今、上条健也の前を、年の頃だと十五、六歳、童顔ながら出る所はしっかり出ていて、  
セーラー服姿も悩ましい少女が歩いている。長い足を堂々と晒した大変お洒落な少女  
で、健也の個人的な見解としては、人間国宝に等しい存在であった。  
 
(あんな子の、パンツ見たいな)  
男であれば誰だって思う事を、やっぱり健也も考えている。ただ、他の男性諸君と違う  
所は、見たいという願いを実現させる力が、彼に備わっている事だろうか。その理由を  
長々と説明するのは億劫なので、これから健也の取る行動に注目して頂きたい。  
 
(あのスカートは軽そうだ。いける!)  
健也は少女のスカートの裾を見つめた。じっと凝視し、薄手の布が捲れるように念じる  
のだ。捲れろ、捲れろ・・・風よ吹け、嵐を呼べと、心の中で何度も呟くのである。すると  
どうだろう。少女のスカートの裾が、ひらりと舞い上がったではないか。  
 
「きゃッ!」  
ひだスカートの裾が乱れ、少女のむっちりヒップが露わになると、健也はそこに張りつ  
く純情白パンツを注視した。年頃の女子高生様らしい、清楚な下着に感激といった所で  
ある。  
(やった!パンチラゲットだぜ!)  
これでお分かりであろう。そう、上条健也は超能力者である。離れた場所から物を動か  
す、いわゆる念動力を備えているのだ。しかし──  
 
「へ、へ・・・燃え尽きちまったぜ・・・真っ白に、な・・・」  
健也はそう言って、その場へ倒れこんでしまった。実を言うと、この念動力を使う際には、  
凄まじく体力を消耗するのである。  
 
例えると、先ほどのパンチラひとつ見るのに使ったエネルギーは、何と千五百キロカロリ  
ーにも及び、実に成人男性の一日の必要摂取カロリーの、三分の二を消耗した計算にな  
る。たかだか数十グラムのスカートの裾を捲るのに、えらい騒ぎである。常人離れした能  
力ゆえに、その代償は大きいという訳だ。  
 
「んご〜・・・」  
天下の大道で突然、眠り込む健也。それに気づいた女子高生が、踵を返して彼のもとへ  
やって来た。  
「だ、大丈夫ですか?しっかり!」  
彼女は健也の頭の辺りで膝立ちになり、スカートの中身を見せている。チャイルドライクに  
言うと、パン・ツー・丸見えの状態だ。しかし、健也は疲れ果て眠りこけている。実に勿体無  
い話だ。単純にスッ転んでおけば、この女子高生のパンツは案外、あっさり見る事が出来  
たのである。それもかぶりつきで、もしかしたら恥ずかしい染みまで確認できたかもしれな  
い。なのに、健也はぐうぐうと阿呆の様に眠っているので、今のうちに簡単に自己紹介をす  
ませておこう。  
 
上条健也、十六歳。地元の工業高校に通うボンクラ学生である。超能力は他にもいくつか  
使えるものの、それが公になるとNASAに連れて行かれるかもしれないと本気で思ってい  
るため、誰にも口外していない。基本的に、気弱な男なのである。  
「屁のつっぱりはいらんですよ・・・んが〜・・・」  
「なんだ、寝てるだけかあ・・・びっくりした」  
寝言を言う健也を見て、女子高生はその場を立ち去った。こんな訳で、彼の超能力者として  
の生活は、さほど潤ってはいなかった。  
 
 
「おかえりなさい。遅かったわね」  
「うん。ちょっとね」  
小一時間も寝てから帰宅した健也を、母の桃子が迎えてくれた。桃子は三十六歳。  
少しトウはたっているが、中々に美しい女性である。  
 
「何か疲れてるみたいね」  
「部活やってきたからかな」  
「部活って、あんたは俳句同好会に入ってて、体を使うわけじゃないでしょうに」  
「うちの句会は体育会系だから、走ったりうさぎ跳びしながら一句、詠むんだ。疲れるよ」  
「また、訳の分かんない事を・・・」  
 
桃子は苦笑いしつつ、健也にジュースを出してやった。彼女特製の、何が入ってるか分  
からない健康ジュースである。  
「紫色してら。飲めるの?これ・・・」  
「失礼ね。果物や野菜をジューサーにぶち込んだ、母さん特製の愛情ジュースよ。略して、  
ママのラブジュース」  
「訳さずとも良い」  
しかも英訳だ、と思いつつ、健也はジュースを飲んだ。どろりとえらく粘っこい飲み応え。  
まるで、すったとろろ芋を飲んでいる様だ。おまけに不味い。  
 
「ま、まず〜い・・・もう一杯!」  
「あんたは悪役商会の人か。ふふ、もうすぐご飯が出来るから、手を洗ってらっしゃい」  
かつて、大部屋女優をしていた桃子は、笑う時にちょっと首を傾げる癖がある。本人曰く、  
これで数多の色男を篭絡したそうだが、もちろん息子の健也としては、そんな話を耳に  
したくはない。男というもの、母は理知と慈悲の象徴であって欲しいからだ。  
 
「ん?何か変だな・・・」  
ジュースを飲んで間も無く、健也の体に異変が起きた。今、彼に背を向けて料理を作っ  
ている桃子の後姿が、やけにまばゆくなってきたのである。分かりやすく言うと、母親が  
着ている物が視界から消えていったのだ。  
 
(やばい!透視能力が勝手に出てきた!)  
実を言うと、健也にはちょっと食物アレルギーがあって、それに反応すると能力の暴走  
という結果を招くのである。この場合、母が作ってくれたあのジュースに、アレルギー物  
質が含まれていた事になる。おまけにそれは、一旦、始まると制御が効かないという厄  
介な物だった。  
 
(あ、ああ・・・母さんの服が透けていく)  
質素だが品の良いブラウスと、膝の丈まであるスカートがまず消えた。能力の暴走中は  
体も動かせないため、顔を背ける事も出来ない。例え後姿とは言え、母親のヌードを見  
たいとは健也も思わぬので、せめて目を瞑ろうとした時、鼻歌まじりで料理を作る桃子の  
体に、何やら怪しい物が張りついている事に気がついた。  
 
(な、なんだ、あれ・・・?縄?)  
母の体を飾るのは、よくなめされた縄だった。縄は彼女の股下をふんどしのように絡げ、  
乳房をまあるく囲っている。その上、乳首には洗濯バサミがそれぞれ左右に噛まされ、  
女の急所をギリギリと苛むのだ。  
(え、SM?まさか、母さんが・・・う、うわあ!時間が遡っていく!)  
能力の暴走により、健也の周りがビデオディスクの巻き戻しのようになった。暗かった  
室内に日の光が差し込み、午後の頃まで時間が遡ったと思われる。  
 
「ム、ムーディ・ブルースだ!助けてブチャラティ!」  
冒頭のセコい念動力とは違い、暴走中の超能力は凄まじい威力だった。しかも、大量の  
カロリーも必要なく、健也は眠る事も無い。すなわちそれは、否が応でも能力の暴走が  
終わるまで、すべてを見届けねばならぬという事である。たとえ、それが見るに耐えない  
物だとしても。  
 
「あんッ!」  
ピシーン、という音と共に、桃子の叫び声が聞こえる。健也が振り向くと、居間の方に桃子  
とやたらと太った中年男がいた。  
「この淫売が!」  
「ああ!もう打たないで!」  
全身を縄で戒められた桃子が、尻を鞭で打たれていた。よく見ると、男は三軒向こうで花  
屋をやっている泉という中年男で、健也とは顔なじみであった。  
 
「母さん!おい、おっさん!何してるんだ!」  
母親が尻を鞭で打たれるのを見て、頭に血が上った健也が男に掴みかかった。が、しか  
し、その手は何も掴めずにむなしく空を切る。  
「そうか、これは記録なんだ。数時間前の・・・」  
母親を助ける事も出来ず、間男をぶちのめす事も出来ずに、呆然と立ち空くす健也。残像  
が相手では、何が出来る道理もなく、ただ見ているしかなかった。  
 
「桃子、お前みたいな淫らなメス豚は、きつい仕置きが必要だ」  
「ああ、ご主人様、どうかご慈悲を・・・」  
年の割には艶かしい女体を縛られ、桃子は居間のソファに横たわっている。鞭打たれた  
尻は赤く腫れ、ジンジンと疼きを持っているようだ。  
 
「こいつをくれてやる。さあ、尻を出せ」  
「そ、それは・・・」  
男が手にしているのは、張形だった。それが大小二本、ブーンと小刻みに震えながら、  
彼の者の手の内にある。  
 
「どうだ、いいバイブレーターだろう。太いのは前へ。小さいのはケツの穴用だ。いいか、  
桃子。今日は一日中、これを穴の中に入れて過ごすんだ。縄も外さん。勝手に縄を解  
いたりバイブを抜いたら、俺のパソコン内にある、お前の恥ずかしい写真が、ネット上  
にばら撒かれると思え」  
「は、はい・・・」  
「分かったら、さっさと足を開け」  
「ああ・・・」  
悲しげな顔をする桃子の尻を割り、大小それぞれのバイブレーターが穴を穿つと、耳障  
りな振動音が小さくなっていくかわりに、女の悲鳴が大きくなった。  
 
「いやあ!中で・・・暴れてる・・・」  
桃子は尻を左右に振り、たまらないという感じであった。白い肌が赤く染まり、息遣いも  
荒い。  
「いいか、桃子。今夜、ガキが寝たら俺の所へ来るんだ。その時、またお前を素っ裸に  
して、調べてやるからな。ケツの穴までじっくり見てやる」  
「ひどいわ・・・ああ、夜まで、こんな・・・」  
「抜けないように、縄で締めといてやる。ふふ、まるでふんどしだな」  
 
男は桃子を立たせるとあらためて縄を締めなおし、先ほど健也が能力の暴走しはじめに  
見た、あの姿にさせた。と言うことは、もうかれこれ桃子は何時間か、二つの穴にバイブ  
レーターを入れている事になる。  
(ちくしょう、あのオッサン、調子こきやがって)  
桃子は人の妻であり、健也の母親である。したがって、他人の入る余地は無い。健也は  
アレルギー反応が失せ、次第に元の時間へと精神を引き戻されるのを感じながら、男  
への殺意を胸に秘めていた。  
 
「健也!健也!」  
母の呼ぶ声にいざなわれ、健也は戻って来た。桃子は何か心配そうな様子で、我が子  
を見つめていた。  
「どうしたのよ、ぼうっとして・・・声かけても返事しないし、死んだのかと思ったわ」  
死ぬほど驚いたわい!と言いかけて、健也は黙った。経緯は分からないが、自分の母  
親がオッサンに尻を鞭で打たれる所を見れば、腰が抜けるほど驚くに決まっている。  
だが、ここはぐっとこらえなければなるまい。  
 
「寝てたんだよ」  
「目を開けたまま?」  
「最近、流行ってるんだ」  
「また、訳の分からない事、言って・・・」  
 
そう言って苦笑いをする母の体には、あの男が締めていった縄が巻きついている。おまけ  
に、下半身には二本のバイブレーターが入っていた。それを取る事も許されず、深夜にな  
ったらまた嬲られに行かねばならない。健也的に、あの花屋は決して許してはおけない。  
(コ・ノ・ウ・ラ・ミ・ハ・ラ・サ・デ・オ・ク・べ・キ・カ)  
大した超能力ではないが、それでもやり方はある。健也は母に笑顔を見せつつ、夜が来る  
のを待った。  
 
どこかで犬の遠吠えが聞こえている。花屋の泉は、それを自室で聞いていた。  
「へへへ、そろそろ桃子のやつが、ここへ来る頃かな・・・またケツの穴をやられて、泣く姿  
が見られるぞ、ひひひ・・・」  
この男、強度のサディストで、妻から離縁状を叩きつけられて現在は一人身である。ただ  
生来の精強者で、二日に一度は女を抱かねばすまぬという色気違いゆえ、その性欲を近  
隣に住む美しい人妻に向けたのだ。  
 
「まったく、人妻はたまらんな。男を知ってるだけに、多少の無茶は出来るし、おまけに  
昼間はフリーときてやがる。やり放題だぜ」  
泉の自室は薄汚れていて、酒の空き缶やタバコの吸殻、それにたくさんのゴミで溢れ返  
っている。もしここで火事など起きたら、取り返しのつかない状況になるのは、誰にも予測  
出来るだろう。  
 
「ぼちぼち、ガキが寝る頃かな。ふああ・・・俺も、一眠りするかな・・・」  
泉は薄汚い部屋の真ん中で大の字になり、眠った。その様子を、三軒向こうの家から  
窺っている者がいる。言うまでもなく、健也である。  
「眠ったか」  
千里眼と呼ばれる能力だった。千里には及ばないが、五十メートルくらいの所であれば、  
健也は他所を窺い見る事が出来る。念動力と違い、力仕事でもないのでそれほどカロリ  
ーも失わなくて済んだ。  
 
「残念だが、母さんはそこへは行かないぜ」  
散らかった泉の部屋の中にはライターがある。燃える物は、それこそ腐るほどある。健也  
は念動力を使い、ライターを着火した。  
「部屋の鍵もかけとくぜ、オッサン。俺って親切だろう?母さんと遊んでくれたお礼さ」  
健也はライターをパソコンの近くにあるエロ本の傍へ持っていった。なのに泉は眠ったま  
ま、起きる気配を見せていない。  
 
「アイム、チャッカマン」  
ライターを寝かせると、無駄にインクを多用したエロ本はすぐに燃え、火柱が上がった。  
火は新聞に燃え移ると、一層、激しくなる。  
「よしよし・・・そのまま、パソコンを焼いちまえ」  
母の恥ずかしい画像が収められているというパソコンを、まさか残してはおけない。健也  
は火の中心部を、そこへ移動する。  
 
「燃〜えろよ、燃えろ〜よ〜・・・炎よ燃えろ〜・・・ふああ、さて寝るかな」  
キャンプでお馴染みのあの歌を口ずさみながら、健也は眠気に包まれていった。やは  
り念動力を使うと体が疲労する。眠くなるのも当然だった。  
 
「おやすみ、母さん。それと、オッサンも永遠におやすみ・・・ムニャムニャ・・・」  
健也が眠ってすぐ、あたりにけたたましいサイレンの音が鳴り響く。消防車やパトカー、  
それに野次馬が集まっても、どこ吹く風だ。  
 
夢の中で、健也は今日見たあのパンチラを思い返している。純白の素晴らしいパンツ  
だった。お尻なんかパッツンパッツンで、割れ目もクッキリ。ああ、俺はなんて幸せ者  
なんだろう。ひょっとしたら今夜、夢精をしてしまうかもしれない。そうしたら、母さんは  
怒るだろうか、それとも笑うだろうか・・・  
 
健也はライオンの夢を見ている。サバンナを駆け巡る猛獣ではなく、おはようからおやす  
みまでを見つめる、あのライオンちゃんだ。それでは、ごきげんよう。  
 

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