そこは暗い、何かに囲まれた空間だった。  
そういえばなぜ自分はここにいるのだろうと考えてしまう。  
覚醒したばかりで明瞭にならない意識をなんとか奮い立たせるが、しかしどうも思い出せない。腐葉土独特の甘い匂いと、それに加えて僅かに鼻に入る香のような匂いで、思考がぼやけるのだ。  
頭痛がして頭を抑えると、ようやく自分が置かれている状況が目に入ってきた。  
そこは人の腕ほどもある木々を編んで作られた牢獄。そこ以外は分厚い木のような壁で覆われていて、押しても叩いてもそれらが現在の状況を崩すことはなかった。  
ふと、目に入ったのは傍らに置かれた俺の荷物らしき一式。その中の何らかが抜けていたのに気がついて、そして置かれている状況の一片を思い出した。  
俺は知り合いの要請で、外国の島の深い森の奥地に足を踏み入れていたはずだった。  
 
 
「この島は周囲の海流の所為で進むことができないの」  
生物学者である友人の頼みは、突拍子のないものだった。  
なんといっても、ニートである俺にそんな話を持ってくるのだから救いようがない。はじめ、俺にはそう思えた。  
細々とアルバイトをしながら、死んだ両親の保険金で食いつないでいる今の俺にとって、旧友であり、そのような話をしてくる彼女が疎ましくあり、そして滑稽だった。  
できることなら無視をしておきたかったのだが、彼の持ってきた話が一応の儲け話だったからこそ、俺は喫茶店の傍らでそれをおとなしく聞いていた。  
「この話は他言できないわ。だからこそ、学会なんかとはまったく無関係なあなたに頼みたいの」  
彼女と知り合った経緯は面倒くさいから思考で辿りもしない。ただ腐れ縁のようで、学生時代はことあるごとに共に行動していたように思う。  
一時期は恋愛対象と見ていたかもしれないが、振られることが怖かったことと、これ以上近づいても彼女を超えることができないという一種の劣等感からその言葉を伝えるのは止めておいた。  
そして現在に至る。  
「かつてこの島に足を踏み入れたものたちは決して戻らないと言うわ。つまり、周辺の猟師たちはこの島に入る方法を知っている。  
けれども、それを教えようとはしないわ」  
勝手に進んでいく話に興味を持たえずに、俺は温度差に汗をかいていくグラスを眺めていた。中のアイスコーヒーは俺好みの極甘にしてあった。  
「で、俺に何をしてほしいんだ?」  
「ボディーガード。確か、虫とか蛇とか全然大丈夫とか言ってたでしょう?」  
「いや、そこはガイドとかに頼めよ」  
突っ込みは、俺の「とにかく面倒くさいから行きたくない」という考えの表れだった。  
なんと言っても、また彼女に対する劣等感を強くしそうで怖かったからだ。  
加えて、確かに島育ちの俺だが、未開の地に踏み込むような冒険者ではない。  
「もう一度言おう。俺は無職なんだぞ」  
「だからよ。無職とは言っても、身体はは鍛え続けてるって分かるし」  
俺の上腕二等筋を眺めながら彼女は言った。  
「報酬はこれでどう?」  
ボールペンを走らせる彼女の手。小切手の上に書かれていく数字。  
「やりましょう」  
俺はプライドを捨てた。  
 
金で決めた俺と彼女。あと彼女が連れてきた探検のスペシャリストが数人。これでメンバーが決まる。  
そして、足手まといのような俺は彼らの指示されて必要な用意を整えて島へ向かうことになった。  
その島は地図にそれなりの大きさとして認識されているものの、潮の流れが速すぎて船が近づくことができないとされている場所だった。  
例えたどり着くことができても、今度は潮の流れで帰ってこれはしない。飛行機を飛ばしても着陸できるところがない。鬱蒼とした熱帯雨林が島中を覆っているからだ。  
「蜘蛛は大丈夫?」  
「中学生の頃はタランチュラとか集めてた」  
「……そう」  
呆れたような彼女の返答。まあ、俺もあの当時はどうかしていたと思う。部屋中での虫かごでタランチュラが蠢いていたのだから。  
そして一ヶ月の猶予期間が終わり、遂に出発をする。  
熱帯のその島には飛行機と船を乗り継いで数十時間を要する。最寄の港に着くまでで、既に俺は疲弊してしまっていた。  
が、翌々日には船と交渉して島に向かうと言う。どうも、彼女の体力は鍛えているはずの俺よりも大分上だったらしい。  
ベッドでうつ伏せになっている俺に、特に疲れた様子も見せずに彼女は楽しそうに言う。  
「実はね、私たちが行く島には面白い話があってさ」  
今更なんだ、と言った感じで振り向くと、彼女の顔。  
窓辺から見える海はエメラルドグリーン。恐ろしく青いそれはかつて俺の住んでいた実家の風景のいったんと良く似ていた。  
懐かしさを感じながら、俺は彼女の話に耳を傾ける。  
「ヒトとは違った進化を遂げた、知能を持つ生物がいるっていう噂があるんだ」  
沈黙。  
「なんだ、それ?」  
「このあたりには――、」  
?  
??  
ここから先は眠気が先行していて、よく覚えていない。  
何だっただろうか。彼女の言葉をよく思い出すことができなかった。  
いや、上陸してからの興奮のほうが大きくて、忘れてしまっているのだ。  
だが、そこは何の問題はないはずだ。  
そこから先に繋がっている記憶があるのだから。  
 
そして予定通りの日に上陸して。  
僅かにある浜辺で、キャンプを張った後にすぐさま雨林の探索と言うことになった。  
町の方とは桁違いの大きさの植物、虫、そして動物。アマゾンの奥に入り込んだような錯覚。否、ほとんどそれとは変わらないだろう。  
彼女は目を輝かせて周囲の植物を採取する。他の探検隊は彼女のサポートに徹する。  
俺は必要ないんじゃないかと思っていたのだが、しかし彼女の荷物もちと言うことで落ち着いた。  
新種のタランチュラを集めて、潰さないようケースに入れたものを俺が持つ。このためだけに呼ばれたとしたら悲しいことだが、報酬に対して遥かに楽な仕事であるため、割り切ることにした。  
そう、はじめはその程度だったのだ。  
だが、深く入っていくうちに、島の土に含まれる鉱物の影響で磁石が効かなくなる。周りの木々は大きくなり、遂に太陽の光は見えなくなる。  
苔を踏みしめて、不安に刈られながら俺たちは進む羽目になった。島自体はそれなりに大きいものではあったが、しかしそれでも島だ。いつか海にたどり着くだろう。そうすれば海を辿って戻ればいいと。  
俺の荷物は増え、彼女の手元のデジタルカメラの容量は一杯になっていく。メモリを入れ替えて、更に探索は続いた。  
と、俺たちの目に巨大な樹が映る。  
それは世界遺産などという規模ではなく、恐ろしく太く、太古より世界を見守ってきたであろう老齢さを感じさせていた。  
自然のしんぴに感動しているその最中、濃緑のカバーのついた空から落ちてくる、大きな雨粒。  
スコールだった。  
とにかく雨宿りを、と探険家が言い、素人の俺たちはそれに従う。丁度その巨木の近隣に地下へと続くであろう大きな空洞を見つけて、そこへと走った。  
足元で、瞬時に水溜りとなった雨が、泥を孕んでズボンの裾と靴に染みを作る。荷物を必死で持ちながら、先に着いた者達に続くように、息を切らしてそこへとたどり着いた。  
暗く、深い。森林の中は昼でも暗かったはずなのに、それよりも暗い。強力なライトを向けても、その奥までは決して見通すことができないのだ。  
まるで地獄の入り口のような闇。  
吸い込まれるような感覚を受けると、そこにいることさえ恐ろしくなってきた。  
 
俺はその暗闇の中で振り向く。  
そこには深遠の世界。どこが底で、どこが入口になっているのかすら分からなくなりそうな世界。その一端できょうふと戦っていた。  
何だろう。ベテランでは分からない恐怖感。慣れている者こそ感じ取ることのできない闇の恐ろしさ。俺はその入り口に立っているのだった。  
「寒い?」  
俺のてが震えているのに気づいたのだろう。彼女が問う。が、雨が降っているからと言っても、ここは熱帯。寒いわけがない。  
顔を横に振ってみるが、身体の震えはとまらなかった。  
苔にまみれた岩に腰掛けて雨が止むのを待つ。その時間が、探索をしている時間よりも落ち着かなくて、水筒の中の水を何度も口に運んだ。  
と、  
「?」  
振り向くと、何かが足りないような気がした。  
「どうしたの?」  
彼女の言葉。と、更に違和感があり、振り向くと、  
「あれ、人が足りなくね?」  
「トイレにでも行ってるんじゃ……?」  
「いや、誰もそんなことは、」  
口にした刹那の事だった。  
俺の背後に気配。小学生の頃、女の子にもてたいと思ってやっていた空手の経験の延長で、反射的に蹴りを繰り出す。勿論、傍目から見ればおかしな光景の筈だが、俺と会話していた彼女の表情の変化を見れば一目瞭然だった  
が、蹴りは空を切る。何の感触もないまま、彼女の目と、そして金色の目が重なって、  
 
そうだ。そこから先を覚えていない。  
彼女は何処に行ったのだろうか。ここは何処だろうか。そして何が起こったのだろうか?  
疑問が尽きずに、そして頭痛だけが俺を悩ませていた。身体を動かすことができない。と言うよりも力が入らない。手はなんとか動くのだが、膝から下が麻痺してしまったかのようだ。  
口の中に入った泥を吐き出すと、暗闇に慣れたのだろう目が、僅かな光を感じ取って脳に映像として送り込んできた。  
この牢獄から廊下を挟んで向こう側に、もう一つ同じような部屋がある。  
そこで寝転がっている、影。  
「おい、誰かいるのか?」  
掠れた声しか出ない。が、何もない空間なのだろう。周りの壁を反射して、余韻を持った声が向こう側まで伸びていく。  
「あ、生きてた? 大丈夫?」  
妙に落ち着いた、彼女の声だった。  
 
「なあ、妙な香の匂いがするのは気のせいか?」  
「多分、気のせいじゃないわね」  
たがいの安否が確認でいた今、ようやく俺も少し落ち着いてきたのだった。  
疲れが溜まっているのだろうか。眠いのだが、何とか彼女との会話を繋げていく。  
「それにしても暑いな」  
「脈絡がないわね。確かに暑いけど」  
「なんか、おかしいくらいに」  
彼女にもおそらく俺の影しか見えていないだろう。でなければ、騒いでいるはずだ。  
身体に触れる感触で、今俺が全裸でいることが分かる。恐らく、俺たちを捕らえた者が脱がせたのだろうが、それでも暑い。動悸が止まらず、変な気分だ。  
「ねえ、もしかして……」  
「何?」  
「いや、なんでもないわ」  
多分、彼女も同じ状況なのだろう。が、恥ずかしくて言えないのだと推測できる。  
こういうところによく来るのだという彼女の引き締まった身体。それが剥かれた状態で暗闇の先にあると思うと、  
「…………」  
股間の一物が熱を帯び、硬さを増していく。急激に硬くなったそれに、俺は落ち着けと脳から支持を送るが、しかし留まらず、むしろ更に高度を増していく。  
我慢できずに触ると、ここ最近この探検の為に禁欲生活をしていた所為か、異様なほどの感度でそれを受ける。  
先からは早くも先走り液を垂らし、射精してしまわないように耐えることになってしまった。  
手は止まらない。彼女が見えているかもしれないという危惧も、その快感に夢中になることで脆くも本能に溶けていく。  
触れるだけで出してしまいそうな強烈な快楽。それに酔いしれ、身体に触れる僅かな空気の流れすら快感に感じて、俺はすぐに彼女との会話を忘れて、行為に没頭していく。  
と、彼女もこちらに話しかけてこなくなったことに、ようやく気がついた。快感に逃げ腰になる身体に手を添えて上下に動かしながら、聞き耳を立てる。  
ちゅくちゅくっ  
僅かに聞こえてくる水音。それは恐らく俺の想像している通りの音だろう。  
「んっ……ぁっ……」  
漏れる声は、俺の興奮を更に強くする材料でしかなかった。  
俺には何一つ猜疑心を持つことはできず、とにかく自分を追い詰めていくことに没頭していってしまう。  
 
ちゅくっちゅくっ  
しゅっしゅっ  
互いの性器を、自らで刺激していく音と、押し殺した喘ぎ声しか聞こえなくなっていた。が、互いが互いにそれを気にしている余裕はなかった。むしろ、それがさも当然のように一度くらい絶頂に達しても、構わず行為を続けていく。  
と言うよりも、行為を止めることができなかった。とにかく快感を味わいたい。それだけが今の俺を突き動かす原材料となっていた。  
香の匂いに混じって届いてくる、僅かに甘い香り。そして俺の白濁液から放たれる青臭い匂い。それらが交じり合って、より淫靡な空気を作り出していく。  
その空気に刺激されることで、俺たちの自慰行為は更に激しさを増していく。より強く。より激しく。性器を擦り、自らに自らに強い快感をもたらしていく。  
「んっんんっ…」  
彼女の漏らす声は次第に大きくなっていっていた。一方で俺も恥ずかしさよりも快感を求める方が優位に来てしまい、息を荒げて、達する瞬間に呻き声を漏らす。  
おかしかった。いくら禁欲していたからといって、数えているだけでも四回の射精。なのに、俺の肉棒は萎えるどころか、より高度と硬度を増して快感を貪らせるために神経を集めさせる。  
まるでそのために生きているかのような心地。だが、それが溜まらなく気持ちが良くて、理性を失うほどに次の射精へと自らを導いていく。  
睾丸はパンパンに膨れ上がり、次から次にとどろどろ。と言うよりももこもこした濃い精液を作り出していく。女の中で出してしまえば一発で妊娠するんじゃないかと言う、普段なら馬鹿らしく思える妄想も、今の俺には射精を促すネタとして残っていった。  
「んぁああっっ!!」  
彼女が達したのだろう。羞恥心と言うものが感じられないその叫びに、俺の興奮は頂点の、更に上へと上り詰めていく。どこか分からない着地点を探すように、俺は自らのものを扱いていく。  
「くぅっ」  
脳が痺れていくような、強烈な射精。それが次の興奮を呼び、彼女と交わりたい気持ちが俺の中で増大していくのが分かった。  
だが、それは叶わない。だから俺は自由な手で自らのモノを扱き、僅かでもそれを充たそうとする。  
止まらない。射精の感覚は長くなるどころか、鈍痛と共に短くなっていく。彼女の喘ぎもまた、同じように。  
何度目の射精か分からない。  
気持ちい、  
 
何度射精しただろうか。暗い部屋の中で、最早二匹の獣と化した二人が長い間自らのものを擦り、互いの存在を感じることで自慰行為を続けていた。  
その目は既に自らに与える快感に向けられたものでしかない。感覚は絶頂を迎えるたびに研ぎ澄まされ、深い闇の中で自らをなくしていく。  
彼女の方もまた、激しかった。久しぶりの自慰行為にほんの少しだけ耽るだけだったはずなのに、噎せ返るような汗と愛液、そして格子の向こうから流れてくる精液の匂いで我を無くしてしまっていた。  
そこに存在するのは最早野生。性本能だけが彼らを突き動かし、夢中にさせていた。  
と、それを眺める影。闇に隠れてそれを眺めることしかしないその存在に、彼らは全く気がつかない。  
いや、本来の彼らならとっくに気付いていただろう。生物学者の勘。素人空手の気配取り。  
しかし、それらは彼らが自慰行為に夢中になることで全く意味を失っていた。  
そして闇に紛れる影は、彼らに対して極々簡素な食事を差し出す。  
木の実を砕いて作った粉を焼いた、パンに似た食べ物。雄と雌の、交わってはいないが、しかしそれぞれから発せられるいんびな匂いの中に、香ばしいそれが混じる。  
それによって、それぞれが食物の存在を知った。だが、それを持ってきた黄金の目を持った何者かの存在には全く気付かず、ただバナナの葉に盛られたそれにかぶりついた。  
それこそ、本当に獣に堕ちてしまったかのように。犬と同じ様式で四つんばいになり、自らに刺激を与えながら食物を口にするその仕草は、異常としか思えなかった。  
だが、影は満足そうに目を細める。あたかも、それを初めから目論んでいたように。  
否、そうなのだろう。でなければ、催淫効果のある香など焚き続ける必要もなく、彼らに必要な「餌」にも、同じような成分の含まれた木の実を混ぜる必要などない。  
全ては目論まれたからこそ彼らは捕らえられ、そして影の者達による洗礼を受けているのだ。  
一対の黄金が彼らそれぞれを見据えて、そして闇の奥へと消えていく。  
しかし不思議なことに、その足音は空洞のはずの闇の中で、しかし全く響くことはなかった。  
そして再び盛り始めた二匹の獣を振り向いて眺めると、  
その影は再び闇の奥へと消え去っていく。  
 
それから、外の世界では一週間が経っていた。  
その間にも彼らは媚薬、興奮剤を混ぜられた餌を食べ、それらの効果を持った香を吸い続けさせられていた。  
この頃には最早人間の理性的な行動は見られず、性欲と食欲を満たすだけの動物に成り果ててしまっていた。  
裸であることが恥ずかしいとは思わない。むしろ、それが当然であると認識する。それが彼らであり、そして影から彼らを監視する者たちが彼らに望んでいたことだった。  
膀胱はぱんぱんに膨れ上がり、クリトリスは鬱血するほどに勃起。しかし、痛がるどころか、むしろ快感として更に自らを追い詰めていく。  
それを眺める、影たち。  
その口から何らかの交信の手段、会話なのだろう。人間にはできない発音が漏れ、彼らについての会話を進める。  
「あっあっぁあっ」  
「っ!」  
彼らが絶頂に達し、涎を垂らしながら余韻に浸る。  
垂れ流しの糞尿は、牢獄に張りめぐった木の根が養分として吸い取ってはいたが、それでもひどい匂いを放っていた。  
それを我慢するように、影は話し合いを続ける。その意味を把握するには、そこにいる人間では学が足りず、そして理性が足りなかった。  
長い話が続いた。その間にも餌が檻に投入され、獣と化した二人はそれが異常な性欲を引き起こしているとも知らずに、貪り食った。  
それを尻目に誰かが発言。それに対する返答が続き、そして数時間が経過した頃、  
低い唸り声。それは同意の響きだった。  
躊躇いがちに、しかし一度決めたこととばかりに、遂に彼らを牢獄から開放しようとした。  
が、今の彼らにはそんなことすらどうでもよかった。ただ、性器を弄り、絶頂を迎えることだけが彼らの幸福だった。  
数人がかりで重い格子が開けられ、自慰行為に耽るままの彼らが引き摺り出される。  
ちりちりと金属が擦れる音。ひときわ大きな目をした影の存在が引きずるもの達を引率はじめた。  
そこに灯される白と黄、赤の光。松明に灯された炎は、そのものたちの影を土壁に映し出す。  
揺らめく影が照らし出したのは、ヒトではなかった。  
しなやかな体躯、漆黒の毛並み。見開かれた金色の瞳。  
黄金の装飾を身に着けた、ヒトと黒豹の中間に位置付けされるであろう者たちが、彼らを光が差し込む方向へと引き摺っていく。  
 
ふと、急速な浮上。  
それまでの白濁とした感覚とは打って変わって、五感が明瞭になっていく。  
視覚はまだぼやけたままだが、鼻梁から入ってくる情報。何かが焼ける香ばしい匂いと、噎せ返るほどの獣の匂い。僅かに水の匂いと、森の匂いだった。  
次に触覚。と、異様なほどに股間が痛い。時々弄りすぎてしまったときにあるような鈍痛が、それとは比にならないほどの強さで俺を襲う。  
だが、勃起したそれに触れたいという衝動が襲い掛かり、俺は抵抗できずに手を伸ばそうとした。  
そこで手が後ろに固定されていることに気がついた。そして、足も。  
身体に触れる感触は風。生暖かい風が俺の肌を撫で、そして抜けていく。  
そして遂に、ぼやけた視界が晴れていく。と、同時に耳を通り抜けていく、無数の唸り声。  
目を開けた瞬間、強烈な光に目が焼けたのかと言う錯覚に陥った。が、しかし明順応により、次第にそれを受け入れていく。  
そして目に入ったのは闇に包まれた森。そしてそれを照らし出す無数に立てられた松明の炎と、横を向くとその合間にひしめく黒い影。その数に比例して対の黄金の瞳がこちらへと向けられ、凝視していた。  
「んぁ?」  
それが何なのか理解することが出来なくて、俺は何度か目を瞬かせる。  
と、その存在が俺が今まで生きてきた中で、テレビ、図書等を通じてすら見たことも無い生物。  
黒豹の獣人とでも言うべき者達だった。が、しかし俄かにその存在を俺は信じることが出来ない。  
一度深く目を瞑って現実から逃避してみようとするが、しかし次の瞬間湧き上がった咆哮の如き歓声に驚いて目を開けた。  
俺は何か、硬い祭壇に寝かされているようだった。周りに歓声を上げている黒豹たちの他に、恐らく格が高いのだろう。黄金の装飾を身に纏った神官らしき者が儀式めいた手順で祈りを捧げている。  
と、その傍らにまた別の影が存在していることに俺は気がついた。  
「おい!?」  
それは彼女だった。が、しかし眠っているのか、こちらの言葉には反応しない。その間にも神官の祝詞は続き、そしてそれが終わるや否や、彼女の目がゆっくりと開かれていく。  
「あれ、私?」  
「よかった、生きてた」  
「一体どうしたの? っていうか、ここは?」  
「分からない。だが、ピンチだって事は確かだ」  
手足がきつく縛られていることに、俺は気がついた  
 
「オ前達ハ我々ノ住処ニ踏ミ入ッタ」  
歓声の中で、はっきりと聞こえる声。神官の横に居た黒豹の娘が黒い獣毛に覆われた豊満な乳を揺らしながら、人間の言葉を紡ぐ。片言なのだが、それでも聞き取れるほどの言語。恐らく獣の生体ではどんなに進化してもこれが限界なのだろう。  
一方で隣の彼女はその言葉を聞きながら、自分の行動を悔いているようにも見えた。  
「確かに新種はいたわね」  
自嘲気味の言葉は、しかしあまりにも的確だった。そこから先の言葉を補完するとしたら、「それが知的生物だということを想定していなかった」だろう。  
そして問題はそこからだ。  
「俺たちはこれからどうなるんだ?」  
恐らく唯一俺たち人間とコミュニケーションが取れるのだろう。黒豹の娘を睨むと、しかし彼女は俺たちが動けないことを知っていて、僅かに微笑んだ。  
「貴方達ハ今カラ儀式ヲ受ケテモラウワ。終ワッタトキニハ貴方達ハ私達ト同ジ、神カラ戴イタ肉体ニ生マレ変ワルノ」  
その言葉の意図を測り損ねて、俺はただ沈黙する。隣の彼女に反応を求めるが、しかしそちらも同じような反応しか出来なかった。  
そんな俺たちを眺めて、黒豹は慈しむ様に俺の頬を撫でた。  
「貴方達モ私達ノ仲間ニナルノヨ。終ワレバ分カルワ」  
その言葉は妖艶であり、性的な興奮すら呼び起こすような艶やかさを帯びていた。  
だが、それでも俺たちにはそれを理解できなかった。これから先なにが行われ、俺たちがどうなるのか。全くの予想をすることが出来なかった。  
そして咆哮。神官が唐突に声を上げ、応えるように歓声がより強くなる。獣の唸り声と咆哮。そしてそれを合図に祭壇へと上ってくる屈強な雄達と、艶かしい雌達。  
ずらずらと列となって、全裸の黒豹がそれぞれ俺たちの縛られている段を囲んでくる。  
「          」  
「         !!!」  
言葉というよりも寧ろ、唸り声で会話をしているように見える。が、しかし確実に意思の疎通は行われているようで、互いが互いの目を見つめあい、そして俺たちの載った俺たちに跨る。  
 
俺の方には雄が。彼女の方には雌が、それぞれの性器をくっつけるかのように腰と腰を合わせおる。  
かなり長い間勃起し続けているのだろう俺の肉棒は、だれんと垂れ下がった重々しい獣のものと擦れ合って先走り液を滴らせる。最後の余裕を振り絞って彼女の方へと向くと、同じように雌の性器を擦り合わせ、そして黒豹の顔の高度が下がってくる。  
そして彼女も、俺も黒豹の獣臭い吐息を吸いながら、あまりにも濃厚な口付けをされてしまっていた。  
拒もうと舌を動かしてみるが、ざらついた猫科の舌は俺の抵抗を力強い動きで静止し、そのまま歯茎の裏を綺麗に嘗め上げる。  
次は舌。擦り合わせるように絡ませ、俺の抵抗をそのまま愛し合う行為のように変えてしまう。縛られているために身体は動かず、そのうちになすがままになってしまっていく。  
長い舌が踊る。かき回し、俺の本能を刺激していく。  
獣と人間。しかも同性との交わり。一般常識では許されることのない交わりはより激しくなり、そして屹立し続ける俺の肉棒はその行為だけでびくびくと震え上がる。  
背筋が震え、くちづけに倒錯していく自分が信じられなかった。が、しかしその事実を俺は拭い去ることはできない。  
肩を掴まれ、胸を押し付けられ、獣のにおいが強くなる。が、しかし最早それも気にならず、貪られることだけに神経が集中してしまっていた。  
ひとしきり舌を絡ませあい、唾液を交換し合ったあとにようやく口が開放される。銀糸が二人を繋いで、ぼうっとしている間にそれが途切れる。  
酸欠になってしまったのか、口の中に流し込まれたねっとりとした唾液すら口から吐き出す気にもなれない。いつしかそれを自然と飲み込んでしまっていたのに気がついたのは、毛暫くしてからのことだった。  
頭がまともに働かない。景色が、黒豹たちがどこか別次元のもののように感じてしまい、彼らの動きを眺めることしか出来ない。  
俺の勃起した肉棒の周りに集まる雄達。雌のほうも同じようにキスを交わし、恍惚の表情の彼女の性器へと複数の口が群がっていく。  
亀頭、裏筋、竿。すんすんとにおいを嗅ぐ音が、俺の恥ずかしさを増徴させる。  
顔を歪ませながら彼らの方を向くと、一人が舌を出してそれを鈴口へと近づけていく。  
 
しゃぶりつかれた肉棒からぬるりとした生温かい感触が神経を通じて脳髄を駆け上がる。一匹が俺の乳首に前足を伸ばして肉球のやわらかな感触で弄り始める。他の者達は脇や腹、そして顔を嘗め上げる。  
その感触がおぞましく、また何処か快感で、俺はただ仰け反るしかない。全身の性感帯を刺激されているのだ。抵抗することも頭に浮かばなくなってきてしまっていた。  
腰を浮かせると、絶頂に近づく。黒豹たちも早く俺を達させるために急速に俺を追い詰めていく。  
腰ががくがくと痙攣すると先端から何かが出てきているような感覚。おそらく先走り液だろう。そこまで神経が過敏になったことは今までついぞ無い。そしてそれが人外のものに吸われていく感覚は、異様なほどの興奮と快感を引き起こしてしまっていた。  
と、その傍らから神官と同じように豪奢な衣服で身を包んだ一際大きな者が現れる。黄金のちりばめられた装飾品。それらが炎に反射し、俺の唾液にまみれた身体を淫靡に照らしていた。  
「んぁあっ」  
雁に舌を這わされて思わず呻く。と、その開いた口に何かが進入。それまで俺の顔を嘗めていた者の僅かな圧迫するような影が消えて、より大きな何かが頭上を覆う。  
刹那、俺の口に広がるのは生臭い塩味と、汗臭い匂い。見上げると先ほどの偉そうな黒豹の股間の肉棒が開いた俺の口へねじ込むように太いそれが俺の口を満たしていく。  
「んぐぅうっ」  
声を漏らそうとするが、しかしくぐもったそれにしかならない。そして声が出たとしても助け舟を出してくれるような者はここには存在しなかった。傍らで雌達に犯されている彼女の方も同じように雌の神官の割れ目を口にさせられ、舌で解していた。  
その目に意思の光が消えていることに気がついたが、しかし俺の方も最早状況に流されるまま本来なら嫌悪すべき雄の肉棒を夢中でしゃぶり続けてしまっている。  
と、俺の股間を貪っていた雄の吸い上げが激しくなっていく。射精間が込み上げ、脳髄がとろけるような感覚に襲われる。が、口がおろそかになっているとばかりに口の中の肉が奥へ奥へと突っ込まれる。咽ながら快感に耐えるが、しかし限界だった。  
「んぐぅうぅっ!」  
俺の思考が真っ白に染まる。  
雄のフェラチオで追い詰められ、遂に俺はその口の中に射精してしまった。  
 
これまで感じたことの無い急激で、激しすぎる射精に全身の力が抜ける。痙攣する下半身に、しかし更なる刺激が加えられていき、思わず口の中に肉棒が入っていることすら忘れてしまう。  
しかし思い出させたのは再び進入してくる極太のそれ。追い出そうとしても突き進んでくるものに、最早心すら奪われた俺の口はむしゃぶりつく。  
夢中で嘗めるようにして、それに出来る限りの刺激を与えていく。  
それに比例するかのように俺の身体を嘗め回していた者達の動きが激しくなる。というよりもより発情し始めたということだろうか。俺が自らしゃぶりだしたことに興奮してそれぞれのものを固く屹立させていた。そしてそれを俺の性感帯、至るところにすりつけ始めたのだ。  
そこからは最早快楽との戦いだった。が、しかし俺に勝つことなど出来るはずもない。  
涎を垂らしながら肉棒をしゃぶり、虚ろな目で彼らの、人間の世界では決して許されるはずの無い獣と人間の、しかも雄と雄の行為に没頭していく。先走り液が擦り付けられ、潤滑を増す。口の中はしょっぱい汁でまみれ、それが狂おしいほどに俺の中を満たす。  
既に俺の中の何かが麻痺してしまっていた。興奮と快楽の中で溺れ、雄同士の交わりを積極的に感じていた。  
誰かが縛っていた手足を解く。が、抵抗は無い。  
顔を上げたまま反る形になってうつ伏せになる。口の中の肉棒は体制をあえてもなお俺の口を満たし続け、そして一匹の手が俺の尻穴を少しずつ解し始めていく。  
最初は指先だけ。次にゆっくりと唾液をつけて一本を沈めていく。  
排泄口に今まで感じたことの無い痛みと、しかし異様なほどに快楽に慣らされてしまった身体はそれすら興奮の材料に変えていく。  
気付くと俺の周りを無数の黒豹たちが取り囲んでいた。尻穴は時間をかけてほぐれていき、十分に濡れたかと思うといきなり肉棒が突きこまれて俺は激痛に悶える。  
俺が俺でなくなり、壊れてしまいそうな感覚。じめんが何処だか分からなくなり、周りの者達は俺が犯されている光景を見ながら自らの肉棒を扱いていく。  
天と地が分からなくなってしまう。埋め尽くされた世界は俺を中心に欲望を溜めていく。  
雄の匂いが充満し、そして射精したばかりの俺の肉棒が刺激を受けて再び持ち上がっていく。  
 
最早俺が果ててしまうのは時間の問題だった。  
びくんびくんと脈動する肉棒を手のひらに握らされ、それを俺はいつの間にか自らの意思で扱いてしまう。後ろの穴も、口も犯され、俺のペニスも肉球のついた柔らかな前足で刺激を与えられていく。  
俺を中心とした乱交。その中心である神官の雄のものをしゃぶりながら、押すのにおいに夢中になっていく自分が怖かった。が、それも快楽の波に打ち消されていってしまい、そして遂にその瞬間を迎える。  
まず感じたのは口の中の怒張した雁がより膨れ上がっていく感触。刹那、俺の口の中に鈴口から猛烈な勢いで噴射されていく熱い液体。それが口内で迸り、俺の喉を焼いていく。  
それが合図だった。次に俺の尻の穴を犯していた者のそれが膨らみ、深く突き込んだ状態で中へと欲望をぶちまける。中が異様に熱く、そしてそこから更に快楽を得ようと彼は中に放ちながらもけんめいに腰を振る。  
まわりの獣たちも神官の射精を確認したと同時にそれまでのペースよりも断然早く擦り付け始める。俺の雄の匂いまみれになってしまった身体に興奮のまま欲望を突きつける。  
びゅくびゅゅるるびゅくっびゅびゅるるるびゅくっびゅっ  
長い長い、そして激しい吐精が続く。中心である俺に向かって放たれるそれは黄みがかっていて、猛烈な精の香りを周囲に放つ。それが俺の興奮剤になり、更に深く突き入れられる感触で俺のものも更に怒張していく。  
「ぅっっぁあっ」  
声が漏れるが、それも射精の衝撃でかき消されていってしまう。  
乱交の中心で俺は淫らに喘ぎ、獣たちと同じように何度も尿道から込み上げてくる射精感に身を任せていく。  
壊れてしまう。  
そう思ったときには既に次の体勢へと動かされ、そして更にみだらな行為を続けられていく。  
そしてその乱交が終わったとき、俺の意識は朦朧としながらかけられた精液を嘗め取りながら、  
生暖かく、そして生臭い繭の中で神官が近づくのをただ眺めていた。  
 
一方で雌の方もまた、乱れていた。  
雄のほうが白濁液にまみれている間に、彼女達は愛液でぬらぬらとした身体を擦り合わせ、獣毛で覆われた滑らかな身をくねらせる。何匹もの獣が彼女に跨り、雌の悦楽へと導いていく。  
「んはああぃいっ」  
彼女の喘ぎは最早言葉すらになり得ず、涎を垂らしながら互いの性器を擦り付けあう。  
そこから溢れる快楽の証はとめどなく流れ、床を濡らしていく。くちゅくちゅという淫らな音が彼女の耳の中へと入り、そしてその耳にもねっとりとした舌が入り込んで更に追い詰めていく。  
もう何度絶頂を迎えたか分からなかった。未だに性器には手を触れられてはいなかったが、性器を擦りつける事で一人と獣たちの共有する快感は彼女にとって極上のものでしかなかった。  
ふと、その擦りつけが急に弱くなる。あまりの物足りなさに懇願するように黒豹たちを眺めると、そこには彼女を見つめる雌の神官の笑み。普段なら決して分かることのなかっただろうその表情の変化は、彼女に次のより強い快楽を暗示させるものだった。  
そしてその指が彼女の性器へと伸びる。  
獣の口が再び彼女の口を捉え、貪っていく。今度は彼女もそれに応えようと舌を絡ませる。別の獣が敏感になった胸をもみしだき、敏感な側面を刺激していった。  
彼女の中で突っ張るような感覚。だがそれに全くかまわず獣の指は押し進められ、僅かな抵抗と共に激痛が走った。  
処女膜を何の抵抗もなしに一度に破られてしまった彼女の表情が激変し、暴れだす。が、しかしそれを心得ているのか、黒豹たちはそれを押さえつけたまま再び刺激を開始していく。  
痛みと快楽の狭間で涙を流し、涎を垂らしながら彼女は必死で喘ぎ続けていた。  
雌同士の快楽は妖艶でいて、想像していた男との交わりよりもより痛烈だった。初めてを奪われたことが早くも思考から消えてなくなり、次の瞬間勃起したクリトリスを指で弾かれて、刹那彼女は絶頂に達してしまった。  
とめどなく愛液が流れ、雌達を濡らしていく。それを指に絡めとられたものを口の前に持っていくと抵抗なくしゃぶり始める。  
最早彼女は完全に堕ちてしまっていた。  
 
ぬらぬらと炎の光を浴びてな表情で淫らな行為を見守る彼女。その中心に自分がいることが信じられないといった面持ちで、しかし次の快感を自ら求めてしまっていた。  
腰を振り、中に入った指からの刺激を自ら受けようとする。血の混じった愛液が流れ出て、潤滑を良くしていく。  
痛みが脳内で快感に変換されていく。駆け上がっていくそれに耐えながら、懸命にそれを彼女は貪っていった。  
と、その指の動きが唐突に速くなる。まるで何かを急ぐように彼女を追い詰め始め、絶頂へと向かう。  
神官の指が彼女のものと自らのもの、両者を弄り、そして余裕を失っていく。  
彼女がもう何度目になるのか分からない絶頂で仰け反ったかと思うと、しかしその宴はまだ続き、達したまま次の刺激を与えられていく彼女の思考は完全に真っ白になってしまった。  
その顔に、自慰によって達した神官の愛液が吹きかかる。  
そして雄達と同じように彼女にも周りの雌が同じように愛液を吹きかける。  
生臭い臭気と、僅かに破瓜の鉄の香りが彼女を包み込んでいた。  
しかし黒豹は決して攻めを止めなかった。寧ろ、その刺激はより強くなる一方であり、涎を垂らしながら呂律の回らない状態で何かを口にしようとする彼女を、より高みへと誘っていっていた。  
くちゅくちゅという音と共に溢れ出る愛液を彼女の全身に塗りたくる。痙攣すらしながらそれを甘んじて受け入れ、されるがままの彼女の表情が、そして変化し始めた。  
それは自らの内から何かが込み上げるような感覚。悦楽だった。これまで与えられてきた絶頂とは違う種別の、全く新しい未知の快感。何かが突き破るような脈動を見せて、絶頂から更にその上に上り詰めるような極上がそこには存在していた。  
「っぅぁああっうっ」  
堪えるように声を漏らすが、しかし堪えきれない何かが全身を包み込んでいく。  
「       」  
神官が何かを耳打ちする。が、彼女にそれは届かない。  
そして込み上げるそれと絶頂が重なり、遂に彼女の意識が飛ぶ。  
群がっていた者たちが離れ、中心であった二人の人間の体がびくんと急速に跳ね上がったかと思うと、次の瞬間床に突っ伏した。  
 
骨が軋む。全身を駆け巡っていくのは極上の快感と、それと比例して強まる激痛。内部から改変される感覚に、二人は仰け反り、ただ耐えることしかできなかった。  
まずは指先だった。  
それはまるで鉄が酸化するように、唐突に指先から侵食してくる黒。骨格が変わり、手のひらに肉球が現れ、黒い体毛が生えていく。  
足からもその変化が始まり股間まで達すると、二人の意識が快楽に飛ぶ。足が痙攣して激痛を伴っているにもかかわらず涎を垂らして到達したことのない快楽に身を躍らせた。  
そこから腹へと向かう途中で遂に変化は内臓に達し、そして急速に筋肉が引き締まっていく。その蠕動が内臓を締め付け、骨格が変わる激痛と共に二人を襲う。しかしそれと共に二人の脳内の興奮物質がそれを和らげ、快感に変換していく。  
それは二人にとって狂ってしまいそうなほどの絶頂。長い時間続いたそれは確実に二人の思考能力を奪い、人間としての自意識というものを根底から崩壊させていく。  
胸まで達すると変換される一瞬の苦痛が遂に二人の意識を手放させる。  
そして首元、口、鼻、目、頭。  
全てが終わったとき、二人の元人間は立派なく黒豹たちの同属――獣となってゆっくりと目を開いた。  
「んっぁあっ」  
まだ余韻が残っているのか、雌のほうが喘ぐ。一方で雄のほうはとろんとした表情で、しかし自らの体の変化に気付かないほどに発情し始めていた。  
「今宵、新たな夫婦が誕生した」  
それは獣になった今となってははっきり言語として認識される司祭の声。それがしんと森を静まらせ、彼らに視線を注目させる。  
「我等が新たなる仲間に名を授けようと思う」  
その年を重ねた獣の口が新たな仲間となった黒豹たちの顔を嘗め上げる。くすぐったそうな顔をして、二人がきょとんと神官を眺めた。  
何が起こっているのかが理解できていない。人間としての自我が消えてしまったようで、言葉を発しようとはせず、ただ状況と感情に流されるままに発情していく。  
ぼーっとしながら、しかし自らの中の何らかの渇きに気付いて、そして二人の視線が衝突。刹那、急激な肉体の変化のための激痛で動かしにくい身体を引き摺って、雄が雌の許へとたどり着く。  
 
「主らはこれからは夫婦だ。アゴグとラヌサと名乗るがいい」  
雄と雌。交じり合う元人間を神官が指す。  
それを聞いているのかいないのか、二人は腰をくねらせながら互いの股間をこすり付けあう。しがみつくように抱き合い、舌を絡ませ、今度は自らの意思で唾液を交換していく。  
二人の鼻からは呼吸が漏れ、互いに吹きかかる。それを吸い上げるようなほどに二人は近づき、そして貪りあっていく。  
端から涎が漏れ、先ほどまでの雌の交じり合いの汁の上へとぽたりと波紋を作る。そしてその上に転がるようにアゴグと名づけられた雄はラヌサの名を授かった雌を押し倒した。  
そして互いに、最早十分に熟れ、濡れている性器を互いにくっつけ合う。そして発情に任せるまま、アゴグは獣の割れ目の中に自らのものを押し進めていく。  
「ぅぁあぁっんぅっ」  
ラヌサの口から漏れるのは、人間のときの冷静な彼女からは決して出ることのなかった艶やかで、淫靡な響き。完全な黒豹の獣人と化した彼女は最早なんの躊躇いもなく喘ぎを漏らし、雄を自らの身体に招き入れていた。  
沈み込んでいく肉棒は猫科のものというよりも人間の進化を辿ったもの。しかしその大きさはそれまでのものとは比にならず、正に彼の中の獣を体現していた。  
そしてそれが本能のままに推し進められていくにつれてそれは更に怒張し、次の行為への期待感でアゴグは更に興奮していく。  
涎を垂らし、理性というものから完全にかけ離れた存在。それを中心として、そして儀式を眺める無数の獣たちもまた、触発されたように至るところで交わりを開始していく。  
吐息と唸り声が世界を支配し、そして炎に照らされた淫らな獣たちは雌を揺する。一方では雄がオスを犯したり、雌同士が絡み合っている姿すら見受けられる。  
その中心となるのは今宵の主役である新たな夫婦。そしてその行為もまた、激しさを増していく。  
それまでの、全身の筋肉が軋む激痛からアゴグの体が次第に回復していく。脳内の麻薬物質が興奮により多量に分泌され、それを打ち消していたのだ。  
干満だった動きが、しかし少しずつ快感を得るための速さを加えられていく。  
ラヌサの股間の割れ目からは透明な粘液が滴り落ち、雌の香りを放っていた。  
 
ぐちゅっぐちゅっくちゅっぐちゅっくちゅっ  
二人には湿った音しか聞こえていなかった。激しく腰を振るアゴグと、それに合わせて膣を締め付け、小刻みに腰を振るラヌサ。  
二人の眼から人間の光が消えて、ほとんど時間が経っていないにも拘らず、その振る舞いは黒豹たちのそれを同じものになってきていた。  
時々アゴグが彼女の乳房を揉みあげ、その度に嬌声が上がる。乳首を弄り、長い舌で彼女の口の中を貪り、耳の中へもそれは進入する。交尾に夢中になっている彼女にはそれがとてつもない愛撫に感じられ、そして結合部の感度が上がったようにも感じられた。  
陰部の中に入り込んだ太く長いそれは肉壁を擦り彼女に刺激を与えながら、自らもカウパー液を溢れさせながら彼女の仲を縦横無尽に動き回る。  
たまに締め付けが強くなり、達してしまいそうになる。が、それを表情に出して耐え切ることで更に絶頂への期待感を強めていく。  
叩きつけられるような音を立てながら腰が振られていく。何度も何度も反復し、そしてその度に二人の身体の熱が上昇していく。  
じっとりとした熱気が立ち込め、発情を示す。そして触発されて更に次の動きへ。自ら四つんばいになったラヌサが指で割れ目を開き、躊躇いなくアゴグがそれを貫く。  
それは昔から夫婦であったかのような、視線での会話。そして感覚の合致だった。  
相手が何をすれば気持ちがいいのか、何処が性感帯なのか、何をすれば二人ともが意識を飛ばすほどの、究極の絶頂に達することができるのか。二人ともが同じように感覚でそれを捕らえ、実行していく。  
ぐちゅっぐちゅっぱんっぱんっぱんっ  
腰を打ち付けると二人が同時に喘ぐ。とろけてしまいそうな思考が二人を支配し、野生へと二人を還し、そしてより淫猥名獣へと進化させていく。  
黒く艶かしい体は濡れそぼり、唸り声を上げながら直接的な刺激を共有していく。  
そしてその動きが速くなっていく。  
耐え切れないかのように、それまでよりも小刻みな腰の動きでアゴグが腰を振り、追い詰められていくラヌサの表情があまりの快楽に歪む。  
「うっぁああぁぐぁがぁあっ!!」  
ラヌサの身体が仰け反り、そして強く目が瞑られる。  
愛液が噴出し、そしてアゴグを抱きしめる形で彼女は絶頂を迎えた。  
 
だが、アゴグの腰の動きは止まらなかった。  
まだ絶頂に達していない彼は彼女の膣が収縮し、締め付けてもなお腰を振り続ける。何度か絶頂に達しそうになるのを止めるのは人間の頃の名残なのか、我慢し、快感を溜め込むように何度も何度も腰を打ち付ける。  
それによってラヌサは絶頂が続く狂おしいほどの状態までに引き上げられ、そして苦しげに呻きながら真っ白になってしまった思考で更に膣を締め続ける。  
互いの脈動が敏感な部分に伝わる。背筋を駆け上がっていくこれまで異常の性感は、夫婦になった幸福のためのものだろうか。  
そんな疑問すら頭に浮かぶことなく、二人は抱き合い、そして更に腰を振り続けていく。  
何度も何度も。噴出す愛液で更に潤滑度を増した結合部によって、遂にアゴグは絶頂へと近づいてく。  
「ぐぅっ」  
呻き声を漏らして、アゴグがラヌサの肩をがっちりと掴み、深く自らの分身を彼女に沈みこませる。  
それが彼女の最も感じる場所へと到達したとき、遂にその根元から肉棒が膨れ上がる。  
びゅびゅくびゅっるびゅるびゅくくびゅびゅびびゅっ  
それまで溜められていたものが全て彼女の中にぶちまけられていく。  
その量はあまりにも多く、膣の中に入りきれないものが結合部から溢れ出し、濃く、青臭い匂いを放つ。どくんどくんと脈動しながら輸送されていくそれは獣の欲情が凝縮されたものであり、純白ですらなく、黄味がかったものだった。  
「ぁああぁあぁあああああっ!!!」  
ラヌサの声が響き渡る。絶頂の絶頂に達してしまい、意識を手放しながら、それでも身体は雄の精を求め続けて膣をくねらせる。  
深い口付けが交わされ、荒々しい腰の動きが続けられる。  
そして完全な獣へとなった二人は半ば意識を失いながらも交尾を続ける。それは獣の本能であり、人間の常に発情した状態を兼ね備えたようなものだった。  
熱を帯びた二人の交わりは一度の絶頂を迎えて、しかし更に続けられる。  
恐らく二人が満足するまでその行為は続けられていくのだろう。  
完全に人間の理性を失った二人は、  
雄たけびを上げながら、更に深く交わりあっていくのだった。だが、アゴグの腰の動きは止まらなかった。  
まだ絶頂に達していない彼は彼女の膣が収縮し、締め付けてもなお腰を振り続ける。何度か絶頂に達しそうになるのを止めるのは人間の頃の名残なのか、我慢し、快感を溜め込むように何度も何度も腰を打ち付ける。  
それによってラヌサは絶頂が続く狂おしいほどの状態までに引き上げられ、そして苦しげに呻きながら真っ白になってしまった思考で更に膣を締め続ける。  
互いの脈動が敏感な部分に伝わる。背筋を駆け上がっていくこれまで異常の性感は、夫婦になった幸福のためのものだろうか。  
そんな疑問すら頭に浮かぶことなく、二人は抱き合い、そして更に腰を振り続けていく。  
何度も何度も。噴出す愛液で更に潤滑度を増した結合部によって、遂にアゴグは絶頂へと近づいてく。  
「ぐぅっ」  
呻き声を漏らして、アゴグがラヌサの肩をがっちりと掴み、深く自らの分身を彼女に沈みこませる。  
それが彼女の最も感じる場所へと到達したとき、遂にその根元から肉棒が膨れ上がる。  
びゅびゅくびゅっるびゅるびゅくくびゅびゅびびゅっ  
それまで溜められていたものが全て彼女の中にぶちまけられていく。  
その量はあまりにも多く、膣の中に入りきれないものが結合部から溢れ出し、濃く、青臭い匂いを放つ。どくんどくんと脈動しながら輸送されていくそれは獣の欲情が凝縮されたものであり、純白ですらなく、黄味がかったものだった。  
「ぁああぁあぁあああああっ!!!」  
ラヌサの声が響き渡る。絶頂の絶頂に達してしまい、意識を手放しながら、それでも身体は雄の精を求め続けて膣をくねらせる。  
深い口付けが交わされ、荒々しい腰の動きが続けられる。  
そして完全な獣へとなった二人は半ば意識を失いながらも交尾を続ける。それは獣の本能であり、人間の常に発情した状態を兼ね備えたようなものだった。  
熱を帯びた二人の交わりは一度の絶頂を迎えて、しかし更に続けられる。  
恐らく二人が満足するまでその行為は続けられていくのだろう。  
完全に人間の理性を失った二人は、  
雄たけびを上げながら、更に深く交わりあっていくのだった。  
 
 
深い森の中、無数の黒き獣たちによっての交尾が続く。  
むせ返るようなその匂いは、しかし森の草木が放つ香りにかき消されていく。  
そして決して毎夜のその宴は、彼ら以外の者に知れることはない。  
「行けば二度と帰ってこない」というレッテルを貼られ、そして畏怖を受ける。ヒトは立ち入らず、小さな犠牲は忘れ去られていく。  
森に身を隠し、暗闇の中に息づく獣たち。立ち入った者を自らの仲間に変え、秘密を共有する計略を抱えた者達。  
彼の日、調査に出た者達は決して戻ってくることはなかったという。  
しかし、その獣たちによって生まれ変わらせられたことなど、誰も知る由はない。  
周辺の島々に住む者達はそれを見ることによって、更に島へ近づくことなどなくなる。  
独自の進化を齎した、海流に見放された島。  
そこでは今日も淫靡な宴が続けられ、  
そして立ち入ったものは――、  
 

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