――けたたましいプロペラ音を立て、一台のヘリが夜の静寂を蹂躙していた。  
 
 場所は埼玉県某所上空。ヘリは見るからに自衛隊仕様の塗装もなければ、何か事件を聞きつけてきたマスコミのものというわけでもない。こんな夜間になぜ飛んでいるのかも判らぬ、私用らしきものだった。  
 ヘリは迷いなく、真っ直ぐに一筋の軌道を描いて飛ぶ。行き先が明確である証拠だ。  
 そして、そのヘリを追う影がひとつ。  
 それは『人』だった。  
 うっすらと銀嶺を思い起こさせる軌跡を描き、空中を飛んでいる生身の人。  
 余人から見れば、あまりに非現実的な光景がそこにはあった。  
「追ってきたか」  
 ヘリの操縦桿を握る人物は、ぽつりと独りごちる。男性にしては高く、女性にしては低い呟き。  
 ちらりと背後を省みると、空を飛び来る小さな人影がその目に映る。  
 少女だった。  
 白と薄いピンクを基調とした、およそ実用的とはお世辞にも言えないひらひらとした服をまとい、ツインテールにまとめた柔らかな栗色の髪を夜の大気になびかせている。銀嶺が尾を引いて飛んで来るその姿は、まるで幻想的な翼をはためかせているようだ。  
 人が見れば、美しいとも、滑稽とも思うだろう。  
 だが、ヘリの乗り手は驚かなかった。  
「こうも早く感づかれるとは、さすが『智者』と言うべきか……使うのは惜しいが、止むを得んな」  
 言うや、傍らから取り出したのは、血で染め上げられたように赤黒い宝石。  
 窓を開くや、それを空中へと投げ出したのだった。  
 
 風を切り飛び来る少女は、前方を飛ぶヘリにしっかりと視線を定めていた。  
 ひらひらとした衣服で、片手には両端に宝石のそなえられた白い杖。どこからどう見ても、いわゆる魔法少女だとか呼ばれるような格好だ。  
 だが、こうしてヘリに引き離されない速さで空を飛んでいる。信じがたい超常的な姿だが、少女は明らかに『本物』であるらしい。  
「ねえ、本当にあのヘリで間違いないんだよね?」  
 ふわりとしたツインテールの髪と、たわわに熟している事が薄手の服の上から見て取れる胸を風に揺らし、彼女は尋ねるように何者かへと呟く。  
 刹那、杖の先端にある深緑色の宝石が淡く光る。そして、低く深みのある声がこだますように穏やかに響いた。  
『間違いないぞ、真央。我々の敵が、あれに乗っている』  
 人間であれば唇が動いたであろうように、ほのかな光を放つ杖は話し、諭す。  
 真央と呼ばれた少女の表情は複雑なものだった。いくらかの緊張感と、憂いが同居したようだ。  
「うーん……もし間違いで普通のヘリだったりしたら、どうしよ……」  
『有り得ん。我等が天敵にも等しい奴等の気配、この智者アルトクレスが間違えるはずも無い』  
「ホント自信まんまんだよね……」  
 はふぅ、と嘆息。思うに、こうも尊大な相棒に付き合っている自分もよほどのお人好しだと真央は思う。  
 なぜこんなけったいな棒切れに付き合う事になったのかを、ふと彼女は思い出していた。  
 
 事の起こりは、ほんの2週間ほど前の事。その日まで桜坂真央は、公立の学園に通う普通の少女だった。  
 歳に比してもあどけない顔立ちと、その割には胸ばかり過剰に発達気味な体のせいで、少なからぬ数の男子から注目を集める存在ではあったが……  
 それとて現在のように荒唐無稽な事をこなしているのに比べれば、ずいぶんと比較的に普通だったはずだ。  
 しかし、出逢いとはいつも唐突に訪れるものであるらしい。  
 このけったいな棒切れは、その日真央が自室に戻ると、さも当然であるかのように部屋の真ん中に鎮座していたのだ。  
 真央はそれに見覚えは無かったが、小さい子供の頃の玩具か何かだろうかと判断して――それが一般人として当然の認識だろうが――捨てようとしたところ、突如頭に響いてきた声に呼び止められたのだ。  
『我は智者アルトクレス。娘よ、話を聞いてはくれまいか』  
 限りなく偉そうな第一声だった事を真央はよく覚えている。時代がかったしゃべり方をするものだから、その印象はなおさらだ。  
 真央は正直ひどく驚いたもので、その時上げた素っ頓狂な声のせいで母親がフライパンの返しを失敗し、夕飯のチャーハンが台無しになったりもした。好物を食べ損ねた事は、真央の胸の内深くに確かに今も刻まれている。  
 ともあれ、冷静に話を聞いてみると、アルトクレスと名乗った杖の言い分はこのような事だった。  
 ――今、人間の世界に、魔界の悪逆な魔人たちが侵攻しようとしている。  
 ――この杖はその危機を伝え、共に戦う人間を求めて来た。  
 まるでマンガかアニメのようなその言葉、始めはにわかに信じられなかった。だが実際に杖がテレパシーか何かのように自分の心に語りかけてくる以上は真っ向から否定もできず、真央は半信半疑でいたものだ。  
 そんな真央に対して続けられた言葉も、言ってしまえば、また実にわかりやすいものだった。  
『娘よ、我が主となって、奴等と戦ってはくれぬだろうか?』  
 至極わかりやすい展開に、むしろ真央は納得してしまったほどですらある。  
 だが、承諾するかどうかとは別問題だったのは、言うまでもない。  
 
『お前は我が主となり、戦えるだけの素養を持っている』  
『もしお前が戦わねば、お前の身の回りの人々に危害が及ぶかも知れぬのだぞ?』  
 半ば脅迫めいた説得だったと言うほかはない。  
 もちろん真央は渋った。そも、人類の敵が来るなどというのなら、警察なり自衛隊なり、日本のごく一部に居座っている某国の軍隊なりが相手をすればいいのだ。  
 一介の学園生に過ぎず、体力や運動能力に関してはおそよ人並み以下ですらあった真央に何ができるというのか。  
 しかし、その疑問にも、智者を自称するこの杖はさらりと答えてのけた。  
『心配はない。お前の持つ多大な潜在的な力、我が導き出そう』  
『それに、我が能力によって練成された着衣をまとえば、傷など負う事もない。たとえ火の海に飛び込もうが、大斧で頭をかち割られそうになろうが、決してな』  
 やたらと生々しい例えに逆に真央はヒいたが、それが本当なら断るのも悪いかなと思ってしまったのも事実。  
 そして、それが運の尽きだったとも言える。  
 もともとどうにも押しが弱く、頼まれると断れない性格だった真央は、熱意に押し切られて丸め込まれるようにして、アルトクレスの使い手になる事を承諾したのだ。  
 もっとも、真央はお人好しと言うかで、自分の知らぬ所で自分の友人・知人が何か危ない目に逢うかもしれないと聞かされた以上、何もしないのも落ち着かない。変に正義感が強いと言うか、不器用な性格ではあるが……  
 ともあれ、アルトクレスの言う通り、練成された着衣をまとった真央は、何があろうと傷ひとつ負う事はなかった。アルトクレスとともにこれまで二度ほど魔の者と戦った時も同様で、真央としては一安心である。  
 唯一の誤算は――その『着衣』が、あまりに少女趣味というか、こう、可愛らしさを強調しすぎたような服だった事だろうか――  
 
『――真央、ぼうっとするな! 来るぞ!』  
 頭に強く響くアルトクレスの声で、真央は現実に引き戻される。  
 はっとヘリに視線を戻す。ふと見えたのは、ちらりと見えた赤い煌き。  
(宝石?)  
 真央は目の良さには自信がある。両目で1.3の視力で見通したのは、色こそ濁っているものの、間違いなく赤い宝石だ。  
 何故そんな物を、と真央は一瞬だけ思ったが、すぐにその疑問は氷解する事となる。  
 落下していくかと思われた赤い宝石は、浮き、その場でかすかな音を立てて砕ける。  
 突如赤黒い煙が発生したかと思うや、その中からは――  
「怪物!?」  
 そうとしか表現できない、人でない何か。  
 そこに現れたのは醜悪な肉塊だった。とぐろを巻く毒々しい色合いの肉、その真ん中に大きな目玉を備え、節々から不気味に蠢く触手を備えている。  
 そんな物体が、どういう原理でか空を飛び、真央を睨むように視線を注いでいるのだ。  
「うっわぁ……」  
 気味の悪さに、思わず真央は声を漏らし、眉をひそめる。正直、あまり長い事直視していたい物ではない。  
『気を引き締めろ、油断しているとやられるぞ』  
 アルトクレスは諭す。そしてその言葉が示したとおり、その怪物が先手を取るように動いた。不気味な色合いの触手が本来以上に伸び、掴みかかるかのように襲い来る。  
『防げ!』  
「わ、わ、っと!?」  
 慌てて杖を突き出す真央。と、杖の先端を中心として、空間に波打つような歪みが生じる。突き出されてきた触手は、その歪みに突き当たって、弾かれた。  
『無事だな、真央?』  
「う、うん」  
 どこまでも冷静に問いかけてくるアルトクレスに、真央は頷きを返す。  
『とにかく冷静になれ。いつも通りにやれば、負けるような相手ではないぞ』  
「うん」  
 再び頷く。杖の握りを確かめ、目線は目前の怪物に。  
 銀嶺の翼を広げ、真央は自ら怪物めがけて飛び込んで行った。  
 
 真央を叩き落とすべく次々と伸びてくる触手。  
 それらをかいくぐるように飛び、かわし、懐へ潜り込む。  
『真央、上だ』  
「OK!」  
 アドバイス通りに急上昇し、狙いを定めて急停止。薄桃色のケープとスカートが、花が咲いたかのようにふわりと広がる。  
 杖を握る手に意識を集中する。両端の宝石からやがて杖全体へと、淡い光が包んでいく。  
 アルトクレスはかつて真央に教えた。これこそは真央が生まれながらに持ち得た、魔に属する者を打ち滅ぼす魔法の力だと。  
 それを教え知らしめ、そしてその力を引き出すのが彼のような『智者』なのだと。  
 杖を握り締めたまま、急降下。  
「ったぁぁぁぁぁーっ!!」  
 気合一閃。掛け声とともに、光り輝くアルトクレスを振り下ろす!  
 荒っぽいようだが、魔力を直接叩きつけるこの方法こそが最も簡単で、そして有効なのだ。  
 真央の手に、確かな手応え。  
 怪物は真央の眼前で、音もなく綺麗に真っ二つに斬り捨てられた。  
 肉塊と化した怪物が制御を失い、地上へと落ちていく。その姿は空中で幻のように掻き消え、影も形もなくなっていった。  
「やった……!」  
『残念だが、やってはいない』  
 歓喜の声を漏らした真央に、冷静にアルトクレスは言い放つ。  
『ヘリに逃げられた。まんまと時間を稼がれたな』  
 言葉に次いで、嘆息するような息遣いが真央には聞こえてきた。  
「あ……ご、ごめん、うっかりしてた」  
『謝る事ではない。注意の行き届かなかった私の失策でもある。それより……』  
 真央の眼下には、夜の街が広がっていた。真央が生まれ育った、馴染み深い街。  
 怪物に気を取られている隙にどこへ逃げられたか判らないが、ヘリが向かったのはこの街のどこかだろう。  
『注視すべきは、この街のどこかに魔の者が入り込んだという事だ。常日頃から気をつけるのだぞ』  
「……うん」  
 真央は頷く。自分の日常の中に、あのような怪物を操る者が侵入して来る事を恐れながら。  
 
「ふわあぁぁぁ……」  
 ヘリを取り逃がした翌朝、大欠伸をしながら道を行く真央の姿があった。  
 髪はゆうべと同じ、ふんわりとしたツインテールのままだが、服装は半袖のブラウスに濃紺のプリーツスカート。胸元にはオレンジ色のリボンを結んでいる、学園の制服姿だ。  
 薄手の生地をメロンのように大きな胸が押し上げており、幼い顔立ちとあいまって熟しきらない色気を我知らずかもし出していた。  
 片手には鞄。もう片方の手は、背中に回した剣道の竹刀をしまうための袋を担ぐためのベルトに添えられている。  
 とはいえ彼女は別に剣道などやっているわけではない。見られると厄介で、持ち運びにも不便な相棒を抱えているがゆえの荷物だ。  
『真央、日頃から気をつけろと忠告したはずだぞ?』  
 眠そうな真央の様子を見咎めてか、その相棒の声が厳かに響く。  
 むぅ、と真央は頬を膨らし、不満げな表情になる。  
「だって、夜中までヘリなんか追いかけて、目が冴えて寝れなかったんだもん……」  
 しょぼつく目をこすりながら、真央は小声で返す。アルトクレスの声は真央にしか聞こえないらしく、あまり大声で喋っていると変人扱いされかねないためだ。  
『眠れんのは心身の鍛えが足らん証拠だ。真央、魔の者からこの街を守れるのはお前だけだという事を自覚し、また同時に自信も持たねばならんぞ』  
「そんな事言われても、急には実感湧かないよ」  
 いくらか憮然と、真央は答える。  
「それに、自信とかもよく判らないよ……まだ、なんか妙な事になっちゃったな、って感じがするばっかりで。  
 そもそも、アルトは『魔の者』って呼んでるけど、あいつら一体何しに来てるの?」  
『端的に言えば、繁殖だ』  
 アルトクレスはきっぱりと答える。  
『この世界の生き物も皆そうだが、生き延び、そして種を存続させるために最善を尽くすだろう。そのための手段は多様にある。医療の発達、多産、環境へ適応した進化、好ましい環境への移住……  
 奴ら魔の者にとっては、この世界こそが良い餌場という事だ』  
「餌場って……どういう事?」  
 真央は重ねて問う。  
 しかし、アルトクレスはそこで押し黙り、返答は帰って来なかった。  
 
「真央ちゃん、何か考え事〜?」  
 その時、横合いから聞こえて来た声に、はっと真央は振り向く。  
 明るめの色合いの髪をサイドポニーにまとめた少女。同級生として見知った、真央の友人だ。  
「あ、ううん、別に何でもないの。おはよ、美杜ちゃん」  
 慌てて手を横に振り、笑顔を作って真央は答える。  
 美杜は高等部に入学した時からの真央の友人である。たまたま席が近かった事から友人になり、今に至るまで、頻繁に一緒に遊びに出かけたりしている仲だ。ちょうど家が近かったというのも仲の良さに拍車をかけたものだった。  
 真央が遊びに行く先を決めて、美杜は笑顔のまま着いて行く。おおむねそんなパターンが定着し、今の二人の関係に至っている。  
「真央ちゃん、眠そうだけど大丈夫?」  
「あ、うん、ちょっと……でも大丈夫だよ。ちょっと夕べ、テレビ見すぎてただけだから」  
 真央は眠気を振り払うように、にぱっと笑顔を見せる。美杜も安心したように微笑を返してくる。  
「そっかぁ、なら良かった。真央ちゃんが元気ないと心配だもん」  
「ん……ありがと」  
 真央はツインテールの髪を揺らしながら、照れ臭く鼻の頭を掻く。  
 一見ぽやっとしているようで、普通なら言いづらいような言葉もさらりと言ってのけてしまう。美杜のそういう裏表のなさが、真央は好きだった。  
「でも、体調悪くなったら言ったほうがいいよ? 一時間目体育だし」  
「あ、そう言えばそうだっけ……あーぅー」  
 一時間目から体育と聞いただけで、早々と真央は疲れきったように肩を落とす。正直な話、運動は苦手なのだ。夕べはあれほどの大立ち回りを演じたとはいえ、あれは魔法の力と、それを引き出してくれるアルトクレスによるところがほとんどだ。  
 そんなうなだれる真央の背中に、そっと美杜が手を添える。  
「とりあえず、早く行こっか。ギリギリになって、生徒指導の先生たちに怒られてもヤだし」  
「ん……そだね」  
 頷きあい、二人は少しだけ足早に学園への道を歩み行く。他愛のない会話に興じながら……  
 
 その一方、竹刀袋の中でアルトクレスは臍を噛む思いをしていた。  
(真央の友人に気取られたくなかったとはいえ、説明が中途半端なままで終わってしまったな)  
 本来なら智者として、自分の使い手たる真央には教えておかねばならない事だ。真央に警戒を呼びかける意味でも。  
(……まあ、後で話せば良いか。我が真央の傍にいる限り、そうそう致命的な事態にはなるまい)  
 アルトクレスは楽観視していた。魔の者も昨日ようやく逃げ切ったばかりで、そうすぐに事を起こしはしないだろうと踏んでいたのだ。  
 
 一時間目の体育の授業に際して、一度は美杜に励まされた真央の気持ちはまた沈みかけていた。  
 体育の授業内容は、水泳だった。真央の嫌いな種目である。  
 別に泳げないわけではないのだ。一応クロールで息継ぎはできるし、25mもなんとか泳ぎきれる。  
 問題は、そこではないのだ。  
「はふぅ……」  
 ひとつ嘆息しながら、物憂げにプールサイドに歩み出て来る真央。  
 紺のスクール水着に押し込んだ胸は窮屈と言うほかなく、それでいて下着もないこの状態では、歩くだけでもたぷたぷと揺れる。何かのはずみで布地からこぼれ落ちてしまいそうなほど豊かな膨らみだ。  
 それでいて胸のラインから続く肢体は年齢以上に幼く見えるもので、見る者に背徳感にも似た興奮を抱かせずにはいられない。  
 そんな刺激的な光景に、クラス中の男子たちからの視線が集中していた。  
(いっつもこうやって、ジロジロ見られるんだもん……)  
 恥じらいにあどけない顔を俯かせ、胸元を庇うように腕を回す。教師を待ちながら準備運動をするクラスメイトたちの陰に隠れるようにして、真央はプールサイドの隅へと座り込んだ。  
 そして、またひとつ嘆息。  
 真央は体育、とりわけ水泳がこのために嫌いだった。毎度毎度見世物にされているようで、恥ずかしくてたまらない。自分の胸が大きすぎるのは自覚しているが、だからこそいやらしい目で見られるのが嫌なのだ。  
 こうなると、早く水の中に入ってしまいたいものだ。泳いでいる最中だけは、変な視線を注がれずに済む。  
(……そう言えば、美杜ちゃん遅いなぁ)  
 ふと、更衣室に目をやる。  
 美杜は真央と一緒に更衣室に入ったはずだったし、もう既に美杜以外の女子はみなプールサイドにいる。  
 美杜の着替えの遅さは真央も知っている。にしても、そろそろ授業が始まってしまう。いくら何でも遅いのではないか……  
(……待ってれば来るよね)  
 脳裏をよぎった一抹の不安を振り払うように真央はかぶりを振った。それでなくとも、今立ち上がって女子の集団の中から一人外れて歩くのは、またいやらしい視線を送られそうで躊躇われたのだ。  
 
「あぅ、急がないと……」  
 美杜は独り取り残された更衣室の中、携帯電話の時計を見て焦っていた。  
 授業開始まであと2分もない。着替えはもともと遅いのだが、今日はとりわけ手が覚束ない。  
 ようやくにして下着まで全ての着衣を取り終えると、改めて紺の水着に脚を通す。  
 美杜の肢体は、真央とはまた違った意味で魅力的なものだ。全体的に幼い印象の中、胸ばかりが過剰なほど豊かな真央と違い、背はさほど高いわけではないが全体的にバランス良くふっくらとした体のラインをしている。  
「んしょ、っと」  
 大きな胸を布地の中に詰め込むようにして、やっと肩から袖を通す。そうしてスクール水着を着終えた時には、既に残り時間は1分を切っていた。  
 美杜は急いで更衣室を出ようとして――  
 ガタ、と音がした。  
「ふぇ?」  
 振り返る。特に異常はない。物音がするとしたら、今しがた自分が慌てて制服を詰め込んだロッカーぐらいのものなのだろうが、そこから服や小物がこぼれ落ちた形跡もない。  
(気のせい……かな?)  
 美杜は疑問符を浮かべ小首を傾げたが、それで事態が解決するわけでもない。  
 とりあえず、今は授業に遅れないように……そちらへ考えを切り替えると、美杜は再び更衣室のドアに手をかける。  
 その瞬間だった。美杜の脚が、何者かに掴まれたのは。  
「ひゃっ――!?」  
 上ずった声。そして、脚を掴む恐ろしい怪力。  
 美杜は脚を取られ、うつ伏せに倒れ込んだ。かろうじて腕をつき、顔から倒れ込むのは避けた。大きな胸が地面とぶつかり合い、押し潰され歪んで形を変える。  
「ちょ、や……な、何、誰!?」  
 立ち上がる事もできないまま、美杜は上体をひねって振り向く。  
 そして、次の瞬間には目を見開き驚いた。  
 そこにいたのは、怪物。  
 無数の触手がまるで糸ミミズの群れのように絡まり合う、見ているだけで吐き気を催すような異形の生物だった。  
「ひ……っきゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」  
 狭い更衣室いっぱいに響き渡る、美杜の悲鳴。  
 だが、聞きつけた者は誰もおらず、誰かがここに来る事もなく――  
 やがて、数え切れないほどの触手が美杜に狙いを定め、掴みかかって来た。  
 
「いやっ! やぁ、やめて……!」  
 美杜はもがく。しかし触手はいずれも恐るべき怪力で、美杜を放そうとはしない。  
 触手の一本が、腕を絡め取った。べとつく粘液をまとった生暖かい触手の感触が気味悪い。  
 その触手は自身を使って美杜の腕を縛り上げ、頭上に持ち上げて拘束する。美杜としては腕を縛られ、吊り下げられたような格好になった形だ。  
「やっ、やぁ……」  
 美杜は涙を浮かべて頭を横に振る。しかし物言わぬ触手はそんな事を意に介さない。  
 美杜の眼前に一本の触手が突き出された。その異形の器官の先端は赤黒く腫れ上がっており、男根そのものの形状を呈している。  
「やっ、やぁ! いや……ん、ふぐぅっ!」  
 悲鳴を上げ続ける美杜の口を、触手が塞いだ。独特の周期と苦じょっぱい味が、美杜の口の中いっぱいに広がっていく。  
 その触手は美杜の口の中、乱暴に前後運動をして……やがて、どぷっと熱いものを吐き出した。  
「んうぅ!?」  
 美杜にとっては初めての感覚であり、味だった。口を塞がれ吐き出す事もできず、断続的にどぷどぷと放たれ続ける熱い粘液を少しずつ飲み干させられていく。  
 最後の一滴まで口の中に吐き出され、ようやく触手が口から引き抜かれる。口の中に残っていた飲み残しの粘液が、美杜の唇を伝って胸に落ちた。  
「けほ、けほっ……」  
 咳き込む。あまりに異様な味、そして言いようもない不快感だった。  
 だが、息つく暇もなく、触手はさらに伸びて来て――  
「ふぁん!?」  
 今度は両足をからめ取られた。そのままM字に脚を開かされ、全身を宙吊りにされる。  
 ぬる、と音を立てるかのように体液をぬめらせ、一本の触手が美杜の股間に近づいた。  
 ただの触手ではなかった。先端は赤黒く充血し、全体に血管が浮いた……肉の凶器とでも表現すべき形状。美杜の目にはそう映った。  
 そして、何をしようとしているのか、美杜は判らずにいられる年齢でもなかった。  
「やだっ!? だめ、それだけは……やめて、お願い、いやぁ!」  
 必死の思いで美杜はもがく。だが、触手の怪力には抗えなかった。  
 やがて、触手はスクール水着の股間部へ潜り込む。美杜のそこには、受け入れる準備を示す濡れなど欠片も見ては取れなかったが……  
 おかまいなしに、触手は、美杜の未開通な膣へと入り込んでいった。  
「ひぁ!? や、あ、痛いっ、痛、ひぅぁぁぁぁ!?」  
 ひとすじの血が滴る。その血を潤滑剤にして、触手は欲望のままに美杜の奥を荒々しく突き上げる。  
 やがて、下腹の奥で、ごぷりと熱いものが弾けた感触……  
 美杜の意識は、そこまでで途絶える事となったのだった。  
 
「アルト、どういう事!?」  
 帰宅するなり、真央は相棒の杖に向かってがなり立てた。  
 ――美杜が女子更衣室で何者かにレイプされた。  
 誰かが侵入したような形跡もない、まさしく密室殺人ならぬ密室陵辱だ。学園は突如今日の授業を全て取り消して学生全員を帰宅させ、騒然となった場をとりあえず静めた。  
 美杜は家に運ばれ、意識を失ったまま寝床に着かされている。今頃は警察が事件を調べている事だろう。  
 だが、警察がいくら捜しても犯人など浮かび上がってくるはずはないのだ。  
『真央、これは魔の者の仕業だ』  
「そんな事わかってるって! どうして、何で美杜ちゃんが……!」  
 アルトクレスに怒鳴っても仕方ない事だ。だが、真央は理不尽なこの事件に対する憤りを、何かにぶつけなければ収まらない気持ちで一杯だった。それが後々、この相棒とギクシャクする事が目に見えていたとしても……  
『……真央、お前に魔の者たちの目的を言いそびれていた私の非だ。すまなかった』  
 しかしアルトクレスは、真央の想像に反してそう謝った。  
 てっきり、真央の怒りをよそに、冷静に解説をするのではないかと真央は思っていたのだ。だがアルトクレスは神妙に、本当に申し訳なさそうに謝ったのだ。  
「あ……ん、えと……ごめんアルト。怒鳴ったりして」  
 毒気を抜かれたかのように、真央は怒りがスッと引いていくのを感じた。もちろん美杜を犯した者への怒りまで消えたわけではないが、今後どうすべきかまでを考える程度には落ち着いた。  
 アルトクレスは、自分が率先して謝る事で真央を落ち着かせようとしたのだろうか。だとすれば真央はこの杖にいいように扱われている事になるが、今だけはそれでも良かった。  
「聞かせて。魔の者っていうのは、何をしに来てるの? なぜ美杜が狙われたの?」  
『順を追って説明しよう。奴等にとってこの世界は格好の餌場、そこまでは説明したな?』  
 真央は頷く。その言葉の意味するところまでは、まだ聞いていなかった。  
『奴等は繁殖と繁栄のために、この世界にある物を利用できるのだ。中でもとりわけ奴等が狙うのは、母体にできる人間の娘だ』  
「母体……って」  
『簡単に言えば、孕ませるのが奴等の目的だという事になる』  
 孕ませる。  
 言葉にすると簡単だが、その響きは重々しい。それでなくとも出産は女性にとって生来の大仕事だが、陵辱される事、その結果できた子供など、陵辱を受けた側の人生を大きく狂わせるだろう。  
 美杜も――実際に、そのような目に逢ったのだ。  
 ふつふつと煮え立って来るかのような怒りに、真央は硬く拳を握り締めた。  
 
『魔の者は、大別して『魔人』と『魔物』の2種類がいる』  
 アルトクレスは言葉を続ける。その言葉で真央の怒りをごまかすように。  
『これはこの世界で言うなら、人間と動物の違いのようなものだ。知的生命体とそうでない動物、その違いだと考えればいいだろう。  
 今まで我々が相手取ってきたのは、みな知性を持たない魔物……魔の者としては下位の存在だ』  
「知性を持たないって……じゃあ、どうして女子更衣室なんかに?」  
『そのミモリという少女を襲った魔物は、魔人に遠隔的に操作されてその場に現れたのだろう。学園に魔人が潜んでいると見て間違いないようだ』  
「ひょっとして、夕べのヘリの……?」  
『恐らくな』  
 真央は息を飲む。美杜が陵辱された裏に、魔人と呼ばれる存在の思惑があるとしたら……それは今までのような戦いではない、より気を引き締めなければならない相手に違いないのだ。  
『だが、逆に言えば、学園に魔人が潜んでいる事は明確になった。被害が広がらぬうちに探し出し、叩くぞ。直接戦闘になればこちらに分がある』  
「うん」  
 美杜の仇とばかりに、真央は口を結び拳を握った。美杜の貞操を踏みにじった相手など、許す気は全く無かった。  
『重ね重ね言うが、気をつけるのだぞ。奴等は恐るべき相手だという事、真央にも判ろう?』  
「大丈夫、私は絶対やられたりしないよ……アルトもいてくれるし、それに、あの服がある限り怪我とかもしないんでしょ?」  
 服と言うよりは衣装……ややもするとコスチュームと言ったほうが適切かもしれないあの服の事を真央は引き合いに出した。あの衣装を着た真央はあらゆる手段でも傷を受けなかったのは実験済みの事、それだけは自信を持って言えた。  
『……過信は禁物だぞ』  
 アルトクレスは、ただそうとだけ答えた。  
「ん、大丈夫。明日から早速探して回るよ」  
 真央の返事は、明らかに忠告が耳に入っていないものだった。親友を陵辱された怒り、そう簡単には鎮まりそうもなかった。  
 
 その日の夕方、学園の近くに位置するゲームセンター。  
 学園の制服を着崩した数人の不良学生が、そこにたむろっていた。  
 ブームの過ぎ去ったシューティングゲームの筐体を囲むようにして、菓子や缶飲料――その一部はアルコール入りのものも混じっている――を飲食しながら、ぺちゃくちゃと雑談に興じていた。  
 彼らはみな共通して、今日、学園で起こった事件と、それに伴って授業が中止になった事を親に報告していない。早い話が、学園で授業を受けているかのように装って遊んでいるのだ。  
「しかし今日はラッキーだったよな、いきなり授業全部ナシとか言ってよ」  
 彼らの言い分はそんな所のようだ。同じ学園に通う少女一人が純潔を汚された事など、赤の他人の彼らにとっては、至極どうでもいい事だった。  
「ラッキーと言えば、あれよ。ほら、コレ見てみ」  
 言いつつ、一人が携帯電話の画面に画像を表示する。  
 表示されたのは、水着姿の真央だった。見返り構図でうまく撮れたそれは、年齢に比しては抜群に大きい胸を強調すると同時に、細いウェスト、きゅっと締まった尻のライン、細く幼さを感じさせる四肢を余すことなく捉えていた。  
「おー、すげー。よく撮れてんじゃん」  
「すげーよな、コイツ。パイオツでっけぇ。FかGか、そんぐらいカップあるよな」  
「どんだけ揉まれてヤりまくったら、こんなでっかくなんだかなー?」  
 卑猥なた言葉と視線を映像に投げ、不良たちは下卑た笑いを浮かべる。  
 ――と。  
「その子に興味があるのか?」  
 尊大さを窺わせる、高いとも低いとも言い切れない声が彼らの耳を刺した。  
 一斉に振り返る不良たち。そこに立っていたのは、ゲームセンターと言う場にはおよそ似つかわしくない、ビジネススーツ姿の長身の女性だった。  
「んぁ? 何だ、アンタ?」  
「私が誰であるかは、君たちには関係の無い事。それより、その映像の子に興味があるようだが……  
 君たちさえよければ、整えられる段取りもあるぞ?」  
 くす……と、唇の片側を吊り上げた蟲惑的な微笑み。  
 不良たちは、背筋にぞくりと寒気が走ったのを感じた。恐怖と、未知への好奇心から。  
「……話を聞かせてもらおうじゃんか」  
 不良たちの中でもひときわ体格の良い、リーダー格らしき男子が前に進み出て言う。  
 目の前の女性の瞳に秘められた酷薄さに、彼らが気づく事は無かった。  
 
 翌日の放課後、真央はアルトクレスを収めた竹刀袋を担ぎ、学園中を探し回った。  
 警察が現場の保全をしているプールの女子更衣室には入れないとしても、それ以外の場所……特に潜伏に適した、あまり使われない特別教室や倉庫のたぐいまで念入りに調べていく。  
 しかし、行き当たりばったりにも等しいやり方だというのは否めない。  
『駄目だな。ここにも魔の者の気配はない』  
 人気のない旧校舎の隅に位置した未使用教室でも、アルトクレスの言葉が空しく真央の頭に響く。  
 はふ、と真央は溜め息をついた。  
 どこに敵が潜んでいるかは判らないし、そもそも敵がじっと待っている保証もない。わかっていたはずだが、実際にこうも見つからないと精神的に疲れて来る。ゴールの見えないマラソンほど辛いものは無いのだ。  
 と、背後から真央の肩をそっと叩く手がひとつ。  
 振り返ると、スーツ姿の女性が立っていた。身長150cmに少し足りない真央より、頭ひとつ分は背が高い。  
「え、と……?」  
 真央は少し驚き、次ぐべき言葉をわずかの間見失う。自分の記憶に間違いがなければ、教師の中にこんな人物はいなかったはずだ。だとしたら、学園の外部の人間だろうか?  
「桜坂真央さん……だな?」  
 男のような口調で言い、微笑む。その表情は穏やかを装ってはいるが、どこか隠し切れない……抜き身の刃物のような、剣呑な鋭さを感じさせる。  
「あ、はあ、そうですけど、何か……」  
 生返事を返す真央の目に、目の前の女性の胸元についた、小さなバッジが留まった。  
 銀製だろうか、陽の光を受けて鈍く輝くそれは、『四菱重工』と文字が書かれている。  
 その名前は真央にも聞き覚えがあった。この街に本社を持つ大企業のはずだ。街の中央に大きなビルを建て、その屋上には幹部クラスが使うらしいヘリの発着場まであるという話が……  
「……まさか」  
 そこまで思い至って、真央は一歩、後ずさる。  
 に……と、目の前の女性の笑みが愉悦を含んだものへと変わっていく。  
『真央! この女、魔人だ!』  
 切羽詰まったアルトクレスの声が響く。  
 目の前の女性の背中に蝙蝠の翼が広がったのは、その一瞬後だった。  
 
「自己紹介ぐらいはしておくべきか」  
 人気の無い旧校舎の教室の中、漆黒の翼を広げ、爪は刃物のように鋭く伸び、瞳は爛々とした紅。まさに人外の、魔性の美をたたえた姿となって、魔人と化した女は言う。  
「私の名はベルダ。先日は、せっかくの手駒をひとつ使わされた借りがあったな」  
 たっぷりと借りを返す。そう言わんばかりに、ベルダの瞳は嗜虐心を秘めて怪しく輝く。  
 真央は竹刀袋からアルトクレスを取り出した。いわゆる魔法少女という存在である事……とりわけ傍目に恥ずかしい、あの少女趣味もどぎついばかりの服を見られるのは御免被りたいところだが、幸いここは旧校舎。人目はなく、遠慮の必要はどこにもない。  
 杖を、高々と掲げ上げる。  
 先端の宝石から広がった光が真央を包むや、その光は真央の着ていた制服を覆うように宿る。  
 そして、弾け。  
 一瞬、太陽がそこに生まれ出でたのかと思うほどの輝き。それが止んだ時、そこには白と薄桃色の衣装を身にまとった真央が、凛と立っていた。  
「あなたこそ美杜ちゃんを傷つけておいて……許さないから!」  
 杖を両手で握り締め、真央は猛る。  
「ミモリ? ああ、あの着替えの遅い娘か」  
 さも可笑しそうな微笑みを浮かべるベルダ。その嘲笑が、真央の怒りをさらに掻き立てる。  
「何が可笑しいのよ!?」  
 真央は怒りに任せ、杖を振り上げ飛び掛る。銀嶺のような淡い光彩が尾を引き、普段の真央からは想像もつかないほどの瞬発力で懐へ飛び込んでいく。  
 そして振り下ろされる、刃と化した光を伴う杖。  
 ベルダは避けようともしなかった。ただ、ポケットから何かを取り出し、それをかざす。  
 パリィン――と、乾いた音。  
 ガラスのように砕け散った宝石。刹那真央の視界が陰に覆われ、突き飛ばされたような感触と共に後ろへ吹き飛ばされる。  
「っく……!?」  
 突然そこに生じた質量に、真央は壁まで叩きつけられた。鈍い痛みが、背中を侵食する。  
 痛みを堪えて急いで立ち上がると、視線を戻す。  
 そして、そこにあった巨大な陰に真央は戦慄した。  
「喜べ、桜坂真央。この魔物はお前のような、智者の主となった娘を倒すための特性の魔物だぞ」  
 そこには、得体の知れない怪物。その高さ、2メートルにも及ぼうか。  
 糸ミミズのように絡まり合う、真央の二の腕ほどの太い触手の群れの塊があった。  
 
「っく……そんな魔物なんか出して来たって!」  
 真央は杖を再び握り締め、床を蹴るようにして突進していった。  
『いかん、真央、冷静になれ! あの魔物は智者の主を倒すためのものと言った。恐らく――』  
「黙っててっ!」  
 アルトクレスの言葉を振り払い、真央は触手の怪物に向かっていく。  
 数本、触手が伸びて来た。襲い掛かって来ようとする真央を迎撃しようという動きだ。  
「そんなもの――!」  
 真央は無造作に、触手の一本を腕で払いのけた。あらゆる危険から真央を守ると言われた衣装の一部、上腕までを覆う長手袋。それに包まれた腕は、やすやすと触手を弾き飛ばす。  
(どんな魔物だか知らないけど、この服さえ着てれば大丈夫! こんな魔物早く倒して、あの魔人も……!)  
 次々と迫り来る触手を、払いのけ、杖で叩き落し、あるいは斬り飛ばし、一気に接近。  
 一昨日の夜に倒した魔物同様、一刀両断と斬り捨てるべく、ふわりと上昇。あの時ほどの高さは取れないが、勢いをつけるには充分だ。  
 杖全体を伝っていく魔力の光。あとはこれを、いつもどおりに叩きつければ――!  
 渾身の力を込めて振り下ろされた一閃。そして、深々とした手応え。  
 やった、と真央は思った。会心の一撃とも言うべきこの手応え、間違いなく相手を倒した確信がある。  
 見れば、絡まり合う触手たちの根元に、ざっくりと大きな断面が生まれていた。  
「次ッ……!」  
 ふわりと床に降り、ベルダに斬りかかるべく歩を踏み出そうとして。  
 ――しゅる――  
「!?」  
 真央は驚愕した。間違いなく仕留めたと思った魔物が、さらに触手を伸ばして真央の腕を絡め取ったのだ。  
「はははは、頭の悪い……言っただろう、そいつは智者の主を倒すための魔物だと?」  
 ベルダの嘲笑が真央の耳を突いた。得意気に腕を組み、泰然と言葉を続ける。  
「お前たち智者の主は、我々魔の者に対して直接的戦闘では絶対に有利……そんな事は判っている。わざわざそれほど相性の悪い敵に、単純な雑魚をぶつけるほど我々も愚かではないぞ。生命力だけなら、そいつは飛び抜けていてな」  
「くっ……!」  
 自分の浅はかさを呪いながらも、真央は右腕を掴む触手を振りほどこうと力一杯もがく。  
 だが、触手は恐るべき怪力で真央を放しはしなかった。服に守られていなければ、骨が砕けていたかもしれないほどだ。それだけあって、真央の細腕から生まれる力ではいかんとも動かしがたい。  
 せめて掴まれたのが左腕ならまだよかった。アルトクレスを握っていた右腕を掴まれては、杖で斬り落とすこともできない。  
「では、桜坂真央。こいつがお前ら智者の主を倒すための者だという事……その身で味わうがいい」  
 そう言って笑うベルダの瞳は、この上なく残酷な光を帯びていた。  
 
 ぬるつく体液を滴らせながら、さらなる触手が伸びて来る。  
 真央はそれらを何とかして振り払おうとしたが、左腕一本では多勢に無勢。やがてその左腕も触手に捕まり、左右に大きく腕を広げる格好で捕らえられてしまった。  
 両腕を広げた格好になると、自然と胸を突き出した体勢になってしまう。服の上からでもありありと判る、片方でもメロンほどの大きさとかすかな上向きの美形を備えた豊かな双丘が、強烈にその存在を主張する事となった。  
「フフ、いい格好だな、桜坂真央。見応えのある胸だぞ?」  
「っく……」  
 真央は奥歯を噛み締めて屈辱に耐える。小柄な割にはあまりに大きすぎる胸は、先日のプールでのように男から変な目で見られやすいのも含めて、コンプレックス以外の何者でもない。恥辱に頬を染めながら、真央は視線を逸らしていた。  
『真央、奴に耳を貸すな……!』  
 アルトクレスが助言を続ける。さきほどまで以上に、切羽詰まった声音だ。  
『奴も、真央を傷つけられん事は承知している。恐らく奴の狙いは――』  
「うるさいぞ、そこの棒切れ」  
 ベルダが言い放った一瞬後には、真央の手から力強い触手によってアルトクレスが奪われていた。  
 それきり、アルトクレスの声は途絶えた。離れてしまうと、その声が聞こえなくなってしまうのだろうか……  
 だが、ゆっくりとそんな因果関係を考察している暇などない。  
「智者よ、貴様はここでおとなしくしていろ。そして、自分の選んだ娘の行方をしっかりと見届けるのだな」  
 ベルダは愉悦の笑みを浮かべ、触手からアルトクレスを受け取る。  
 と、触手が再び動いた。逃げられない真央を焦らし、恐怖を与えるかのように、ゆっくりと。  
「っ、やっ、来ないでよっ!」  
 真央はより一層の力で抵抗を試みるが、しょせん歳相応以上にも華奢な真央の腕ではこのような怪物に敵うはずもない。痛みこそないものの、ぐいぐいと腕を締め付けるように掴まれて、逃げようがなかった。  
 ゆっくりと近づいてくる触手は、いったい何をしようというのか。服に覆われていない肩や頭などを握り潰そうとでもいうのか……真央は恐怖にかられ、その脚は小刻みに震え出してしまう。  
 だが、やがて近づいてきた触手は――べとつく体液をすり込むように、真央の胸を這い始めた。  
 
「きゃっ!?」  
 予想だにしていなかった触手の動きに、真央は素っ頓狂な声を上げる。  
 だが、同時に思い出していた。女子更衣室に倒れていた美杜の胎内から溢れるほど出ていた白濁の光景、そして魔の者の目的は繁殖だというアルトクレスの説明……  
(まさか、私も……!?)  
 予想して然るべきだったと、気づいてから思う。しかし、まさか真剣に戦おうとしている最中にもそのような事をしてくるとは、完全に真央の予想の斜め上の行動だった。  
 真央が驚き呆気に取られている間に、触手は真央の胸に巻きつくように絡む。  
 そして、真央のたわわな胸をきつく絞り上げた。  
「ひぁ……!」  
 悲鳴が漏れた。ギリッ……と、柔らかな布地が軋む音を立てる。  
 痛みは感じなかった。だが、それでいて胸を押し潰され形を歪まされる感触だけは伝わってくる。真央にとっては未だ経験した事のない感触が、強制的に与えられていた。  
 触手はやがて力を緩め、しかしまたすぐに力を込める。緩急をつけたそれは、荒々しい愛撫のようであった。  
「やっ、ちょ……っふぁ、何をっ、んぅぅっ!」  
 身をよじって抗おうとするが逃げられず、真央はされるがままに胸を絞り上げられてしまう。  
 やがてそのうちに、がくがくと足腰が立たなくなってきた。揉み上げられている胸から全身へと、未知の感覚が駆け巡っていくようだった。  
「っちょっ……く、はぁ、はぁっ、何、これ……」  
 それは、真央が今まで味わった事のないほどの大きな快楽の波だった。あまりに膨大なその快感に、真央の頬は赤く上気し、吐息もいつしか熱を帯びていた。  
「智者の主は、殺せない。傷ひとつつける事すら、容易ではない」  
 ベルダは真央の痴態をじっくりと眺めながらも、口調は冷静なまま呟く。  
「だが、智者の主に選ばれるのは、いずれも歳若い娘ばかり。ならば、殺せずとも……簡単に堕とす事ができる。  
 その魔物は、そういった用途に特化して作られた魔物でな。じっくりとその責めを味わえ」  
「……ッ!」  
 火照った思考の中、なんとか残っていた理性が、真央にその言葉の意味を理解させた。  
 快楽で狂わせようという事か。そしてあわよくば美杜のように陵辱し、種付けしてしまおうと……  
「やっ! や……!」  
 真央は首をぶんぶんと振り、襲い来る快楽に必死に耐えようとした。  
 だが、ベルダも、触手の魔物も真央の仕草など意に介さない。  
 真央の口元へと、新たな触手が伸びて来た。  
 
「ふぐ、んっ、んぅぅぅっ」  
 真央の口へと、太い触手が力任せに侵入して来る。  
 ひどい味だった。苦さと、鼻をつくすえた匂いが混じったようで、ひどく不快。そこに加えて、ぬめった体液と生暖かい体温が追い討ちをかけてくる。  
 真央は歯を立てて抵抗した。それが今彼女にできる唯一の抵抗だった。  
 だが、そんなささやかな抵抗など気にした様子もなく、触手は真央の舌の上を伝い、口腔の奥まで無遠慮に侵入を続けていく。  
「んっ、んっ、んぅーっ!」  
 必死で嫌がる声を真央は立てるが、物言わぬ触手がそれでどうにかなるわけもない。  
 触手は真央の暖かな口の中、舌と頬の肉の柔らかさを堪能するように、隅々まで蹂躙していく。  
 真央の頬を涙がひとすじ伝った。美杜の仇も討てないどころか、熱くなってアルトクレスの助言にも耳を向けず、その結果として敵の思うつぼにはまってしまった……あまりにも情けなく悔しく、溢れ出る涙を堪えきれなかった。  
 やがて、ごぷごぷっ……と、熱い粘液が真央の口の奥へと放たれる。  
「んんん!?」  
 真央は再度驚きに目を見開く事となった。生臭く苦じょっぱい味が舌の上で広がり、そして喉の奥へ直接放たれたそれは吐き出す事もかなわない。  
 こく、こく……と、真央の喉を熱く粘っこい液体が通っていった。  
 思うさま真央の口内へと放出しきった触手は、真央の唾液を滴らせながら、ようやくにして真央の口を解放する。  
 ようやくにして酷い味と口内の陵辱から逃れおおせた真央は、口の中の異臭を吐き出し、新鮮な空気を大きく吸い込む。やっとの思いで解放された安堵から、がっくりと真央の体からは力が抜けてしまった。  
「まったく、いいカモだな」  
 嘲笑をたたえたまま、ベルダは言葉で真央を嬲る。  
「勝手に怒って、勝手に引っかかってくれるとは。これほど安易な獲物もない……智者の主と言うだけあって、もう少し用心するべきかと思っていたが、その必要もなかったか」  
「な、にを……っ!」  
 真央は涙をぬぐい、顔を上げてベルダを睨みつけて言った。――いや、睨もうとした。  
 だが、できなかった。眉根にまるきり力が入らない。  
「あ、ぅ、ぁっ……!?」  
 眉は垂れ下がり、口からだらしなく涎が垂れてしまう。瞳もじっとりと情欲をたたえている事が、傍目には明らかに見て取れた。  
「い、いったい、なにを……」  
 漏れる声も呂律が上ずり、殊更に幼い。その様子を見て、ベルダはなお嘲笑を深めた。  
 
「あの魔物の体液はな、媚薬の効果があるんだ」  
「びや……く……?」  
「股が濡れて、いやらしい事がしたくてたまらなくなる薬という事だよ」  
 鬼の首を取ったかのように勝ち誇った微笑み。そしてベルダはポケットから赤い宝石を取り出すと、傍らで蠢く触手の魔物にそれを押し当てる。  
 と、その魔物は宝石の中に吸い込まれるように消えていった。  
 腕を掴んでいた触手という支えを失い、真央の体が床にくずおれる。腰が落ち込むと、べちゃっと水音が立った。  
「は……ぅ」  
 床に腰をついた真央は、その時自分でも初めて気づいた。下着が、びしょびしょに濡れている。  
 真央は――明らかに、性感を感じていた。  
 体が芯から火照ってきているようで、胸と下腹の疼きが治まらない。それが媚薬によって強制的にもたらされたものだと頭ではわかっていても、体の疼きは止められそうになかった。  
「さて、はしたなく発情した智者の主よ。お前とお近づきになりたいという者たちがいるのだが」  
「え……?」  
 我知らずとろんと蕩けた瞳で、真央はベルダを見返す。  
 木製のドアが開け放たれたのは、その瞬間だった。人のいない旧校舎の未使用教室であるはずのここのドアが、人為的に開け放たれる……  
「待たせたな」  
 ベルダは入ってきた人物たちを顧みて言う。  
「ああ、いや、桜坂とヤらせてくれるんなら文句はねーぜ」  
 ニヤニヤとした笑いを浮かべながら入ってきたのは、制服をだらしなく着崩した、不良だった。それも1人2人ではない、5人もがぞろぞろと連れ立って入室してくる。  
「見ての通り、彼女の方はもう準備万端だそうだ。好きにしてやるといい」  
 ベルダが真央を指して言う。不良たちはみな一様に、ねぶり上げるかのような視線を真央に送った。  
「ありがたいねー。思わぬタナボタだ、こりゃ」  
「うっはぁ、何だよあのカッコ。コスプレ……?」  
「いいじゃんいいじゃん、そーゆーのも楽しいって」  
「てゆーか桜坂、そーゆープレイが好きだったのかー。こりゃ楽しませてもらえそうだぜ」  
 好き勝手な事を言いつつ不良たちは歩み寄り、そして真央を取り囲む。  
「……な、なにを……」  
 何とか切り抜けないと。アルトを取り戻さないと――真央は頭ではそう考えていたが、下半身にまるで力が入らないのだ。そのうえ、放っておくとどんどん体の内側から、言い表しようのない熱気がこみ上げて来るかのような感覚に襲われて止まない。  
 魔物から受けた媚薬の効果は、確実に真央を蝕んでいた。  
 そして、そんな事を知るよしもなく。  
「さて、桜坂。たっぷり楽しもうぜぇ?」  
 不良たちの手が、真央に伸びていった。  
 
 体にまるで力が入らず、真央は床にあっさりと押し倒された。  
「あ、やっ……」  
 真央は伸び来る手を押し返し抵抗しようとするが、その腕は弱々しく、逆に男たちの劣情を誘う効果をもたらしただけに終わってしまう。  
「おーおー、可愛い声出してくれちゃって。盛り上げてくれるじゃん?」  
「そーかいそーかい、そんなにヤってほしくて仕方ねえんだな」  
 好色な笑いを隠そうともせず、男たちは真央に身を寄せてくる。そのうち一人が真央の胸元に手を伸ばすや、ぐっと服の胸元を掴んだ。  
「さて、ご開帳〜」  
 そして、無造作にビリビリと破いていく。  
「! やぁ……!」  
 押し込められていた服の布地から解き放たれ、ぷるりとメロンほどの大きさのふたつの膨らみがその姿をあらわにする。まるで包装を解かれた上質の菓子のように一点の汚れもなく、見事な釣鐘型を保った柔肉の上に、桜色の先端が屹立を見せていた。  
「うは、でっけぇ〜。すげぇな、片手で収まりきらねえじゃん」  
 横合いから伸びて来た手が、真央の胸をわしづかみにする。  
「んうぅっ!」  
 乳房が指の形に添って淫猥に歪む、その刺激だけでも今の真央にはたまらないほどの快感となって襲い来る毒だった。真央は思わず目を伏したが、漏れ出る声は留めようがなかった。  
(な、何で……? どうして、この服が簡単に……)  
 淫蕩に惚けさせられていく頭で、真央は必死に考えを手繰り寄せる。  
 この服は、あらゆる傷や痛みから自分を守ってくれる無敵の鎧だったのではなかったか。なのに今は簡単に、魔の者ですらない、こんなただの不良ごときにいいように破り捨てられて……  
(……魔の者じゃ、ない……?)  
 ふと、真央はひとつの考えに至った。  
 アルトクレスは、この服を着ている限り、あらゆる魔の者から守られると言った。事実、魔物と戦おうが何をしようが、傷を負った事もこの服が破損した事も今まではない。  
 だが、よくよく考えてみる。  
 さきほど触手の魔物と戦ったとき、吹き飛ばされて、壁に背中をぶつけ……  
 その時、感じた痛み。  
(まさか……魔の者以外からは、守ってくれない?)  
 熱く火照った体の中で、頭だけからは、すぅっと血の気が引いていくように真央は感じた。確かにそれならば、ベルダがこの不良たちと面識を持っていた事、そしてこの場に招いた事も納得がいく。  
 だが、納得すれば、それは瞬時に絶望へと変わった。  
 今の自分は智者の主でも何でもない、不良たちの毒牙にかかろうとする無力な一人の少女でしかないのだと。  
 
 真央が思考をまとめていると、いつしかその胸を不良たちが強く揉み込んでいた。  
「ひぁぅっ! ちょっとっ……や、ふぁ、やめっ……」  
「んー? やめて欲しいって?」  
 一人、ひときわ体格の良い男が真央の脚を掴み、開かせる。  
「ひゃっ……!?」  
 抗う事もできないまま脚を開かされた真央。スカートの中に隠された白いショーツは、既に快楽を現す透明の粘液でぐっしょりと濡れそぼっていた。  
「コッチの口はやめてほしいなんて言ってねえみたいだぜ?」  
 言いつつ、げらげらと笑う。  
「……ッ!」  
 真央はあまりの羞恥に耐え切れず、視線を逸らした。  
「そ、それは私のせいじゃ……! さっき、変なの飲まされて……」  
「いーっていーって。言わなくてもいいぜ、桜坂はしょうがねえ淫乱なんだってなぁ?」  
 言葉で嬲りながら、体格のいい不良は真央の乳首をつねり上げた。  
「ひぅっ!?」  
 びくん、と一瞬痙攣したように体が反応してしまう。かすかな痛みと、それを上回る電気が走ったような快感。  
 思わず呼吸は荒くなり、頬は自分でも感じられるほど、燃えているのではないかと思うほどに熱く火照りあがっていた。うっすら空けられた目は羞恥と情欲を同時にたたえ、見る者を誘惑せずにはおらないようですらある。  
「乱暴にされて感じちゃってるってか〜? スゲー淫乱M女なんだなぁ、桜坂?」  
「ちがっ……」  
 ふるふると首を振って否定する。だが、それで不良たちに伝わるわけもない。  
「へへ、実はそうやって誘ってんだろ? その方がクるもんなぁ……よくわかってるじゃん」  
 言いつつ、正面に立ったリーダー格らしい不良は、真央のスカートの中に手を差し入れる。  
「ゃ……!」  
 咄嗟に真央は脚を閉じて抵抗しようとした。だが、脚の間に男の体が入ってきていて、それもままならない。  
 やがて、腿を下っていく衣擦れの感触。そして股間が外気に晒されていく事が判る……  
「うは、すげぇ、毛ェ生えてねーじゃん!」  
「っ!」  
 真央は再び襲い来た羞恥に耐えさせられる事となった。  
 真央はこの歳になっても、一切の陰毛が生えていない……俗に言うパイパンだった。胸以外は幼い体つきとあいまって、真央にとっては密かなコンプレックスのひとつだったのだが、それすらもが暴露されてしまった。  
 そして、こういうものを目にした不良たちの反応は決まっていた。  
「スゲーなあ、桜坂。剃っちまってるんだろー? やっぱマニアなセフレとかいたわけ?」  
 再び、嘲笑……真央はそれ以上を聞くに堪えられそうになかった。  
 
「ま、ともあれそろそろ本番いこうぜ。もう桜坂はびしょ濡れで待ちきれねえみたいだしよ?」  
 ヂヂヂ、と金属製のジッパーを下ろす音。  
 そして、真央の目の前に、赤く充血した肉の槍が姿を現した。  
「ひっ……!?」  
 真央にとっては、初めて直視する男性器だった。子供の頃、父親のものをかすかに見てしまったようなおぼろげな記憶がある程度……そんな真央にとって、そのペニスは強烈すぎるほどの印象を脳裏に焼きつけた。  
 それは成人男子の平均から比しても長大だった。真央の小さな手では掴むのもやっとというサイズで、肉の凶器とさえ表現できそうだ。そんなものが真央の方を向いて、これ見よがしに見せつけられているのだ。  
「ほーら、桜坂、じっくり見とけよ? 今からコイツをお前の中にブチ込んでやるからな」  
「え……や、いや、やぁ! ちょっ、やだ、やめてっ!?」  
 具体的に言われて、ようやく真央はそれが何をするための器官なのか思い出す。少なくともこの場においては、真央を陵辱し屈服せしめる凶器そのものなのだ。  
 真央はもがき暴れ出した。腕をばたつかせ、脚でリーダー格の不良を蹴るかのように。  
「おら、暴れるんじゃねえよ、おとなしくしろ!」  
 しかし、無駄だった。腕は押さえつけられて何もできず、脚の間にリーダー格の不良の体を割り込まされているままでは蹴る事もままならない。  
「何だよ、誘っといて今更嫌がってんじゃねーぜ?」  
「いや……ちがぅっ……」  
 その言葉も伝わりはしない。リーダー格が真央の腿を内股から押さえつけ、大きく脚を開かせた体制のまま体をがっちりと固定する。  
「そらいくぜ、濡れ濡れの桜坂サンよぉ? アンタの欲しがってたモノだ、しっかりくわえ込みな」  
 みちっ……秘肉が軋むような感触。  
 そして、熱く太いものが真央の中へと入っていった。  
「いっ……!」  
 体を真っ二つに引き裂かれるような感触に、真央は思わず身をすくめる。  
 さきほどまで体を支配していた快感はまだ残っているが、今は恐怖と痛みがそれにとって代わっていた。  
 痛い。痛い痛い痛い……  
 まるで焼きごてを膣に突き入れられているようだった。女性として一番大切な部分に、消えない刻印を焼き入れられているようだ。  
 やがて……ぶち、と胎内の奥で弾けた感触。  
「――!!」  
 激痛に、真央は涙を流していた。  
 
「うひゃ〜。すげぇわ、名器ってーの? キツキツで気持ちいいぜ」  
 ぐちゅぐちゅと音を立てながら、リーダー格の不良は巨根で真央を突いていた。  
「マジかよ。うは〜、早くヤりてえ。代わってくれよー」  
「っせぇな、ちょっと待ってろ。つーか、最初は俺って決めただろーが」  
「心配しねーでも全員最低一周は回るだろっての」  
 好き勝手な事を言って下品に笑い合う不良たち。  
 真央には彼らの言葉を聞く余裕などなかった。それだけでもパンクしそうになるような羞恥に加え、何も考えられなくなるほどの下腹の痛みが真央の全身を支配していた。  
「ったく、すげーわホント。こんなズブ濡れであったけーのに、なんでこんなキツいか……お?」  
 幾度か真央の最奥をジュプジュプと突いて、ようやくリーダー格の不良は気づく。  
 真央と自分の結合部から、ひとすじの赤い血液が真央の尻を伝っている事に。  
「うは。マジかよ、桜坂って処女だったん……?」  
 驚いたように、リーダー格の不良は言う。  
 真央は、力無くこくこくと頷いた。何か理性的な判断があったわけではない。だが、それを知ればもしかしたらこの痛みから解放してくれるかもしれない……自分を痛めつける者に対して許しを請うてしまう、生物としての本能が真央にそうせしめたのだ。  
 だが、リーダー格の不良は、ニヤリとした笑みを浮かべる。  
「マジか。ラッキー! 桜坂のバージンもらっちまったよ、俺ってツイてる〜!」  
 ――真央は、思わず死にたくなった。  
 自分を犯し、自分の人生を狂わせたであろうにもかかわらず、何か玩具でも買ってもらった小さな子供のような喜び方しかできないこんな奴らに腹が立った。  
 そして、そんな連中に少しでも許しを請うような態度を取ってしまった自分が、あまりにも情けなかった。  
 だが、そんな感慨も一瞬の事。リーダー格の荒々しい腰使いで肉の杭が打ち込まれる。  
「へへっ、やっべぇ、俺コーフンしてきたわ、マジ止まらね」  
 グチュッ、ズチュッ、ブチュッ……さきほどより派手な音を立て、しぶきを立てる激しい律動。  
「あっ! やっ! 痛っ! はぁっ……!」  
 真央には、痛みに耐える事しかできなかった。それ以外の手段など、ついさきほどまで処女だった真央には判るはずもない。  
「うは、すげ……エロすぎ」  
「やっべ、俺ももう勃っちまってどうしようもねーわ」  
 周囲の不良たちも、真央の処女喪失に興奮してか、ジッパーを空け、あるいはベルトを外す。  
「じゃあ、ヤればいいじゃねーか。穴はひとつじゃねーんだからよ」  
 リーダー格は真央に杭打ちを加えながら、そのように言う。  
「へへ、それもそうだな、ありがとよ!」  
 残る4人も、一斉に真央に群がって行った。餌にありつく、飢えた獣のように。  
 
 真央の口に、いきり立った剛直が咥えさせられた。  
「んむぅっ!? んー……!」  
 さきほど口腔を蹂躙して来た触手同様の、生臭い味。だが、真央はそれに噛みかかろうという気が起きなくなっていた――いや、そう抵抗するだけの余力がなくなっていたと言うのが正しいか。  
「あ、畜生、口取っちまいやがった」  
「しょーがねえ。ホラ、握れよ、桜坂」  
 真央を性欲処理のための道具としか見ていない口調で言い、不良たちは各々のペニスを真央の体に摺り寄せて来る。膣と口を塞がれただけでなく、両手に一本ずつ剛直を握らされ、横合いから胸にもペニスを押し付けられる。  
 伝わってくるペニスの熱さが、真央に残された理性を溶かしていくようだった。まるで全身が性器になったかのような錯覚さえ覚える。  
 そんな中、リーダー格らしき不良が、尚も真央の胎内を貪るように蹂躙していた。  
「おー、どんどん滑りがよくなってくぜ」  
 リーダー格はそう言って律動を加え続ける。その言葉は当を得たもので、現に結合部から溢れる液体は、見た目にもその量を増していた。  
「桜坂はやっぱ淫乱だな。5人にマワされて濡れてんだからよ〜」  
「はぅ、やっ……違っ」  
 息も絶え絶えに伝えようとしたその言葉、満足に声にすらならない。  
 実際の所真央が濡れているのは、媚薬の効果と、膣内を蹂躙される事に対しての自衛的な体の反応でしかない。だがそれを判ってくれるほど、不良たちは理解に富んだ人間ではなかった。  
「ほらほら、どうした、手がお留守だぜ? ちゃんとシゴけよ」  
「歯ぁ立てんなよ、ちゃんと舌使え。できるだろ、淫乱な真央ちゃ〜ん?」  
「ん――っ!」  
 首を振って否定しようとしたが、組み伏せられ、頭を押さえて口を犯されている状態ではそれもままならない。涙をこぼしながら唸りを上げるのが、真央にとっての精一杯だった。  
「マワされて感じてりゃ世話ねえやな……おら、出るぜ!」  
 リーダー格は一方的に言い放つ。そして、一度強く真央の奥を突き上げた。  
「ひぐぅっ……!」  
 上ずった声とともに、真央の体が弓なりに反る。  
 硬く充血したペニスの先端が、真央の子宮の奥に密着させられた。体を串刺しにされたような感覚に次いで、どくどくっ……と熱い子種の液が真央の奥深くへと放たれる。  
「んんぅ!?」  
 胎内に流し込まれたものの熱さに、真央はびくんと体を跳ねさせた。  
 
 断続的に放出される熱い粘液が、最後の一滴まで残さず真央の胎内に放たれた。  
「ふぃー……たっぷり出してやったぜ、桜坂よ」  
 少女の純潔を奪って満足げにリーダー格は言うと、ゆっくりと真央の膣からペニスを引き抜く。  
 破瓜の血と愛液と精液がでたらめに混じりあった液体が糸を引き、ぷつりと空中で切れる。少しだけ遅れて、膣内からは白濁とした濃い精液が溢れ、こぼれて来た。  
「んんぅっ……ふぁ、あ……」  
 真央は溢れてくる悔し涙を止められなかった。熱くなって周りが見えなくなった結果、陥れられ、純潔を奪われ、そして誰とも知れない男の精で種付けをされてしまった……  
 屈辱だけではない、そこに恐怖ものしかかって来る。孕まされてしまったかもしれない恐怖。  
 真央は、ただでさえ熱に浮かされたような頭の中がぐちゃぐちゃに混乱して、もうどうしていいかわからなくなっていた。ただ、悔しく情けなく、しかし何もできず身を任せる事しかできなかった。  
「くぅ、やべ、俺ももう出そ」  
 真央に手を使ってしごかせていた不良も、腰使いを荒げながら言う。  
「だな、こっちもそろそろだ」  
 こちらは、真央の口へペニスを押し込んでいた不良。真央の頭を掴む手に力が込もり、自らも腰を使って真央の口を遠慮なく犯していく。  
「さーて桜坂、俺らからもロストバージンの記念のプレゼントだぜ。たっぷり受け取れよ……!」  
「ん、んんっ!」  
 真央は嫌がり、顔を背けようとした。だが四方を取り囲まれ、どこを見ても自分を犯す男たちの顔を見せ付けられてしまう。  
 そして、真央の視界いっぱいに白が爆ぜた。  
 真央の喉奥を、あどけない顔を、桜色の唇、細い指、豊かな胸、白い腹……余す事なく不良たちの精液が真っ白に汚していった。  
「んはぁ……!」  
 全身に浴びせかけられた精液の熱さに、真央は驚き、吐息を漏らす。  
 白くべとつく汚れの中、まるで瀕死のように浅い呼吸を繰り返しながら真央は倒れ伏していた。未だ血の滴る股間からは痛みが引かず、それでいて体を蝕む媚薬の効果がまだ残っているのか乳首は勃起したまま、膣の秘肉もわななき続けていた。  
「まだまだ元気そうだなぁ。んじゃ、選手交代といくぜ〜?」   
 息も苦しげに胸を上下させる真央、その膣に別のペニスがあてがわれた。さきほど真央の左手を犯していたそれが、今度は膣にゆっくりと入っていく。  
「ひぁっ……! や、だめ、やめて……」  
「今更カワイコぶるなよ、たっぷり楽しもうぜ、公衆便器の真央ちゃ〜ん?」  
 ねちっこく、いやらしい笑い。  
 真央にとって生涯で2本目の男根が、咥え込まされていった。  
 
 ……三十分ほどして、真央はまだ犯され続けていた。  
「はぁ……はぁ……はぁ……」  
 視線は虚空をさまよい、破瓜の血の跡もすっかり乾いてしまっている。ただ際限がないのではないかと思えるほど放出され続けた精液だけが、生新しく臭気を放って真央を汚していた。  
「ふー。や、たっぷり出したなー」  
 真央の膣から引き抜きながら、不良の一人が言う。  
「全員2週ぐらいはしたな、こりゃ」  
 真央を見下ろしながらリーダー格は言う。真央の周囲には池のように白濁が湛えられており、性向のあまりな壮絶さを思わせる。  
 生臭くて仕方ないほどのその輪の中へ、しずしずと歩み出てくる人影――ベルダだ。今まで事を静観していた彼女が、何を思ってか不良たちを押しのけるようにして、真央へと歩み寄る。  
「無様なものだな、桜坂真央?」  
 愉悦と嗜虐に満ちた微笑み。そして、ベルダは真央を抱き起こす。  
「っ……」  
 何をされるのかと真央は警戒しようとしたが、まるで力が入らなかった。処女を失った痛みと輪姦された疲労が、真央から全ての力を奪ってしまっていた。  
「フフ、そう怯えるな」  
 ベルダはそう言うが、無理な相談と言うものだった。その微笑みの奥には、背筋も凍てつくほどの冷たい何かと、熱くたぎるような欲望が見え隠れしている。  
「私も少々、あてられてしまっただけでな……」  
 言いつつ、ベルダの手が怪しく輝く。  
 と、ばたばたと不良たちはその場に倒れていった。外傷はないが、死んだのか、あるいは気を失ったのか……真央には判別がつかない。だがいずれにしても、彼らに気を回している余裕など真央には無かった。  
 ベルダが、スラックスのジッパーを下ろす。  
「……!」  
 真央は、信じられないものを見た。  
 ベルダの股間から、男根が生えているのだ。逞しく勃起したそれは、不良たちのものよりも一回りは大きい。  
(男……!?)  
 真央は驚いて、ベルダの顔を見上げる。だがその造作は女性のもので、胸も真央におとらずたっぷりとした重量感をたたえてそこに存在している。  
「ふたなりを見たのは初めてか? まあ、お前たち人間には馴染みも薄かろうな……」  
 明らかに人間を、そして真央を下等生物とばかりに見下している口調だった。  
 だが、真央にはベルダを拒絶するだけの力は残っていない。抗おうと心は思っても、媚薬に溶かされた体が犯されることに順応しようとしてしまうのだ。  
「そら、いくぞ」  
 ベルダは精液まみれの真央をぐっと抱きしめるように、体を密着させ、あてがう。  
 そして、立った体勢のまま真央の膣内奥深くまで、ふたなりペニスを埋めていった。  
 
「はぁぅ……んぁぁぁぁ!」  
 真央は思わず大きく声を漏らしていた。  
 ベルダの男根は、リーダー格の不良のものよりもさらに大きく硬く、真央を貪って来た。自然と膣は窮屈になり、ぎゅうぎゅうに締め上げていってしまう。  
「なるほど、名器などと言わしめただけの事はある。いい穴だよ、お前は」  
 ベルダは愉悦もあらわに、真央の腰を掴んで乱暴に上下させる。  
 貪られる真央の膣からは、ぼたぼたと5人分の白濁した精液がこぼれていた。それだけの子種を注がれてパンパンになった子宮を、さらに魔人の強靭なペニスが貫いていく。  
 真央は体が精液袋になったような錯覚を覚えさせられていた。これだけ中に出されて、なお荒々しいセックスを強要される……完全に人ではなく、道具の扱いだ。  
「ほら、もっと自分から腰を振ってはどうだ? いやらしい肉便器め」  
 ベルダは殊更に体を密着させ言う。互いの豊かな胸が潰れて形を歪ませ合い、何とも淫靡だ。  
「はっ、んぁ、んんぅぅ」  
 真央は下腹を抉られる感触に必死で耐えていた。その剛棒はまさに凶器と言うに相応しく、貫かれると言うよりも内腑を抉られると言った方が正しい。それほどに魔人のモノは強壮だった。  
 まるで、抗おうとする真央の意志など、膣ごと壊してしまうのではないかと思えるほどだ。  
「ほら、もっとはしたなくよがってみろ。これほどむやみに大きな胸をしていて……」  
 至近距離から、ベルダの手が真央の胸を荒々しく掴み、捻り上げるように乱暴に揉みしだく。  
「ふぁぅぁっ!」  
「生まれつきに淫乱にできているんだろう、お前の体は? それが証拠に、肉壷の具合もいい」  
 精液まみれの柔らかな胸を力任せに揉みながら、ベルダは律動を加え続ける。  
 赤く火照りあがった真央の頬に、ベルダが唇を落とす。顔にこびりついた不良たちの精液をベルダが舐め取る、その仕草はあまりに淫猥だった。  
「お前は私の奴隷になれ。一生をかけて、そのいやらしい体で私に奉仕し続けろ」  
 真央の耳元で、ベルダは囁く。聴覚をくすぐるような甘い響きの囁きだった。  
「奴隷になると誓うならば、いくらでも可愛がってやるぞ?  
 何を不自由させる事もなく、お前は何も考えなくて良くなる。世の中の一切のしがらみから断ち切られ、ただ私に奉仕し、こうして抱かれ続ければそれでよくなる。  
 楽だとは思わんか? そして幸福だとは思わんか? それ以上望むものなど、人の短い生涯にはあるまい?」  
 ベルダは幾度も囁き続けた。真央に残された理性を打ち崩さんとするかのように。  
 真央は必死で抗った。首を横に振り、ベルダの剛直から逃れようと腰を離そうとして……しかし体は言う事を聞かず、逃れる事はできない。  
 抵抗の素振りを見せる真央を愛おしげに見つめ、ベルダは言葉を続けた。  
「まあ……いい。今は心まで屈しなくともな。毎日じっくりと私の子種をつけながら、一日中犯し続ける生活を送らせてやれば、そのうち考えも変わるだろう」  
 くすりと、さも愉快そうに笑う。その微笑みの奥に、真央は底知れない恐怖を味わう。  
「さあ、しっかりと受け止めろよ。永世、お前の主人になる者の精をな……!」  
 ぐい、とベルダの巨根が真央の最奥にまで押し込まれる。  
 どくどくどく……どくどくどくっ……いつ果てるとも判らないほど長い放出。  
「ふぁ、ぁ……!」  
 中に出される端からこぼれて床へと落ちていく精液。まるで真央が小水を漏らしたかのように、それはとめどなく出続けていった。  
「これで、お前は私のものだ。よかったな、私のような優しい主人に種付けされて?」  
 勝ち誇ったようにベルダは言う。その言葉を否定もできず、真央は残った全ての力さえも奪われてしまっていた……  
 
「そこまでにしておいて貰おう」  
 突如低い声が響くや、横合いからベルダは肩を掴まれ、真央と引き剥がされる。  
「なっ……!」  
 ベルダは驚愕してそちらを見る。掴まれた肩はスーツが破け、その下の肌は火傷のようにただれて無残な姿を晒していた。  
(……だ、れ……?)  
 真央は虚ろに消え行く視界の中、その声の主を見やる。  
 男だった。長身で痩せ型、精悍な容貌……白い厚手の法衣のような服を着込んだ青年だった。  
 真央にとっては初めて見る顔のはずだった。しかし、いつも顔を合わせているかのような既視感。  
「魔の者よ、その娘は貴様の奴隷ではなく、我が主だ。やすやすとは渡せん」  
 その声は――  
 真央にとっては聞き慣れた、智者アルトクレスの声。  
「あると……?」  
 真央はぽつり呟く。その声が聞こえたかどうか、アルトクレスは真央を顧みて、かすかに微笑む。  
 やおら、アルトクレスの右手が光り始めた。真央が見たその光は、いつも魔の者を撃退していた、杖をまとっていた光。  
 それで、掴みかかる。  
「っくあぁぁぁぁぁ!?」  
 響き渡ったのは、ベルダの悲鳴。掴まれた腕が溶かされたように、ずたずたに崩れていた。  
 その場に倒れ込むベルダ。アルトクレスは、冷然とその姿を見下ろしていた。  
「……魔の者よ、立ち去れ。真央は貴様に渡すわけにはいかん」  
 ベルダは答える言葉もなく、唇を噛んで悔しさをあらわにしていた。  
 左腕と右の肩を使い物にならないほど痛めつけられて、痛々しいとさえ言える姿。先ほどまでの高慢な態度は何処へやらで、そこにある姿は敗者のものだった。  
「……ち。桜坂真央、そしてそこの智者。今日の事は忘れんぞ……この借り、いつか返す!」  
 歯噛みするように言ってから、ベルダは虚空に魔法陣を描く。  
 やがてベルダの足元から、毒々しい紫色の光の柱が立って……  
 それが消えた時には、ベルダの姿はもうそこには無くなっていたのだった。  
 
「……真央、大丈夫か?」  
 ベルダが去ったのを確認して、アルトクレスが真央に歩み寄り言う。  
 アルトクレスの目に映った真央の姿は凄惨を極めているものだった。髪のてっぺんから爪先まで、余す事なく精液で漬けられたかのようにドロドロで、可愛らしかった衣服は胸元から乱暴に引き裂かれ、豊満な胸を露出させられ……  
 それでいて、度重なる陵辱によって熱に浮かされたように、あどけない瞳はぼうっと呆けてアルトクレスを見ていた。  
「真央?」  
 アルトクレスが再び声をかける。  
 真央はようやくにして気がついたように目を見開き、やがて精液まみれのその顔に、ぱっと花が咲いたような笑顔が取り戻される。  
「アルトぉ……!」  
 緊張の糸が切れたように。舌すら上手く回らぬ幼い口調でその名を呼びながら、真央はアルトクレスに抱きついていった。  
 
 
 真央が自宅に戻ったのは、それから小一時間ほどしての事だった。  
「でも、アルト……なんですぐあの姿になって助けてくれなかったの?」  
 シャワーを浴びて全身の汚れをすっきり落とし、パジャマ姿になった真央が言う。  
 アルトクレスは普段の杖の姿に戻っていた。ベッドの上に置かれたそれの先端の宝石が光り、真央の言葉に答えていく。  
『あの姿になるには、時間がかかる上、大量の力を消耗するのだ』  
 アルトクレスはいつも通り、静かに深みのある声で答えた。  
『それに、あの魔の者の不意を討つ必要もあった。そうしなければ真央を助けられないと思ったからな。機を見計らっていた』  
「それは……ありがとうなんだけど」  
 どこか憮然と真央は答える。  
 半ば異常に熱くなってしまった自分の自業自得とは言え、処女を失い、誰とも知らぬ男たちや魔の者の子種を子宮一杯に吐き出されてしまったのだ。痛みもまだ尾を引いているし、下腹の中がたぷたぷとしていて気持ち悪い。  
『それにあの姿は消耗が激しすぎて、長持ちせんのだ。最後にあの魔の者を追い返した攻撃でも、全ての力を振り絞っていたようなものだからな。  
 私はあくまでも智者。すなわち智をもたらし、警鐘を鳴らすだけの者。膨大な魔力を持つ主とひとつでなくては力を充分に発揮できん存在なのだ』  
「ん……ごめん」  
 真央は謝り、うなだれる。アルトクレスの助言を無視してベルダに突撃し、罠に陥ったのは真央の不覚なのだ。  
 ぼふり、と真央はベッドに倒れ込む。傍らになった杖を抱き寄せるようにして。  
「私がもっとしっかりしなくちゃいけないんだよね。美杜ちゃんの分まで……」  
『そうだな、それが理想だ』  
 アルトクレスはきっぱりと答える。真央は、小さく頷きを返した。  
『もっとも、真央はずいぶん酷い目に逢ってしまった事でもあるしな……もし我が主を辞めたいと言うのなら、止める権利も無いが』  
「大丈夫。私まだアルトと一緒にやっていくよ」  
 ぎゅ、と手の中の杖を握る。  
「今日私を助けてくれたみたいに、私もアルトを助けてあげなきゃ不公平じゃない……それに美杜ちゃんの分もまだあいつにお返ししてないし、第一今アルトを手放したら、私があいつに襲われて危険じゃない?」  
『それもそうだが……』  
「心配しないでいいよ。私、もうちょっと頑張ってみようと思うから」  
『……そうか。判った、よろしく頼むぞ、我が主よ』  
 答えるアルトクレスの声は、決して軽いものではなかった。  
 智者の主は殺せない。ならば犯し堕とすのが最善手と、魔人たちは皆考えるだろう。  
 ならば真央が犯されるのも今回だけではないはずだ。油断さえしなければ危険性は減らせるだろうが、魔の者が罠を敷かなくなる事はありえない。  
 これからの戦いの中、真央がどこまで汚され、堕とされていくのに耐えられるか……アルトクレスとしては、今日の戦いを見る限り気が気ではないほどだった。  
「アルトがいてくれるなら大丈夫だよ。だから、心配しないで」  
 アルトクレスの心配を、知ってか知らずか。  
 真央は、今は杖となっている相棒の、その先端の宝玉に優しく口付けた。  
 

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