「な〜んか、飽きがきたわね」  
行きつけの幽霊喫茶でみちこはつぶやいていた。  
パイプを咥えながら、テーブルのメニューをぼんやりと見る。  
この店のメニューはあらかた制覇してしまった。  
しかし他に霊を味わえる店など無いから、仕方なしに来てしまう。  
「う〜ん、つまらないわ〜」  
つい声に出してしまった愚痴に、洗いものをしていたマスターがこちらを見た。  
「よかったら”裏メニュー”を試してみますか?」  
みちこは口からパイプを落とした。「裏メニュー?そんなのがあるの?」  
「常連様だけの特別メニューなんですが、お嬢さんには味が強すぎるように  
思われるので、おすすめしなかったんですよ」  
みちこは思わず立ちあがった。  
「ちょっと、子供扱いしないでよ!裏メニューってどんなのか教えなさいよ!」  
薄暗い店内にマスターの目元が鈍く光ったように見えた。  
「裏メニューはですね、霊を吸うのではなく、飲むんですよ」  
「霊を・・・飲むの?」  
「ええ、グラスに入れて、飲むんですよ。  
 パイプで吸うよりもずっと濃厚な霊ののど越しを楽しめますよ。  
 上等なワインのように香りが鼻を通る感じが…、あ、お嬢さんには  
 ワインの例えもまだ早すぎましたな」  
みちこは軽い苛立ちと強い好奇心に突き動かされた。  
「・・・それちょうだいよ」  
「え? しかし、お嬢さんにはやはり早すぎ…」  
マスターのどこかわざとらしい受け答えにみちこは強い口調で繰り返した。  
「私にもその裏メニュー、持ってきてよ!早く!」  
 
15分後、みちこの前にグラスが置かれた。  
「ずいぶん時間がかかったじゃないの マスター」  
口では不平をもらしながらも、心は目の前のグラスに釘付けだ。  
こ、これが霊?  
普通より小ぶりなグラスに半分ほどまである液体をよく見てみる。  
白くどろりと澱んでいるが、よく見ると、やわらかな半透明な液体と  
黄味がかって凝り固まった液体が混じりあっている。  
どうやって注がれたのか、グラスの縁から外側に液体が垂れ、テーブルに  
ポタリと滴った。その一滴もとろりと粘り気があるようだ。  
グラスを手に取り、軽く振ってみる。  
「うわ…なんかどろっとしてるわね・・・それになま温かい・・・  
  これが霊・・・?」  
マスターはにやにやしながらそれを見ている。  
「ええ、まじりっけなしの純粋な霊ですよ 気体で吸うのとは  
 全然違うでしょう? 飲む前に香りもお楽しみくださいね」  
みちこは言われるがままにグラスに顔を近づけ、液体からたちあがる匂いを吸い込んだ。  
 
「…っ!!うぶっ げほっ!」  
今まで嗅いだこともないような匂いにむせ返る。  
青く生臭い、濁ったような強い匂いが鼻に残り、自然と涙がにじんできた。  
「ははっ、お嬢さんには大人の霊の味はやはり刺激が強すぎたようですな  
 これはお下げしましょう もちろんお代はけっこうですよ」  
むせ続けるみちこをニヤニヤと見下ろしながらマスターがグラスを  
下げようとすると、その手を顔を伏せたままのみちこがつかんだ。  
「・・・まだ飲んでないわよ」  
この幽霊喫茶で本当の霊の味もわからない子供扱いされることは  
みちこのプライドが許せなかった。  
「・・・いい香りだわ。ただ、急に嗅いだからむせただけよ」  
 
みちこはグラスの前で黙りこんでいる。  
視界の端にマスターの顔。  
にやにやと笑ってこちらを見ているようだ。  
いつもまにか店内に増えている男性客のひそひそと話す声が聞こえる。  
彼らもまたニヤニヤとみちこを眺めている。  
「お嬢さん、冷めないうちにどうぞ」  
「うるっさいわね!今飲むわよ!」  
勝気に言ってはみたものの、鼻の奥に残る先ほどの匂いにどうしても  
グラスを持つ手が動かないのだ。  
常連だけに出される裏メニュー、本当の霊の味、大人の味…  
すっごく臭いけど、くさやみたいに慣れたら好きになるのだろうか…  
そういや私、くさやも食べたことないわ…  
うん、臭いだけで飲んだら美味しいかもしれないわ…。  
軽く深呼吸。  
みちこはコップの中の液体を一気に口に流し込んだ。  
どろりとした固まりが口の中いっぱいに広がる。  
あのくらくらするような生臭い匂いが口から鼻に抜ける。  
耳が熱くなり涙が溢れ出す。今にも吐きそうだ。  
…!無理無理!やっぱり無理!  
口いっぱいに頬張った液体をグラスに戻そうとしたとき、  
「お嬢ちゃん、頑張れ!」と声がかかった。  
いつの間にか店内を埋め尽くしていた男性客からだ。  
皆が自分に注目している。  
「お姉ちゃん、それ飲めたら一人前やで!」  
別の男からも声がかかる。  
みんな、私を応援してくれているの…?  
正面にキラリと光るものを感じて顔をあげると  
ビデオカメラを構えたカントクがいた。  
カントクだけは笑っていず、むしろ困惑の極みみたいな表情だ。  
「ちょ…何撮ってるのよ!」  
「いや、面白いドキュメントが撮れるって聞いたので…」  
カントクは次回作の資金集めのために、妖怪ヒワイ坊主から  
この撮影のバイトを引きうけたのであった。  
「まだキスもしたことのない女子中学生がコップにためた精液を飲み干す…  
マニアにはたまらない企画モノAVでげす」  
そんなカントクの思いは知らずにみちこはカメラを意識する。  
私が大人の味がわかるようになる瞬間を撮ってもらう…悪くないわね。  
でもあまりつらそうなとこはカッコ悪いから見せたくないわ。  
そんな思いからカメラに向ってVサインを決めるみちこ。  
ニコッと笑った口の端から白い糸を引いて液がぽたりと制服に垂れた。  
 
薄暗い喫茶店、みちこを囲む男達。撮影は続く。  
「じゃあ、次は、お口に一度ためてから、手のひらに出してみようか」  
「なにそれ?」  
「通はそうやって霊を楽しむんだよ、味だけじゃなく、感触、色、  
 どんな感じかカメラに向って感想を言ってごらん」  
「ふ〜ん…」  
精液の味と匂いに朦朧としたみちこは言われるがままだ。  
グラスの中身を口に流し込み、にっこりと笑って小首をかしげ  
口の端からだらだらと手のひらに垂らす。  
白い糸となって口からあふれ出す白濁した液体がみるみる手のひらに  
たまっていく。みちこの唾液も幾分混じったであろうが、そのどろりとした  
濃度は失われていない。  
みちこは手のひらからこぼれないように注意しながらそのまま手を顔の高さに掲げ、  
カメラを見据えて語りかける。  
「黄みがかって、どろどろしてて、とっても濃厚な霊魂ね。  
 喉にどろっとねばりついて飲み込みにくいけど、慣れるとイヤじゃないわ。  
 すごく大人の味、ね… おいしいわ…」  
事実、みちこは最初は吐き気すら催したこの液体に本当に美味しさを感じる  
ようになってきていた。  
苦く生臭いこの液体が喉を通るたびに、身体の奥から熱く疼くようなものが  
突き上げてくるのだ。  
みちこのまだ未発達な身体は今まで味わったことのない感覚に戸惑い汗ばんでいる。  
「ナイスコメント!じゃあ、手のひらのザーメ…じゃなくて、霊魂も飲んでみようね  
直接口をつけてすするように飲むのが通の飲み方だよ!」  
ずぢゅるるる… ん、ごくっ…ごく… じゅるっ ぷふぅ…ごちそうさま♪  
全てを飲み干し、口の端から小さく糸を引きながら顔をあげたみちこに、男達から  
歓声があがる。  
「すばらしい!すばらしいぞ!」  
「な、なんてエロ…いやいい飲みっぷりだ!」  
「この若さで本当の霊の味がわかるなんてたいしたもんだ!」  
「中学1年生女子がどろどろ霊魂をにっこり笑顔でごっくん…良いですね」  
友達もあまりおらず普段から一人でいることの多いみちこにとって、  
たくさんの人間から褒め称えられることは初めての経験だった。  
「へへ…なんか照れるわ」  
顔を赤くするみちこにマスターが声をかけた。  
「いやあ、良かったよ。今まで子供扱いしてすまなかったね。  
おわびに今から出来立てのもっと新鮮な霊魂をご馳走しようと思うんだが、  
どうかね?」  
話しながらマスターが床板のひとつを外すと、地下への階段があらわれた。  
みちこは自分の心臓がどくんと鳴ったのを感じた。  
 
 
言われるがままに喫茶店の地下室に来たたみちこ。  
その足元はふらつき、目もとろんとしている。  
「...霊って酔うのかしら?」  
あんなにいた男達は帰ってしまったのか、地下に降りてきたのは  
みちことマスター、あとはカメラを構えたカントクの3人だけだ。  
がらんとした地下室には古ぼけた木の椅子がひとつあるだけだ。  
天井から吊るされた小さなランプが室内をぼんやりと照らしている。  
マスターがみちこを椅子に座らせると、いつのまにか取り出した  
革のベルトで、みちこの両手をそれぞれ椅子の肘掛けに手際よくしばりつけた。  
「…え?ちょっと、何…マスター?」  
マスターは無言のまま、みちこの目をぐるりと黒い布を目隠しにして塞いでしまった。  
「ちょっと!冗談やめてよ!これほどいてよ!マスター!?」  
急に不安に襲われたみちこは足をばたつかせ、マスターのいると思われる方向に  
向って叫ぶ。  
「…カントク!カントク!そこにいるんでしょ!何とか言いなさいよ!」  
カントクは答えない。ただ、カメラを回すジー…という音だけが聞こえる。  
「おや、みちこさん、せっかく新鮮な霊をご馳走する準備をしているのに、  
 どうしたというんですか?」  
ようやくマスターが口を開く。言葉の端に嘲笑するような響きがあった。  
目隠しをされたみちこにはわからないが、マスターは制服のスカートから  
のぞく、みちこの白い足首をじっと見つめている。  
足をしたばたさせるたびに、黒いソックスに包まれたふくらはぎが、  
マスターを欲情させている。  
「まさか、いまさら霊が怖いなんて言わないですよね?」  
むろんひとりで心霊スポット巡りをするくらいのみちこに霊に対する恐怖はない。  
みちこは、自分でもわからない恐怖や不安にとらわれているのだ。  
「準備?それならそうといいなさいよね。何で目隠ししたり縛ったりするの?」  
用意している霊は非常に臆病でしてね、人間に見られたりするとダメなんですよ。  
だから、見えないように目隠しして、動けないことがわかるように拘束してみせるんです」  
「…ふ〜ん、手間のかかることね」  
みちこは少し落ち着きを取り戻したのか、いつもの軽口に戻っている。  
「さあ、みちこさん、今から霊を呼び出しますからね。」  
マスターの掛け声とともに、階段からドヤドヤと降りてくる足音が聞こえてきた。  
何やら暑苦しい気配が先ほどまでひんやりしていた地下室の空気を包みだす。  
その気配はあっというまにみちこをぐるりと取り囲んだ。  
手を伸ばせれば届くほどの距離まで気配は近づき、それは地下室を埋め尽くすほどに  
充満していることをみちこは感じた。  
目隠しをされたせいか、敏感になった嗅覚が、むっとむせかえるようななかに  
先ほど口にした精液の匂いをかぎとる。  
「…あ、さっきの霊のニオイだ…」  
思わずこくりとなったみちこの喉に、気配がざわめいたようだ。  
はっきりと声はしないが、人の鼻息のような音があちらこちらから聞こえてくる。  
 
…にちゃっ にちゃっ にちゃ にちゃにちゃ…  
 
不意に、何か粘りつくような音が、どこからか聞こえ出し、それはすぐにあちこちから  
いっせいに鳴り始めた。  
「なんの音?」  
「え、え〜と、ラップ音ですよ。もうすぐ霊が出ます、みたいな合図です」  
ちょっと動揺したようなマスターの声にみちこは軽く微笑んだ。  
 
みちこを中心に円を描き室内を埋め尽くす、怪しい気配。  
そこかしこから聞こえるにちゃにちゃというラップ音は  
先ほどよりも大きくなり、スピードも速くなっているようだ。  
はあはあという荒い息遣い。むっとする汗臭さがみちこの鼻をつく。  
霊ってムサい男ばっかりなのかしら?  
「さあ、みちこさん、そろそろ新鮮な霊が出ますよ。口を開けてくださいね」  
マスターの声が聞こえる。  
口を開ける?この状態で口を開けて霊が飛び込んでくるのを待つの?  
なんだか行儀悪いような気がするけど…、ま、やったりましょ。はい、あ〜ん。  
「もっと、舌を出して」  
え〜、もう。なんだかバカみたいじゃないの。  
こ、こうかな?あ”〜ん。  
次の瞬間、びちゃっという音とともにみちこの舌に液体がかかった。  
「…ぷぇっ!?」  
突然の衝撃にみちこはびくりと身体を震わせ、舌を引っ込めた。  
口の中に広がる精液の味は先ほどグラスで飲んだものよりもさらに濃厚で、  
そさらにその熱さにみちこは驚いた。  
「これ、霊…?こんなに熱いの?」  
マスターが答える。  
「ええ、これが本当の新鮮な霊ですよ。おいしいでしょう?  
 パイプで吸ったりしてもこの味はわかりませんよ。ほら、どんどん来ますよ」  
「え?ちょっ…ひゃん!」  
びちゃっ びちゃあ  
みちこの目隠しされた顔に、液がはりつく。  
鼻に、顎に、次々と熱い霊液の飛沫が降りかかる。  
「あっ、もう、ちゃんと飲ませて…あぷっ!」  
舌を出す前に開いた口めがけてさらに霊液がとびこんでくる。  
舌の上に、歯の裏に、粘りつく気味がかった霊液をみちこは懸命に飲みこんでいく。  
「ん、んむ…こくん」  
その間にもあらゆる方向からみちこにかけられた霊液は、その濃い粘り気  
のため、すぐには流れ落ちず、鼻から、あごから白く太い糸となり、垂れ落ちては  
制服を汚していく。制服の上を流れた霊液はみちこのスカートからのぞく  
足にもその糸を引いた。  
「ちょ、ちょっと待っ…がふぅ!?」  
 
霊液であふれそうになりながらも開けた口にずるりと何かが入ってきた。  
 
「んぶ、何!? 口に何か…ぶふっ!」  
それは霊根といって霊の本体ですよ。初めてでしょう?歯を立てずに舌で感触を  
味わってください。  
霊根?よくわからないが今のみちこにはそれを疑問に思う判断力はない。  
目隠しされて見えないが、確かになにか強い気配を発するモノが、今、  
口の中をわがままにに動いている。  
みちこは口の中をずりゅずりゅと出入りするそれを言われるがままに味わおうとする。  
「むぶ〜、ほんはひあふぁへないへ(そんなに暴れないで)」  
声にならなかったが、霊根は動きを止めた。  
口からずるりと出ていくと、今度はみちこの頬をぺちぺちと打ち、頬を、おでこを、  
鼻を撫で回すようにこすりつけたり、つついたりと遊んでいるようだ。  
さらに唇をつつくそれに、みちこは舌をはわせた。  
れろん。  
さらに舌を使い、それの全体を確かめようとする。  
霊根…棒みたいな形なのかな?  
すごく熱くて硬い。  
霊って少し煮たハンペンみたいな感触って誰かが言ってたけど、違うわね。  
なにかぎっちり身の詰まったハムみたいに弾力があって、  
でも先っぽは丸くてぷにぷにとやわらかい…ちょっと可愛いかも。  
ここを唇ではむはむ… あっ びくっとした。  
そういえば、びくっとさんみたいな形なのかな。この先っぽ。  
でもあんな風に割れてなにか出てきたらキモいわね。  
あ、これにも先っぽに割れ目みたいのがあるじゃない。舌の先っぽでつついて  
みよう… えいえい… あら、またびくびくしてる。かわい〜!  
あ〜ん、霊根、見てみた〜い。  
普段から友達とそういう話をすることの無いみちこに、勃起した男性器の形状など  
想像もつかないことであった。  
突然、もうひとつの霊根がみちこの口に押し付けられた。  
「わわっ ちょっと待っ もごっ」  
強引にみちこの口の中に進入してこようとするそれに、もうひとつの霊根が  
対抗し、二本の棒状のモノがみちこの口元で争う。  
「そんな、一緒には無理だって…順番に…あっ!」  
今度は別の二本が両頬にぐりぐりと押し付けられた。  
髪の毛にも押し付けられ、そえはみちこの無造作な髪を巻きつけてにちゃにちゃと  
例のラップ音を立てている。  
「んぶふっ むぶぷぅ! んぶ… んぷ〜」  
もはやいくつあるのかもわからない霊根は全てみちこのあらゆるところに  
こすりつけらている。制服の上から小さな胸をつつくもの。耳にこすりつけるもの。  
目隠しのうえからまぶたえをつつくもの。スカートからのぞくひざこぞうにも  
こすりつけてくるものもいる。そして…  
 
びゅっびゅるっ びゅるっ びゅるるる  
 
それはいっせいに霊液を吐き出した。  
口の中で一瞬大きくふくらんだ霊根は、どくどくとみちこの口内に霊液を放出した。  
みちこの顔を取り囲むそれらも好き勝手にみちこに霊液を浴びせかけ、塗りつける。  
顔に、口内に、髪に、制服に、顎から垂れたものがのどをつたって制服の中の  
小さな胸に、白濁した霊液はみちこを染め上げていく。  
「んっ!…はあああっ …ん」  
みちこはびくびくと体を震わせ、一度大きく身体を反らしたあと、がくりと  
頭をたれた。  
飲みきれなかった霊液が口から長く長く糸を引いて、床に垂れた。  
「おっと、みちこさん、大丈夫?さあ、最後にカメラに向って感想を言ってごらん」  
「…はぁ はぁ なんかすごかった…  ごちそうさま… はぁぁ」  
微笑んだ口の端からまた霊液と涎の入り混じった雫が糸を引いて垂れ下がった。  
…  
 
 
・・・ ・・・  
何事もなかったかのように、マスターはカウンターで洗い物をしている。  
みちこはマスターが用意してくれた服に着替え、熱い紅茶を飲んでいる。  
「いや〜、良かったね〜!最初からあれだけの飲みっぷりが見れるとはね。  
 我々も興奮してついやりすぎちゃったよ。悪かったね。  
 霊液で汚しちゃった制服はこちらでクリーニングに出しておくから、  
 明日にでも取りにおいでよ」  
「…それはどうも」  
喫茶店の窓から見える夕暮れの町並みをぼんやりと眺めるみちこ。  
ついさっきの地下室の出来事がウソのようなのどかな時間が流れている。  
なんだか夢を見てたみたい…。  
カントクに一部始終をカメラに撮られていた筈だが、マスターに  
聞いてみたところ、テープが入っておらず録画できなかったとのことだった。  
紅茶を飲み干して、みちこは立ちあがる。  
「マスター、それじゃあ、そろそろ帰るわね」  
「おっ、そうかい。それじゃあ、頑張ったご褒美にお土産をあげるよ。」  
マスターはそういってピンク色の小さな物体をみちこに握らせた。  
何やら小さな風船のような形で、非常に薄いゴムのような感触がある。  
しわしわで頼りないが、引っ張ると伸びがありそう簡単には破れない  
ようになっているようだ。  
そのなかにあの白いどろりとした液体が入り、ぷっくりとふくらんでいる。  
まだぼってりと暖かく、手にも熱が伝わってくる。  
「なに?これ」  
「さっきたくさん飲んでくれた霊液だよ、後でまた飲んでみたらいいよ」  
「…ふーん、ありがとね。マスター、また来るわ」  
みちこはピンク色のゴムを無造作にポケットに突っ込み、  
今日のことは誰にも言っちゃダメだよ、というマスターの声を後に店を出た。  
夕暮れの道を歩きながらみちこは考える。  
今日はいろいろな体験をした一日であった。  
初めて飲んだ霊液の味。苦い大人の味。  
たくさんの男の人に褒められた嬉しさ。  
また、明日にでもあの喫茶店に行ってしまいそうな自分がいる。  
「あ…」  
「あ…、みっちゃん」  
留渦がいた。  
みちこと同じように一人で歩いている。  
唯一の友達、留渦に今日の体験を話したくなったが、マスターに口止めされて  
いることを思い出し、口ごもってしまうみちこ。  
「え、え〜と…」  
「どうしたの?」  
あ、でもこっそり味あわせてあげるだけならいいよね、マスター?  
みちこはポケットの中に手を入れた。  
「留渦、とっても今から美味しいモノご馳走してあげるから、目を閉じて  
 口を開けて…」  
 
 おしまい  
 

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