達哉を拾ったレナは、仕事を終えたその足で、
達哉を連れたまま、犬国の南東にあるスラム街に来ている。
この場所は犬国のブラックマーケットにおいて重要なウェイトを占める場所で、
麻薬・武器の密売、盗品販売は当然で、そこら中にある露店には、達哉には意味不明の物が数多く売ら
れている。
まだ5歳ほどにしか見えない、達哉と同じヒトの少女が売られていたときなど、目を背けずにはいられ
なかった。
そしてここは、レナと同じ“蛇足”のメンバーの一人との待ち合わせ場所に指定されていた。
“蛇足”の中でもレナのように戦いを専門とするのも居れば、中継を担当する者もいるらしい。
よく考えれば、それも当然だ。全員がバラバラに行動していれば、いくら人数が少なくとも、
傭兵の集団として成り立つ筈が無い。
そして、ここに来たのにはもう1つの理由がある。
蛇足〜はみ出しモノ〜第2話
「僕のために…買い物してもらってもいいんですか?」
「ええ、気にしないで。タチヤの武器も用意しておきたいし、服も必要だわ。
その格好じゃいくら首輪を付けてても、落ちてきたばかりと勘違いされかねない」
それはつまり、1人で行動する事を前提にした話しのようだ。
そのような事をしなくてはいけない事になるのはずっと先だと思うが、
人生に何が起こるか分からない事は、身を持って知っている。油断は出来ない。
つい此間までただの医学生だった自分が、
今では傭兵集団付きの医者になり掛けているんだから、タモリも真っ青の世にも奇妙な物語だ。
「余所見はしない方がいいわよ。油断してると攫われるわ」
「は…ハイッ…」
こちらに来てからの悪い癖で、事ある毎に深く考え込んでしまう。
達哉は自分の首にはめてある首輪を触りながら、例によって考えていると、
レナは達哉の頭を軽く小突いて現実に引き戻させた。
達哉は『攫われる』という一言が利いたらしく、直ぐに顔を上げてシャキッとする。
さっきとは対照的に辺りを警戒しながら恐る恐る歩く達哉に、レナは苦笑した。
『タチヤにも自分の腕前は見せた筈だ。自分が横に居るのに安心しないなんて、返って失礼だ』
そう言ってやりたい衝動に駆られながらも、それを我慢して目的の場所へ行く。
「あの寂れた酒場が待ち合わせの場所よ。
買い物は、とりあえず合流して腹ごしらえを済ませてからだわ」
「分かりました。…1週間ぐらい、まともなモノは食べてませんでしたしね…」
達哉とレナが出会った場所からこの街まで、1週間ほどかけて歩いてきた。
レナが犬国の用心を暗殺してしまったため、あの周辺には相当の警戒網が張られており、
迂回して大幅に遠回りをせず得なかったのだ。
いくら犬国さえも御用達の“蛇足”のリーダーでも、一介の兵隊は知る筈がない。
疑いを掛けられれば、取り調べが終わるのに最低でも3週間は掛かっていただろう。
加えて、珍しい半獣の容姿をもった女性であるレナ、
同じく絶対数の圧倒的に少ないヒトである達哉。
この2人のコンビは、とても目立つ存在であった。大勢の視線に耐えられないと言うのも、迂回した理
由の一つだ。
これらの理由があり、達哉もレナも遠回りの道を進み、その間はずっと保存食&野宿だったワケだ。
慣れているレナはまだ平気だったが、平和な国の裕福な家庭でヌクヌクと生きてきた、
根っからのお坊ちゃんである達哉には、流石に堪えたらしい。
しかも足が付けないために一般の街での買い物はレナから禁じられ、
自分の寝袋すら野生動物の毛皮から作らなくてはならなかったのだ。
この1週間の旅は、達哉の一生の思い出になること請け合いだ。
達哉は、これからどんな料理が食べられるのか思いをはせつつ、
レナの直ぐ後ろを追従して酒場の中に入って行く。
そして入った直後、素っ頓狂に男の声が聞こえてきた。
「姐(あね)さんじゃないっスか!!仕事は成功したようっスね!
犬国の奴等が慌てて影武者を立ててましたぜ!
こっちも報酬をたっぷりもらって、もうウッハウハですよ!!
いや、さすが姐さんは強いっすね!1%でもその強さを分けて下さいな!」
薄暗く埃にまみれた酒場に響く、妙に明るい若々しい声。
達哉は慌てて声の方を向いた。レナは頭を抱えて呆れた表情をしている。
声の正体はラフな格好をしたヘビの青年で、
テーブルをバンバン叩いてレナを手招きしている。
もうすでにかなりの量の酒を飲んだ後のようで、青白い鱗が赤みを帯びていた。
傭兵がこんな場所で秘密を大暴露するような話をするのはどうかと、
達哉は非常に気になってしまうが、辺りを見回すと客が一人も居ない事に気付く。
「レナさん、あの人が仲……「あれ!!そいつどうしたんスか姐さん!
色恋沙汰に縁が無いと思ってたら、意外や意外…姐さんがヒト奴隷を連れてるなんて!!
つーかおまえも幸運っスね!姐さんに拾ってもらえるなんて、
きっと今度ので一生分の幸運を使い切ってるっすよ!
あぁ〜、それと姐さんの身体がどんな具合か、今度教えてくれないっスか?
いやもう、初めて会ったときから気になってるのに、
姐さんてばまだヤらせてくれないんスよ。色目使っても無視されちゃって。
あぁ〜、俺もヒトに生まれたかったっス。
そしたら一生エロエロどろどろウッハウハなのに!
それにしても姐さんがそういう趣味の持ち主だったなんて…俺知らなかったyo!
…あ、それはそうと君なんて名前ー?俺はガルナ・ガルバっていうんスけど!」
達哉は、ヘビ男のマシンガントークに呆気に取られてしまう。
途中で反論しようと思っても、口を開き掛けたときにはもう次の言葉を喋られていた。
しかも妙なハイテンションの所為でこちらの調子も狂い、反論する気すら削がれてしまう。
しかし黙ったままでも要られないので「達哉…です」とだけ返して目を逸らした。
その行動をガルナは勘違いしたらしく、更にハイテンションになって語り出す。
「あ、そんな謙遜する必要なんてないっスよ!敬語なんてノンノン!
むず痒くっていけないっスよ!もっとこう友愛を込めて、フレンドリーに!
他の奴等はみんな無愛想で、仲良く話せる相手がいなくて困ってたんスよ。
いや〜、ただでさえ傭兵なんて女ッ気の薄い仕事してんのに、
話し相手までいないんじゃ俺息が詰まって死ぬとこだったスよもう!
さあ、今日から俺等は友達っスね!
だから、姐さんとヤれるよう口添えまでしてくれないッスか!?
なんなら3Pに誘ってくれるのもア「少し黙りなさいガルナ」
達哉にはレナの動きが見えなかった。さっきまで隣に要ると思ってたレナが、
気が付けばガルナの真ん前に移動していて、威圧的な視線をガルナに向けていた。
ガルナの様子は、ライオンに睨まれたヘビそのもので、さっきまでのハイテンションがどうしたのか、
ブルブル震えてレナに許しを請っている。
「タチヤは仕事の途中に私が見付けたのよ。
元の世界で医者を志していたそうだから、“蛇足”にも医者は必要だと思ってね」
「そうっすよね!姐さんはそんな趣味は持ち合わせてないっスよね!
うんうん。タチヤは医者なんすか、確かに医者が必要になった事も何度かあったんスよね。
…いつか護衛を依頼されていたヘビの国の金持ちのご令嬢を、
俺がうっかり孕ませちゃったときとか、医者を探し「少し黙りなさいと言ったでしょ」
ガルナに学習能力はないのだろうか?達哉はそう疑問に感じてしまう。
ブルブル震えていた一瞬後には、ハイテンションを取り戻し、そしてまたレナに睨まれる。
達哉はどうして良いか分からずに、ただ事態を傍観し続ける。
結局ガルナの誤解を全て解くのには、それから30分以上を要した。
× × ×
「ああ、じゃあタチヤの護身用の武器を買わないとイケナイっスね。」
「ええ、そう。いくらなんでも丸腰だと舐められるわ。
タチヤに戦う必要はないし、ハッタリでもいいのよ」
「………」
ガルナとレナが話している横で、達哉は久しぶりのまともな食事を取っている。
掻き込むように次ぎから次へと口に入れ、1週間分の渇きを癒そうとする。
達哉としては、何の肉かは分からないが、甘く煮た角煮のようなモノが気に入った。
他にも魚介類や果物など色々とあり、元の世界で食べた事のあるモノも結構有った。
「それで…達哉はどんな武器が欲しい?
報酬を受け取ったばかりだし、大概のモノは買えるわ」
「ん…ッ…むがッ…ゲホッケホッ!!!」
急に話しを振られて、食べ物で口をいっぱいにしていた達哉は、力いっぱい噎せ返る。
レナはそれを見て、本日何度目か分からない溜め息を漏らし、
ガルナは達哉を指差して、盛大に笑い声を上げた。
そろそろ顔色が紫になってる達哉にレナが水を差し出すと、達哉はその水を一気飲みする。
そのテンプレートな食事風景に、ガルナは更に笑い声を上げた。
達哉は水を飲み終わると、顔を赤くしながらレナの問いに答えた。
「僕なんかに扱える武器なんてあるんですか…?
元の世界にいた時だって…中学のときにやってた弓道ぐらいしか経験ないですよ」
「だから、ハッタリでいいって言ってるでしょ。
最初からタチヤに戦闘力は期待してないわ。
最低限自分を危険から遠ざけられればいいの」
レナの言葉に達哉は考え込む。自分に使える武器なんて思い付かないし、
ブラック・ジャック宜しくメスを投げるなんて事が出来るわけもないし、やはり弓道しか思い付かない。
だが、それも中学三年間やっていただけで、高校に入ってからは勉強に力を入れていた所為でご無沙汰だ。
…いまさらだがシミジミ思う。あの頃は良かったと。
女の子には結構モテたし、勉強もスポーツも出来たし、友達もたくさん居た。
それが今じゃ、ライオンとヘビに囲まれて昼食を食べている、幸薄い奴隷の青年だ。
達哉は昔の事を色々と思い返しながら、「弓矢にしときます」と投げやりに言った。
「あ、弓矢っスか。確かに姐さんたちが戦ってるのを、後ろから助けるだけで良さそうっスね。
まあ、敵に矢が届く前に、姐さんが倒しちゃうと思うっスけど」
「アハハ…レナさんならやりかねないよね。シャレにならないくらい強いし」
レナは、達哉とガルナの言葉を無視して「じゃあ決まったわね」と言って席を立つ。
達哉もガルナは、見事にハモりながら「「あ、まだ食べ掛け…」」と反論するが、
レナは2人の服の襟首を掴むと、強引に引っ張って立ち上がらせる。
そしてそのまま2人を引きずって酒場から出て行く。
達哉はレナに引きずられながら、お代を払っていない事に気が付いた。
どうしても気になってしまい、一緒に引きずられているガルナにそれを尋ねた。
「ガルナ、さっきのお店の代金は払わなくてもいいのかい?」
「ああ、それなら問題ないっスよ。あの店は“蛇足”の隠れ家みたいなもんスから。
あの店の主人と契約してるんスよ。あの店を維持してやる代わりに、
俺らがこの街に居る間は、貸し切りにしてくれるんス」
「ふ〜ん…そうなのか…」
達哉は、ふとあの店の主人の顔を思い返す。
厳つい犬人と、その母親と思しき犬人の老婆だった。
恐らく2人だけではあの店を切り盛りしていく事が出来ないのだろう。
味は確かのなだが、あの古びた店で客足は期待できる筈も無い。
達哉は、筋違いであろうがその2人を心配する。
心配するだけで何もしないところは、突っ込まないでくれると有り難い。
今の達哉に出来る事など何も無いし、
心配性は生まれ持った性分なので仕方が無いだろう。
「凄いんだね…君達は…」
「俺なんか大した事ないっスよ。姐さんたちに比べれば赤んぼみたいなもんス。
タチヤみたいに医学の知識も無ければ、姐さんみたいに強くもないっス。
……ちょいと人間を騙すのが得意なだけの、賢しい蛇っスよ。
昔は蛇国で諜報部隊の隊長してた事だってあるんスけどねぇ……。
嘘吐き過ぎて、女遊びが度を越して、気が付いたら故郷を追い出されて流れてたんスよ。
姐さんに拾ってもらえたからいいものを、
“蛇足”に入ってなかったらどうなってたか、考えただけでゾッとするっス」
ガルナは達哉の前で始めて見せる、切な気な表情をして青空を眺めた。
達哉もそれに習って青空を眺める。そういえば、空を眺めるなんて久しぶりだ。
この世界は月が2つあると聞いて夜に一度眺めたのだが、それ以来だ。
ズザザザと言う、レナが達哉とガルナを地面に引き摺る音はジャマだが、
それを差し引いてもこれまでに無く落ち着いた気分になった。
同性の気を許せる相手と言うのは、思った以上に重要らしい。
この世界に来てから、初めて“トモダチ”と言う言葉を強く意識したと思う。
心が和むのを感じる。今なら、父親を殺してしまったと言う事も、話せそうな感じだ。
だが、話すつもりはない。必要になれば話すし、必要なければ極力思い出したくない事だから。
達哉はガルナに向かって笑い掛ける。そしてまた空を仰いだ。
「もうすぐ店に着くわよ。そろそろ自分の足で歩きなさい」
レナに言われてやっと気が付いた。自分達がどれだけ多くの視線を集めていたか。
珍しい半獣の容姿を持った獅子人の女性が、ヒト奴隷と蛇人を引きずって歩いている。
しかも、ヒト奴隷も蛇人も信じられないほどくつろいでいる。
人々の奇異の視線を集めるには、充分過ぎる材料が揃っている。
居心地の悪くなった達哉とガルナは、慌てて自分の足で歩き出す。
しかし時すでに遅く、人々の視線は自分達から離れて行く事はない。
結局その視線は、3人が武器を買いに建物の中に入るまで離れる事は無かった。
「さあ着いたわ。タチヤ、早く選びなさい」
「あ、はい。……僕が使えるのとかあんのかな…」
店に入り、陳列されている武器を物色しながら、腕を組んで考える。
弓と矢は結構な数が売ってるのだが、ヒトの腕力で扱えそうな弓が見付からない。
こちらの住人が使う事を前提に作られた弓は、ヒトが扱うには弦が強すぎる。
店主の猫人のおじさんも、達哉が精一杯弓を引く仕草を、呆れた様子で見ている。
待ちくたびれたレナは、弓を店主に返すと別の注文をした。
「思った以上に体力がないのね。…仕方ないわね…。
オジサン、ボウガンは有るかしら?鼠人が使えるようなちゃちなモノでいいから」
「ああ、あるよ。ただし当たっても大したダメージは期待できないね。
実戦で使うなら、こっちの毒薬もセットで買うといいよ。
痺れ薬と、致死性の猛毒と、一定時間仮死状態にさせる変わりダネもあるよ」
店主の男は、待ってましたとばかりに饒舌に語り出した。
どうやら、達哉の武器を買うと分かった時点で、そのボウガンを出す事を想定していたようだ。
猫人は商売上手だと聞いたが、それが本当だった事に達哉は苦笑する。
達哉は店主からボウガンを受け取り、矢をはめずに試し撃ちの動作をする。
滑車を使って弦を引く手法を使っているので、確かに力が無くても扱う事が出来る。
また、反動も少なく確かに使いやすい。これならヒトの腕力で十分だ。
それに殺傷力が低いと言うのも気に入った。
仮にも達哉は医者なのだから、人殺しの道具を持っていたくない。
どうしても相手を殺さなくてはいけないときにだけ、さっきの毒を使えばいいのだし。
「おうっ、中々サマになってるっスね!格好良いっスよ!」
「有り難う。後は、実戦でちゃんと狙いが付けられるかだよね…」
それを考えると、達哉は不安になってしまう。
実戦と言われて想像するのは、初めてここに来た時に出くわした、レナと狼のリーダーの戦い。
あんな戦いの中で、自分が敵に狙いを定めて引き金を引けるだろうか…?
そう聞かれたら答えはNOに決まっている。
無理だ。絶対に無理だ。引き金を引く前にチビらないか心配だ。
つか仲間に向かって誤射しないか非常に心配だ。
あんなにしなやかに素早く動き回る戦いの中、達哉の動体視力で射撃など、無理だ。
だがレナは、そんな事はお見通しとでも言わんばかりの尊大な目で達哉を眺め、
その後に達哉の腕からボウガンを引っ手繰ると、レジに渡す。
「これを買うわ。さっきの毒薬も3つセットで頂戴。それから矢の束も200本くらいね。
それとそこの服を、尻尾の穴を塞いでお願いできるかしら。
……これだけセットで買ってあげるんだから、少しはお得になるわよね?」
「ハハハ、面白い漫才も見せてもらったし、ボウガンの値段は20%オフにしとくよ。
普通のお客さんじゃこんなちゃちなものは買わないし、
かと言って鼠人のお客さんは、店主が猫ってだけで出て行っちゃうからね。
在庫処理に困ってたんだよ。ありがとう。
ほら、オマエさんも良いご主人に恵まれたな」
レナから武器の代金を受け取りつつ、店主が達哉を見て言った。
その表情は、ヒトだからと言って馬鹿にした様子は見受けられず、素直に好感が持てる。
こちらに来てからほんの1週間ほどだが、レナとガルナ以外からは、常に見下されていたと思う。
中にはこんな相手もいるのだと、達哉は感心した。
「まったくですね。レナさんに拾ってもらえて幸せですよ」
「あ〜っ、またまたノロケちゃって!なんスか?やっぱり実は姐さんに気があるんスか?
達哉もスミに置けないっスね!…ハッ!?…もしや姐さんに一目惚れしてついてく事を決めたんスか?
いや、奇遇っスね〜♪俺もそうな「じゃあそろそろ行くわよ。タチヤ、その馬鹿は置いて行ってもいい
から」
また何か語り出そうとするガルナの言葉を強引に遮り、レナが店の扉を開ける。
ガルナは『馬鹿』と言われた事に落ち込んでいるようだが、レナが先に行ってしまったため、達哉は慌
ててレナを追い掛ける。
ガルナは、期待していたのに達哉が慰めてくれなかった事に、さらに気を落としつつ2人を追い掛けた。
達哉も慰めてやりたいのはやまやまだが、レナの命令に逆らってまでする勇気も無い。
とりあえずこの1週間で学んだ事は、レナが絶対の存在であり、彼女の命令には絶対服従と言う事だ。
とやかく指図される事はないが、重要な場面では達哉に的確な指示を送ってくれる。
その通りに行動すれば万事が上手く運ぶ。これが本当の、リーダーの資質なのだろうと思う。
「ヒドイじゃないっスか姐さ〜ん…。馬鹿呼ばわりして〜……
これでも一応、頭脳には自信があるんすよ。小さい頃は地元の暗算大会でも1位を取ったんスよ!」
「おまえは人間性からバカなのよ。おつむとは別次元ね。
……同じ事がタチヤにも言えるかも知れない。おまえ達は案外、似た者同士だわ。」
レナに言われて、ガルナと達哉は顔を見合わせた。
そして、お互いに今日出会ったばかりの、新しい仲間への考えをまとめてみる。
まず達哉は、ガルナを歩く性欲の固まりだと意識している。
食事の途中にも余裕で下ネタを語り出すし、『もう女ならなんでもいい』とか堂々と言っていた。
昼食の風景が、達哉の頭の中に蘇る。
『そんなに溜まってるのなら、ここならそこら辺にいくらでも娼婦がいるでしょ』
これはレナのツッコミだ。
『駄目なんスよ。尻軽DQN女は守備範囲外っス。
まあ、無理矢理に娼婦として働かされてる人奴隷のカワイコちゃんを俺が助けて、
徐々に愛を育んで行くなんて展開は、バッチ☆コイ!!なんスけどね〜』
これがガルナの答えだ。
達哉は、つい苦笑してしまった。今日出会ったばかりだと言うのに、もう気の置けない友人と認識し
てしまってる。
それはガルナの方も同じようで、同じように笑っていた。
不思議な事に、達哉はガルナの言動に不快感を覚えない。
元いた世界で、同じような事を口にする相手がいれば、確実に嫌いになっている筈だ。
だが、ガルナにはそういう発言をしても平気な、場を和ませる雰囲気が有った。
なんで『僕達って似た者同士だよね』な話題が『彼女が欲しい。もう溜まりまくり』な話題に摩り替
わるんだか。
達哉は苦笑と失笑を足して2で割らないような表情で、ガルナに返す。
一方のガルナは、またもオーバーリアクションでそれに返した。
「あーーッ!実はそれ気にしてる所なのに!
ヒドイじゃないっスか!タチヤだけは信じてたのに!
男の熱い友情が結ばれてると思ってたのに!!」
「気にしてるのなら直す努力をなさい。
それが出来なければ、よほどの幸運が無い限り彼女は出来ないと思うわよ」
レナの言葉に、とうとうガルナは心が折れてしまったのか、がっくりと項垂れて達哉に寄り掛かった。
流石に可哀相になってきた達哉は、話しを別の話題に移す事にする。
「あ、レナさん。次はどうするんですか?
ガルナとも合流したし、僕の武器と服も買いましたし、もうこの街に用はないんですよね」
これは、今日ずっと気になっていた事だ。ようやく聞く事が出来てホッとする。
今日一日中(というかガルナと合流してから)、ずっとガルナのマシンガントークのせいで
達哉から発言する事が出来ず、タイミングを見失っていた。
レナは、振り替えって達哉の方を向くと、すぐに答えてくれた。
「とりあえず、当面の生活費は受け取ったし、一先ずアジトへ戻るわ。
タチヤを正式に“蛇足”のメンバーに迎え入れるためにも、
他のメンバーに挨拶をしてもらわないといけないしね。
それと…アジトは狼国のある荒れ地に隠してあるの。
そっち方面へ行く輸送車かなんかを買収して連れて行ってもらうわ」
「はい。分かりました」
他の“蛇足”のメンバーと会わなければならない。
そう思うと達哉は微かに緊張した。ガルナの話しでは曲者ばかりらしいし、
果たして非力なヒトの自分を受け入れてもらえるかどうか、非常に不安だ。
達哉のそんな気持ちが表情に表れていたのか、レナが声を掛けてくれた。
「そう今から緊張する事も無いわ。どうせ私の紹介なんだから平気よ。リラックスして。
輸送車の下調べもガルナが終わらせといてくれたし、出発は明後日よ。
今日はもう宿を取って寝る事にしましょう」
日はそろそろ傾き掛けていた。レナの薄く茶色を帯びた黄色っぽい橙色の毛並みは、
夕日によく映えて美しいなと、達哉は思った。
だが、そんな考えはすぐに達哉の頭の中から吹き飛ぶ。
(久々にちゃんとした布団で眠れる!!)
そう思っただけで、達哉は飛び上がりそうな気分になってしまう。
元の世界にいたときは意識した事も無い幸せだ。
こういうのも良いかも知れないと、そろそろ思い始めてきた。
第2話完