「……この機械はここでいいかな」
吉川と石本の声が聞こえる。理沙はベッドの中でまどろみながら、重い瞼を開けた。
昨日はあの後さらに五本の歯を抜かれた。今でも口の中は血の味がする。前歯や奥歯が上下でバラバラに抜かれているため食べ物を食べることができず、それ以上に痛みとショックで食欲がなかったため、昨晩は早々に眠りについた。
しかしそれでも、時折思い出したようにぶり返す抜歯の痛みに昨晩は幾度となく目が覚めた。さらに、天野が夢の中に出てきて残った歯まで抜こうとするため、理沙は睡眠不足を痛烈に自覚していた。
それでも理沙が瞼を開くと、ちょうど石本が理沙の顔を覗き込んでいた。爽やかに笑いながら石本は朝の挨拶をする。
「おはよう理沙ちゃん。よく眠れた?」
「……ううん」
不機嫌に理沙が答える。昨日の治療で顎が痛い。また、歯が欠けているので空気が漏れて満足にしゃべることができないでいた。理沙は柔らかい枕の上に乗っている頭を動かした。部屋の奥では吉川が機械の調整作業を行っている。
「理沙ちゃん、食欲はある?」
「……食べたくない」
ぼうっと吉川の背中を見つめながら理沙が答える。石本が困ったように口を開いた。
「でも理沙ちゃん、ゆうべも何も食べてないでしょ?」
「食べたくない……」
「……歯がない理沙ちゃんのために、流動食を作ってきたのよ」
「いらないってば!」
ぷい、と理沙は横を向く。本当は枕に顔をうずめたかったが、四肢がなく思うように寝返りができないので顔をそむけるだけにした。機械の調整が終わったのか、吉川が石本の横に歩いてくる。二人はなにやらひそひそと囁きあった。
「……しょうがないわね」
石本の声を合図に、吉川が理沙の体に手を掛けた。そしてぐるりと、左を下にして理沙の体を横に向ける。そして膝までしかない足をぐっと折り曲げ、ベッドについた拘束具で体を固定した。
一瞬の作業に理沙が驚いていると、石本は傍らのワゴンから太いカテーテルを取り出した。不吉な予感に理沙が「それは?」と尋ねる。しかし石本は、理沙が口を開いた瞬間、彼女の口に固いものを押し込んだ。
「ふ……ふうっ?」
噛む力が弱まっていた理沙はあっけなくそれを口に嵌められてしまう。開口マスクに似たその器具はにより、理沙の口は昨日のように大きく開けられたまま固定されてしまった。
吉川が理沙の背後からベッドに乗った。そして頭を持ち、ぐっと力を込めて固定する。石本は太いカテーテルを振りながら、理沙の前にかがみこんだ。
「に、にゃにを……」
「食事よ。理沙ちゃんは成長期なんだから、食事を抜いたらダメでしょ?」
言いながら石本はカテーテルを大きく開かれた口の中に入れた。強烈な異物感に理沙はそれを吐き出そうとするが、石本は構わずぐっと喉の奥まで管を差し込んでくる。
「ひ、ひやぁ……やめへ……」
「ほら理沙ちゃん。そんなに喉をしめていたらカテーテルが胃まで届かないでしょ?」
「ひ……!」
「流動食だからね。カテーテルで直接胃に流し込んであげるわ。……ほら、しっかり管を飲み込むのよ」
「ほ、ほんなぁ……! ゆるひへぇ。たべまふ、たべまふからぁ!」
理沙は泣きながら叫ぶが、石本はそのまま力任せに管を喉の奥へ押し込んだ。
「ほら、唾を飲み込むとむせ返るわよ。早くしないと苦しいのは理沙ちゃんのほうよ」
「ひゃあ……ゆるひへ……」
諦めて理沙は管を飲み込み始める。太いカテーテルは、今その先端がどこにあるのかを理沙に伝え続けていた。食道の奥がかきまわされるような辛さに耐え、吐き気を我慢しながら理沙はひたすらカテーテルを飲み込み続けた。
「……そろそろ、胃についたかしら」
カテーテルを操作していた石本がつぶやく。そして石本は、流動食をポリ容器に移し変え、カテーテルの末端につないだ。枕元のスタンドにその容器を吊るした途端、内容物がカテーテルをつたって理沙の胃に注がれる。
「ふ、ふぐうっ!」
「どう、苦しくない? 胃が膨らんでいくのがわかるでしょ?」
じわりと理沙の胃が広がり始める。それにつれて吐き気が強まり、理沙はそのおぞましい感覚に涙を流して耐え続けた。
「……あらら?」
頭を押さえる吉川が不意に声を上げた。石本がそれに気づき、次の瞬間彼女も悲鳴を上げる。
「きゃあ理沙ちゃん、お漏らし!」
「……え?」
理沙は石本に指摘されて、初めて自分が尿を漏らしていることに気づいた。最近ずっと導尿カテーテルを挿入されていたためか、オシッコを我慢するのが難しくなっていた。
慌てて石本が尿瓶を理沙の股間に当てる。それでもかなりの量が布団の上に漏れてしまい、お腹の下から太腿にかけてじわりと冷たい感触が広がる。
「もう、オシッコしたいならしたいって言ってよ!」
石本が尿瓶を手に理沙を叱る。尿瓶には容量の半分ほどの黄色い液体が溜まっていた。吉川が布団を心配する。理沙は恥ずかしさに頬を染めた。
「布団も洗わなくちゃね。……毛布の下に防水シートが敷いてあってよかったわね」
「……まったく、お漏らしした理沙ちゃんには何か罰をあげなくちゃいけないかしら」
石本が溜息とともにつぶやく。そしてワゴンの上から新しいポリ容器を手に取り、尿瓶の中身をそれにに移し替え始めた。
「ふ、ふっ!」
理沙は目を見開いた。流動食の入ったポリ容器はほぼ空になりつつある。石本はスタンドに尿の入った容器を吊った。そして流動食の容器につながったカテーテルの末端を外す。
「ま、まひゃか……」
理沙が石本の指先を見つめる。石本は笑って、カテーテルを尿の入った容器につなぎかえた。
「ひ……! ごめんなはい! ほれだけは、ほれだけはゆるひへぇ!」
「あら。理沙ちゃんはご主人様のオシッコを飲んだことはないの?」
「ひあ!」
カテーテルに黄色い液体が流れ込む。それが自分の口の中に入ってくるのを理沙は見つめた。ご主人様の尿を飲まされたことはある。しかし自分の尿を飲んだのは初めてだった。
「うあ……はいってふるぅ……胃のなかが……あふいよぉ……」
「反省した、理沙ちゃん? どっちにしても水分補給はするつもりだったし、胃に直接注ぎ込むんだからいいでしょ?」
ポリ容器が空になったら、石本はさらに浣腸器のような太い注射器に蒸留水を吸い上げて、その先端にカテーテルをつなぎなおした。そして注射器を操作し、カテーテルの中に残っているものをすべて胃の中に流し込む。
そのあとでやっと石本がカテーテルに手を掛けた。
「もし吐いたら、一からやりなおしだからね」
石本がカテーテルを抜きながら理沙に告げる。理沙は目を閉じ、今にも吐きそうになるのを必死にこらえた。カテーテルが抜かれた瞬間、口の中に酸っぱい液体が逆流してくる。理沙は涙を流しながらそれを飲み込んだ。
開口マスクのような器具が外され、石本が優しく理沙の口の周りを拭く。吉川は拘束具を外して、理沙を仰向けに戻した。
「……ああ、石本さん。ひどい……です……」
「素直に食べないからでしょ。明日、天野先生が入れ歯を入れてくださるまでは流動食ですからね」
「うう……ごめんなさい……」
「素直にしていれば、カテーテルは勘弁してあげるわ」
石本がカテーテルとポリ容器をまとめて廃棄用の袋に放り込む。そして振り向きざま、思い出したように理沙に語りかけた。
「そうそう。昨日、藤原さんから連絡があってね」
「……え、ご主人様から?」
理沙が思わず上体を起こす。石本は苦笑しながら、昨日藤原からあった連絡を理沙に伝えた。
「『私がしばらく近くにいなかったら、理沙は随分わがままになってしまったようだ。
これから始まるリハビリでは、理沙に厳しく躾をしていただきたい。
もし理沙が我侭を言うようなら、理沙の歯をすべて抜いてもらってかまわない』
ですって」
「……え?」
理沙は幾度かまばたきを繰り返した。吉川が軽く理沙の頬を叩きながら告げる。
「だからこれからは、わがままを言ったらダメよ。……総入歯になりたいなら別だけど」
「そ、そんな……。私、わがままなんて……」
「言ってないっていうつもり?」
吉川に指摘され、理沙はぐっと次の言葉を飲み込んだ。「奴隷が口答えをするな」とつねづねご主人様が言っていたことを思い出す。それに昨日の歯の治療では、随分と駄々をこねてしまった。
「……ごめんなさい。私、わがままでした……」
「あら、ずいぶん素直になったわね」
「それに免じて今回はノーカウントにしてあげる。その代わり、今後私たちの言うことには絶対服従よ。いいわね?」
「はい……」
理沙は目を伏せ、一度息を飲み込んで返事をした。満足そうに頷いてから、石本が口を開く。
「ところで理沙ちゃん。オシッコは出たけど、ウンチのほうはどう?」
「……え?」
その途端、理沙は下腹部に鈍い痛みを覚えた。入院して以来、毎日強制的に加えられた排泄を求める腹の痛み。自然に排泄欲求が沸いてきたのは久しぶりかもしれないと感じつつ、理沙は頬を赤らめてそのことを告げた。
石本と吉川が目を見合わせてにこりと笑う。そして吉川が、理沙の背後に再び回りこんだ。
「ひゃっ!」
そして、吉川は理沙を背後から抱え上げた。短い足を左右の手で持ち、幼児に用を足させるときのように左右に大きく割り広げる。
「な、なにを……」
理沙が尋ねた。しかし石本はそれを無視して、理沙の足元に洗面器を置く。洗面器には何枚もの紙が詰められていた。そして石本は、カメラを操作して理沙の露になった股間をアップで撮る。
「……な、まさか」
「あら、わかった? じゃあ理沙ちゃん、ここでウンチしなさい」
吉川が理沙の耳元で囁く。理沙は耳まで赤く染めて身をよじった。
「や、やぁだぁ! せめてトイレでさせてぇ!」
「だからこれが理沙ちゃんのトイレよ。ほら、お尻に力を入れて」
「で、でもこんなのって」
「何言ってるの。今まで毎日、大量にお浣腸して何度もウンチなんか見られてるじゃない。今更何を恥ずかしがってるのよ」
「だ、だって!」
今までは薬のせいで強制的に排泄させられていた。しかし今回は、自分の意思で排泄をしなければならない。いくら今まで幾度も排泄シーンを見られているとはいえ、その恥ずかしさは比べ物にならなかった。
「ほら、早くしなさい。これもリハビリの一環なんだから」
「そ、そんな! こんなリハビリって……」
「ずっと寝たきりだとね」
吉川が解説をする。
「腸の力と肛門の力が弱くなって、便秘と下痢を繰り返すようになるのよ。理沙ちゃんはこれから横になったままの生活が多くなるから、しっかりリハビリしておかないと」
「そうそう。それに、肛門の力が弱くなったらご主人様が満足してくれなくなるかもよ?」
「ふ、ふぅ……」
理沙は顔を赤く染めながら、ぐっと直腸に力を込めた。鈍い便意は感じ続けている。しかし、やはり誰かに見られながらの排泄には心理的抵抗があった。ぐっ、と肛門が膨れる。だが、出てきたのはぷうっという音と臭いガスだけだった。
「うぷ、臭い!」
「そんな……ごめんなさい……」
恥ずかしさに唇を噛み締めながら、理沙はもう一度肛門に力を込めた。しかし、再びおならが盛大に漏れる。その様子に石本と吉川が苦笑する。
理沙はもう一度肛門に力を込めた。
「……あ、何か茶色いものが見え始めたわよ」
「やぁ……言わないでください……」
ぐっと肛門の皺が延びて、その内側から茶色いものが頭を出した。理沙は短く息をつぎながらさらに肛門に力を込める。天井を見上げると、別のカメラが理沙の顔を写していた。肛門はじわりと広がり、内側からは長い棒状のものが少しずつ伸びてくる。
「ほらほら、もう少しよ」
「は……痛い……お尻の穴が痛いよぉ……」
石本が声援を送るが、理沙は肛門の痛みに歯を食いしばっていた。括約筋が限界まで伸び、痔が切れて激痛を脳に伝えてくる。思わず肛門に力を入れるが、固い便は一向に途切れることなくじわりじわりと排出され続け、理沙を苛み続けた。
「痔核持ちの理沙ちゃんにはキツいかしら? ほら、もうひとふんばりよ」
「く……は、はぁっ!」
理沙が一際大きな声で叫ぶ。その瞬間、長く延びていた棒状の大便が一気に肛門から噴出した。洗面器の中で半分に折れたそれは、先日まで理沙の直腸を支配していたアナルプラグにも匹敵するほどの太さと長さを誇っていた。
理沙の瞳から涙がこぼれる。唇を噛み締めながら、理沙は全身の筋肉が弛緩していくのを感じていた。秘裂からは少量の尿がちょろちょろと漏れる。それは秘裂をつたい、肛門で血と混じって太い便の上に降り注いだ。
「はい、よく頑張りました」
石本が優しく言いながら、理沙の尿で濡れた秘裂と、ひくひくと収縮を繰り返す肛門をウェットティッシュで拭いた。荒い息を繰り返していた理沙は、新しく切れた肛門の傷口を触れられ思わず叫んだ。
「いたぁっ!」
「うふふ。結構切れてるわね。これはまた後でマッサージしてあげなくちゃ」
「便秘は痔の大敵だからね、これからは毎日ちゃんとこうやってウンチをするのよ」
「そうね。あと尿道炎のお薬も、塗ってあげなくちゃ」
ベッドの上に理沙を降ろしながら吉川が告げる。理沙は排泄の羞恥心と奇妙な達成感を感じ、そしてアナルマッサージと尿道に薬を塗られる快楽を想像しながら、ベッドの上で荒い息を繰り返していた。
(続 く)