何だろう・・。
何の音だろう・・。
――木がざわめく音・・それは、間違い無い。
ただ、その中に、かすかに聞こえる――別の音。
虫の声・・違う。鳥や動物が鳴いているわけでもない。
美しく澄んだその音は、時に高く、時に低く森をたゆたう。
・・・あれは・・・笛の音・・?
しかし、そう思いかけた時、夢と現実の狭間で揺らめいていた少女の意識は、強い睡魔によって、再び眠りの世界へと堕ちて行った。
朝のまぶしい日差しが、空に満ちる。
輝く緑を眼下に見下ろしながら、一匹の子供の竜が、そのたくましい灰色の翼を強く羽ばたかせていた。
向かっているのは、一番の友達が待っている場所――。
しばらくして、その真ん中に小さな家がある、森の陽だまりが見えて来る。
急ぐようにそこに舞い降り、家の中を覗くと、可愛らしい窓の向うに、穏やかに眠っている少女が見えた。
あまりに気持ち良さそうな寝顔だったので、起こすのは可哀想だと思い、陽だまりの草地に降り立つと、日差しがたくさん当たるように身体を広げ、少女が起きるのを待った。
そうやって日向ぼっこをしながら、ふと、解けない疑問のような、何か妙な引っ掛かりを心に感じた。
「ルウ」その時、後ろから愛らしい声が聞こえた。「おはよう」
見ると、窓が開き、ローブに身を包んだ美しい少女が、顔を覗かせている。
ルウは嬉しそうにクルルル、と喉を鳴らし、少女に応えた。
「ちょっと待っててね」少女はそう言って、窓を開けたままそこから離れる。
しばらくして、窓の下にある扉を開けて、少女が姿を現した。
「待たせちゃったね。さ、行こう」
少女の身体が日向に出ると、その背中から生えた、透明な二対の羽が、日差しを浴びて光を放った。
久しぶりの、二人での散歩。全てが穏やかなはずの朝だった。
二人は、普段と同じように、草花を眺めながらのんびりと森を歩いていた。
ときたま立ち止まっては、木の実をかじったり、虫や小動物を眺めたりしていた。
しかし、少女はそんな和やかな森の中に、いつもと違う何かがある事を、なんとなく感じ取っていた。
ふと、ルウが立ち止まった。
「どしたの?」
見ると、ルウは自分の足元をじっと見つめている。
少女が覗きこむと、少女の手のひらと同じくらいの花が数本、そこで枯れていた。
「・・え・・あ・・」
少女は、唖然とした声を出した。枯れ草を見たのは初めてではなかった。
草を食べる虫や動物が、誤って根を傷つけてしまえば、枯れてしまうことがあるのも知っていた。
しかし、固まっていくつもの植物が死んでいるのは経験が無かった。
その時、近くの草むらでガサガサと何かが動いた。
少女と同じくらいの背丈のそれは二人に気付くと、素早く森の奥へ走り出す。
するとルウが突然翼で飛びあがり、木々の合間を縫ってそれを追いはじめた。
「あっ・・」静止する間もなく行ってしまったルウに、少女は不安に感じながらも後を追い始めた。
ようやくルウに追いつくと、そこには信じられない光景が広がっていた。
くすんだ茶色が円く広がっている――。
少女は言葉を失って、その場に膝をつく。その巨大な茶色い円の真ん中に、何かが立っているのが見えた。その手に、細く長い何かを持っている。
陰になっていて、その顔立ちなどはわからない。しかし、それは細く華奢な体つきで、少女と同じような姿である事は間違いなさそうだった。
また、少女と同じような長い髪を持ち、背中に二対の羽を生やしていた。
「あなたが・・こんな事を?」
少女は、泣きそうになりながらかすれた声を出した。
「答えてよ・・・。貴方は、いったい誰なの・・・?」
――私は・・
そう聞こえた気がした。
「え・・何て言ったの・・?」少女は慌てて問い返す。
――私は、影――
「・・影・・・・・それはどういう・・」
しかし『影』は少女の言葉を待たずに、手に持った何かを自分の唇に当てた。
そしてそこから流れたのは――
「笛の音・・・」
少女は、思わずつぶやいて、『影』を見つめた。森に、高く澄んだ音が響き渡り、流れる。
ざわざわとあたりの木々が音を立て、茶色い葉が無数に舞い落ちる。
そして、その音が半音下がった瞬間、少女はビクッ、と身体を震わせた。
「なっ・・なに・・・これ・・!」
少女の頬が、急速に赤く染まっていく。その息遣いは、愛らしい顔に似合わず獣のように荒くなっていった。
見ていると、少女のワンピースの胸のあたりに、小さな突起が二つ現れ、勃起した乳首がその存在を示し始める。
そして、『影』が司る笛の音がさらに半音下がった時、少女はついに声を上げ始めた。
ビクッ・・ビクッ・・
少女は身体を震わせ、その度に苦しそうな声を漏らす。
「あっ・・あっ・・あ・・・・!」
少女は手で顔を覆い、うめき声を上げながら、軽く達してしまう。
ルウが心配そうに少女の顔を覗きこんだ。
「・・どうして・・どうしてこんな・・・・・・あうっ!」
脊髄に強烈な快感が走り、少女は腰を突き出すように身を仰け反らせる。
するとさらに快楽は直接的に少女に流れ込み、少女は喘ぎながらぽろぽろと涙をこぼした。
「も、もうだめ・・・・出ちゃう・・よ・・!!
ルウ、見ないで、見ないで! ・・・・あっあっあっ・・あはぁぁぁぁぁ・・・ん・・!!」
その瞬間、ルウは慌てて顔を背ける。同時に少女はワンピースの上から、両手で股間を強く押さえ、身をよじった。
下着の中に、びゅっびゅっ、と熱いものが何度も噴き出し、その度に壮絶な快感と激しい尿意が少女を突き差す。
その時、ふと笛の音がやんだ。しかしすでに少女に遅いかかった絶頂は、すぐには過ぎ去ってくれず、少女は突き出した股間を両手で押さえながら、さらに何度か愛液を噴き出し、もだえた。
失禁は免れたが、その分愛液を多量に噴き出してしまったため、少女のワンピースには、下着で吸いきれなかったものが小さく染みを作っていた。
「はあ・・はあ・・」
ぐったりとしてその場に倒れた少女は、『影』を見上げた。その瞬間、『影』が、くすっ、と小さく笑ったような気がした。
『影』は笛を再び唇に当て、今度は一つの音だけではなく、確かなメロディーを奏で始めた。
短調の、低い旋律があたりを包み込む。
すると、枯れ草に覆われた地面の一部が膨らみ、土を押しのけて、何かが顔を覗かせた。
それは、紛れも無い植物だった。しかし少女の身体と同じぐらいの筒状の花を持ち、その先端には唇のようないやらしいひだがついていた。
それはどう見ても食虫植物と呼ばれるものだった。
見ていると、笛のメロディーに合わせてそれはうねりながら少女に近づいてくる。
「あ・・あ・・・・・・・」
少女は恐怖に固まった。逃げようにも、性の絶頂に達したばかりで身体に力が入らないのだ。
さらに悪い事に、すぐ隣にいるはずのルウがいつの間にかいなくなっている。
見ると――数メートル離れたところで、ルウは何かに襲われていた。
「た・・食べられ・・ちゃう・・・・・」
少女は、這って逃げようとして、膝を立てる。すると、それを見計らったように、食虫植物が少女の両脚をぬるぬると飲み込んだ。
「い・・いやぁぁっ!!」
少女は脚を引き抜こうと暴れるが、意外なほど植物の力は強く、逆に少女の身体は少しずつ食虫植物に飲み込まれていく。
そして、食虫植物が一瞬大きくその口を開くと、少女の身体を腕を含め、胸の辺りまで、一気に飲み込んだ。
その瞬間――少女にもたらされたのは苦痛ではなく、とてつもなく甘い、とろける様な性の快感だった。
「んあ・・・ふわぁぁぁぁぁぁ・・・」
鋭さを持たない、子宮を包み込み、舐めまわすような快感に、少女はあっけなく失禁してしまう。
服が溶けて無くなってしまったのだろう。少女の肌に、食虫植物の粘膜が直接触れる。
いやらしい粘膜に全身を犯される、初めての感覚。少女はぬめぬめと性感を高まらせ、そのまま声を上げずに絶頂に達した。
食虫植物は、少女の体液に味をしめたのか、少女をくわえ込んだまま、身体ごと優しく揉み始める。
少女は唇から涎を垂らしながら、恍惚とした表情で犯され続けた。
食虫植物が動いて向きが変わった瞬間、少女の目に、ルウの姿が視界に入った。
見ると、ルウは体中をアメーバのような不定形生物に這いまわられていた。その口元からは少女と同じように涎が流れ落ち、ときたまクルルル、クルルル、と切なそうな声を上げる。
――ルウ・・とっても気持ちよさそう・・・
ルウは、尾を横に振り、身体を悶えさせていた。それは少しずつ激しくなっていき、少女が感じたような昂ぶりがルウにも訪れようとしているらしかった。
また少女も、食虫植物に反芻するように揉みしごかれるたび、その性感を爆発的に高まらせて行った。
そして、ついに少女は数度目の、強烈な絶頂を迎えた。食虫植物の中で液体がしぶきを上げ、少女は何度も小さく叫んだ。同時にルウもぶるぶると身を仰け反らせ、うめき声をあげて、どうやら達してしまったようだった。
食虫植物は、少女が力を失うと、名残惜しそうにそれを吐き出した。
同時に笛の音がやみ、『影』はその漆黒の羽で空に舞い上がった。食虫植物はしばらくうごめいていたが、そのうち力尽きたようにしおれてしまった。
「ルウ・・・」
少女はうつぶせに横たわったまま、かすれた声で話しかけた。ルウもぐったりと首を垂らし、喉を小さく鳴らして応えた。
「もう・・行っちゃったから・・。もう大丈夫だよ・・」
少女がそう言うと、ルウは安心したように目を閉じた。
――私も・・このまま少し眠ろう・・・・
そう思って少女の意識が闇に堕ちかけたその時、脚に何か異物感を感じた。
しかし、それが何かを確認する力すら少女には残っていなかった。
さらに、少女の足指や腰の辺りにも同じような感触が生まれる。ナメクジが這いまわるのと、少し似た感触だった。
少女は、さっきのアメーバだとようやく気付いた。しかし、それを振り払う力は無く、アメーバが自分の身体を犯すのに任せた。
少女の肌の上を無数の小さなアメーバが這い回る。少女の息遣いが再び乱れ始めた。
一匹の大きさは、せいぜい数センチメートルほどだったが、数が多く、またくっついて融合し、大きさを増すものや、複数に分裂して、乳腺などの細かい部分に入り込むものもいた。
少女の腰は自分の意思に関係なくかくかくと動き、その高まりをあらわしていた。
「う・・あ・・・」
そして少女は力無くうめき、腰を痙攣させて激しく達した。愛液と潮が股間からしぶきを上げ、乳首からは、数匹のアメーバと一緒に母乳が噴き出した。
少女は声も出さずに、凄まじい快感に耐えていたが、愛液と母乳がひときわ強く噴き出した瞬間、小さな叫び声を上げて、ついに気を失ってしまった。
気がつくと、時刻は夕方を過ぎていた。
ルウはすでに目を覚まし、少女を心配そうに覗きこんでいた。
少女はふらふらと立ち上がり、辺りを見回した。
枯れ草に覆われたそこは、森の中に発生した小さな癌のように見えた。
「必ず・・・生き返らせるからね」
少女は、そっとつぶやいた。その目から、ひとつぶの涙が、静かにこぼれ落ちた。
次の朝――
少女は、ガタッという大きな音に、はっと目を開いた。
悪夢でも見ていたのだろう。身体が小刻みに震え、頬が濡れている。
どんな夢を見たのかは、はっきりとは覚えていなかった。ただ、それは恐ろしく、とても悲しい夢だった。
少女はベッドの中で小さく丸まり、そのまましばらく震えていた。
窓の揺れる音がする。先ほどの音は、おそらく風によって木の枝か何かが家にぶつかったのだろう。少女は、小さく息をついた。
空は昨日とは打って変わって、灰色の雲に一面を覆われている。ぬくもりを持たない風が窓をカタカタと鳴らし、それが少女の不安を煽り立てるようだった。
しばらくして、少し気持ちが落ち着くと、少女はベッドから降り、靴を履いて、窓から空を見た。
「なんだか、嫌な天気だな」少女はぼそっとつぶやいた。
少女は、雲や雨が嫌いではなかった。むしろ、雨の日などは窓際でその音を聴いているだけで心が安らぐ気がしたし、森にとっても少女にとっても必要なものだ。
しかし・・今日は違った。
雨は降り出していなかったが、それを予感させる厚い雲、そして何よりも、それが作り出す、森全体を飲み込む巨大な『影』が今日は妙に嫌だった。
少女は珍しく重いため息をつくと、沈んだ表情のまま、金色に光る長い髪を手で梳かし、寝巻きのローブを脱ぐ。
そして、新しい洋服に着替えようとして、ふと、手を止めた。
どこからか・・・ぞろり、という何かが這うような音が聞こえた――ような気がした。
少女は、小さな部屋の中を眺める。ランプに照らされたそこは、しかし何も動くものは無い。
――気のせい・・・・かな。
少女は胸騒ぎを感じながらも、服の袖に、腕を通そうとした。しかし、その瞬間、少女の細い腕は指の先まで、暖かくぬめぬめとしたものに包まれた。
「いやだっ、なにこれ!?」
少女は慌てて服から腕を抜く。見ると、目の無い蛇のような生き物に少女の肘から先がまるまる飲み込まれていた。
少女は、焦って腕を引き抜きかけたが、蛇の体内を傷つけてしまうと思い、もう片方の腕で蛇を抱くと、少しずつ、その体内から腕を抜き始めた。
蛇の体内は、ぬるぬると熱く濡れて柔らかく、少女の繊細な肌、その細胞の一つ一つにまとわりつくような感触だった。また全裸である事が、その快感を膨らませていた。。
はあ・・はあ・・
すでに少女の息は乱れ、脚はせわしなく擦り合わされている。ともすると、腕を抜くまでに達してしまうかも知れなかった。
少女は時折目を閉じて、うう、と小さくうめき、背中の羽を震わせ鳥肌を立てる。
蛇の体液や肉が、少女の腕、手の甲や手のひら、指の股や爪の中までも犯していた。ようやく半分ほど腕が出た時、少女はあうっ、と声を上げて、快感の小さな峠を迎えた。
少女は、自分の肛門がひく、ひく、とうごめいたのを感じ、顔を真っ赤にしてしまう。しかし少女は、頬を赤面させながらも少しずつ腕を引き、なんとか蛇の口から手首が見え、続いて、丸みを帯びた小さな手が、湯気を立てながら吐き出された。
少女は少しほっとして、力無く微笑みながら、そのグロテスクな蛇に話しかけた。
「大丈夫・・だった?」
しかし蛇はまったく平気な様子で少女の脚の上を這いまわった。
少女は蛇を森に放すため、立ち上がりかけ・・ふたたび動きを止めた。
やっぱり何か聞こえる。ぞろぞろと、何か複数の物が這い回る音。それに・・・
「笛の・・・音・・・」
その時、少女は複数の気配にはっとして後ろを見た。そこには、少女が脚に抱いた蛇と同じものが、たくさん並んで、首をもたげ少女を見つめていた。
少女が声を上げる間もなく、蛇たちは一斉に少女に飛びかかった。
「いやぁっ!!」
蛇たちの長い身体が、少女の小さな肢体に何重にも巻きつく。そしてその先端の顔の部分が、少女の唇や乳首、臍や股間に向かい、歯の無い口を開いて、それぞれの箇所をそのいやらしい舌で責め立てた。
見ると、蛇の一匹が、少女の唇に食らいついた。別の蛇が、臍を舐め、こねるように舌の先端を差し込む。両胸にはそれぞれ数匹が集まり、乳首をもてあそんでは、にじみ出る液体を争うように舐めていた。
少女は何度となく絶頂を向かえ、身体を仰け反らせた。その度に噴き出す液体を、股間をくわえた蛇が美味しそうに飲んでいた。
そして少女の、身体の外側で最も敏感なボタンを、蛇の舌が激しくしごき上げた瞬間、少女は可愛らしく叫び声を上げ、身体をもだえさせながら絶頂に達して、その後、ぐたり、と力を失った。
いつしか、笛の音は止み、蛇たちも少女の身体から離れ、姿を消していく。
少女は朦朧とする意識の中で、いつの間にか何かに抱きかかえられていることに気付いた。
その何かは少女を抱いたまま、少女の家を出て森に入って行く。少女は、自分を抱きかかえているその手が、細長く、美しい形の何かを持っている事に気付いた。