「精密発育検査・杉原菜月の場合」 9
――もう一〇分たってるぞ、お前の負け確定な。
ベッドの反対側にいる他の医者にはわからなかったかもしれないが、その言葉は菜月に
は届いた。おそらくベッドで寝ている当の少女にも。
菜月は少し考えて、その言葉の意味を察した。
なんということだろう。
彼らは女子生徒たちが排泄を我慢する時間を賭けの対象にしていたのだ。
なにを賭けているということでもなく、おおかた単に勝敗を競うだけのものだろう。しかし、
少女たちが羞恥と苦痛にもだえ苦しむさまは、その男たちにははっきり娯楽でしかなかった
のだ。
こんな馬鹿らしい賭けの対象にされて、腹は立たないのだろうか。
その瞬間がどんなにいやでも、避けがたいことはわかりきっているのだから、いつまでも
我慢することもないように思える。
だが、その少女は、一瞬ろくでもない発言をした男性に憎々しげな視線を送ったようにも
見えたが、その後も必死に浣腸の効果に耐え続けた。
男たちは男たちで、ベッドの少女が自分たちの発言を聞いたかどうかははっきり確信が
持てなかったようだ。しかし、どうあっても少女が自分たちを糾弾することはないとわかりき
っていたのか、態度はあらたまらなかった。その後も時計を見ては仲間同士でヒソヒソとしゃ
べりあっている。声は小さく、なんといっているのかは聞こえない。
だが、なにを話しているのかは想像がついた。菜月は他の検査でも似たような行為に出
会ってきたのだから。彼らは、同じ検査を受ける少女たちの反応を比較して、「もう少しで今
までで一番だ」とかそんなことをいっているのだろう。
……ついにベッドの女子生徒にも、限界が来たようだった。
もう我慢できないことを一番近いところにいた看護師に伝えいているらしい。すぐにもうひと
つの台が彼女の前に用意された。ベッドよりも少しだけ低く、銀色に光るトレーが乗せられて
いる。段差を利用して半ば仰向けに寝たままの姿勢でも用を足せるようにしているようだ。
(あんな格好で……)
少女は体を少しだけ起こして、斜めになってトレーの上にしりを移動させられていた。不自
然な姿勢だからか、足や手を看護師たちに支えられている。ここでも女子生徒たちの羞恥
心はまったく無視され、ただ排泄がどのような様子となるか、見やすく行わせることだけが
考えられているのだ。
この格好では、医者たちには、彼女の肛門や性器だけでなく、こわばる表情までよく見え
ているに違いない。
「いやぁ」
彼女はかすかに悲痛な叫びを漏らすと、周囲に異音と異臭を撒き散らした。
泣いているようにも見えたが、菜月の場所からはよくわからない。手を目にやろうとしたが、
そんな行為でさえも看護師は制止されていた。
同じことが繰り返されてきたからだろう、顔をしかめるものはあってもいまさらくだらない感
想をいう者はいない。
この検査はまだ終わりではなかった。浣腸は一度でなく、何度か行われるのだ。
公開排泄を強制されたばかりの少女は、目元を強くぬぐう。その顔を見て菜月は驚くしか
なかった。その目にはいまだ強い意志があったのだ。
その表情の通り、彼女は浣腸のたび、必死に便意をこらえた。体力の問題なのか、間隔
は短くなっているような気もしたが、やはり限界まで我慢していることは間違いなさそうだ。
この我慢の理由は排泄を見られることの恥ずかしさだけから来るものではないのだろうか。
他の原因となると、菜月には見当もつかない。自分の番になればいやでもわかることかもし
れないが。
少女は最後まであらん限りの力を振り絞って我慢し続けた。傍目にもへとへとになってい
て、足をふらつかせながらベッドを離れていった。
ずいぶん待たされたようにも思ったが、ついに菜月は呼ばれた。菜月の後ろの順の生徒
たちは増設した検査ベッドの方に移ったのか、菜月ほど待たされることはないようだった。
菜月はベッドに近づくと、なにより先に、問題の器具を見た。しかしそれがなんなのかはよ
くわからなかった。その器具にはカバーがかけられ、中身が見えなかったのだ。少し横長に
見えるが、中身までは想像がつかない。
菜月がその機械に送った視線の意味は、周囲の医者たちはわかっていたようだ。前の生
徒の様子をつぶさに観察していた少女がこの機械に着目するのは自然なことである。
なんの機械かわからなかった菜月を見て、そばにいた男性がにやにやと笑った。きっと、
この機械の正体を教えたとき、先ほどの少女のように菜月の顔色が変わるだろうことを想
像して笑っているのだ。
彼の態度が不愉快だったので、菜月はその機械に興味がなくなったようにそっぽを向い
た。看護師の指示を待って下着を脱ぐ。
男性たちは飽きることなく、少女が素っ裸にになっていくのを注視している。
前の検査であんなことがあったせいだろうか、パンツを下ろした瞬間、新たな空気に触れ
た股間がいつもよりひんやりとした。
外気と入れ替わりに、陰部にこもっていた残り香が広がったようにも思えた。
菜月は、突然、このパンツにも少女の恥ずべき痕跡が残っているかもしれないことに気づ
いた。
わずかなためらいがあって、それが態度に出てしまったようだ。十数人が周りを囲んでい
れば、めざとい者もいる。
「恥ずかしがらないの」
いまさらのように脱衣の置き場所に困っていた菜月から、看護師がパンツをひったくって
いった。しかし菜月の心配をよそに、その看護師は少女の躊躇の真意まで気づかず、菜月
の下着をそれ以上気にすることはなかった。
「じゃあ、ベッドの上で四つんばいになって」
(今度は四つんばい……)
どうしても横向きにはさせてもらえないらしい。また守るもののない下半身をさらさなくては
いけないのだ。
ベッドの上で、菜月はポーズをとりながら、自分は犬のようだと思った。格好といい、従順
なところといい、まさにそのものだ。
菜月は、四足の獣を想像しながら、はいはいしてベッドの中央まで進んだ。
「そうそう、肛門がよく見えるように、おしりを出来るだけ天井に突き出して。頭と胸をベッド
につけるのよ。足は、こう」
口調は柔らかだが、看護師は菜月の足を強くつかんで、「ハ」の字に広げる。
ひざを突いた四つんばいから、両足を開かされたことで、かろうじて性器を隠していた太
ももは左右に分かれ、菜月の肛門から陰唇にいたる一帯は背後から丸見えとなった。
この日、少女たちの秘部の公開は、何度も繰り返されてきたはずだが、なお衰えることの
ない好奇の視線が突き刺さるのを、菜月はじっと耐えなければいけなかった。
しりを突き出したそのポーズはあまりにも扇情的なのだ。
(ううう)
菜月もまた、慣れることはない。
午前の検査までは、若い男性たちも努めて冷静に女子生徒に接しているように思えなくも
なかったが、菜月はすでに、彼らの本音らしきものを聞いてしまっている。
彼らは間違いなくオスの目で、少女たちを見ているのだ。
(……ひっ)
硬い器具の挿入を受け入れさせるためだろう、ここでも肛門へのマッサージが行われる。
前の看護師にあれこれいわれたからというわけでもないだろうが、菜月はふたたび、例の
奇妙な昂揚を覚えずに入られなかった。
(やだ……こんなところ触られて、どうしてこんな気分に……)
あの場所がじわりと湿った気がした。
菜月にはこの後に行われる浣腸よりも、この昂揚がもたらす性器への反応のほうが気に
なってしょうがない。そうでなくても先ほどの痕跡が残ってはいないか気がかりだというのに。
息が荒くなりかけていた菜月は、それに気づいてあわてて呼吸を整えた。
心配が杞憂に終わることを願いながら。
「これから浣腸するからね、いい?」
いいも悪いもないだろうに、看護師はそんなことを聞いてきた。手には大きな注射器のよ
うな浣腸器具を持って、それを菜月に見せながら。
中には薬液がなみなみと入っていた。
彼女はいつまでも菜月の返事を待って、顔をのぞき込み続けるものだから、菜月はしか
たなくうなづく。
「……はい」
返答を確認した看護師は、それから後ろに回って、浣腸器を菜月のしりに押し当てた。
「はい、入れるから、力を抜いてぇ」
その言葉が終わるか終わらないうちに、その硬い突起は、菜月の肛門に突き刺されたの
だった。
「あうッ」
「普通より、ちょっと多めに入れますからねー」
人体に液体を流し込むのに充分な深さに、浣腸器具の先端は挿入されたようだ。
そして、硬いだけの違和感だったその場所に、すぐにひんやりとした感覚が広がりを見せ
ていく。
(入ってくる……、つ、冷たいよぅ――)
薬液が注ぎ込まれるその独特の感触は、徐々に菜月の下腹部全体を支配していく。
導尿のときとはあきらかに違う。あのときよりもはるかに広い範囲に、その液体は染み渡
っていくようだった。
(ま、まだ? まだ入れるの?)
想像よりもはるかに多い。
普通より多いといわれても、なにを基準にしているのかまるでわからない。
菜月は単に浣腸と聞いて、便通をよくする程度のものしか考えていなかったが、そもそも
この検査はその程度のものではないようだ。
浣腸器の大きさ、浣腸液の量を見ればそんなことは想像できたはずなのだが、実際に使
用するのはあの液体のほんの一部ではないのかという期待がどこかにあった。
(こ、こんなに入れなくったって……)
菜月は知らず知らずのうちに、背を丸めて浣腸から逃れようとしていた。
「暴れないの」
パシッ、と菜月は軽くしりを叩かれた。
周囲から看護師たちに体を支えられている今の菜月に、暴れるどころか多少なりとも動く
ことすらそもそも不可能なことであるのだが、看護師たちはわずかな抵抗さえ許すつもりは
ないらしい。
「もう大きいんだから、一度でわからなきゃダメじゃない」
そういいながら、ピシャピシャと続けてしりを打つ。浣腸を受けるため突き出された菜月の
しりは、看護師にとって叩くのに格好の獲物となっているのだ。
平手であるし、ほとんど痛みを覚えない程度のものであるが、思春期の少女にはまさに
屈辱的な仕打ちだった。
満座の中、四つんばいにされてのおしり叩きだ。しかも全裸、白い肉は見事に剥き出しな
のだ。さらに浣腸の真っ最中と来ている。
その上、おしり叩きを受けている菜月を見て、残りの周囲の者たちも失笑を隠そうとさえし
ていない。
たとえ菜月が幼児であったとしても、恥じらいを覚えずにはいられない状況だろう。
そして菜月は幼児ではなく、一〇代の少女そのものだった。世の中で、誰よりも羞恥心を
強く持っているとされる存在だった。
(うう――――っ、……こんなっ……)
菜月は恥辱に体を震わせ、熱くなった顔をベッドのシーツに押し付けた。
未成熟な少女が辱めを全身に受けている姿を見て、ある種の満足にいたったのだろうか。
このときやっと菜月のしりを叩くのをやめた看護師は、叱責には似つかわしくない笑みを浮
かべて、いった。
「もうすぐうんこしたくなると思うけど、今度はおとなしく我慢するのよ」
看護師のその言葉は注意ではない。
避けられない菜月の暗い未来をことさらに強調することで、少女の不幸をあざ笑うとともに、
自分の優位性を示したのだ。
しかも救いのないことに、この看護師が特別に悪意に満ちているわけではなかった。他の
者にしたって、浣腸を受けて、恥ずかしさと腹痛に顔をゆがませている少女を、心配するよ
りも楽しげに見る目のほうが多いのだ。
「今度動いたら、もう一回おしりペンペンしますからね」
またも二、三回、パンパンと菜月のしりを打ちながら笑う。幼い子供に諭して聞かせるよう
な、必要以上に優しい声だった。
だが、その声は、ほとんど思いつきで実行したこのお仕置きが、年頃の女子生徒たちにど
れほどの屈辱を与えるのか、それを発見した悦びに他ならなかった。
菜月のしりを叩いた看護師と、浣腸を続けている看護師は別なので、当然のことだが、こ
うしたやり取りの間も浣腸が途切れることはない。
とくとくと、少女の決して大きくないその器に、液体は容赦なく注ぎ込まれていく。
最初に注入された液体の冷ややかさには慣れたが、液体の流入はなおやまない。
(ああああっ、もうだめー……)
ほとんど空っぽだったであろう菜月の腹は、すでに浣腸の液で存分に満たされたように思
えた。
おなかがぷっくりと丸みを帯びてふくらんで、どこか愛らしさを増したようでもあった。
薬液が腸にいっそう染み渡り、ごぽごぽと音を立てた。
「む、無理です、もう入らない。あっ、やめ、やめてぇ」
「大丈夫よ。もう少し入るから」
いよいよ苦しくなってきた菜月を看護師は笑って冷たくあしらう。
そんなことをいわれても、菜月にはとても大丈夫などと思えないのだが、浣腸の執行者た
ちは取り付く島もない。
「――ああっ、痛い痛い、おなかが、おなかが痛いですっ」
「我慢して。もう終わりだから」
そうはいうものの、なお薬液の注入は終わらない。菜月はもう限界だと思った。続けて、お
なかが動くのを感じた。
ぎゅるぎゅるぎゅると、菜月の腸が大きな音で鳴いた。
「いやぁ、だめ、やめて。お願いです、もうやめて、あううッ」
とうとう菜月は、看護師たちが抑えてくるのもかまわず、腰を振って浣腸から逃れようとした。
先ほどの音は周囲の者にも聞こえただろう。どんな理由であれ、おなかが鳴るのを他人に
聞かれるのは少女にとって恥以外のなにものでもなかったが、菜月はそんなことを気にして
いる場合ではない。
「苦しいです、もう入れないで、やめて、ください――」
「まったく。静かにしなさい」
懇願しながらなんとか浣腸をやめさせようと腰をひねるが、看護師に支えられたままでは、
しりを左右に振る程度のことしか出来ない。
浣腸器を持つ看護師もきちんと菜月の動きにあわせて動くので、肛門に突き刺されたまま
の浣腸器が抜けるはずがなかった。
性器もあらわにしりを振る少女の姿がまた愉快だったのか、クスクスと笑い声が漏れた。
(続く)