蛇足のアジトは、驚くほどあっさりとしたモノだった。
生活に必要最低限の品物だけが置いてあり、それぞれの個室が割り当てられている。
あまり使っていないのか、生活臭は感じられず、妙に印象に残らない場所だった。
いや、ガルナとミリアルドの部屋だけは、生活臭に溢れまくる汚い部屋だったが。
達哉は空いている部屋を一つ割り当てられ、そこを軽く掃除して、アジトを後にした。
達哉がそこへ行った理由は、アジトを取り囲む魔法を上書きするためらしい。
アジトの周りには魔法が掛けられていて、来るモノの方向感覚を狂わせるが、
“蛇足” のメンバーだけは、例外として魔法の効力を受けないそうだ。
そして今回は、達哉の存在を、アジトを包む魔法に対して、上書きするの必要があった。
もちろん、アジトの金庫に、この前貰った報酬を貯め込んだり。
今任務が入っていない者は、そのままアジトに居残ってくつろいだり。
そんな理由もある。一番近くの街まで、獣人の足ならそれなりの時間でいけるらしい。
クユラのように乗り物を使ったり、ミリアルドのように飛べば、もっと早い。
“蛇足” のメンバー並みに体力があれば、そんなには不便ではないようだ。
そして達哉は、驚くほどのスピードでアジトを後にした。
現在は、虎国の中を走る蒸気機関車に、クユラと2人きりで乗り込んでいる。
最初こそは、日本ではほとんど残っていない蒸気機関車に、楽しいと思っていた。
しかし、新幹線とは比べ物にならないくらい遅いし、乗り心地も悪い。
レトロな雰囲気を楽しむのも良いが、やはり現代日本の科学が達哉の好みだ。
更に、虎人は魔法が苦手なので、虎国では魔法も滅多に見る事ができないのも痛い。
クユラは先ほどからずっと、何やら本を読み始めて、達哉を相手にしてくれない。
達哉は暇を潰す本も持っていないし、何よりこちらの世界の文字が、まだ読めない。
「ふぁあ………」
大きな欠伸を一つすると、今この状況になった経緯を回想する。
達哉は、アジトの地下室へ連れて行かれ、意味の分からない魔法陣のようなものに投げ込まれた。
気がつけば、知らない部屋の中で、投げ込まれたのと同じ魔法陣の上にいた。
そのままキョトンとしていると、今度は達哉の上にクユラが降ってきた。
下敷きになった達哉は、ぐみゅうと情けない声を出した。
「タチヤ、すみませんわ。下敷きにしてしまいまして。
移動した後、魔法陣から出てくれませんと」
「え、そもそも何が起こったのか説明して……」
「あら、言うのを忘れていましたわね。
良くてよ。わたくしが説明してあげますわ」
クユラは達哉の上からどくと、もはや恒例になっている、ホワイトボードと指差し棒を構える。
達哉が腰を擦りながら立ち上がるのを待ち、自分の方を向いたのを確認して、説明を開始した。
「まず、そうですわね。今タチヤとわたくしがいるのは、虎国ですのよ。
あの魔法陣は、空間と空間を繋げる効果がありますの」
「へえ、もう何にも驚かないって自信が有ったけど、やっぱり驚くよ……」
クユラの説明に、達哉は驚いた表情で返した。
流石にここまで来ると、魔法の偉大さを目の当たりにして、呆気に取られてしまう。
ようするに、瞬間移動をした訳だ。最早、どう反応すれば良いかも分からない。
今までにも、充分に元々持ち合わせていた常識は破壊されていたが、もう跡形も無く壊れた。
グッバイ僕の常識。
「いえ、これはかなり大変な魔法ですのよ。
わたくしでも、虎国のダンジョンで発見した文献を頼りに、
この魔法陣を描くのには、200年も掛かってしまいましたわ。
まあ、おかげさまでわたくし意外に、この魔法を使える方はいませんけど。
ですが、この魔法陣のある場所にしか移動は出来ませんし、
膨大な魔力を消費しながら、三日三晩寝ないで、飲まず食わずで描き続ける必要がありますのよ。
若い頃のわたくしも、随分と無茶をやったものですわ。
魔力を大量に消費するのも、徹夜も、過度なダイエットも、全部お肌の天敵ですのにね」
ホワイトボードに次々浮き出てくる絵柄を、指差し棒を使って補足しつつ話すクユラ。
達哉は感心して、頷いたり相づちをうったりしながら、そのホワイトボードを凝視していた。
なんでも、魔法陣と魔法陣を移動する事しか出来ないらしい。
だとすれば、今まで行った事のある場所でないと行く事はできない。
クユラの、先ほどの嫌がりようから見ても、行ける場所は少なさそうだ。
その証拠に、犬国から狼国への移動も、あの魔法陣は使わなかった。
単に、魔法陣を使えるクユラが、一緒にいなかったからなのかもしれないが。
タチヤは、クユラの補足に相づちを打ち、所々で歓声を上げる。
RPGゲームなんかは好きだったが、この世界は、本当にそんな感じの世界観だ。
そんな中で、ヒールを演じる傭兵集団の一員に、自分はなっている。
子どものような想像を、どうしてもしてしまう。
これは、幸運なヒトである達哉だからこそ言える事だろうが、元の世界にいるよりも楽しい。
それは顔に出てしまったのか、クユラは少し呆れた表情をすると、指差し棒で達哉の頭を軽く小突いた。
「そんな楽しそうな顔はしないでくださらない?
わたくしは、この魔法陣を描くのに、大変な苦労をしましたのよ。
オマケに起動させる度、かなりの魔力を消費しますし、
“蛇足” 中でも使えるのはわたくしと、オルスがなんとか出来るだけですの。
この魔法の所為で、私がどんな思いをしているか、
魔法の使えない方には、一生分からない事ですわね」
「あはは、ごめんなさい……」
逆ギレされてる気もしなくないが、クユラの口調につい謝ってしまう。
それでも、苦笑しながら謝られた事に、クユラはまだ満足がいかないようだ。
クユラはもっと誠心誠意謝って欲しいと思ったが、
後で代償を支払ってもらおうか、自分の中で結論を付けた。
「まあ、いいですわ。それよりも、今回の仕事に参りましょう」
「あ、うん。今日は仕事でここにきたんだよね」
「他にどんな理由がありまして? しょうもない理由で、大事な魔力は使いませんわ。
この若々しい身体を維持するには、あなたには想像もつかない苦労があるのですよ」
達哉は、またも苦笑しながら謝った。クユラも結構セコいなと思いながら。
実年齢は500歳を超えると言っているが、達哉から見れば15前後の少女にしか見えない。
それを若々しい体を維持する努力や、苦労を語られても、イマイチ実感が湧かない。
だから、魔力をケチる姿に対しても、あまり肯定的に受け止められない。
しかしいつまでそれを考えているのも、達哉の性に合わない。
そこでその考えは停止して、別の事を考える。
他にも聞きたい事はあったし、それを尋ねようとした。
だが、クユラはもうホワイトボードと指差し棒をしまっている。
今さら聞くのもどうかと思い、疑問を口にする事はなかった。
もう一度頼んでまで、答えて欲しい疑問でもない。
それに物事を教えているときの、クユラからの上から目線は、あまり気持ちの良いモノではない。
ヒトとかそれ以前に、達哉の無知に対しての上から目線であろう事は、せめてもの救いだが。
「ボーッとしてないで、行きますわよ。
目的地はここから結構離れていますし、まずは駅に行って蒸気機関車に乗りましょう」
言いながらさっさと先へ進み、クユラは部屋の外へ出るドアを開けた。
すぐに先に進んでしまうクユラを追い掛けて、達哉も部屋から出る。
そうすると、薄汚れた廊下に出る。クモの巣が張ったりして、随分と古めかしい。
クユラはその惨状に、露骨に嫌な表情をしていた。
「手入れを怠っていましわ。少し目を離すと、すぐ汚れてしまいますのね」
「少し掃除をサボるとすぐに散らかるのは、何処の世界も共通だなぁ」
元の世界の達哉の部屋も、今頃は散らかり放題なのだろうかと、不安になる。
もしかしたら、警察の家宅捜索なんかで、もっと散らかっているかもしれない。
まあ、いくら心配したところで、もう帰る事もないのだろう。意味が無い。
現実的なところに目を向けなくては。そう思って達哉は、クユラに目を向ける。
「ちょ、クユラさん待って」
達哉はスタスタと先に進むクユラを追い掛けて、小走りになった。
少し油断すると、一気に引き離されてしまう。
クユラはあれでも達哉の倍以上の体力を持っていて、ヒトとは違う存在なのだ。
華奢な体付きからは想像もつかないが、ヒトのプロレスラーとケンカしても負けないのだろう。
「タチヤ、少しこちらに来てくださらない?」
「あ、うん」
クユラは、廊下の突き当たりのドアの前で立ち止まると、達哉を読んだ。
達哉が慌てて近寄ると、クユラは薄汚れたドアノブを指差している。
「これはちょっと、触りたくありませんの。
申し訳ありませんが、達哉が開けてくださると嬉しいのですが」
「ああ。今開けるよ」
達哉はドアノブに手をかけ捻る。そしてドアを開けると、そこには大勢の虎人たちが歩いていた。
その光景に圧巻されつつも、ここが虎国だと初めて実感した。
道行く人間たちは、虎のシマシマ毛皮の男や、虎の耳と尻尾のついた女性。
こちらに来てから、まだ虎人を実際に見た事はなかったので、素直に関心を持った。
「さあ、行きましょう。依頼人との交渉は、私が済ませておきました。
後は、仕事の場所へ移動するだけですわ」
そして駅まで連れて行かれて、クユラが予め予約していた、個室付きの寝台車に乗って、今に至る。
蒸気機関車では目的地まで1日以上かかるとの事で、こうして無意味な時間を消化している訳だ。
達哉はもう一度大きな欠伸をすると、背もたれに寄り掛かって、目を瞑る。
やはり、元の世界の電車の背もたれの方が、フカフカで気持ち良い。
「退屈そうですわね」
「やる事がなくってさ。暇で暇で」
「そうですか。ならわたくしが落ちモノの本を持っていますが、読んでみますか?
あなた達の世界の本は、文章の構成力や発送など、
こちらの世界の本よりもレベルが高くて羨ましいですわ。
それに絵もとても綺麗で、平和だからこそ、娯楽が発展するのでしょうね」
クユラは、そんな事を言って笑いながら、本を一冊取り出した。
ブックカバーをしてあるので、どんな本かは分からないが、サイズはA5版くらいだ。
達哉はクユラにお礼を言いつつ、その本を開いてみる。
これでやっと、消化しきれない虚無の時間から解放される。
それを喜びながら、本の内容に目を通した。どうやらマンガのようだ。
『リョ○マ君、挿れるよ……!』
『あ、不○先輩……ッ!!』
達哉はヒトとは思えないほどの速さで腕を動かし、本を閉じる。
見てはならないモノを見てしまった。そんな感覚に頭を支配される。
絵だけでなく、文字も少し読んでしまった事で、ダメージは数倍になる。
どうやらクユラは、こちらの文字に翻訳せず、元の文字で読んでいるようだ。
「なんてモン読ませようとすんの?」
「ウフフ、どんな反応をするか気になってしまいましたの。
美少年同士が愛を語り合うと言うのも、中々面白いものでしてよ」
「僕はオトコ! そんなの見ても面白く無いし、寧ろ気分が悪いよ!!」
18禁同人本をクユラに叩き返して、達哉は叫んだ。
あんなものが落ちてきていたなんて、ヒトの世界の文化を誤解されたりしないのだろうか。
なんでもかんでも落ちてくると聞いていたが、これは想定の範囲外だ。
本屋の絶対に避けて通るコーナーの商品が、こうして落ちてきている。
なまじ原作を知っているだけにダメージも大きく、達哉は鳥肌を立てた。
「もう、そんなに露骨に嫌がる事もありませんのに。
すみませんでしたわ。わたくしとした事が、少し調子に乗ってしまいました。
気を取り直して、仕事のお話でもしましょう」
「う〜ん……、元の話しをはぐらかされてるようで、なんか腑に落ちないな……」
達哉はイマイチ釈然としないまま、疑わしげな視線をクユラに向ける。
しかし、まだ仕事の内容を聞かされていなかった事も有り、一応は興味をそそられたりしている。
これは、達哉にとって初めての“蛇足” として仕事だし、レナの役に立てそうだと思うと、やる気も出る。
達哉は訝しげな表情を崩さないまま、クユラの言葉に耳を傾ける。
「まあ、お気になさらずに。わたくしは気にしていませんわ。
それよりも、仕事の話しですわよ」
「OK、話して」
達哉は訝しげな表情を維持する事を諦め、真面目な表情になっていた。
「まあそう焦らずに。順を追って話しますわ。
まず今回の依頼主は、虎国のとある領主ですわ。
虎国では、無数の領主がそれぞれの領地に点在しているのを、知っていますわよね」
「ああ。レナさんと2人のときに、この世界の事情は大体教えてもらったし」
「なら話しは早いですわね。今回の依頼主は、ちょっとヘマをしてしまい、
悪どい別の領主に騙されて、自分の領地を失ったお馬鹿さんですのよ。
残った全財産を掛けて『アイツを破滅させてくれ』と、依頼されましたの」
「うっわぁ……」
初めての仕事と意気込んでいたが、これでもかと言うほど私怨の依頼だ。
「あまり傭兵と言う仕事を美化しない方が良いと思いますわ。
5割方は私怨の依頼で、4割も国の間での小競り合いやら、薄汚い事ばかりですのよ。
最後の1割がその他諸々。悪意無しに依頼される事など、滅多に無いと思ってくださいな」
サラッと理想の傭兵像を打ち壊され、後に不快感だけを取り残される。
達哉が自分の中で、傭兵を美化し過ぎていたのは確かだ。
突き付けられた現実に、達哉はがっくりと肩を落とした。
しかし、これもレナの役に立てると自分に言い聞かせる。
達哉は自分を奮い立たせて、クユラの言葉を待った。
具体的に、達哉が何をすればいいかを、まだ聞いていない。
「それでタチヤには、以前わたくしが言った通りの仕事をしてもらいます。
今回の目的は、相手を殺す事ではなくて、社会的に破滅させる事です。
だから、“蛇足” で一番頭の良いわたくしと、
ヒトである事を利用して相手の懐に潜り込める、達哉が依頼を受けるのですわ。
その男ですが、かなり悪どい事をしているそうで、
内部から粗を探せば、簡単に破滅させられると思いますの。
ですから達哉は、まずその男の一人娘に近付いて、徐々にその男に近付いてください。
疑り深い男だそうですが、流石にヒトを警戒したりはしないでしょう。
本当は、最も警戒すべき存在だと言いますのにね」
クユラの言った事を、達哉は自分の頭の中で整理し直す。
つまり、ターゲットの一人娘に近付いて、警戒心を解かし、徐々にターゲットに近寄る。
なんと言うか、詐欺師みたいなやり方だと思った。
あまり気の進む仕事ではないが、さっきもクユラから傭兵を美化するなと言われたばかりだ。
仕事なんだと、割り切らなくてはならないところなのだろう。
「分かったよ。じゃ、女の子を口説く練習でもした方が良いかな」
達哉は、レナが聞いたら、その瞬間に張り倒されそうな冗談を言ってみる。
しかし、まずは一人娘の女の子に近付くのだから、冗談を抜きにしても、練習の必要があるかもしれない。
そう考えを巡らせながら、レナと恋人として過ごす時間が、ほとんど無かった事を悔やんだ。
まさかあそこまで周りに関係を知られる事を嫌がるとは、達哉も予想外だ。
結局、誰も見ていないところで、少しだけいちゃつく程度の時間しか無かった。
達哉としてはイマイチ不完全燃焼な調子だが、レナは今のままで満足だろうし、我慢しようとは思ってる。
そのうち、レナと2人きりの仕事の機会などもあるだろうし、それまでの辛抱だ。
そうやって、今の仕事とは全く関係の無い方向へ、思考がリープしていく。
そんな中で、クユラは達哉が言った冗談に、珍しく真面目に対応した。
「そうですわね。タチヤは女性の扱いが下手そうですし、少しくらいは学ぶ必要があってよ。
せっかくわたくしが送り込んであげても、機嫌を損ねるようならそれまでですし。
…………わたくしが、直接教えて差し上げます。しっかりと覚えてください」
「え……、クユラさんが?」
15かそこらの少女に、女性の扱いを教えられる。
いくら中身は500歳でも、あまりしっくりくる感覚はない。
それは、達哉がクユラの事をあまり知らず、彼女の本質を全く理解していないからだった。
彼女の事をよく知るものなら、淑やかな態度は演技で、本質的には猫人なのだと知っている。
そして今回も、クユラは達哉を手込めにして楽しもうと考えていた。
「そう。わたくしが直々に。
20を過ぎたばかりの若造が、わたくしに教えて貰えるなんて、とても光栄な事でしてよ」
「……ッ!?」
ガタンと音を立てて、クユラが手に持っていた本が床に落ちる。
その横で、クユラはタチヤの肩を掴み、押し倒していた。
電車の中とは言え、ここは高級の個室だから、見られる事を心配する必要も無い。
達哉は抵抗しようともがいているが、そこはまあ、ヒトが相手だ。取るに足らない問題と言える。
クユラは、達哉の両腕を片手で抑え込むと、空いてる方の手を達哉のズボンへ潜り込ませる。
「いきなりこんな事をしてしまって、すみませんわね。
ですがタチヤはこれから、女性の元へ“貢がれる”訳ですし、練習の必要がありますわ。
分かっているでしょう? あなたはヒト。
それをこの仕事に活かそうとすれば、こうなるのです」
「うっ……、それは……ッ」
クユラの細い指が達哉の性器を掴み、慣れた手付きで弄り回す。
男に何かを吹き込むときは、こうしながらに限った。
しかし達哉は、それでも何処か後ろめたそうな表情をしている。
単純に嫌がっている訳ではなく、誰かに申し訳ない。そう思っている表情に見えた。
達哉の様子に、クユラは自分の推測を確信へと変える。
「レナさんの許可なら、もう取ってありますわ。
彼女も、元々はこういう仕事に使うつもりで、あなたを拾ったのですしね。
まさか恋仲になってしまうのは、予想外だったのでしょうが」
「――なッ!!?」
達哉の呆気に取られた表情を見て、クユラはニンマリと笑った。
思った通りの反応に、思わず頬がほころんでしまった。
「2人とも初心で、隠してるつもりでも、少しぎこちないと思いますわ。
これじゃ、闘うしか能の無い犬狼とか、精通を経験してるかも微妙なお子様鳥や、
盛るだけで、女心を1%も理解できないヘビぐらいしか、騙せませんわよ」
クユラには、気付いているのは自分だけだと言う自信があった。
伊達に500年生きてる訳ではなく、恋愛も性交渉も、人並み以上に経験はある。
色恋沙汰に関する洞察眼には、かなりの自信を持ち合わせていた。
今回も、口ではああ言ってるが、レナと達哉の関係は、かなり巧妙に隠されていた。
レナも開けっ広げにしてしまえば楽だと言うのに、
恋愛の経験が欠如していると、妙に気恥ずかしくなるんだろう。
いつの間にか、達哉の性器がかなり堅くなっている。
乗り気ではなくとも、男性と言うのは体で反応してしまうものだ。
クユラはタチヤのズボンのファスナーを開けると、ズボンをパンツごと、少しずつずり下ろす。
すると、窮屈な場所から出る事の出来た肉棒は、嬉しがっているかのように、天井を目指して反り立った。
中々綺麗な形だなと思いながら、クユラはその肉棒を口に含んだ。
先走りの液がもう出始めていて、少ししょっぱい味が、口の中に広がる。
「ちゅ……はぁ……。ん……ちゅ……
……レナさんにこんな事をされたら、再起不能になってしまうのでしょうね?」
「や、やめてくれよッ!!」
達哉は初めて味わうフェラチオの感覚に、背筋がゾクゾクするのを感じた。
元の世界にいるときは、彼女とだってそんな事をする勇気はなかった。
達哉の控えめすぎる性生活が反感を買い、自然消滅した記憶がある。
そしてレナのザラザラの舌でそんな事をされれば、一生使い物にならなくなってしまう。
みるみるうちに、達哉は絶頂への階段を上り詰めていくのが分かった。
クユラもそれに気付き、どうするか考えたが、結局フェラチオを中断せず、口の中に出させる事にした。
最後の仕上げとばかりに、亀頭の先を舌でなぞり、陰嚢を手で軽く揉む。
そうすると、今まで相手をした全ての男は簡単に果てた。そして、今回も同じだ。
「あっ、うぁッ!」
達哉の口から声が漏れ、勢いよく射精した。クユラはそれを全て飲み干す。
出された精液を飲み込んだ後も、口の中に入れたままの肉棒を舌で舐め、軽く吸う。
それと同時に達哉の口から、再度うめき声が漏れた。
達哉の射精の速さが自分の技量を表していると、クユラは得意そうな笑みを浮かべた。
ちゅっ、と音を立てて肉棒を口から出すと、透明の糸が後を引き、そして切れる。
「随分と早漏れですわね。
もう少し我慢出来るようにならないと、満足させてあげられませんわよ」
クユラはそう話しながら達哉を寝かせ、その腹の上に座る。
しかし、達哉が諦めずに抵抗しようとするのが、少し気になった。
クユラは右手の指先に、ふっと息を吹きかける。
そしてその指先で、達哉の両手首をなぞった。
すると、達哉の手首は床に張り付き、身動きが取れなくなる。
「これはっ!?」
「魔法ですわ。もう少し大人しくしてくれたら、使う必要もありませんのに」
達哉が身動きを取れなくなった状態で、クユラは達哉の上着を脱がし始める。
ボタンをプチプチと外し、下着をまくりあげた。
男の上半身なんて、さして隠す必要も無い筈だが、それでも達哉は恥ずかしそうな顔をした。
自分は遥か昔に忘れてしまった、初心な恥じらいに、クユラはフフンと鼻を鳴らす。
こういう男性を調教して、正真正銘のプレイボーイにしてしまうのは、中々面白い。
「まあ、今回は程々にするので、タチヤも楽しんでください」
しかし、クユラとて節度はわきまえている。他人の持ち物を、勝手に調教するつもりはない。
あくまでも、少しこういう事に慣れさせて、この先の仕事に支障が無いようにする。
今回は、その為にこうして押し倒しているだけだ。
だが、クユラ自身がこの行為を楽しんでいるのは事実だ。
思えばヒトとの性行為など、かれこれ100年ほど御無沙汰だ。
その時は、養うつもりも無かったので、数回した後に売ってしまった。
そして今は、レナが近くにいるときは、こうして押し倒す事もままならないだろう。
今の内に、目一杯楽しんで置くのが得策だ。クユラは、そう判断した。
「タチヤを楽しませてあげますわ。
ですが、わたくしも楽しませて頂きますわね」
「やめ……、僕は――うぅッ…!」
達哉の口から出る言葉は、クユラにはあまり心地良いとは思えなかった。
だから、聞こえるのが嬌声だけになるようにする。
尻尾を使って肉棒を扱きながら、達哉の乳首を指先で弄ぶ。
乳首は、女性だけでなく、男性にとっても性感帯だったりする。
案の定、達哉は体を震わせて、素直に反応してくれる。
慣れた男と言うのは、こちらを気持良くさせてくれていいが、
達哉のように慣れてない男は、こちらから攻めた場合の、手応えが堪らない。
まるで操り人形のように、クユラの思い通りの反応をして、身悶えてくれる。
「ウフ、気持が良いのですね。今、もっと良くしてあげますわ」
「ひっ、ぅあ……ッ」
指先で軽く弄ぶだけだった乳首に、今度は爪を立てた。
痛みとも快感ともとれない、微妙な感覚に達哉はうめいた。
クユラはそのまま、達哉の胸に顔を近付けると、次はもう片方の乳首を舐め上げた。
数回舌でぺちゃぺちゃと刺激し、次はそこに口をつけて吸い上げる。
達哉はなんとかして逃れようとするが、手首は床にくっ付いて離れない。
それ以前に、絶え間無く送られてくる刺激の所為で、全身に全く力が入らない。
そんな中でも、なんとかクユラを振り払おうと、慢心の力で胴体を揺らそうとする。
だが、それは察知されてしまったのか、達哉が体に力を込めたその瞬間、乳首に歯が立てられた。
そしてそれと連動して、先ほどから肉棒を弄っていた、クユラの尻尾が、動きをいっそう激しくした。
「さ、早く出してください。
恥ずかしがらなくても、男だから仕方ないと、割り切ってくだされば良いのですわ」
クユラが一旦顔を上げ、達哉の目を覗き込みながら、そう言った。
そして今度は、達哉の耳に顔を近寄せ、口に拭くんで舐め上げた。
もはや達哉の体は出来上がっていて、迫り来る絶頂に抵抗するすべはなかった。
そのまま一気に射精して、クユラの尻尾を白濁色の液体で汚した。
「はっ……はぁーッ…」
「あら、もう息が上がってしまいましたの。
まだ2回しか出していませんのよ」
肩で息をしている達哉に、クユラは詰まらなさそうに言った。
まだ達哉を気持良くさせてやっただけなのに、と思ったからだ。
少し慌てながら、体の向きを変えて、肉棒をまた口で咥える。
肉棒に吐いた精液を舐め取り、舌先で突付いてやれば、萎えかけた肉棒は、また堅くなる。
「さてと。次はわたくしの番ですわね」
息を整えている途中の達哉を、横目で見ながら、クユラは自分の着ていたローブを脱ぐ。
その下にあるシャツのボタンを外し、下着を脱ぐと、大きさ、形、共に申し分のない胸が露わになった。
見せ付けるように、その胸の自分の手で揺らすと、達哉の視線が向けられるのが、クユラにも分かった。
達哉も目線を逸らそうとしたが、他に目のやり場が無いと言うか、
ここで視線を逸らせば、オッパイの神様に怒られそうな気がしてならなかった。
そんな達哉の反応に、クユラは満足そうに頷く。
長い時間を掛けて、最も理想的な形に仕立てた、自慢の胸だ。
「胸ばかり見ていても、仕方がありませんわよ。
もっと重要なのは、こっちでしょう?
タチヤがあまりに良い反応をするので、わたくしも昂奮してしまいましたわ」
「こっち……?」
『こっち』と言う言葉に違和感を覚えながら、次の瞬間には達哉もそれを理解した。
達哉のお腹の上に座りながら、クユラはローブの下に着ていたスパッツを脱ぎ始めた。
達哉がクユラの大胆の行動に驚いている内に、あっという間にクユラは裸になった。
股間の隙間に覗くのは、薄く毛の生えただけの、外見年齢と遜色の無い、ピンク色の恥部。
相手が500歳を超える女性だという考えは、完全に達哉の頭から消えた。
そんな中で、クユラのテクニックだけが、外見とは不相応に高いモノだった。
「ほら、もうこんなになってしまいましたの」
クユラは達哉に向けて大股を開き、指を使って自分の恥部を広げて見せた。
当然の話しだが、その恥部の中に、処女膜は無い。
ぱっくりと口を開いて、愛液を垂れ流していた。
指に着いた愛液を舐め取ると、達哉の腹に恥部を擦りつける。
ぬちゃぬちゃと卑猥な音が鳴り、愛液は達哉の肌を伝って、床に落ちる。
そんな焦らすようなクユラの行動に、達哉の肉棒は痛いほどに反り立ち、精一杯の自己主張をする。
当然ながら、それは達哉の意志ではなく、男としての生理的反応だ。
「んもう。こんなに堅くして。
さっき2回も出したばかりでしょう?
そんなに挿れたいだなんて、タチヤも色魔ですわね」
「ち、違ッ……!」
「あら、テンプレートな反応ですのね。
ええ、あなたは色魔などではないですわ。ですが、男です。
わたくしも、我慢するのは好きではありませんし、そろそろ挿れますわ」
クユラは立ち上がると、達哉の肉棒の上まで腰を持っていき、そして腰を下ろす。
自分の指で充分に馴らしておいたので、なんの抵抗も無くあっさりと入った。
「んっ……、素敵ですわ。とても気持良くてよ。
ほら、わたくしが締め付ける度に、こんなにビクビクいって」
「あ……ッ!」
クユラが腰を上下に動かしながら、緩急を付けてタイミングよく肉棒を締め付ける。
どのタイミングで刺激すれば相手が気持良くて、自分も気持ち良いか、それを見極めて体を動かす。
達哉に乗っかって上下に動きながら、クユラは自分の胸を掴んで揉み解す。
達哉にして欲しいところだが、先ほどクユラが魔法を掛けて動けなくしたばかりだ。
「いつでも出していいんですのよ。
どうせ妊娠はしないのですし、下腹が膨らむまででもどうぞ……ッ。
ほら、もう先走りが出てる筈ですわ。
出したくて堪らないんでしょう? 我慢する必要など、これっぽっちもありませんわ」
「で、でも……ッ」
「……仕方がないですわね。 すぐに出させてあげますわ」
クユラは達哉と自分の腰を完全に密着させて、肉棒を自分の一番奥までおさめる。
そして動きを止めた後、持てる限りの力で肉棒を締め付けた。
ピッタリとくっ付いて、逃げ場など全く無い中で、とうとう我慢できずに、達哉は射精した。
「あぁん…ッ! ……ふぅ、これなら何処へ出しても恥ずかしくありませんわね。
あなたの行く先のお嬢さんも、さぞ喜ぶでしょう。
タチヤの所為で、自分の父親が破滅するとも知らずに」
楽しそうな笑みを浮かべて達哉の方を見ると、クユラの話しは聞いていないようだ。
やはり休み無く行為を続けられて、疲れてしまったようだ。
あんまりここで長引かせて、仕事のときに響いてくるのも避けたいので、ここで終わりにする事に決める。
クユラが立ち上がると、その恥部からは愛液と精液が混ざったもの、そして萎えた肉棒がずるりと出た。
「タチヤは、そのまま寝ていて下さってもいいのよ」
「だ…けど……ッ」
裸体の上に、直接ローブを纏いながらクユラが言うが、達哉はそれに応じない。
クユラは少し考え込んだ後、達哉の顔を見て、しゃがんだ。
「今は、眠ってください。わたくしが後で起こして差し上げますから。
オヤスミ……、タチヤ」
クユラは達哉の胸に指を当てて、そっと何か図形の形をなぞった。
すると、達哉は急速に意識が遠のいていくのを感じた。
最後に見たのは、クユラの外見とは不相応に妖艶な微笑み。
21歳にして、初めて女性の恐ろしさと言うのを、目の当たりにした瞬間だった。
「ウフフ、こんな格好で寝てるタチヤを見るのも、良いですわね。
窓の外の風景を見てるよりは、いくらかマシですわ」
ガタゴトと蒸気機関車は進み続ける。
いつの間にか外は夕暮れになっていて、差し込む日の光が眩しくて、クユラはカーテンを閉めた。
窓の外の風景など、見ていたところでつまらない。
それよりも、あられもない姿で床に転がり、寝息を立てている達哉の方が、随分と見応えがある。
そしてそれを見ながら、達哉がオルスに犯されていると所や、ミリアルドを犯している場面を想像した。
中々笑える光景だ。自分の想像に、クユラはくすりと笑った。
蒸気機関車の度はまだ続く。
目的地までは、まだ半日ほど掛かるだろう。
終