正面に向けている。  
 少女たちは、みな、例外なく全裸の写真を撮られなければいけないのだ。  
 横からも、背中も、赤く染め上がった顔も、少女のすべてが記録される。  
 菜月はくちびるをかんで、フラッシュの光に耐えながら裸体をさらし続けるしかない。  
(――っ、写真まで……)  
 撮影がいったん途切れる。  
 
「ベッドに寝転んでね」  
 菜月にはなにもできない。  
 されるがままだ。  
「いい子ねー」  
 ベッドに仰向けにされた菜月は、看護師たちに足をつかまれ、ひどいポーズを取らされた。  
 両足を曲げ、ひざを倒して可能な限り足を左右に開く格好だ。両足でMの字を作るような、  
あるいはひっくり返したカエルのような姿勢。  
 さらにいうなら、オムツを替えられる赤ん坊の姿が近いかもしれない。  
 いうまでもなく、少女にはあまりにもみじめな体勢である。  
(こんなの、こんなのって――)  
 体は熱いままだが、顔からは血の気がうせて、気が遠くなるようだった。  
 菜月の、絶対に誰にも見られたくないその場所は、強力なライトに照らされながら何人もの  
男女の注目の的となっている。  
 恥丘を覆いつつある陰毛から、その奥の複雑な形状をのぞかせている外性器、そして肛  
門に至るまで隠すものはなにもない。  
 見られるだけではすまない。  
 自分でもろくに見ない、触れたことのない肉の亀裂を、いいように指先でこねくり回される。  
その上医師は屈辱的な感想まで付け加えてきた。  
「ちょっと汚れてるな」  
 そんなことまでいわれるなんて。  
(――――ッ)  
 菜月はどこかに消え去りたかった。  
 さらにメジャーをあてての採寸。ひだにそって、いちいち事細かに記録しているようだ。  
 もちろんこれで終わりではない。  
 それが少女の秘密の園であっても記録は必要なのだ。そのためには女子生徒たちの羞  
恥心など完全に無視される運命にある。  
 カメラをもった者が前に出てきた。  
 強いライトの光のため白く浮き上がった菜月の秘唇は、至近距離から何枚もの写真にお  
さめられていく。方向を変え、さまざまな角度から性器の形を精確にとらえ、また、距離を変  
え、下半身全体の態様も記録される。  
 もっとも遠い視点では両足を開いたままの少女の全身を写す。恥ずかしさに震えるその  
体と、泣き出さんばかりの顔、広げられた両足まで一枚の写真となって残されるのだ。  
(いつまでこのままで……あん、な、なにっ?)  
 撮影が終わったかと思ったら、別の感触が股間を襲った。  
 裂け目の入り口を指で左右に広げられて、綿棒のようなもので、性器のひだの奥をさかん  
にこすられている。  
(あ――も――、やだやだ――っ、い痛っ)  
 その痛みは、少女の体で一番敏感な突起がむき出しにされたためのものだった。神経が  
集中する肉の突起だ。  
 綿棒は亀裂の縁だけでなく、当然にその場所もなぞるようにこすりあげていく。  
 さっきいっていた『汚れ』を採っているのだろう。  
 無視しがたい感覚が菜月の体に走る。  
「んっ――っ!」  
 声こそあげなかったが、それ以外の部分の反応は、自分の意思ではとめられなかった。  
 だが、びくりと動くはずだった菜月の足や腕は、いつの間にかそえられていた看護師たち  
の手によって制せられた。  
 おかげで大きな反応を見せなくてすんだが、今の菜月は看護師たちに押さえつけられ、  
まったく抵抗できない状態にある。  
 
 神経が集中する小さな芽は、無防備なままさらけ出されたままだ。  
(う、く、うう――)  
 綿棒はかわらず何度も何度もクリトリスやその周辺をこするので、菜月はたまらない。  
 ふたたび顔には必要以上に血潮が戻り、顔面を赤色にしている。  
 息が荒くなっていくのはとめようがない。  
(ダメ――このままだと……)  
 菜月が受けている感覚が誰の目にも明らかになってしまう。  
 と、急に刺激が消えた。  
 代わりに冷たい湿った脱脂綿によって股間が拭かれる。  
 菜月はほっと気を緩めた。  
 どうやら菜月の性器にこびりついていた垢はきれいに取り除かれ、今度は陰部全体が消  
毒液によって清められているようだった。  
 どういった薬液なのか知らないが、特にしみることはない。  
 辱められていることに変わりはないが、強い刺激がなくなったことだけでも菜月にはありが  
たかった。  
 しかし次の動きはすぐに来た。  
(はぁ……。――あっ、あ、うう)  
 今度の刺激は肛門からだった。  
 まだ内部まで指を入れられたわけではないが、その口になにやら薬を塗られている。  
 それが済むと、  
「いいかなー。大丈夫?」  
 妙にやさしく、看護師に声をかけられた。  
「あ、はい……」  
 これまでほとんど医師たちをわずらわせなかったためか、菜月に対する態度は若干柔ら  
かいものになったようだった。屈辱から逃れられるわけではないが。  
 菜月は周りの大人たちに足を取られ、自在に動かされた。  
 意図はよくわからないが、痛くなるくらい曲げられたり、引っ張られる。  
 菜月はまるで子供がする人形遊びのように扱われたのだった。医師たちは、血の通った  
生きた少女の持つ恥じらいなど存在しないかのような態度なのだ。  
 妙なポーズのまま、またしても写真に撮られたりする。それはしばしば菜月の両足の付け  
根を含むように撮影されるものだった。  
 あれこれするうちに、菜月は四つんばいを取らされる。  
 足は左右に広げて、ひざをつけるように。  
(この格好って……)  
 ケモノのような姿だった。  
 メスの陰部がなによりも強調される姿勢なのだ。  
「そのまま胸をベッドにつけて。おしりはできるだけ高くね」  
 指示に従うと、ますます性器を突き出す形になってしまう。というよりそれがねらいなのだ  
ろうが、自分から秘部を見せつけるようでつらい体勢だ。  
「おしりに指を入れるからね、力を抜いてね」  
「え。……あ、あ、ああ――っ」  
 医師は菜月の肛門に指を突っ込んできた。  
 直前に予告がされたとはいえ、体を中からかき回される違和感に、こらえてきたものが限  
界を迎える。  
(ううう――)  
 人前で肛門に指を出し入れされる恥辱を、菜月はベッドのシーツを握り締めてこらえた。  
涙がぽたぽたと落ちていった。  
 
 
 
(続く)  
 

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