石本が理沙を一旦床に降ろそうとする。尻が毛布に触れたとき、理沙はじっと石本の顔を見つめた。
「待っててね。いまストレッチャーを持ってくるから」
「あの、石本さん……」
「ん、どうしたの?」
理沙の脇の下から手を抜こうとして、石本は理沙の表情に気づいた。何か悩むような悲しむような顔。理沙はしばらく口をもごもご動かしていたが、やがて石本の顔を見つめたまま告げた。
「あの、このまま抱いてお風呂まで運んでくれませんか?」
「……あらあら」
くすっと石本が笑った。理沙の顔が赤くなる。石本は笑顔のまま再び理沙を抱えあげた。背中とお尻に手を回し、理沙をしっかり抱きかかえる。まだ熱く火照る尻を触られ、理沙は少し顔をしかめた。
「大丈夫?」
「あ、はい。……我侭言ってごめんなさい……」
「ホントにね。次に我侭を言ったら歯を抜く、って言ってあったのに」
「……あ」
「ふふ、冗談よ。……理沙ちゃん、初めて私に甘えてくれたわね」
赤ん坊をあやすように石本が理沙の背中を叩く。理沙は石本の髪の匂いを嗅いだ。シャンプーと香水、そして消毒薬の香り。ふと理沙は、既に他界した母親を思い出した。
ママ……いつもシャンプーと香水とかすかに洗剤の混ざったような香りがしていたママ。優しくて素敵で暖かくて……そしてもういない、ママ。
理沙は目を閉じてもう一度大きく石本の香りを吸い込んだ。石本が笑う。
「どうしたの、深呼吸なんかして」
「ううん……なんでもないです」
まさか「石本さんが一瞬ママに思えた」なんて言ったら気を悪くするだろうな。理沙はふと思い、今度はくすりと笑った。
「……ヘンな子ね」
「うん……」
理沙は小さく返事をした。鼻の奥がつんと痛む。石本が理沙のお尻をなでた。
そして石本はベッドに腰を下ろした。自らの膝の上に理沙を置き、傍らにある内線電話に手を掛ける。片手は理沙の背中に添えたまま、石本は受話器を握って指先で3桁の内線番号を押した。
トゥルルル……トゥルルル……。電話の呼び出し音が理沙の耳にも聞こえる。4回目の呼び出し音の途中で相手が電話を取った。
「はい。診察室です」
「もしもし、石本だけど」
電話の向こうから吉川の声が聞こえる。石本は軽く背中を逸らし、理沙の頭から距離をとって会話を続けた。
「うん、うん……予定よりちょっと早いけど……そう、お風呂に行きたいのよ……あ、まだ治療中?」
話しながら石本はちらりと理沙をみる。理沙は会話の内容を推察してみた。お風呂の順番だろうか、あるいはまだ診察室に誰か他の入院患者がいるのかな。石本の会話はその間も続いていた。
「……あ、もう片付けか……てことは、今ちょうど部屋に戻ってくる頃かな。うん……わかった、こっちから電話してみるね。うん……じゃあよろしく」
石本は受話器を耳から離した。フックを指先で押し、別の内線番号を押す。しばらくして今度は別の看護師と会話を始めた。
「……もしもし、石本だけど……あ、もう部屋に戻った? うん、これからうちの理沙ちゃんをお風呂に連れて行こうと思って……。じゃあもう大丈夫ね。うん、お疲れ」
受話器を戻して石本は理沙の尻に再び手を回す。そして軽く掛け声をあげながら立ち上がった。数回理沙を揺すってバランスを取り、やがて石本はゆっくりと歩き出した。二重扉をそれぞれゆっくり開け、しんと静まり返った廊下に出る。
「あの……今の電話は?」
「ん? ああ、他の患者さんよ。廊下や診療室で鉢合わせすると具合が悪いでしょ?」
ああ、と納得して理沙は廊下に並んだ病室の扉を眺めた。ここに入ってから看護師や先生以外の人に逢ったことがない。ややもすると自分だけが入院患者じゃないかと勘違いするが、他に何人もの患者さんがいることを改めて感じた。
診療室の階に停まったエレベーターは静かに扉を開く。既に見慣れた風景の真ん中には吉川が立っていた。肘までを覆う長いラテックスの手袋を嵌めたまま片づけをしている。
「あら、いらっしゃい」
「……吉川さん、その手袋……!」
吉川が笑顔で振り向いた。しかし理沙は、彼女が嵌めていた手袋に目を奪われた。手袋は手首と肘の中間辺りまで血に濡れていた。吉川がその視線に気づき、自分の掌を見る。くすっと笑って石本が理沙に説明をした。
「驚いた? あれもリハビリなのよ」
「リハビリって……手術でもしたんですか?」
「まさか」
ふふっと吉川が笑った。診療用のベッドの上に広げたシーツをたたみ、手袋とともに大きなゴミ箱へ捨てる。その作業を続けながら説明を続けた。
「今までここでやってたリハビリってのはね、患者さんのヴァギナとアナルに私の腕を入れていたのよ」
「え……ええっ?」
理沙は眼を向いて驚いた。細身の吉川とはいえ、その腕は充分な太さがある。先日まで自分の直腸を責め続けたアナルプラグやご主人様のアレとはとても比べ物にならない。
「ふふ。そんなのが入るの、って顔をしてるわね」
「え、ええ……」
「あはは。理沙ちゃんにフィストファックはまだ早いかな」
「ふぃすと?」
きょとんと理沙が石本を振り返る。石本は笑いながら、ゆっくり歩いて診療ベッドに近づいた。そして腕に抱えた理沙をベッドの上で四つんばいにさせる。不思議そうに振り返る理沙に、吉川が両手を握ったり開いたりしながら告げた。
「つまりね理沙ちゃん、こういうことよ」
「ひあっ!?」
そして吉川は理沙の秘裂と肛門にそれぞれ拳をあてがった。理沙は咄嗟に腰を引きかけるが、石本がすぐさま理沙の腰に手を回し抱え上げる。吉川がぐっと拳に力をこめた。
「吉川さんっ! 無理、無理ですっやめてぇっ!!」
理沙は足を激しく動かして必死に抵抗した。肛門を吉川の拳が開いていく。そのごりっとした圧力に理沙は恐怖した。そして声を限りに叫ぶ。
「嫌あぁっ!!」
「……あはは、冗談よ!」
二人の看護師が同時に笑い出した。石本が理沙の腰から手を離し、理沙はそのまま大の字にベッドの上に倒れる。理沙は涙をためて看護師たちを睨んだ。その表情が可笑しくて、二人はさらに笑い続けた。
「は、はは。ごめん理沙ちゃん、あんまり本気に嫌がるものだから」
「だって……本当に怖かったんですよ!」
「ごめんごめん。だいたい理沙ちゃんには、フィストファックはまだ無理よ」
吉川が腹を抱えて笑いながら告げる。理沙は彼女の一連の行動から、フィストファックがどのような行為であるかを悟った。が、いまだ半信半疑でもあった。
「あの……でも、吉川さんの腕がその……本当に入るんですか?」
「うん。まあかなりハードな調教が必要だけどね」
「でもその……なんのためにそんなことを? そんなことして楽しいんですか?」
「じゃあ理沙ちゃん。藤原さんはどうしてあなたをダルマにしたの?」
う、と理沙は言葉に詰まった。ご主人様の性癖がかなり歪んでいることは、正直理沙もわかっていた。だからこそこのような狂気に満ちた手術にも同意したのだった。
「まあこの患者さんは」
ふ、と息を吐きながら吉川が腕を組む。
「調教がいきすぎて、肛門裂傷で緊急手術をした人なんだけどね」
「え?」
「運ばれてきたときはそりゃ凄かったのよ。肛門はぱっくり開いているし、そこからどくどくと血が流れてくるし、さらに膣炎まで併発していて」
「……ちょっと、他の患者さんの話をするのは禁止のはずでしょ?」
「これぐらいなら大丈夫よ。……で、手術は無事終わったんだけど、ちゃんと元通り腕が入る程度まで拡張しないと退院できないのよ。だから毎日こうやって、リハビリとして私の腕を突っ込み続けているのよ」
「……」
理沙はふと、自分の秘裂と肛門にご主人様が腕を突っ込んでいるところを想像した。
両腕が二つの穴に侵入する。理沙は泣きながらも歯を食いしばってその太い腕を自分の中に迎え入れた。
ご主人様は膣と直腸の奥でそれぞれ掌を開いたり、間にある肉壁を揉みしだく。その度に理沙は気絶するほどの苦痛と快感を感じ、はしたなくオシッコを漏らしながら全身を痙攣させ……。
「……理沙ちゃん?」
「は、はいっ!?」
心配そうに石本が理沙の顔を覗き込む。理沙は現実に引き戻され、慌てて顔を赤くした。
「どうしたの? ……あ、もしかしてご主人様にフィストされてるところを想像してたのかなぁ?」
「そ、そんなこと……!」
「ふふふ。退院してバージンを奪っていただいたら、そのうちお願いしてみたら?」
「そうね、もしかすると理沙ちゃんもそのうち、肛門裂傷で運ばれてくるかも」
「だったら毎日、私が両穴に腕を入れて一番奥をかき回してあげるわよ」
「そ、そんな……」
理沙の瞳に涙が浮かぶ。それをみて看護師たちは再び腹を抱えて笑い出した。
「それじゃあ理沙ちゃん、お風呂に行きましょうか。……汗とオシッコと愛液にまみれた理沙ちゃんの体、隅々まで洗ってあげる」
笑顔を浮かべたまま石本が理沙の体をベッドから持ち上げる。そして診療室の奥にある風呂へ向かって歩き出した。
「あれ、一緒に入るの?」
その背中をみながら吉川が石本に声をかけた。石本は首だけ振り向く。
「うん。結構乾いてるけど、私の制服は理沙ちゃんのオシッコでベトベトなのよ」
「あらら。理沙ちゃんお漏らしでもしたの?」
「違うわよ。……便座から落ちたの」
「……あら」
吉川が苦笑いを浮かべた。そして奥のロッカーへ向かう。
「じゃあタオルと一緒に替えの服、用意しておくわね」
「ありがと。……ああそうそう。お風呂から上がったら、アレするから」
「うん。アレね」
吉川が軽くウインクをした。石本も肩をすくめ、振り向いて脱衣所を目指す。理沙は不吉な予感がして石本に尋ねた。
「あの……アレってなんですか」
石本は脱衣所を通過し、直接風呂場に入った。マットを敷き、その上に一度湯をかけて暖めてから理沙を下ろす。そしてそのまま脱衣所との間の扉を開けたまま、石本は制服を脱ぎ始めた。左に並んだボタンを外すと、下着に包まれた豊満な肉体が露になる。
理沙は石本の体を見つめていた。うらやましいほどに豊かな乳房、大きいのにきゅっと持ち上がったお尻の肉。腰は綺麗にくびれ、秘部を覆う陰毛は大人の色香を漂わせている。
石本はその肉体を隠すことなく風呂場に入ってきた。理沙は慌てて視線をそらす。その様子を見ながら石本はかすかに笑った。そしてシャワーの蛇口を捻り、暖かい湯を理沙の背中にかける。
「さっきの質問だけどね。……理沙ちゃんの二つの穴に、入れるのよ」
「え!?」
驚いて理沙が振り向いた。途端、シャワーの湯が顔面にかかり理沙は思わずむせ返る。
「ほら、急に振り向くから」
「ごめんなさい……。でもあの、まさかフィスト……?」
石本は確か、さっきのリハビリのときに「罰を受けてもらう」って言っていた。それがどんな罰なのかはまだ聞いていない。もしかしたら……理沙は熱い湯が背中にかけられているにも関わらず、背筋に冷たいものが流れるのを感じた。
しかし石本は、理沙の背中から髪にシャワーをあてながら告げた。
「違うわよ。……アナルマッサージと、尿道に炎症止めの薬を塗るの」
「あ、なんだ……」
「ふふ。理沙ちゃんって想像力が豊かなのねぇ。それともただエッチなだけ?」
理沙はかあと頬を赤らめた。考えてみれば、さっきのリハビリも「緩くなったお尻の穴を元に戻す」のが目的だったはずだ。だったらお尻の穴に腕なんか入れるはずないじゃない。理沙はぶんぶんと頭を振った。石本が笑いながら前髪にゆっくりお湯をかける。
「あの」
「……なあに?」
髪から垂れる雫に、理沙は目を閉じた。口を開くとその中に湯が流れ込んでくる。それでも理沙は言葉を続けた。
「……じゃあ、リハビリの『罰』ってなんですか?」
「ああ。それはね」
石本はシャワーをとめた。そしてボディーソープのボトルを手に取り、白い液体をたっぷり自分の体に塗り込む。やがて彼女は理沙の傍らにごろりと仰向けになった。いぶかしむ理沙を見上げ、石本が口を開く。
「ほら理沙ちゃん。私を洗いなさい」
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