とても綺麗なお姉さんだった。
体にぴっちりと合ったスリットスカートと、縁無しのメガネがよく似合う、
清潔そうで頭のよさそうな大人の女。
そんな彼女が携帯で見ている物が、自分が今見ているスレッドだった時の驚き。
と、彼女がこちらを見る。
その瞳には、他人の携帯をじろじろ見る私への非難の色がありありと浮かんでいた。
私は思わず頬を染め俯いて視線を逸らす。
と、彼女は私の携帯を見て、その唇に驚きの色が浮かんだ。
「なんだ、同じ趣味の子だったのか」
そういうと、彼女は私のほうを向いてにっこり笑う。
「自分が見てるスレと同じスレ見てる人がいたら、そりゃビックリするよね。偶然って不思議」
そう、言い訳がましいけど、私も驚いたからついつい呆けて他人の携帯を
長時間覗き込むような不躾なことをしたのだ。
朝のバス停で、バスが来るまでの間触手スレを見るのが日課の私の前で、
日の光の当たる屋外で誰かに覗かれる危険にどきどきしながら21禁板を見る私の前に並ぶOLが、
同じスレを覗いていたのだから。
「でも、どんなにビックリしたからって他人の携帯をいつまでも覗き見ちゃダ……」
いきなり、お姉さんの顔に恐怖の感情が浮かぶ。
「あぶなっ」
そして私は一瞬体中に大きな痛みを受け、直後意識を失った。
それから目覚めた私に、驚愕の事実が数々と知らされた。
私はお姉さんと供に乗用車にはねられたこと。
私とお姉さんの体が、当時の医学では手の施しようがないほどひどい傷を負ったこと。
私とお姉さんをはねた人が、大学病院の理事長の息子だったこと。
その大学病院が初の本格的なコールドスリープの被験者に私達を選んだこと。
そして、私達が寝てる間に、世界がまるで変わってしまったこと。
「でも……再生医学って凄いですね」
お姉さんのむっちりとした足を見ながら私は呟いた。
胸はちゃんと大きいくせに腰はくびれ、太股は頬擦りしたくなるほど柔らかそうで、
発育しきっていない私の体と比べると不公平な神様を恨みたくなる。
「まーね。あたしの事故後の体写真で見たけど、
ほんと当分肉料理はこりごり、って感じだったからねー」
タオルで髪を拭きながら、お姉さんが答える。
「でも、今では前のままですもんね」
ドライヤーで髪を乾かしながら、同じくバスタオル一枚だけの私は当時を思い出した。
「……でも、家族や友達まではそのまま元通り、ってわけにはいかなかったけど」
怪我をした時は健在だった両親はもう他界し、親友は8人の孫を持つおばあちゃんになっていた。
そして、親戚すらいない私を引き取ってくれたのがお姉さんだった。
女子高生だった(今でもだけど)私がそうなのだ、
あの時20代後半だったお姉さんもきっといろんな大事な人を失ったのだろう。
ちょっと私の顔が暗くなったのを見て取ったのか、
お姉さんは明るい声を出して私の髪を撫でる。
「ほんと色んな物を失ったけどさ、でもあたしは真亜夢に会えた。
真亜夢と仲良くなれた。それだけで、救われる気がするんだ」
「私も……お姉さんと仲良くなれて、良かったです……」
頬を染めて呟く私の唇に、お姉さんが優しくキスをしてくれた。
私達が眠っている間に世界は変わった。
世界中に電子機器の電波と環境ホルモンが溢れ、人体に影響を与え、
全世界の男性の精巣からY染色体が少なくなり始め、男性の出生率は年々激減した。
各企業の思惑にさえぎられ、それらが取り締まられるのは私達が目覚めるほんの数年前――――
世界の男女の比率が4対1になってからだったのだ。
そして、世界各国で、同性結婚が認められ始めた。
そうしなければ社会が立ち回らなくなったからだ。
だから、お姉さんと私のこの行為も、この時代では少しもおかしなことではないのだ。
「じゃあさ、今晩も大丈夫……?」
バスタオルを一枚巻いただけのお姉さんの体から、バスタオルの股間の辺りから無数の触手が飛び出す。
「もう……どうせダメって言っても、無理矢理しちゃうんでしょ!」
私は顔を真っ赤にしながら、胸に、腰に巻きつく触手を振り払うような仕草をしてみせる。
全然心の中では抵抗する気なんてないのに。
「やだなあ、あたしが『大丈夫?』って聞いてるのは、『しても大丈夫?』って意味じゃないの」
にっこりと、しかしその目はまるで獲物を前にした肉食獣のように爛々と輝かせ、お姉さんが私に近づく。
「じゃあ、どういう……うむぅ」
質問しようとした私の口に二本の触手が進入する。
その触手たちは、お姉さんの膣内の熱で温まり、お姉さんの愛液でびちょびちょに濡れていた。
私達が眠っている間に世界は変わった。
発展したバイオテクノロジーで生まれた有機体家庭用品が世界に溢れていた。
そしてそのいくつかは私達が「触手」と呼ぶにふさわしい形状、品質を持っていた。
例えば旅行用の携帯トイレ。小はもちろん大だって人知れず処理してなおかつ清潔にしてくれるため、
トイレに行く習慣を拒否する人たちが発生し『オムツ族』という言葉が生まれるほど。
例えば経血を飲み干す生体ナプキン。これを入れておけば1週間血を飲み干し、
さらに月経の痛みを和らげるマッサージまでしてくれる優れもの。
例えば女性用の擬似ペニス。女性の血液から人口精子を作り出しちゃんと妊娠までさせられるため、
女性同士の同性結婚を一気に普及させ過激派男根主義者が擬似ペニスを製作した企業にテロ予告をしたほどだ。
そんな物が溢れる時代に目覚めた私達が、触手スレを覗いてはこんな風に滅茶苦茶にされたいと妄想していた私達が、
そんな物達にもう体が汁まみれに、触手まみれになるほど犯されたいと思うのは当たり前だった。
そして私達は、お互いの特殊な性癖を知っていた。
そして何より、同性だからこそお互いの気持ちいい場所を知り、昂ぶらせることができるのだ。
「あたしが聞いてるのは、『今晩は気絶せずに最後までできる?』って意味の『大丈夫?』よ。
この前なんか、真亜夢ったら5分もせずにすぐに…………ぁ…………」
私を責めるお姉さんの言の葉が少し弱まる。私のお尻の穴から出てきた触手が、
お姉さんの成熟した胸に反撃し始めたからだ。
「…………へへ…………お姉さんだって…………この前…………あん…………
お尻と前…………同時に…………入れられて…………ヒンヒンかわいく…………
ひぃっ…………お漏らししたじゃない……………………ぁあぁ…………」
私の言葉による反撃は、お姉さんの極細触手4本に乳首をしゅっしゅっと擦りあわされ、とたんに聞こえなくなる。
と、とたんに後ろと前二つの穴へ私の触手を押し分けるようにお姉さんの触手が入り込み、とろけそうな快感を私の脳へ送る。
「じゃあ…………また、…………賭けを………………しましょ…………先に…………
イった方が………………冷蔵庫の………………スペシャルアイス独り占め…………ふあああぁぁぁっ」
私の触手がお姉さんのクリトリスをすっぽりと包む。
そして無数の小さな歯が、その陰核をじょりじょりとむず痒くなるほど甘噛みするのだ。
「いい…………ですよ………………でも………………あん、あ、あっ、ふああああぁぁぁぁっ」
2本の触手が、私の中で交互に前後に動き出すのがあまりにも気持ちよくて、私の頭が白く染まる。
「いま…………かるく……イった…………でしょ………………?」
痙攣する私の耳に、お姉さんが息を吹きかけるようにして囁いてくる。
「ィ…………イ…………ってなんか…………ない………………」
そう呟いて、私は触手にお姉さんのクリトリスを摘み上げる指示を思念で送った。
「ふひいいいいいいぃぃっ」
お姉さんは汗で濡れた全身を逸らし、天を仰いで奇妙な声を上げ、舌を出してがくがくと震えた。
「……なーんて…………ね…………へへ………………だまさ…………れた…………?」
出されたままの舌をそのままに、お姉さんは無理に笑って余裕があるように演技する。
「ひやゃ…………おねえ…………さん………………どんな…………
めいれー…………このこたちに…………だしたの………………?」
唇の端からだらしなく触手を垂らしながら戦慄く私はお姉さんに尋ねる。
「そんなの…………ふああああぁぁっ…………きまってるじゃない………………
あなたを…………きぜつさせるまで………………めひゃくちゃにしな………………あ、あっああぁぁぁ!?」
耳たぶ、唇、鎖骨、乳首、お臍、陰核その全てを私の触手に甘噛みされて、お姉さんの目に涙が溜まる。
「やだ…………ひやゃあああっ、わ、わたしとおんなじめーれえぇっ」
私の中で膣と肛門を交互に動かす触手の中から直径1センチ大の瘤が浮き出て、
私の膣壁を、Gスポットを、ポルチオを容赦なくゴリゴリと擦り刺激し始めた。
「じゃあ、じゃあ、しょーぶ、きぜつしひゃおうがまけでええぇっ
ひゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
そして私とお姉さんは、触手の海に巻き込まれながら同時に大量の愛液を噴き出した。
まどろみの中目を覚ますと、私は大量の触手に包まれながらお姉さんと抱き合っていた。
私達を狂わせた触手たちは私とお姉さんの体をきれいにしたりほぐしたりして事後処理をしている。
「おはよう……」
「あ……おはようございます」
どちらがイったかなんて自己申告でもしなければ分らない。
どちらが先に気絶したかなんて途中から記憶のない私たちに分るはずがない。
何か証拠でもない限り。
と、私の腰の辺りのシーツがひんやりと濡れていることに気づく。
「私の負けかな………………」
千円以上するほっぺたのとろけそうなスペシャルアイス、食べたかったけどしょうがないや。
気持ちよかったし。
「ううん…………そんなことないよ」
お姉さんはそういうと、私の手を取ってお姉さんの下半身の辺りのシーツを触らせる。
そこは、まるで花瓶の水をこぼしたようにぐっしょりと濡れていた。
「だから引き分け…………」
そういうとお姉さんはにっこり笑いながら触手に合図すると、
いつの間にか持ってこさせていたアイスを口の中に運ばせる。
「ふぁから……いっしょひぃ、ふぁべよーね」
そういうとお姉さんは私のほうに口を近づける。
私も目を閉じ口付けをして、お姉さんといっしょに口内の小さな触手ごと溶けたアイスをいつまでも啜り合うのだった。
終わり