タイトル > 僕と姉と、お菊ちゃんが頑張ってみる  
 
「あ、あわわわ…………」  
「どう? お菊ちゃん、世の男共はこういう事を喜ぶのよ」  
マサルが所用で出かけている折、彼のベッドの下から秘蔵本を取り出し、麗子は  
居候幽霊のお菊ちゃんと『読書感想会』を開いていた。  
「は、はわわわぁぁ! こ、こんな事……! うわぁ! こんなことまで……! 」  
顔を真っ赤にしながらお菊ちゃんはページを捲って行く。  
「こ、こんな事して目に入ったら痛いですよ!」  
「バカね、インパクトの瞬間に目を瞑ればいいのよ」  
「へぇ〜、すごいですぅ〜」  
 
やがて。  
 
「あ、あの、麗子さん……」  
「なに?」  
「これって、どうなんですか?」  
「ん? どれ?」  
あるページでピタリと手が止まり、そっと指をさした絵を見ると。  
「ああ、これね、是はねぇ……」  
ドキドキしながらジッと言葉を待つ彼女の顔を見てまさか今更、  
 
『ごめんわからない』  
 
とも言えず。  
 
「恋人たちの間ではほぼ当たり前の行為ね、私も彼氏が居た頃はしょっちゅうだったわ」  
麗子は適等を告。  
 
そもそもずっと彼氏など居なかった彼女はほぼお菊ちゃんと経験は一緒だ。  
だが、お菊ちゃんの前では少し良い格好がしたく、  
俗に言う 『河童の尻子玉説明状態』 と化していた。  
 
「お菊ちゃんだと難しいから、他の……」  
堪らずページを捲ろうとしたが、  
「い、いえ! が、がんばります!!」  
妙に律儀で頑張り屋のお菊ちゃんは、両手で握りこぶしを作ると決意の光を両目に宿し、  
其のあまりの迫力に麗子は、  
「そ、そう」  
とだけしか言えなかった。  
 
「あ〜、つっかれたぁ〜! さてと、少しごろっとするかぁ」  
夕方になり家へと帰ってきたマサルは誰に聞かせるわけでもないのに、  
そう言いながら自分の部屋で横になる。  
彼は今まさに 『全くお化けの居ない青春ライフ』 を満喫していた。  
 
因みに先ほどの本は彼に気が付かれぬ様に、一ミリの狂いも無く姉が元の場所に戻していた。  
 
と、彼の部屋の襖をポソポソと叩く音が聞こえる。  
「ん? だれ? 姉さん? 今僕は全くお化けの居ない青春ライフをごろ寝で過ごそうと  
しているのに」  
襖の前で、『ガッカリする様な青春ライフ』を、送ろうとしているマサルの動きがピタリと止まる。  
襖の向こうから、  
「あ、あのぅ……ゴメンナサイ……私ですぅ……」  
小さい声でこの家の 『お化け』 お菊ちゃんの声が聞こえたからだ。  
「あ、そうだった、お菊ちゃんも、お化けか」  
そう言い、ごめんごめんと謝りながら襖を開けるとそこには何時もとは違う格好をした幽  
霊少女が立っていた。  
 
いつもと同じ着物を着てはいるが、心なし、薄っすらと身体が透けて見えている。  
(いつもと違って少し『せくしい』な着物を着てきました)  
ドキドキしながらマサルの様子を見守ると、  
「お、お、お菊ちゃん! 成仏しかけてる!!」  
「ち、違います!!!」  
驚くマサルに  
間髪置かずに突っ込みを入れる羽目になる。  
「ええと、今回はどれだけ私が魅力的なお化けかを見せに来ました」  
『最恐のお化け』はどうした、いや、『最強』だったか、  
そんな事をマサルは心の中で突っ込む。  
だがそんなマサルの心の突込みを知らずか、知ってか、お菊ちゃんのアピールは続く。  
 
「きょ、今日は、私……が、がんばって、マサルさんの為に頑張りに来たので、ええと、  
が、頑張ります!」  
どんだけ頑張るつもりなんだ、て言うか何を?  
マサルが首をかしげる目の前で。  
もじもじと顔を赤く染め上げて体をお菊ちゃんは左右に揺らし続ける。  
 
「ええと……お菊ちゃん? 何を……」  
マサルが訊ね様としたその時。  
 
パサリ  
 
『せくしい』な着物に手をかけて、意を決したようにお菊ちゃんはそれをはらりと脱いだ。  
真っ白なお菊ちゃんの裸は恥ずかしさの為か少し紅く染まっている。  
「なぁ!?」  
思わず声になら無い声を上げると、  
「ま、マサルさん! いきますよ!!」  
勢い良くマサルのズボンに手をかけると其のままズルリと一気に剥ぎ取った。  
「ええと、今から……私の胸を使って、マサルさんを気持ち良くさせて上げます!」  
思わず力が入り、大きな声で宣言するとマサル自身の物をそのまま自分の胸に挟みこんで  
フニフニと擦り始める。  
先ほどの本に書いてあった、俗に言う『パイズリ』と言うやつである。  
好きな男性の男性自身を自分の胸に直接挟みこんでスリスリすると言う、荒業である。  
 
お菊ちゃんは恥ずかしさで耳まで真っ赤になりながらもなんとかマサルを喜ばせようと、  
頑張ってプレイを続けていた。  
(これだけ一生懸命頑張れば、マサルさんも喜んでくれるはず)  
だが、お菊が先ほどから行為を続けていても、ちっともマサルに変化は訪れ無い。  
「あ、あれ? あれ? あれれえ?」  
両手でシッカリと自分の胸を持ちながらマサルの物を挟み込むが、先ほどの本の様には行  
かなかった。  
「ええとぉ……」 そんなお菊ちゃんの奮闘をよそにマサルは困惑を続ける。  
 
お菊ちゃん的には自分の胸でマサルの物をしっかりと挟み込み  
スリスリとさすり続けているつもりなのだろうが、マサル自身のモノと、お菊ちゃんの胸の間には数百年では埋められ無いほどの、悲しい『スキマ』が存在していた。  
 
「確かあの本だとこういう風に……」  
尚もまだ 『おろし金でたくあんを摩り下ろすプレイ』 が続く。  
否、 『洗濯板でお洗濯プレイ』 であろうか?  
何れにしろマサルの困惑は続いた。  
やがて、お菊ちゃんはその手を止めてある重大な事に気がついた。  
 
「分かりましたマサルさん! 私に足りない物が!!」  
ついに彼女はようやく自身の胸の大きさに気がつ――――。  
 
「 『めいどふく』と『にゃんにゃん耳』です!」  
 
――――いた訳ではなかった。  
 
「な……、何?」   
「あの本の女の子は可愛い服を着て、頭の上にこう耳がついてます」  
そう言うとお菊ちゃんは自分の頭の上に手で『猫の手』を作り、  
「にゃん、にゃん」 と啼く。  
 
「あ、あの、本……?」  
「ええと、まってて下さい! いま『にゃんにゃん耳』と『めいどふく』を用意してきます!」  
「えっ……? お、お菊ちゃん?」  
呆然とするマサルを尻目にパタパタとお菊ちゃんは天井をすり抜けどこかへと飛んでいく。  
後には  
 
「ちょ! お、お菊ちゃ―ん!! カムバッッ――ク!!」  
 
 
お菊ちゃんが去った部屋に一人下半身真っ裸で取り残されたマサルの声が、  
情けなく響き渡った。  
 
 

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