「……ご、ひゅひんはま?」
吉川に抱かれて脱衣所から診察室に戻った途端、理沙は言葉を失った。診察室には二人の医師とともに藤原が立っており、優しく理沙に歩微笑みかけている。しばしの沈黙のあと理沙は吉川の腕の中でもがき始めた。
「ごひゅひんはまぁ!」
「こら理沙ちゃん。まだ体をちゃんと拭いてないでしょ!」
彼女を腕の中から落としかけて吉川が慌てて抱えなおす。それでも理沙は泣きながら空を掻くようにもがき続けた。苦笑しながら藤原がそっと腕を伸ばすと吉川が彼女を引き渡す。その腕に抱かれた途端、理沙は大声で泣き始めた。
「逢いたかったよ理沙。よく頑張ったね」
「うう……わらひもあいたかったれふ……!」
まだ濡れたままの髪を藤原が優しく撫でる。理沙はしゃくりあげながら泣き続けていた。
天野が吉川に目配せをして、手に持った紙袋を渡す。その中身をみた吉川が微笑みながら理沙の背中に手を当てた。
「ほら理沙ちゃん。いつまで泣いてるの?」
「うう……らって、らって」
「ふふ。裸んぼさんじゃ恥ずかしいでしょ? ほら、ご主人様が素敵な服を持ってきてくださったわよ」
そう言いながら彼女は紙袋の中から服を取り出し、理沙の眼前で揺らす。それをみて理沙は顔をあげた。藤原は傍らのベッドの上に理沙を下ろす。彼女の体に巻きついていたバスタオルはいつの間にかほどけている。
生まれたままの姿をみられ、理沙は頬を赤らめた。今までずっと裸で生活をしてきたが、やはり主人の視線は特別らしい。彼女は体を丸めて少しでも秘部を隠そうとした。医師や吉川、それに藤原がその様子をみて笑った。そして吉川が袋から服を取り出す。
まず着せられた下着の、新品特有の肌触りに理沙が震えた。ショーツは少し小さく、剥き出しの陰核にこすれてやや痛い。しかしそれよりも、滲み出しはじめた愛液がショーツに沁みを広げていくのが恥ずかしかった。
スリップ、ブラウス、スカートが順に着せられていく。スカートは膝丈より長く、理沙の短く切られた足が隠されてしまう。そして長袖のブレザーを着せられると、顔のほかに素肌が露になった場所はなくなった。
最後に吉川が髪の毛を丁寧に梳る。その間に天野がブラウスの襟元のリボンを結びなおし、彼女の入れ歯を再び口の中へ入れた。
全ての作業が終わり、吉川が鏡を理沙の前に置く。
「わ……」
服を着た姿をみるのは自分でも久しぶりだった。手術痕はすべて服の下に隠れ、入院中に伸びた髪の毛が柔らかく肩にかかっている。服のサイズもぴったりで、落ち着いた雰囲気で統一されたデザインが理沙の少女らしさを一層際立たせていた。
「理沙」
藤原がゆっくり近づいてきた。そして彼女を抱きかかえると、いとおしそうに彼女の頭を撫でる。理沙もそのまま彼によりかかり、目を閉じて久しぶりの安心感に身をゆだねた。
先生が咳払いをしてから、白衣のポケットに手を入れたまま話しかけた。
「……では、先ほどご説明したとおりこれで退院の手続きは終わりました。続きはご自宅でごゆっくりなさってはいかがでしょう?」
「ふふ。それもそうだな。……じゃあ理沙、家に帰るぞ」
藤原は笑いながらもう一度理沙を抱え直した。吉川が部屋の片隅から車椅子を持ってくる。しかし藤原はそれを断り、彼女を抱えたままエレベータに乗ると地下駐車場の自分の車へ向かった。
鍵を開け、助手席にそっと理沙を下ろしてシートベルトを嵌める。運転席に乗り込んだ彼がエンジンキーを回した。そして窓を開け、見送りにきた病院スタッフに軽く手を振った。恭しく彼らが礼をする。理沙も短い腕を大きく振った。
「あのっ、ありがとうございました!」
窓が閉められるまでの間、彼女はずっと手を振っていた。顔を上げた吉川がくすっと笑い、手を振り返す。天野は腕を組んだまま笑っていた。先生も微笑みながら何度も頷いている。藤原がアクセルを踏んだ。車がゆっくり動き出し、スロープを通ってやがて地上に出る。
「わ……まぶしい」
外は快晴だった。ビルの合間から太陽がみえる。一月ぶりにみた太陽の明かりに理沙は目を細めた。ふふ、と藤原が笑う。理沙も彼の顔を眺めながら笑った。
その時理沙は、カーコンポから流れてくる音楽に気づいた。それは彼女が大好きな男性バンドの声だったが、聞いたことがない曲だった。不思議そうに首を傾げる彼女に藤原が照れくさそうに告げる。
「一週間ほど前に発売されたアルバムだ。……さずかに店で買うのは恥ずかしかったから、ネット通販で購入したんだが」
「……え、ご主人様が買ってくださったんですか?」
意外そうな顔をして理沙が尋ね返した。藤原は曖昧に笑う。今までこういうことに気を回してくださることなんかなかったのに……。驚きとともに嬉しさを感じながら理沙は笑った。そしてふと外の風景をみる。
車はちょうど信号に差し掛かったところだった。この信号を左折すればあとはまっすぐ、それでマンションに帰れる。しかし藤原はそのまま直進した。あれ、と思いながら理沙が遠慮がちに尋ねる。
「あの……今の信号、曲がるところじゃなかったですか?」
「いや。これでいいんだ」
車線を右に変更しながら藤原が答える。不思議そうに首をかしげた理沙を横目で見ながら藤原は静かに口を開いた。
「引っ越したんだ。……お前が生活しやすいように、それに少しでも職場が近くなるように」
「え?」
「私は仕事を辞めた」
「……ええっ!?」
理沙は飛び上がらんばかりに驚いた。シートベルトがなかったら実際に椅子から転がり落ちていたかもしれない。
(あの仕事人間のご主人様が?)
彼はめったに家に戻らず、理沙はいつも寂しい思いをしていた。たまに帰ってきても、彼女の思いなど気にもかけず乱暴にその体を貪った。だからこそ、彼の気を惹こうと思って無茶な手術にも同意した。……だけど、まさか仕事を辞めるなんて。
「ええっと、でもその……よろしいんですか? ご主人様が何よりも大切にされていた会社じゃないですか」
「もういいんだ。仕事よりもっと大切なものを見つけたからな」
そう言うと藤原はちらりと理沙をみた。思わず絶句した彼女をおかしそうに見ながら彼は速度を緩め、交差点を右折する。
「新しいマンションを買って、その隣の部屋に新会社を設立した。これならいつでもお前の近くにいられる」
「ご主人様……」
「私は今まで仕事仕事でお前たちに構ってやれなかった。……これからはもっとお前と一緒の時間を過ごしてみようと思う」
「……あの」
理沙の目から涙が溢れた。手術の間、ご主人様もいろいろ考え、悩み、そして行動してくださったんだ。……辛かったのは私よりもむしろご主人様のほうかもしれない。何か言おうと理沙は口を開いた。そのとき藤原がすっと前方を指差す。
「ほら理沙、あのマンションだよ」
マンションの地下駐車場に車が静かに停まる。藤原は助手席の扉を開き、優しく理沙を抱えた。そしてそのまま数台並ぶエレベータの一台に乗り込み、最上階のボタンを押す。エレベータはゆっくりとあがり始め、理沙は扉の上の階数表示の電光掲示板を眺めていた。
「このマンションは分譲されたばかりでね、警備員もデリバリーも充実しているし、なにより一度動き始めたエレベータは途中で誰かが乗ってくることがない。それで奮発して、最上階の1フロアすべてを買ったんだ」
「え? あの、最上階全部ですか?」
「ああ。とは言っても東西南北各1部屋、全部で4部屋だがね。東と南は仕事場、北が私の書斎、そして西が私たち二人のプライベートスペースだ」
理沙を抱えなおしながら藤原が説明する。彼女は意外そうな顔をしてご主人様をみあげた。やがてエレベータが止まり音もなく扉が開く。
「わ……」
その途端彼女が感嘆の声を上げた。マンションの中央を貫くように設置されたエレベータを取り囲むように、広い廊下が伸びている。そして廊下の各面に扉は一つずつしかなかった。正面の扉には鉄製のプレートがとりつけられている。藤原がその扉に歩み寄った。
「ここが私の新しい職場だ。そして左側のあの扉も、会社の事務所や会議室が入っている」
穏やかに笑いながら彼は反時計回りに廊下を回った。次の扉にも同じようなプレートがついている。その次の、最初の扉からみて正反対にある扉には「藤原」という表札がついていた。
「ここが私の書斎だ。そして」
藤原が理沙を持ち直し、スーツのポケットからカードキーを取り出す。しかし目の前の扉を開けるのではなく、彼はさらに廊下を進んだ。四角形の廊下の最後の面についた扉の前に立つ。その扉には何も書かれていなかった。彼は扉の脇の機械にカードを差し込む。
「ここが私たち二人の部屋だよ」
鍵の開く音がした。藤原が扉を開く。中に入った途端、理沙は言葉を失った。
広い玄関を抜けるとその向こうに40畳ほどのリビングルームが広がっている。西向きの部屋の壁一面は嵌め殺しの窓になっており、都内はもちろん、ちょうど夕陽が差し掛かった富士山を遠くに望むことができた。
リビングの横には大きな対面キッチンとダイニングテーブルがあった。そしてリビングの壁際には病院で使っていたリハビリの機械とアームについたカメラが何台も並んでいる。部屋の中央にあるダブルベッドの上には洋蘭の花束が置かれていた。
ベッドの上に理沙を優しく降ろしながら藤原が彼女の髪の匂いをかいだ。理沙はただ呆然と窓の向こうに傾きかけた夕陽を眺めている。やがて彼女が振り向いた。藤原はただ黙って笑っている。
何か言おうと彼女が口を開くが、次の言葉がどうしても出てこない。代わりに涙が零れ落ちる。藤原がその雫をゆっくり拭った。それでも涙は次々に溢れてくる。
「あの……ご主人様……」
そこまで喋った途端、理沙は胸が詰まって言葉が続かなくなった。代わりに目を閉じてそっと唇を開く。そして二人は、退院後初めて唇を重ねた。
互いにゆっくり口を開いていき、その隙間から舌を絡ませる。藤原の舌が理沙の入れ歯と唇の間を丹念に舐める。思わず彼女は腰をくねらせたが、彼はその小さな尻をしっかり抱え込んだ。
快感の逃げ口を封じられ、理沙の官能が急激に高まる。彼女は自らの舌で彼の舌の裏をノックした。すると藤原は一旦舌を自らの口に戻した後、間髪いれずに理沙の舌の先端を叩いた。思わず彼女は舌をひっこめる。
しかし藤原はそのまま追撃し、逃げる舌先を執拗に追い回す。そのたびに口の中に溢れてきた唾液がかき回された。彼女がそれを飲み込もうとすると彼の舌が奥まで伸びてきて邪魔をする。
突然、彼がごろりとベッドに転がった。理沙を上にして、彼女の口にたまった唾液をごくりと飲み込む。そしてようやく、彼は唇を離した。甘い糸が互いの唇に橋をかけた。
「ご、しゅじんさまぁ……」
「甘いな、お前の唾液は」
藤原がにやりと笑う。ふふ、と理沙も笑った。そのとき彼女は、自分の腹の下に固い棒があることに気づいた。途端に理沙の笑顔が曇る。表情の変化に気づいた彼が怪訝そうな顔をする。理沙は再び口に溜まった唾を飲み込んだ。
「あの……約束、でしたよね?」
「ん、ああ」
退院したら私の処女を奪ってください……。それが、この手術に際して彼女が提示した唯一の条件だった。理沙はゆっくり藤原の体の上から降りると、短い手を布団の上について深々と頭を下げる。
「あの……痛くても我慢します。だから……なるべく優しく、してください」
藤原が理沙の衣服をゆっくり剥いでいく。陽はさらに傾き、部屋の中が赤く染まり、彼女の顔も同じぐらい赤くなっていた。彼女は脱がされることにいいしれぬ恥ずかしさを感じていた。
「ん? 理沙、これは?」
最後のショーツに手を掛けたとき、藤原が驚いたような声を上げる。股間部分の布が、まるでお漏らしでもしたかのようにぐっしょりと濡れていた。途端に理沙が恥ずかしげに足を閉じる。しかし彼はそのままショーツをゆっくり剥ぎ取った。
「うう……だって、私がキスに弱いのはご主人様もご存知でしょう?」
理沙が少し拗ねたようにぷいと横を向いた。それをみながら、彼はゆっくりと自らの服を脱ぎ始めた。
ちらちらと理沙が横目で彼の体をみる。幾度か互いの視線があい、その度にぷいと彼女が視線をそらし、彼がおかしそうに笑う。そして彼が全裸になったとき、理沙は思わず彼の股間を凝視した。
おおよそ一月ぶりに見た彼のペニスは天に向かって高くそびえるように屹立している。その固さと熱さを思い出すと、期待とともに不安が理沙の心に広がってくる。
「どうした。怖いのか?」
「あ、いえその、久しぶりに拝見しましたので」
「私も痛いぐらいだよ。なにせお前が入院して以来、一度も射精していないからな」
「え……?」
「ふふ。一月ぶりの濃くて熱いモノを、お前の腹の奥へたっぷり注いでやるからな。……ん、どうした理沙?」
藤原が再び理沙の肩に手を掛けたとき、彼女は唇を噛み締めて泣いていた。不審気に尋ねる彼に、やがて彼女はわっと泣き出しながら謝りはじめた。
「申し訳ありません! 申し訳ありません……!」
「どうした? なにが申し訳ない?」
「私……入院中にオナニーをしちゃいました! ご主人様が我慢されていたときに、私は……私は……!」
理沙は布団の上で土下座をしながら、手術の直前に行った自慰を告白した。自らの指で達した初めての、そして最後のオナニー。手術直前という極度のストレスの中とはいえ、彼女が肉欲に負けたことには違いなかった。
「申し訳ありませんでした……」
「いや、いいんだ。辛かったのはお前のほうだったんだから」
告白が終わり、理沙は再び頭を下げる。しかし藤原は息を大きく吐きながら理沙の肩を叩いた。彼女が自慰を自制していたことすら彼は知らなかった。
しかし彼女は布団の上で向きを変えた。彼に尻を向け、膝だけを立てて高く自らの尻を持ち上げる。しゃくりあげながら理沙は小さな声で呟いた。
「どうか至らぬわたくしに、罰をお与えください……」
そのまましばらくは、部屋の中に彼女のしゃくりあげる音だけが響いた。やがて藤原は傍らに脱ぎ捨てた自らの服からベルトを取り上げ、布団を一回叩く。ぱあんという音に理沙の尻がびくっと震えた。
「う……ああ……」
これは理沙なりのけじめなのだろう。私が許すといっても彼女は決して納得すまい。妙なところで頑固なのは親のどちらに似たのやら。藤原はそんなことを考えながらベルトを鳴らした。恐怖に理沙の尻が震えている。ここはひとつ、強烈な罰を与えるとするか。
「よし。じゃあ今日は特別に、百叩きの罰を与えてやる。最後まで自分で数を数えろ」
「ひっ! ……はいぃ……よろしく、お願いします」
理沙が返事を言い終わらないうちに、藤原は手にしたベルトを彼女の尻に振り下ろした。悲鳴が部屋に響き、しばらくして「……いっかい」という押し殺した声が聞こえた。その瞬間二発目の鞭が打ち据えられる。彼女の背中が大きく反りあがった。
部屋に濃紺の闇が満たされる頃、ようやく理沙が「ひゃ……っかぃ……」と搾り出すように告げた。藤原は息を整えながら部屋の明かりをつける。蛍光灯の灯りの下に照らし出された理沙の尻は、赤を通り越して青く染まっていた。
うつ伏せに倒れこむ理沙の腕を握り、彼はごろりと彼女を仰向けにした。涙と涎に濡れた顔が、尻の痛みに歪む。藤原はそっと汗にまみれた彼女の額をぬぐった。苦しげな表情ながら、彼女が小さく微笑む。藤原もにやりと笑い、再び彼女の唇にキスをする。
彼は続いて、四肢の切断痕に口づけをした。足の手術箇所にキスの雨を降らせたあと、彼はそのまま太腿を舐めながら除所に彼女の秘所へと舌を近づけていく。理沙は恥ずかしさとくすぐったさに身悶えるが彼は構わず舌を進める。
やがて彼は、秘所の手前までくるとぐるりとそこを迂回し、臍の下にあるもう一つの手術痕を舐め始めた。卵管結紮により彼女は一生子供を産めない体となった。これも藤原の望んだことだという。
その理由が理沙にはよくわかっていた。私はご主人様の子供を産むわけにはいかない。だからこそご主人様は万一を考えて今まで私の処女を奪おうとされなかったのだ。
いよいよ彼の舌が秘裂に進み始めた。包皮を除かれた陰核を舌先で転がされると、それだけで達してしまいそうなほど強烈な快感が彼女を襲う。音を立てて愛液を啜る藤原に、震えながら理沙は声をかけた。
「ご……主人様ぁ、早くくださぁい……。そ、そんなに責められると、イッちゃいそうですぅ……」
「我慢しないでイっていいんだぞ?」
「いやです……ご主人様と一緒に、イきたいんです……!」
達する直前にまで上り詰めて、彼女の歯がガチガチと鳴る。藤原は秘裂から離れて口元をぬぐった。そして今にも暴発しそうな自らのペニスに手を添えて、彼女の膣口にそれを押し当てる。理沙はきゅっと目を瞑った。
「……いくぞ」
「はいっ……!」
次の瞬間、熱く焼けた棒が理沙の体を貫きはじめた。藤原が彼女の太腿を抱え、徐々に体重をかけていく。やがてペニスの先端が理沙の処女膜を突き破った。破瓜の痛みに叫びだしそうになるが、理沙は必死にその悲鳴をかみ殺した。それでも涙は溢れてくる。
彼女の涙をぬぐい、一番深いところまで挿入したまま藤原は理沙を抱きしめた。
「……痛いか?」
「うう……想像していたほどじゃないです……」
「そうか。ゆっくり動くぞ」
「はい……っ!」
藤原が少しずつ自らを抜いていく。抜ける直前で再び挿入が開始され、そのたびに理沙は呻き声をあげた。少しずつ彼のピストンが早くなる。痛みに慣れ息を漏らし始めた彼女を藤原は抱え起こし、座位に体位を変えた。
自らの自重でより深いところに挿入され、理沙が鼻に抜けるような声をあげる。藤原はそっと彼女の髪をかきあげた。ピストンを一旦休み、軽いキスをする。唇を離すと彼は理沙の腰に手を当て、揺らすように挿入を再開する。
「は……くふ……」
「……理沙、済まなかったな。私の我侭につきあわせて」
「くぅん……え、今……なんて?」
「私の性欲の道具……さらにいえばストレスのはけ口をお前だけに求めてしまった。すまなかった」
「そんな、私は……」
「お前が入院している間、いろいろ考えたよ。仕事のこと、お前のこと、自分のこと、そして……理恵のこと。そして気づいたんだ。私にとって一番大切なものが何か」
二人のつながった秘部から血と愛液の混ざった泡が布団におちる。
「理沙、私は……」
「ご主人様」
藤原が次の言葉を述べかけた途端、理沙が口を挟んだ。痛みに耐えながらも微笑みを浮かべて告げる。
「私もご主人様が一番大切です。ご主人様が、私のすべてなんです」
理沙の膣の一番奥で、藤原のペニスが震え始める。破瓜の痛みに勝るほどの快感が湧き上がり、はあっと彼女は息を漏らした。藤原が荒い息を吐きながら彼女に語りかける。
「ここは私とお前だけの空間だ。……だから理沙、もう『ご主人様』なんて呼ばなくていい」
「え……」
「ご主人様じゃなく、昔みたいに私のことを呼んでくれないか」
ふと、四肢切断手術の最中にみた夢が脳裏に甦った。ご主人様が優しく私の処女を奪ってくださる夢。あのときは確か、その言葉を告げる直前で目が覚めた。
理沙は急に怖くなった。もしかしたらこれも夢なんじゃないか。次の瞬間目が覚めて、私は病院のベッドの上にいるんじゃないか。そもそもまだ入院する前だったら? ご主人様と一緒にすごしてきた今までの十数年が、もしも夢だったら。
彼女は夢中で藤原の唇を求めた。上下二つの口で互いに結ばれながら、理沙はようやく決心をする。そして口を離し、自分でも聞こえないほど小さな声で告げる。
「……パパ……」
その途端彼女の膣が急激に締まった。搾り取られるような熱さに彼も一気に高まっていく。一月ぶりの射精が近づいていることを二人は感じ取っていた。理沙の瞳から涙がとめどなくこぼれる。藤原も我知らず泣いていた。
「パパ……」
藤原が腕の中に娘をきつく抱きしめた。数年ぶりのその響きは、彼に忘れていた遥か昔の思い出を鮮明に甦らせた。理恵との出会いから結婚、理沙の出産、はじめて彼女が自分のことを「パパ」と呼んだ日のこと……。
「パパ……パパぁ、パパァッ!」
「理沙、理沙……理沙っ!」
二人が同時に互いのことを呼び合った。と同時に彼は娘の子宮に大量のスペルマを放つ。彼女もまた父の熱い一撃を体の奥に感じながら、今までで最も激しい絶頂を迎えていた。
おいしそうな匂いに理沙は目を覚ました。窓からは暖かい朝の光が差し込んでおり、リビング奥の台所からは鼻歌が聞こえる。
「……ご、ご主人様!」
その歌声の主が藤原であることに気づいて理沙は慌ててベッドから起き上がろうとした。途端、体中が激しく痛み、そのまま布団につっぷしてしまう。
「大丈夫か? 無理はするな」
「は、はい……いてて」
何とか首だけ動かし、台所から心配そうに覗く藤原に理沙は笑顔で答えた。なんとか腕を伸ばして起き上がると、目の前の布団に破瓜の血の痕が沁みになって残っている。今更ながら昨晩の痴態を思い出し、彼女は頬を赤らめた。
あのあと膣だけでなくアナルや口もたくさん犯された。そのたびに理沙は激しく昇りつめ、最後には気を失ってしまった。まだ秘裂や肛門には、何かが挟まっているような違和感がある。
ベッドの上に座りなおし、彼女は改めて藤原をみた。ラフに背広を着こなし、その上にエプロンをつけてフライパンを手にしながら機嫌よく歌を唄っている。
入院する前、台所仕事に限らず家の仕事はすべて彼女の領分だった。だから彼が料理しているところなど見た記憶がない。意外に似合うその姿を、理沙は彼に聞こえないように声を押し殺して笑い続けた。
「ん、どうした? 私が料理をするのがそんなに珍しいか?」
「あ。いいえそんなことは。……ところで何を作っておられるんですか」
「ホットケーキだ。まだお前が小さい頃はよく焼いてやったんだが、さすがに覚えてないかな」
「……あ、そういえば」
理沙は記憶を手繰った。そういわれればまだ幼かった頃にパパとママと三人で、たっぷりシロップとバターをつけてホットケーキを食べたことがあった。
彼女が回想にふけっている間に、藤原は大皿に焼きあがったホットケーキを載せた。そしてテーブルの上にそれらを並べると、まだ裸の理沙を抱きかかえて椅子に座らせる。
「お尻はまだ痛むか?」
「いえ、大丈夫……です」
青痣のついた尻は激しく痛むが、理沙は気丈にそれを隠した。藤原が理沙の前にマットと皿を敷くと、ホットケーキを大皿からとってそれにたっぷりシロップとバターをつける。
「うわ、ご主人様……かけすぎですよぅ」
「ん? 理沙は甘いものが好きじゃなかったか」
「それはそうですけど……」
「はは。もう虫歯になる心配もないからいいじゃないか。ほら、あーん」
藤原が笑いながらホットケーキにナイフを入れる。一口大の大きさに切って、それを理沙の口に運んだ。彼女も素直に口を開き、シロップが滴り落ちるケーキを食べた。
「どうだ、うまいか?」
「……ちょっとお焦げが苦いです……」
「済まん済まん。十年ぶりぐらいだからな。……ほら、あーんして」
新たな欠片が口に入れられる。懐かしい味、甘くほろ苦い味が再び口の中に広がった。彼女は鼻の奥に痛みを覚え、涙がこぼれないよう上を向いた。藤原が自分で別の欠片を自らの口に運ぶ。
「ところで理沙。オレンジジュースとアップルジュースならどっちが飲みたい?」
「え? あ……と。じゃあオレンジジュースのほうが」
瞬きを繰り返しながら理沙が答えた。すると藤原は立ち上がり、冷蔵庫から100%ジュースの紙パックを取り出すと、小さなコップにその中身を注ぎ込む。理沙が恐縮しながらお礼の言葉を言う。そのコップを彼女の前に置きながら彼は椅子に座りなおした。
「いいさ。娘のためにすることだからな」
「……申し訳ありません」
「敬語も使わなくていい」
「……うん。……パ、パパ」
恥ずかしそうに理沙が告げた。藤原も照れたように頭をかく。ふふ、と笑いながら理沙はコップを短い腕で挟み、ストローを口に含んだ。
そのとき玄関の呼び鈴がなった。理沙がびくっと震えるが、藤原は悠然と椅子から立ち上がり玄関へ向かう。彼は扉を開くと、何やら女性と会話をしているようだった。ジュースを飲みながら、理沙が怪訝そうに玄関の様子を窺う。
するとその女性は藤原と一緒に部屋の中へ入ってきた。え、と思う間もなく、その女性がリビングに現れる。女性の顔を見たとき、理沙は驚いて手にしていたコップを倒した。ほとんど空になっていたコップはランチョンマットの上を転がり続ける。
女性が機敏に動いて、コップが床に落ちる直前にそれを止めた。傍らに立つ彼女の顔を呆然と見つめたまま、呟くように理沙が語りかける。
「あの……石本さん、どうして?」
「ふふ。お久しぶりね。理沙ちゃ……じゃなかった、理沙お嬢様」
石本がいつものいたずらっぽい微笑みを浮かべながら理沙を見た。藤原が愉快そうに笑いながら説明をする。
「私が仕事をしている間、お前の面倒をみてもらうヘルパーを探していたんだがなかなかいい人がみつからなくてね。そこで、病院のビデオに映っていた彼女に無理を言って、ヘッドハンティングしたんだ。基本的に平日の朝から夕方まで、彼女に世話してもらうことになる」
「ふふ。私なら理沙お嬢様のリハビリや健康状態の管理も問題ないでしょ?」
「ああ……」
理沙はようやく状況を理解した。と同時に、喜びと怒りの感情が同時に湧き上がってきた。
「……ひどいです石本さん! 知ってたんならどうして言ってくれなかったんですか!」
「ごめんね。でも急なことだったのよ。それに理沙ちゃん、抜歯の熱でずっと寝たまんまだったし」
微笑みながら石本が謝る。理沙はしばらく彼女を睨んだあと、ふっと表情を緩めて笑い出した。石本も声を出して笑う。その様子を眺めていた藤原が腕時計に視線を移した。
「ああ、もうこんな時間だ。石本くん、あとはまかせていいかな」
「はい。お仕事頑張ってください。……さ、理沙お嬢様。お食事のあとはお風呂で体を洗って、そのあとは楽しいリハビリですよ〜」
「ふふ。お前の様子は職場の私専用のパソコンでいつでもモニタできるようになっている。石本くんの言うことをよく聞いて、しっかりリハビリを続けるんだぞ」
言いながら彼はエプロンを外し、ネクタイを締めなおした。そしてにやりと笑うと、理沙の耳元に口を寄せて囁く。
「真面目にリハビリをすれば、今晩もたっぷりかわいがってやる。楽しみにしてなさい」
「……はい!」
満面の笑みを浮かべて理沙が頷いた。石本が彼女を抱え、玄関先まで藤原を見送る。靴を履き、鞄を手に彼が扉を開けようとする。そのとき理沙は彼を呼び止めた。
「ごしゅ……じゃなかった、パパ?」
「……うん?」
振り向いた藤原が理沙の顔を覗きこむ。彼女は上体を伸ばして父の頬に軽いキスをした。そのまま彼の耳元でそっと囁く。
「ありがとうパパ。私、いま凄く幸せだよ?」
「……ありがとう理沙。じゃあ行ってくる!」
優しい笑みを浮かべながら父が玄関を開いた。その背中に短い腕を振りながら、娘が楽しげに告げる。
「いってらしゃい! 早く帰ってきてねっ」
おわり