「じゃあ理沙ちゃん、うつ伏せになってね」
再び生え始めた陰毛と腹部の産毛を剃り終えて、石本は理沙に命じた。理沙も素直にはいと返事をし、ゆっくりと体位を変える。
抜糸から二日、いよいよ残された二つの手術が行われる。そのための準備が行われていた。すでに四肢を固定する鎖は外され、理沙は自由に動くことができるようになっている。もちろんこれは、一人ではどこかへ逃げることなどできないからでもある。
短い腕を懸命に振りながら、理沙はベッドの上を転がった。腕や足がないというだけでこれほどバランスがとりづらいとは思わなかった。仰向けから横を向くまでは大変だったが、そこからぽてんとうつ伏せになる。
石本が理沙の腰を抱えて持ち上げた。切り取られた腿で立ち膝のような状態になり、患部の痛みに理沙は顔をしかめる。石本はそのまま、理沙の肛門に刺さったままの太いアナルプラグに別のカテーテルをつないだ。
「はい、じゃあお浣腸しますよ」
宣告されると同時に、理沙の腸内に生暖かい液体がじわりと広がる。このアナルプラグは体温等を測定する以外に、刺したまま浣腸することができるようになっている。理沙は一日二回の浣腸責めに、未だ慣れることができないでいた。
毎回2リットル近い量を注腸され限界までガマンさせられる。苦痛なのではない。もちろん腹痛は辛いが、それ以上に排泄の快感と恥辱に彼女の心はいつも限界まで高められた。その快楽に慣れない、というほうが正しいだろう。
理沙は主人の手以外ではイかない、という誓いをしていた。既にその誓いは二度にわたって破られているが、だからこそ理沙は、いつか浣腸だけでイってしまうようになるのではないかと不安に思っていた。
簡易便器に跨がされ、プラグごと排泄させられた。そして丁寧にお尻がふかれ、再びベッドにうつ伏せに寝かされる。
「ふふふ。理沙ちゃんのお尻の穴、まだ広がったままよ」
「や、やぁ……」
「本当。肛門鏡を使わなくても、直腸の奥まで丸見えになってる」
くすくすと、石本と吉川が交互に理沙の直腸を覗き込む。理沙は肛門を閉じようと必死に括約筋に力を入れた。その様がおかしくて、二人はさらに笑いあった。
「あら。だいたい半分ぐらいしまってきたかしら」
「ほらほら、早く肛門をしめないと座薬がいれられないわよ」
「は、はいぃ……」
吉川がゴム手袋を嵌めながら、理沙の目の前に白い薬を置いた。人差し指の先ほどのその薬が「麻酔用の座薬」だと吉川が説明する。これが自分の直腸の奥まで差し込まれるの……? 理沙はその感触を想像し、くぅんと鼻で鳴きながら肛門にさらに力を込めた。
「……もういいかな。じゃあお待ちかねの座薬を入れるわね」
吉川が宣告する。理沙は布団に顔をうずめた。
「この前みたいに、オナラはしないでね」
「うう……ごめんなさい……」
そして吉川が肛門に薬をあてがう。理沙は肛門から力を抜いた。しかし薬が差し込まれた瞬間、無意識にきゅっと肛門を締める。
「そんなにお尻に力を入れてると痛いでしょ? 力を抜きなさい」
「は、はい」
理沙は肛門と直腸がこすられる痛みに歯を食いしばりながらも、肛門の力を抜いた。しかし吉川の指が少しずつ侵入するたびに、どうしても括約筋が彼女の意思とは裏腹にびくんと震える。
やがて吉川の細い指が根元まて刺さった。その先端にある座薬がさらに直腸の奥へ吸い込まれていく。しかし吉川は指をそのまま抜くことはしなかった。くっと指先を曲げ、理沙の直腸をくすぐる。
「ひ……や、なに?」
理沙が驚いて声を上げる。しかし吉川は「動かないで」と言いながら、さらに腸内で円を描くように指先を動かした。
「や……痛い、よお……」
「痛いのはこれかしら」
そして吉川は、理沙の直腸内にある小さな突起物に触れた。理沙はびくんと背中を仰け反らせる。
「ひゃあ……そ、それ……それ痛い、痛いですぅっ!」
「やっぱりね」
理沙が泣き叫びながら抗議する。しかし吉川はその返事を聞きながらもまだ直腸内をまさぐり続けた。石本が不思議そうに吉川に尋ねる。吉川は理沙の肛門をいじりながら答えた。
「痔ね」
「……痔?」
理沙と石本の声が重なった。吉川が説明を続ける。
「運動不足とアナルプラグの刺激から、どうしても痔になりやすくなるのよ。痔核の小さいのがひとつ……少なくともふたつあるわね」
「あらあら」
「まあ、まだ小さいから、毎日軟膏を塗ってれば治るわよ。……これらは毎日のお浣腸のあと、直腸マッサージもしてあげる」
「え……そんな……」
理沙は涙をこぼしながら吉川を振り返った。浣腸のあとの直腸マッサージ……。ただでさえ敏感になっている肛門とその性感をさらに刺激されたら……。しかし吉川は、そんな理沙の不安を無視してさらに言葉を続けた。
「……理沙ちゃん、ついでだからぎゅっと肛門に力を入れてみて」
「え? ……は、はい」
言われるまま理沙は肛門に力を入れた。直腸もあわせて閉まる。吉川の指の根元から指先までを理沙は感じることができた。ずきんと肛門が疼く。理沙が肛門を緩めると吉川は無言で指を抜いた。そしてそのままゴム手袋をとり外す。
「……あの、吉川さん?」
今の行為に何か意味があったんですか、と理沙が尋ねようとした。しかし吉川は手袋をゴミ箱に捨てながら呟くように言う。
「……緩いわね」
「はい?」
「理沙ちゃん……あなたのお尻、緩くなってるわよ」
吉川が振り向きながら真顔で言う。理沙はしばらく意味がわからずぽかんとしていたが、やがて顔を真っ赤にして反論した。
「ゆ、緩く……ってそんな!」
「最初の検査のときに比べるとね、全然違うのよ。まあ理沙ちゃんの場合、アナルが調教済みだったから最初もそれほどキツくなかったけどね」
「……で、でも」
「アナルプラグの拡張が過ぎたのかしら。……ああそれと、通算して十日ほど寝たきりってのもよくなかったのかも」
「え……」
「ずっと寝たきりだとね、肛門括約筋が衰えちゃうのよ。……このままだと退院する頃にはオムツが必要になるかも」
「そんな」
「……まあ、このあとの手術が終わったらリハビリが始まるから、そのときに肛門を鍛えるメニューを追加しましょう」
ふう、と吉川が溜息交じりに告げる。理沙は再び布団に顔をうずめた。
背中を丸めた猫のような体勢になって、理沙は横向きにベッドに寝転がった。石本が肩と腿を押さえる。理沙は不安げに首をめぐらせた。
吉川が理沙の腰骨の周りを丁寧に消毒する。そして傍らのワゴンから太い注射器を手に取った。わざと理沙に見えるように、持ち上げて蛍光灯に照らす。
「理沙ちゃん、これから脊髄麻酔をします。動かないでね」
「……そ、そんなに太いの……?」
振り返りながら理沙が怯えたように告げる。思った以上に注射器が太い。しかし何より理沙が怯えたのは、その注射針の長さだった。
石本が理沙の体を支える手にぐっと力を込めた。
「ほら、動いちゃダメでしょ」
「ごめんなさい……でも、あんな太いの……」
「怖い?」
石本が優しく尋ねる。理沙は震えながら小さく頷いた。
「大丈夫よ、そろそろ座薬の麻酔が効いてくるはずだから」
「で、でも……」
「じゃあ麻酔なしで手術する? 多分そのほうが痛いと思うけど」
石本が冗談を言う。吉川が脊髄の脇に手を添える。理沙はくうと歯をくいしばった。
そして腰骨の脇に針が刺された。ゆっくりと針が侵入してくる。
「ひ……っく!」
「痛い? でもガマンよ」
ぐっと力任せに石本が押さえ込む。理沙は涙をこぼしながらも、呻き声をあげるだけで痛みに耐え続けた。
「どう、しびれたりとか、電気が走ったみたいな痛みはない?」
「あ……はい、大丈夫……です」
長い時間をかけて吉川は少しずつ麻酔薬を注入していく。理沙はそれが早く終わらないかと、目を閉じたままひたすら祈り続けた。
「……はい、これでおしまい」
やがて注射器が抜かれる。針の痕に小さなパッチが貼られ、ごろりと理沙が仰向けにされた。そしてストレッチャーに移し変えられ、手術室へ向かう。
手術前室で前回同様に腹から下が消毒され、胸から上には布がかけられた。石本と吉川も手術用の衣服に着替え、理沙の脇にたつ。
「……気分はどう、理沙ちゃん」
「え……と、別にどうということもない……です」
「麻酔は効いてきたかしら?」
言いながら吉川がそっと理沙の下半身に触れる。しかし理沙にはその感覚がなかった。
「どう? どこを触っているかわかる?」
「いえ……あの、どこを触っているんですか?」
布で視界が遮られ、吉川がどこを触っているかわからない。胸から下の感覚がないことに戸惑いながらも理沙が尋ね返す。吉川は笑いながら答えた。
「クリトリスよ。今、指でこねまわしているんだけど」
「……え?」
「うふふ。この調子なら理沙ちゃん、処女膜を破られたって痛くないわよ?」
「え、ええっ!?」
「あはは、冗談よ。……それじゃ包茎手術と卵管結紮手術、始めましょうか」
石本が笑いながら手術室への扉を開く。そして理沙を乗せたストレッチャーは、手術室の中へ入っていった。
(続 く)