「精密発育検査・杉原菜月の場合」 6  
 
 
 検査台の上はまさに少女たちの悪夢の舞台であった。  
 ある女子生徒は、ブッ、ババッ、ブリブリッと、盛大に破裂音を響かせ、号泣しながら排泄  
していた。「見ないで、見ないでっ」と泣き叫んでいる。この異様な状況にどことなく居心地悪  
そうな、あるいは同情めいたものを顔に浮かべている者もいた。しかし、まるでそうでない者  
も少なくない。  
 どこに入っていたのだろうと、誰もが驚くほど大量の排便をしてしまったスレンダーな少女  
がいた。彼女は真っ赤になってうつむきながら、やわらかすぎず硬すぎず、ほどよく固まっ  
た健康的な便をみりみりと肛門から吐き出していた。次々と出てくるその便は途中でまるで  
途切れないので、とうとう彼女は容器に茶色の山を作ることになってしまっている。  
 その量だけあって臭いも強烈らしく、耐えかねた周りの大人たちは顔の前に手をもってい  
きながら、臭いを緩和しようと彼女から少し離れるのだった。配慮など思いつきもしないの  
だろう、「すげえくせえ、ありえねえ」と口々にいう者までいる。  
 空気の流れが確立されているのか、菜月たち待っている生徒の側には想像された異臭  
はほとんどこないが、当事者の少女は死んでしまいたいほどの恥辱を味わっているに違い  
ない。  
 しかしいまだ横に張り付いている看護師が、「まだ残っているでしょう、最後まで全部出し  
なさい」などというものだから、その生徒は自分の大便の山の上で、なおもふんばり続けな  
ければいけなかった。  
 この看護師の場合はともかく、どういった悪意か、彼女たちの中にはどうも女子生徒たち  
の負担を好んで増やそうとする者もいるようだった。それは特に指示に従わなかった生徒  
に対し露骨にあらわれた。指示通りに動けなかったことが不可抗力であったとしてもである。  
 恥ずかしさをこらえて強くいきんでやっと指の先ほどの便をひりだした少女に対し、無情  
にも「少なすぎよ。もっと出すつもりがないなら、これだけじゃマッサージも受けたほうがい  
いわ」と二重の苦役を宣告することさえあったのだ。  
 検査の終わりを迎えても少女たちは悲惨だった。体を完全に前に倒し、四つんばいでしり  
を上げさせられて、看護師に肛門を拭かれるのだ。臀部の肉を左右に引っ張られ、大便が  
こびりついて悪臭を放っているしりの穴をひだのひとつひとつまでつまびらかにされながらで  
ある。  
 そのころには、苦痛にゆがんだ顔に涙のあとのない少女はまずいない。  
 
 眼の前で繰り広げられる光景にほとんどの生徒は衝撃を受け絶望したのか、大多数の  
少女は無抵抗のまま検査台に引っ立てられていく。  
 菜月も呆然としたまま自分の番となって、どこか他人事のように検査官たちの待つ台へ  
とすすんだのだった。  
 下着を脱いだときも、まだ多少は平静でいられたと思う。  
 だが、裸となって検査台へと上らされると、動悸が激しくなって、体温が一挙に上がった  
ように感じた。  
(こんなとこでできるわけないっ)  
 あらためて自分を囲む男女の多さに菜月は意識が遠くなる。  
 肛門も(もちろん性器も)丸見えで、光に照らされ大勢に見られながら、とは。まったくあり  
えない異常な状況だ。  
 いちおう銀色の容器にまたがって、おしりを観察者に向けているが、とても続けることはで  
きなかった。  
 
 そのとき、隣の生徒が検査台を降りた。彼女は排便していない。何分間か力を込めてい  
たようだが、なにも出なかったのだ。  
「マッサージしよっか」  
 そう声をかけられた少女は、狼狽して拒否の意を示していたが、両腕を若い男性にとられ、  
引きずるように診察台の上へと乗せられてしまった。  
「やめて、やめてください、お願い」  
 その声は空気のように無視される。  
 言葉以外はほとんど反攻しなかったというのに、その少女は両手までひじかけに縛り付け  
られ、身動きをとれないようにされてしまっていた。他の生徒たちへの見せしめに他ならない  
のだろう。  
 婦人科用の診察台は、尿機能検査のときより背もたれが傾斜し、寝転ぶのと変わらなくな  
っているが、ひざを乗せるアームは高い位置に上げられている。この状態で浅くかけさせる  
ことによって使用者の少女の陰部を前へ突き出させ、肛門をあらわにし、処置を容易くさせ  
るのだ。  
 彼女は足を大きく開かされ、腹部にマッサージを受けるところだった。裸の腹をさすられ、  
肛門をなぶられる。行為者は男性ではなく看護師だったのが唯一の救いか。その様子は  
男性も見ているが。  
 ああなるのはいやだ。  
 なんとかここだけでこの検査は終えたい。  
 と、心ここにあらずと思われたのか、菜月の態度に触るものがあったようだ。  
「あなた、ちゃんとりきんでる? 全然力はいってないんじゃない?」  
 看護師に叱責され、菜月はあきらめた。  
 やっぱりここでするしかない。  
 下腹部に力を込めて――なにか出そうな感触だった。ここである程度排便できれば、検  
査は終わりなんだから。自分にいいきかせてさらに力を込めた。  
(――っ!)  
 気がついたときは遅かった。  
(ダメっ)  
 ブゥ――ウッと大きな音を立てて、菜月の肛門からガスは吹き出た。  
「ククッ」  
 若い男性の一人がつい失笑したらしい。  
 それにつられて何人かが笑う。  
 菜月はますます赤面した。しかも、悪いことに漂ってくるそのガスはかなり臭う。自分でも  
いやになるほどだ。  
「あら、すごく臭いおならだけど、うんこは出てないわよ。ちゃんとしなきゃだめじゃない」  
 看護師までクスクス笑いながらそんなことをいう。  
「ほら、もう一回力を入れて」  
 いわれたとおりにするしかないが――  
(ああ、またっ)  
 菜月が噴出を押しとどめようとした結果、プ、プ、プゥ――ッと、今度はずいぶんと軽快な  
音を立てて、またもおならだけが出た。  
「プハハッ」  
「やだぁ」  
「なんの芸だよ」  
 菜月の心情をもっともわかってくれているはずの若い女性も含めて、検査台を囲むほとん  
どの者が笑った。その笑い声のおかげで、他の生徒や担当外の医者たちまで菜月に注目  
する。なにが起こったのかはみなうすうすわかったようだ。  
 
「ちょっと、マッサージしたほうが、よさそうね、でも、なにもそんな、おもしろいおならしなくっ  
ても、ほんと、いいのに」  
 この看護師も必死になって笑いをこらえている。  
 菜月は顔を背けながら、自分の運命を呪った。  
 これだけの屈辱を浴びたというのに、菜月はこの場で検査を終えることができなかったの  
だ。  
 
 診察台に乗せられた菜月は、足を丈夫なベルトで縛られたまま、下半身丸出し(上半身  
だってなにも着ていないが)で放置されていた。  
 やはり、いきなり便を出せといわれても、少女の心理を無視したところでなかなかすぐに  
できるものではない。排便できなかった女子生徒は診察台に寝てマッサージを受けるわけ  
だが、医師や看護師の手もなかなか足りていないのだ。  
 少女たちはまたも順番待ちとなるのだが、診察台自体は多く用意されていたようで、とり  
あえずそこに座っててと、結果、裸の股間をさらした状態で何分も待たされるのだ。  
 もともと配慮などなかったが、今や女子生徒たちへの扱いは散々なものとなっていたので  
ある。  
 たまたま一番端の診察台に寝ていた菜月は、喧騒の中に会話を聞いた。声からすると若  
い男性たちだろう。  
「あのオッサン、かわいい子だと自分でやるくせにブサイクは人任せだぜ」  
「露骨すぎっよな、よくやるよ」  
 断片的で、具体的なことはなにもわからないが、その会話は女子生徒たちをまるで対等  
な人間と見ていないように聞こえた。  
 それが本音なのだろうか。  
 菜月は否定してほしかったが、思えば生徒たちに接する態度に、その性根はよくあらわ  
れていた。あとは、せめて一部の人間だけであって欲しいが。  
「あの子今まで一番黒ずんでいるなあ」  
「うわ、グロ。汚すぎ。遊びまくりかぁ?」  
「お前、関係ないってわかってていってるだろ」  
 声の主は、菜月たちの足の方向のその先に立っている男性たちだ。わずかな遠慮もなく、  
いいたい放題いっている。  
 あれだけ女子生徒たちの裸を眺め回したというのにまだ飽き足らず、また足をそろえてい  
る少女ではおもしろくないのか、陰部を無理やり開帳させられている少女たちのベッドに集  
まって、比較を行っているのだ。  
 どこまで辱められればすむのか。  
 悔しさをぶつけるあてもない。  
 
 しばらく待って、マッサージは始まった。  
「いた……っ」  
「我慢しなさい」  
 何度か同じ言葉を繰り返しながら、看護師は菜月のおなかをもみつぶす。  
(痛い、痛いのに……)  
 へその辺りからぐるぐると、もみ、はさみ、つぶし、少女の体の中にある腸を刺激している  
ようだった。  
 初めは痛かっただけだったが、そのうち様子が変わった。手足が脱力し、心地よささえあ  
った。  
(なんか、力が抜けるー)  
 
 恐れていたマッサージの苦痛はそれほどでもなかったが、その様子を眺める白衣の集団  
は健在である。  
 あの中にだって菜月をいやらしい眼で見ているものが少なからずいるのだ。それは推測  
でしかないが、きっと当たっている。  
 途中からマッサージの痛みなどほとんどなかったのは幸いといえた。  
「どう? うんち出そう?」  
 菜月は診察台に寝かされたままりきむようにいわれたが、力の入る姿勢でもなく、なにも  
出てこなかった。便意も高まることなく、マッサージ前と特に変わらないのだ。  
「出ないみたいです……」  
「もうちょっとがんばって」  
 というものの、看護師もたいして期待していないようだ。彼女はマッサージを中断してため  
息をついた。そして、菜月ではなくまだ順番を待っている残りの女子生徒たちに眼を向けた。  
彼女たちは自分が排便できなかったときの結果――診察台では実際なにが行われるのか  
様子をうかがっている。  
(あっ)  
 看護師はカメラを持ってきた。  
 菜月は反射的に顔を横に向けたが、足を動かすことはできない。看護師も菜月の反応に  
かまわずパシャパシャとむきだしの性器を撮影している。  
 しかしこんなところを写真に撮る意味があるのかまるでわからない。  
 そういえば排便の検査ではカメラを持っている人間はいなかった気がする。いまさら検査  
を受ける少女たちへの配慮でもないだろうに、この違いはなんだろう。考えても菜月にはや  
はりわからないが、医者たちには別の目的があるのかもしれない。  
 どちらにしろ、またしても全裸で大股開きの写真を撮られていることに変わりはなかった。  
撮影が続けられながらも、別の看護師がマッサージを再開する。  
 今度のマッサージでは看護師の指使いは肛門にまで達した。  
 菜月は股間にいいようのない昂揚を覚えた。  
(――っ)  
 これまでは考えないようにしてきたが、ここに来て見られることを強く意識してしまったのは  
失敗だった。  
(みんな見てるのに……っ)  
 菜月は下半身のうずきをはっきりと感じ取った。こうなってはせめて高く上りつめないよう  
に気をはらなくてはいけない。  
 気のせいか、看護師の手つきは怪しげだった。  
 医師たちの注目が菜月の股間から菜月の表情に移っているように思えたのも自意識過  
剰のせいだったのだろうか。  
 マッサージの終了までその状態は続いた。  
 二度目の問いにも、便意に変化がないことを告げると、菜月は診察台から解放された。  
なにも出なかったとはいえ、菜月もまた肛門を拭かれる。  
 台を降りたあと、菜月は下着をはく間際、そっと陰部に指をあてた。そこで菜月は自分の  
昂ぶりのあとを得た。  
 足を開いてライトに股間が照らされていたとき、これは他の人間も気づくようなものだった  
だろうか。  
 
 
 
(続く)  
 

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