「俺が行きます! 隊長!」
ジャックは燃え盛る倉庫を目の前に自分達の隊長であるアルバートに訴えた。
だがアルバートはジャックの申し出に対して首を横へと振る事で返した。
「ダメだ。勝手な行動は許さん」
「しかし、このままではデータが!」
「それなら心配無用だ。ティム、もう良いだろう」
アルバートは隣に居るティムに目を移した。
ティムはパソコンで情報を入手しており、今しがた親指を力強く突き立てた。
必要な物は全て手に入ったという証明である。
「自爆なんて古臭過ぎる方法、今時、通用するとでも思ったのか?」
「うう畜生が…」
「不正取り引きデータ。全て貰って行く。続きは監獄でやっていろ」
全ての仕事を終えアルバートは背を向け歩き出した。
ジャックとティムもそれに続きアルバートの後を追った。
「2人ともご苦労だった今日は帰って良いぞ」
アルバートは2人に今回の分け前を渡すと、
パソコンの前に向きキーボードを叩き続けた。
万事上手く行き上機嫌なティムに対し、
ジャックは釈然としない様子でアルバートの部屋を後にした。
ジャックは帰ろうと自分の中古マンションに向かったが、
自分の後を付いて来るティムに苛立ち、振り返り話し始めた。
「帰れ」
「何よ、そんな邪険にしなくてもいいでしょ!」
「お前はお前の家があるだろ、俺のボロマンションと違い何から何まで揃ったな」
「良いでしょ別に、
今日は気分でジャックの所に行きたいの。ご飯ぐらい作るから良いでしょ?」
「勝手にしろ」
これ以上、話しても無駄だと悟ったジャックはティムの入室を認め、
再びティムに背を向け歩き始めた。
ティムはジャックの腕に自分の体を絡ませ上機嫌で歩き始め、
それを無視してジャックは歩き続けていた。
ジャックが鍵を開け、中に入ると、そこにあるのは必要最低限の物しか無い、
殺風景な部屋であった。綺麗にはしているが、
余りの部屋の寂しさにティムは思わず呆れながらジャックに話した。
「相変わらずね、何か趣味とか無いのジャックは?」
「放っておけ。住むには困らない」
「それにしたってね…」
「俺はお喋りをする為にお前を部屋に上げた訳では無い、言った事は守れ」
ジャックの言葉にティムはジャックと交わした約束を思い出し、
慌ててエプロンを付け冷蔵庫にある少ない食材から懸命に料理を作り出した。
出された物は普段ジャックが食べていない様な創作料理ばかりであった。
ジャックはそれを何も言わずに食べ始めた。
「美味しい?」
「俺に選り好みする資格は無い」
「待ってよ! それだと『不味いけど我慢して食べています』みたいじゃ無い!
ちゃんとした感想、聞かせて!」
「食べられるよ、平気」
ジャックは答えるのもわずわらしかったが膨れっ面で聞いてくるティムが面倒なのか、
本心を答えた。それを聞くとティムも満足をし、その後2人で全てを平らげた。
「ねぇジャック又、パパに心配掛けようとしたでしょ」
後片付けを終えティムは実の父親であり、
仕事の上司であるアルバートとジャックとの話をし始めた。
ジャックはテレビを見ていたがティムの問いに答える為、
一旦、リモコンでテレビを消しティムの方を向き話し始めた。
「あの場合はああするのが最善だろ」
「嘘よ! ジャックだって私のハッキング技術は知っているでしょ!
炎の海に飛び込むなんて自殺行為も良い所よ!」
「自分の命も顧みず、目的を第一に考え行動する。それが俺等の仕事だろ」
「傭兵みたいな事を言わないで! 私達の仕事は探偵でしょ!」
ティムはジャックの仕事に対する姿勢を責め出した。
元々はアルバートとティムの2人でやっていた探偵事務所だが、
アルバートが寄る年波に勝てず、前程、無茶が効かなくなり、
ティムを自分の仕事に専念させる為、
ボディーガード用の人材を探していた所スラム街で4、5人相手に喧嘩をし勝利した
ジャックに目を付けスカウトをし現在に至った。
ジャックは基本、仕事に忠実であるが、
今回の様にチャンスがあると自分から進んで危険に飛びこもうとする事だけが
アルバートは評価出来なかった。
その事をティムは責めていたがジャックに悪びれる様子は無かった。
「何か? お前、俺が自殺する為にああ言った行動しているとでも思っているのか?」
「そんな事、一言も言っていないよ!」
「死ぬつもりなら、とっくに1人で首括っているよ、もう良いから帰れ」
「嫌よ! 今日は徹底的に話し合うから!」
「何をだよ?」
「ジャックが何をそんなに苦しんでいるのかをよ!」
思いも寄らなかったティムの発言にジャックは目を丸くして驚いた。
ジャックが黙りこくり話し合いが出来る状態なのを見極めるとティムは話し始めた。
「一緒に仕事して半年近く経つけどさ、
ジャック何時も何かに苦しんでいるっていうのが正直な私の感想」
「前に言わなかったか、俺のスラムでの通称」
「聞いた。『溝鼠ジャック』でしょ」
「そう。傷付けはするが殺しはしない。
そんなポリシーがスラム連中は気に入らなかったのだろうよ。
付けられたあだ名がそれだ」
「でも、それが原因ではないでしょ?」
ジャックは何時も使う方法でこの話題から逃げようとしたがティムはそれを許さず、
厳しい眼光でジャックを見ていた。睨まれジャックは1つ溜息を吐き、
続きを話し始めた。
「お前さ、俺の何を知っている?」
「知らないから聞いているのでしょ!」
「そりゃそうだ。じゃあ徹底的に話してやるよ俺の全てをな」
ジャックは邪悪な表情を浮かべティムに自分の生い立ちを話し始めた。
「俺が元々スラムの生まれだ。よって親父もお袋もろくでなしの人間の屑だよ」
「そんな! 産んでくれた両親に対して!」
「この話、聞いても、それが言えるか?」
ジャック曰く自分の父親はギャングの下っ端であり、
娼婦である母親を抱き、慰謝料目的でジャックを自力で産んだが相手にされず、
そこから幼いジャックは母親の虐待対照にされていった。
「情けない話だよ。結局あの女はギャング抗争に巻き込まれ死んだが、
最後の最後まで俺に傷を与えたよ、遺言が何か分かる?」
「分からない…」
「『お前何て産まれてこなければ良かった』とよ。
まぁ、こんな陳腐なセリフで傷を負う自分も情けないがな」
ジャックの話にティムは呆然としていた。
そんなティムを一気に畳み掛け様とジャックは話を続けた。
「『朱に交われば赤くなる』と言う言葉があるだろ、
俺もスラムの屑に染まれば、今程の苦痛は味あわなかっただろうよ。
だが、ダメだったよ」
「何が?」
「どんなにやっても俺は人を殺す事が出来なかった」
ジャックは寂しげな表情を浮かべ、自分の胸中をティムに話し始めた。
「どんなに憎い相手でも傷付ける事は出来ても殺す事は出来なかった。
まだ人間でいたかったのだろうよ。けどそんな物は俺には邪魔なだけだ」
「何でそうなるのよ! 人殺しなんてこの世で最も見下すべき存在でしょ!」
「知った様な口を聞くな!」
ここで始めてジャックは声を荒立てティムを威嚇した。
ティムはジャックに軽く怯えながらも視線をジャックから離さずにいた。
ジャックはそこから怒涛の勢いで話し始めた。
「俺だってな、なれる物なら盗賊団にでもなりたかったよ、
けど現実、義賊なんて物は存在しない、金も命も全て奪う、
つまり人を殺す事が出来るのが絶対条件だよ!」
「何でそんな…」
「お前さ! 飢えに苦しんだ事あるのか? 寒さに苦しんだ事あるか?
徹底して貧乏した事あるか?
そして、それをどうする事も出来ないと言う状況に陥った事あるのか?」
「そんな働けば…」
「俺はな小学校にさえ通っていないストリートチルドレンだぞ、
そんな奴を何処の企業が雇う?」
ジャックの現実的な意見にティムは押し黙ってしまった。
2人の間に気まずい沈黙が流れたが、それを打ち破ったのはジャックであった。
「悪かったな、けど、もう帰れ」
「こんな状態のジャックを1人に何て出来ないよ」
「それなら心配無用だ、俺は何時もこんな状態だ」
「だったら!」
「言っておくけど、俺とお前の状況逆さなら、俺、お前を殴り飛ばしているぞ」
「何よそれ! 一体どう言う事よ?」
ジャックの発言が癇に障ったのかティムはジャックを睨み付けた。
ジャックはそれを見て話し始めた。
「どんな事でもがんばれば、どうにかなんじゃねーの?
とか何とか言いながら殴り飛ばすのか正しい反応なんじゃねーの?」
「さっき『知った様な口を聞くな!』って言ったのはジャックでしょ!」
「そんな物も恵まれている人間にとっては貧乏人の僻みだ。
力のある人間は力の無い人間をどうとでもする事が出来る」
「何よそれ! 私に何の力があると言うのよ?」
「お前は最高の父親が居るし、学歴だってある。理解者だって居るし、
世間からの目も俺とは大違いだ」
「そんな! だからって!」
「正直な話してやろうか。人間になりたかったのだよ、俺は」
話している内に興奮して来たティムを静める様にジャックはポツリと一言、
漏らした。ティムはジャックの告白に聞き入ろうとした。
「俺はこの先の人生、多分色んな人のストレスの捌け口になるのがオチだろう。
そして俺自身、その現実に耐え切れず、どうしようもない末路を向かえるのがオチだ。
スラムでそう言う人間を何人も見て来た。
それなら誰かの役に立って死んでいきたいよ」
「そんな…そんなのって…」
「なれるのなら、俺だって好き放題やりたかったよ。暴走するだけ暴走して、
フォローは他の誰かやってくれる。でも何時でも愛してくれて優しくしてくれて。
そんなドラマの中みたいな愛が俺だって欲しかったよ。でも無理だ。
だから死んで人間になろうとした。以上だ」
「そんなの愛ではないよ!」
声に悲しみが混じり今にも泣き出しそうな表情でティムはジャックを
強引に自分の胸へと抱き止めた。
服の上からでも分かる膨らみにジャックは軽い興奮を覚えながらも
ティムの行動に困惑をした。
「何の真似だ?」
「ジャックさ逆の立場なら殴り飛ばすとか言ったでしょ。そんなの最低だよ!
自分の考えだけ押し付けて、自分の都合の言い様に洗脳する。
そんなの愛でも何でも無いよ!」
「お前はそう言うのを求めないのか?」
「嫌よ! 私、そんな依存何てしたくない!」
「依存?」
「そうだよ! 私ドラマの中での下らないメッセージに共感出来ないし、
求めようともしないわよ! 私、考えは全て自分で作り上げたよ」
「まぁ、あの放任主義の親父さんならそうだろうな」
「そう…私は自分の目で見て、耳で聞き、言葉を話し、
そして今日まで生きて来た。それはこれからもずっと続けるよ目的の為にもね」
「何だよそれ?」
ジャックの疑問にティムは一旦ジャックを抱き止める手を緩め、
ジャックとの間に距離を作ると顔をジャックの顔に近付けジャックの唇に
自分の唇を触れさせた。
突然の事にジャックは目を白黒させ驚いたが抵抗出来ず、
そのままティムのなすがままにされた。数秒のキスを終えるとティムは若干、
顔を赤らめながら話し始めた。
「それはね『大好きな人とずっと共に歩いて行く事』私はジャックの事が好きです」
「俺の何を好きになる? 将来性も何も無いのによ」
「優しい所」
ティムの短い言葉にジャックは呆然とした。
自分がそんな人間とはとても思えられないからである。
ティムはジャックの疑問を解消する為に話し始めた。
「ジャックは優しい人だってのは良く分かるよ。私がジャックの立場なら、
もっと荒れた生き方していたと思う。
他人の事なんて顧みないで自分の為だけに生きていたと思う」
「スラムはそんな人間で溢れかえっているよ」
「でもジャックはしなかった。それは他人を思いやれる。
痛みを知る事が出来る優しさを持っていたからでしょ?」
「そうなのか? 分からない」
「そうだよ、パパが初めてジャックに会った時も
ジャックが喧嘩していた理由ってレイプされそうな女の人、助けたからでしょ」
「そうだったけ? 忘れた」
「もう良いでしょ。ジャックが求める物、
全部は無理だけど出来る限り与えて行くから、だからお願い私だけを見て」
「ティム…」
そう言いティムは立ち上がりジャックの眼前で自分の服に手を掛け脱ぎ始めて行った。
少しづつ露になっていく裸体にジャックは何も出来ず、只、見惚れる事しか出来なかった。
互いに全裸となってベッドに居てジャックは自分の下に居るティムに見惚れていた。
全体的にスレンダーな体型であるが、胸は豊満であり、恥部を覆う毛も比較的薄い方である。
これにジャックの男は興奮を示し男を表現していた。
唇を付け互いに貪る様に舌を絡ませ求めた。
その間にも触れ合っている肌の感触に我慢が出来なくなりジャックは手を伸ばし
胸をやんわりと揉み始めた。
「ん…ふぁ…やん」
自分の手の中で容易に形を変えるそれとティムの声に興奮したジャックは
更に強く揉んだ。手の中で固い突起が当たるのを感じると、
それに興味を持ち口付けから一旦、顔を離しティムの乳頭に吸い付いた。
「嫌! ダメ! ジャック、そんなの恥ずかしい!」
ティムは顔を赤らめジャックの行為に恥らったが、
体が更なる行為を求めていると言う事は分かっており、
そのまま赤子の様に乳房へと吸い付いた。
胸を十分に味わった所でジャックは体を下に移動させ恥部へと顔を埋め、
そのまま舌で恥部を刺激し始めた。
「ダメ! そんなの!」
ティムの発言とは違い、恥部の方は愛液を次々と垂らして行き快楽を感じていた。
ジャックはそれを自分の舌で全て舐めとって行った。
荒い呼吸で涙目の状態でティムはジャックを見ていた。
表情と体の状態から行為にいけると踏んだジャックは怒張を持って行こうとしたが、
躊躇いが出てどうして言いか分からずにいた。
ジャックの心を読み取ったティムは一旦、起き上がり、
自分の財布から避妊具を1つ取りだしジャックに手渡した。
「大丈夫だよ、
私はジャックとの繋がりだけでジャックと
同じ目に合わせる様な子供なんて絶対に作らないから」
「悪い…」
多少、申し訳なさそうに避妊具を装着するとジャックは怒張をティムの恥部へと宛がい、
そのまま一気に押し込んだ。
「ぐぬぅ…う…っむ」
僅かばかりの鮮血がシーツを染め上げ、ティム自身も苦痛の表情を浮かべたが、
それをティムはすぐに止め笑顔を浮かべジャックを安心させようとした。
ジャックはティムの心を読み取り、出来る限り行為を早く終わらせようと若干、
乱暴に動いて事を終わらせようとした。
「ひぐぅ…ジャック…良いの気持ち良い?」
「ああ、ゴメンな、もう…」
「良いよ出しても…あ!」
ティムの許しが出ると同時にジャックはティムで思いを爆発させた。
互いに荒い息遣いのまま抱き合い、放出後の心地良い気だるいに囚われていた。
「なぁ…」
「何?」
2人は裸のまま1つのシーツを共有し話し合いを始め様としていた。
何処か遠い目をした状態でジャックの方から話を振って来た。
「優しいと言ったけど、この程度、人間として当然の事だろ」
「ダメだよ。そんな傲慢なのは、そうやって追い込んでばかりだと、
その内、大爆発起こしちゃうよ」
「けどよ…」
「すぐに結論出して変わろうと何てしなくても良いよ。
少しづつ変わって行こう。私はジャックを見ているから」
「ありがと…」
それだけを言うと照れ臭くなったのかジャックは頭からシーツを被り、
そのまま眠りに付いたティムは愛している人の秘密を分けてもらい、
1歩距離が縮まった喜びと不安を感じながら同じ様に眠りへと落ちた。
「最近、お前は良くなって来たな」
アルバートは資料をパソコンで纏めながら
自分の眼前で腕を組んで待機しているジャックに一言言った。
「何がですか?」
「全体的にだ。仕事の方でも冷静な対応が出来る様になったし、
前に比べて笑う事も多くなったみたいだ」
「この仕事をやって行く以上、それは腑抜けたと言う事になりますか?」
「いや、お前の場合は少し力を抜いた方が良い、
常に切羽詰った状態では良い結果は残せないからな」
「そうですか?」
「これからもその状態をキープしろ、次の仕事だ。ティム出番だ」
「ハイ、パパ」
奥の部屋から準備を終えたティムが愛用のノートパソコンを片手に出て来て、
ジャックと共に現地へ向かおうと先にドアを開け行った。
ジャックも後を追う様に出掛けた様とした時であった。
「ティムの事、大切にしてくれ。少し乱暴な所もあるが、あれで良い子だから」
全てを見抜いているアルバートの言葉に多少、驚きを感じたが、
ジャックはティムの後を追い事務所を出て、2人並んで現地へと向かった。
アルバートは窓から2人の様子を暖かい眼差しで見守っていた。