月輪の刻……それは、九尾の星降りの呪が、成就する時。  
この身に尾の一つを封じている今こそ、勝機だと晴明は思っていた。  
しかし―――それでも尚、白き巨妖の力は絶大なるもので。  
雷を呼び、星をも堕とすその熾烈な攻撃に頼光は苦戦を強いられ、そして……。  
 
「避けるのです、頼光!!!」  
晴明の悲痛な叫びが響き渡ったが、しかし時既に遅し。  
体勢を崩した頼光が見せた刹那の隙を、九尾は見逃さなかった。  
白銀の毛並を持つ尾が風を切り、頼光の身体を力任せに叩きつける。  
さしもの頼光もひとたまりもなく、山の頂からまっ逆さまに突き落とされてしまった。  
「……頼光……!」  
力なく膝をつき、地に伏した晴明の落胆した様を、さも可笑しそうに九尾が見下す。  
『なれし故郷を放たれ、この地に楽土を求めた……か。宿命を見誤るとは……。』  
心底呆れた響きを含んだ、九尾の声が月の御座にこだまする。  
……頼光を喪っては、最早己に勝機はない。  
かくなる上は、この身に宿した尾の一つだけでも道連れに―――  
そう考え、自害しようとした晴明の意図を察し、九尾は咄嗟に白火星を放つ。  
「ぐぁっ!!!」  
狐の下僕に体当たりされた衝撃で、晴明の身体が岩に叩きつけられた。  
「…っ…ぅんっ……。」  
激痛が晴明を襲い、身体の感覚を麻痺させていく。  
『晴明……そなたのその愚かしさが、不思議にいとおしく感ずるぞ……。』  
どこか慈愛が込められた九尾の声を聞きながら、晴明の意識は次第に遠のいていった。  
 
『まったく……我が落胤ながら、何とも愚かしい振舞いを……。』  
左目に埋め込んだ白珠を取り出せば既にこの身に用はなく、早急に死を賜るのみと思っていた晴明の目論見は外れ、  
逃げ出さぬよう、自刃せぬよう二重三重にも呪を施され、今なお九尾に囚われていた。  
石牢の中、静かに座した晴明の目の前に現れた九尾は、さも情けない、といった声音で言う。  
「そう思うのならば、私のような裏切り者、早々に捨て置けば良かろう?」  
大仰に嘆息して、それでも不遜に晴明は応じた。  
……九尾の意図が掴めず、対処のしようが無かった、というのが正解であるが。  
『何ゆえ死に急ぎたいか?星降りを阻む事が叶わなかったのが、それ程までに口惜しいか?』  
「……。」  
黙して答えない晴明に、九尾は嘲るようにくつくつと嗤った。  
『まあ良いわ……。ニンゲンという名の蛆虫どもが、堕ちゆく数多の星に打たれ、醜悪にもがき苦しむ様を見れば、  
そなたも己の愚かしさを悟り、思い改めるであろう。』  
「私は……人間に与した事を後悔するつもりなど毛頭ありませぬ。  
我が神よ、私は《月人》としての薄められた生などではなく、《人間》としての死を賜る所存なり!!」  
あくまで屈せず、凛と言い放った晴明に九尾の眼が剣呑な光を帯びる。  
『戯言を……。月の者としての誇りまでも喪い、堕ちおったか!!』  
「貴様の不興を買うのは、白珠を奪いし時より承知の上。斯様に責められたところでさしたる感慨も持ちませぬ。  
我にとっては寧ろ、慈しみ育んだ都を護る事叶わず、己だけがのうのうと生き延びる事こそが大罪!  
さあ、疾く我が身を処するが良い!」  
向けられた怒気に怯む事なく応じた晴明に、九尾はゆっくりとかぶりを振った。  
 
『晴明……何を自棄になっておる?あの傀儡を喪った所為か?  
そなたの見つけし傀儡……ライコウ、とか言ったか?ニンゲンの割になかなか面白いモノであったのう。』  
「!!」  
頼光の名を耳にして動揺を隠せない晴明の様を、九尾は興味深げに見やる。  
『ほぉ……そなたの斯様な表情、初めて見るやも知れぬ。』  
「……。」  
『まぁ良い。……晴明、我を謀りし罪、その身にて償って貰おうぞ?容易く死を齎して楽になどさせるものか!』  
「ふん……覚悟はしていたが、悪趣味な事だ。残念ながら、醜態を晒して貴様を楽しませる心づもりなど、ありはせぬが……。」  
『その強がり、いつまで保つことやら……?』  
嘲り嗤う九尾の口から、思いがけない言葉が飛び出した。  
『尤も……好いた男の手に掛かるならば、本望と言えなくもないか?晴明よ……我の心遣いに感謝するが良い。』  
「……どういう、意味だ……?」  
訝しげな視線を送る晴明に、嘲りの響きを込めて九尾が言い放つ。  
『言葉通りの意味よ……さあ、来い―――ライコウ。』  
「何……!?」  
呼ばれた名に驚愕する晴明の目前で、ざあっ、と一陣のつむじ風が起こった。  
舞い散る桜花の中に現れたのは―――月の御座にて九尾に敗れ、喪われたはずの頼光の姿。  
「頼、光……?」  
しかし、これは……頼光の姿であっても、頼光ではない……。  
心が―――その高潔な魂が喪われ、正に傀儡と化している事を晴明はすぐに悟った。  
『ライコウよ……その身を操り利用し続けた憎き女に積もりし恨みを晴らすべく、思いのままに屠るが良い!』  
九尾の声に、頼光が晴明の方を見やる。……その顔からは、何の感情も読み取れなかった。  
「頼光の魂の安らかなる眠りを妨げ、斯様な真似に用いるとは……!!」  
嫌悪感を露にした晴明に、しかし九尾は追い討ちをかけるが如き言葉を投げかける。  
『晴明……最早、頑ななまでのそなたの考えを改めるのは諦めようぞ。だが……その身体に宿りし力、喪うには余りに惜しい。  
ならば―――そなたの子を成し、月の者としての正しき路に導き育てる事に、望みを繋ごうと思ってのう……名案であろう?』  
 
「なっ……貴様、悪趣味にも程がある!!」  
てっきり頼光に己を殺させるものだとばかり思っていた晴明は、九尾の発想に愕然とした。  
……私に子を産ませ、それを九尾が育てる?―――何という、おぞましい考え。  
『この男、ニンゲンにしては強大にすぎる力を持っておる。使わぬ手はあるまい?  
類稀なる死の扱いに長けた男と、我が落胤たるそなたが交わり子を為せば、さぞかし秀でた子が生まれるやも知れぬ。  
我が後継に相応しい程に……のう晴明、そうは思わぬか?』  
「戯言を!!」  
忌々しげに吐き捨てた晴明だったが、九尾は一向に介さず頼光に向かって言った。  
『さあ……やれ!!』  
その言葉を合図に、頼光は晴明に手を伸ばすと、その手首を掴む。  
「頼光……目を覚ますのです、頼光……!!」  
祈るような気持ちで呼びかける晴明だったが、しかしその声は九尾の嗤い声に掻き消される。  
『無駄だ……最早、この男にはそなたの声など届かぬ。……どうだ?己が傀儡に手を噛まれる気持ちは?』  
「くっ……!」  
何とか頼光の手から逃れようと試みるが、もとより巫力を封じられている晴明が力で敵うべくもなく。  
両手首を石の床に押さえつけると、身動きの取れなくなった晴明の身体に頼光が圧し掛かった。  
「やめ…っ…、…頼光……ぅ……んんっ…!!」  
抗おうとする晴明の唇を強引に塞ぎ、その口腔を貪るように舌で蹂躙する。  
一体何をと思う間もなく舌を絡め取られてしまい、晴明は面食らった。  
「……っ……!!」  
濃厚な口付けが何度も繰り返されるうちに、次第に頭は霞がかかったかの如くにぼんやりとし、  
今までに味わったことのない感覚が、少しずつ晴明の中に生じていく。  
 
荒くなる呼吸は、息苦しさの所為だけではなく。  
早くなる鼓動は、恐怖の所為だけではなく。  
この身に炎を宿したかの如く、熱を持ち始めた己に戸惑う晴明をからかうかのように、九尾の声が響いた。  
『おやおや……接吻だけで斯様にのぼせ上がるとは、初心な生娘であるよのぉ?』  
 
身体の内に灯された炎の名は―――情欲、であると……晴明はようやく気がついた。  
 
私が……我の身体が、……頼光を、欲している?  
自分の中に生まれつつある未知なる感覚に、晴明は困惑を禁じ得なかった。  
―――そんな事、ある筈がない。操られているだけの頼光に対し、そんな……。  
否定をしようにも、繰り返される口付けは晴明の内に灯った種火を消す事無く煽り、  
徐々にその火勢を強めていくのだった。  
「……頼…光……っ……。」  
ようやく解放された唇で大きく息をしながら、晴明は絶え絶えに名を紡ぐ。  
知らず滲んだ涙で潤む瞳を向け、頼光の端正な―――だが、無表情な顔を見つめた。  
「頼光……止めるのです…っ……。」  
しかし拒絶の言葉も虚しく、頼光は晴明の衣に手を掛けると強引に脱がせ始める。  
「……くぅっ…んっ…!!」  
露にされた肌に触れた頼光の唇の感触に、晴明がぴく、と身体を竦ませた。  
「あ、っ……!」  
舌を首筋に這わせながら、頼光はその掌に余る豊かな胸を鷲掴みにし、緩急をつけてゆっくりと揉みしだく。  
更にその中心を摘み、指の先で捏ねるように刺激されると、其処は硬さを増して勃ち上がり始めた。  
「っ……や、はぁっ……。」  
頼光の舌が幼子のように突起をしゃぶり、軽く歯を立てると晴明の唇から小さな悲鳴が上がる。  
「……くっ…ぁ…っ……。」  
己の身体をいいように弄ばれる嫌悪感と同時に―――身体の奥から、熱い何かが湧き出してくるのを感じていた。  
その感覚の正体を……この行為の先を、知りたくない。  
知ってはいけない、知ってしまったらきっと、抜け出せない……心が、警鐘を鳴らしている。  
だが、そんな晴明の葛藤をあざ笑うかのように、頼光の愛撫は続いていった。  
 
「んっ……はぁ……あっ……。」  
身体中を這い回る唇が、掌が、徐々に……しかし確実に、晴明の理性を失わせていく。  
荒い吐息の節々に、艶やかな嬌声が混じるのを抑える事が出来なかった。  
月の如く白き肌は仄かに桃色に染まり、胸元には幾つもの紅い痕が鮮やかに咲き乱れている。  
やるせなげに首を振る動きに合わせて漆黒の髪が揺れ、晴明の姿を彩っていた。  
さしたる抵抗も出来ぬうちに指貫を脱がされ、剥き出しにされた下肢に頼光の手が延びる。  
「やっ……あ、っ……?!」  
晴明は何とか逃れようと身を捩ったが、そもそも力の入らぬ身体で頼光に敵うべくもなく、  
そのまま大きく脚を広げさせられ、秘部を眼前に晒される格好となった。  
『晴明……げに浅ましき、女の身体よのぉ?既に潤い、男を欲しておるわ。』  
九尾のあからさまな指摘に、晴明は顔を紅潮させる。  
「なっ……ひぁっ……や、あぁっ…!!」  
濡れそぼった晴明の秘所に頼光は顔を近づけると、あろうことかその中心を舐め上げた。  
「いや、…ぁ……っ…。」  
ぴちゃ、ぴちゃ、と、耳を覆いたくなるような卑猥な水音が響く。  
頼光の指先が柔らかな肉を掻き分け、芽を剥き出しにして舌先で転がすように刺激すると、晴明の背筋に  
かつて感じた事のない快楽が走り抜けて、言葉にならない喘ぎが口をつく。  
「…っ……あっ……はぁっ……。」  
最奥から止め処もなく湧き出る蜜を掬い、周囲に撫で付けながら、まだ男を知らぬ穢れなき女陰へと指を差し挿れていく。  
「ひっ……あ、あっ!!」  
くちゅ、と湿った音を立てて異質な物が己の内に入ってくる感触に、晴明は上ずった声をあげた。  
内壁を探るように動く指のおぞましさと同時に、得体の知れないむず痒さを感じ始める。  
「やっ…頼、光……嫌、……いやぁ……。」  
首を振り、うわ言のように呟き続ける晴明だったが、最早何が嫌なのか、己にも分かっていなかった。  
 
「あっ…っ……!」  
二本目の指が侵入するに至り、晴明が瞠目する。だが、左程苦痛は感じなかった。  
「頼光……っ……んっ……。」  
抗おうとする言葉を封じるかのように、再び唇を重ねられ、舌を絡め取られる。  
そうしている間にも、頼光の指は晴明の中を押し広げ、慣らすようにゆっくりと掻き乱していく。  
「ひぁ…っ……!!」  
更に空いた指が花芽を爪弾くと、晴明が小さく悲鳴を上げた。  
微弱な雷撃に撃たれたかのようなその刺激に、戸惑いつつも次第に悦楽に身を委ねていく。  
繰り返される口付けの合間を縫って漏れるあえかな吐息が、頼光の指が奏でる粘着質な音と混じり合って響いていた。  
 
晴明の身体中を、頼光の指が、唇が弄り、反応を見せる箇所を重点的に攻め立て、その快楽を否が応でも引きずり出していく。  
「…っ…な、っ……?…や…あぁっ…!!」  
細波のように押し寄せてくる、与り知らぬ感覚に支配された晴明はぴくん、と身体を強張らせ、そして―――脱力する。  
訳が分からないまま荒い呼吸を繰り返す晴明に、九尾がからかうように問うた。  
『達したか……どうじゃ晴明、初めて絶頂を味わった気分は?』  
その言葉に、己が体感したものの正体を悟った晴明は愕然とする。  
「……っ……!!」  
頼光の手で初めて味わった女としての悦び……だがそれは、肉体に於いてのみで。  
心の方はといえば、胸が締め付けられるかのような苦しさに襲われた。  
きつく閉じられた晴明の瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。  
―――いっそ、憎しみ恨める者に蹂躙されるならば、楽だったであろうに。  
―――もし、頼光が本心から己を求めてくれているのなら、至福であったであろうに。  
そこに恋慕の情などはなく……ただ九尾に操られ、その意のままに己を苛んでいるだけであるという事が、晴明には何より哀しかった。  
「……頼光……。」  
掠れた声で微かに呟かれた名にも反応を見せることなく、頼光は己の指に纏わりついた雫を舐め取っていく。  
最早抗う気力も失っている晴明の様を満足げに見やり、九尾は頼光を促した。  
『さて……前戯はそのくらいで良いであろう。……ライコウよ、そなたも既に限界であろう?  
そなたを惑わし利用し続けた晴明の肢体、今こそ思うがままに貪るが良い!』  
 
頼光は晴明の両脚を抱え上げると、しとどに濡れそぼった女陰に陽根を押し当てる。  
その熱さにびくり、と身を竦ませる晴明の腰を確乎りと押さえると、頼光はゆっくりと己が凶器を挿入していった。  
「ひっ……あ、あああっ……!!」  
指とは比べ物にならない質感が、熱が、まだ狭い内腔を押し広げるかのように侵入してくる感覚に、晴明の口から悲痛な声が上がる。  
肉体を襲う、未だかつて感じた事のない類の痛みに、晴明は歯を食いしばって耐えた。  
前戯による悦楽に染まった身体は急速に色を失い、醒めていく。  
一旦根元まで咥え込ませると、頼光はゆっくりと己を引き抜き、再び最奥まで貫いた。  
血と淫水が混じった液が、抜き差しの度に卑猥な音を奏でる。  
何とか逃れようと身を捩る晴明だったが、それは同時に内を犯す頼光が動くことになった。  
「いや…ぁ…っ…あ、あっ……!!」  
さしもの晴明も声を抑える事が出来ず、悲鳴に近い喘ぎを漏らす。  
常日頃の凛とした、強き意志を含んだ声とは異なる、女としての艶を帯びた嬌声。  
その妙なる響きは男の嗜虐心を擽り、より一層の欲を煽る事になるのだが、晴明には分かっていなかった。  
叩きつけるかの如く楔を打ち付けられるその動きに翻弄され、晴明はただひたすら、この苦行の時が終わるのを待つのだった。  
 
だが、浅く深く貫かれる度に、次第に苦痛だけではない、疼きを―――快楽を感じ取るようになっていく。  
熱い肉棒が己の内壁を擦り、奥を突き上げる感触が、晴明の身体に少しずつ、悦びを齎し始めていた。  
「……っ…くっ…ふぅ……んっ……。」  
違う、こんな―――意に添わぬ行為だというのに。  
なのに、其処に快感を得るなど……断じて、ない。  
否定しようにも、内に感じる頼光の熱は、確かに晴明の官能を刺激して。  
「や、……あっ……はっ……。」  
身体中を撫で擦られる掌が、繰り返される口付けが、晴明を再び高みへと導いていく。  
 
―――何とも、浅ましい限り。  
 
朦朧とする頭の奥底で自嘲する己がいたが、悦楽の奔流は残された理性の全てを攫っていく。  
大波のように押し寄せる快楽にびくん、と身体を震わせ、そして―――  
「…はっ……あ、あぁっ……!!」  
強引に追い立てられ続けた晴明が、悲鳴とも嬌声ともつかぬ甘き声を上げて絶頂を迎えた。  
ほぼ時を同じくして達した頼光の精が、晴明の内に放たれる。  
かつて味わったことのない強烈な感覚に、ぐったりと脱力した晴明から頼光が引き抜かれると、  
破瓜の血と白濁した精が入り混じり、とろりと溢れ出した。  
 
『ふふっ……どうじゃ?男の滾りを身の内に放たれた感慨は?』  
これでようやく解放される、と安堵したのも束の間、頼光は再び晴明の腰を抱えると、硬さを取り戻し始めた昂ぶりを押し当てる。  
「!!頼光っ……もう、やめ…っ……あ、ああっ…!」  
既に一度達した晴明の身体は、先に放たれた精と溢れた淫水を潤滑油代わりに、さして苦もなく頼光を呑み込んでいった。  
「いや、あぁっ……くぅ…っ…は、あっ……。」  
この行為の末に感じられるのは、苦痛だけではない事を知ってしまった今―――晴明の口から漏れるのは、  
与えられる快楽に対する期待と歓喜が綯い交ぜになった喘ぎ。  
『良いぞ……更に更に屠れ!!』  
煽り立てる九尾の声も、最早晴明の耳には届いてはおらず。  
唯々、頼光のなすがまま、その身を委ね続けていた。  
 
 
―――そうして、嵐のような激情に翻弄され、幾度気をやった末であろうか。  
『ライコウよ……晴明は初めての情交ゆえ、今宵はそのくらいにしておこうぞ。』  
制する九尾の言葉に頼光は立ち上がると、力なく横たわる晴明を感情のこもらぬ眼差しで一瞥し、九尾の元に歩み寄る。  
「……っ……。」  
身体を襲う極度の疲労と苦痛―――そして悦楽に、暫く晴明は動くこと罷りならなかった。  
それでも、激しい陵辱の痕が残る身体をようやくの思いで起こすと、内に注ぎ込まれた精が大腿を伝って床を濡らしていく。  
己の身に起きた出来事を反芻し、蒼褪めて俯く晴明の様を満足げに見やった九尾は、くつくつと嗤いながら更に彼女を絶望の淵に突き落とす言葉を続けた。  
『晴明よ……言っておくが、これで終わりではないぞ。そなたが子を孕むまで、幾夜でも続けようぞ……?』  
「……我が神よ……これが、貴様の報復か……?!かつて己の刃としていた男に辱められ、穢された私の姿を見て……そうして貴様は満足か?!」  
襤褸同然となった衣を手繰り寄せ、胸元に掻き抱きながら、晴明は俯いたまま搾り出すような声で呟く。  
だが九尾は全く意に介した様子もなく、白銀の尾を揺らめかせながら言い放った。  
『報復?心外よな……寧ろ、想い人と添わせてやった事に感謝せよ。何も相手はライコウでなくとも良いのだぞ?  
例えば、鵺に身を窶したあの男……ドウマン、とか言ったか?次は、彼奴を使うか?」  
「……なっ……!!」  
『腹の子の父が誰であろうと、我は一向に構わぬぞ。男が強大な力を持っていればいるほど、子に対する期待は増すが。』  
「……!!」  
己を子を為す道具としてしか見ていない九尾の言葉に、晴明は絶句する。  
『そなたが身籠る日が楽しみよのぉ!!……ふふっ……あははははっ……!!』  
刹那、ざあっと一陣のつむじ風が沸き起こる。舞い散る桜吹雪が二人の姿を覆い隠し、薄紅色の霞の内へと取り込んだ。  
―――風が過ぎ去った後には、呆然とする晴明と、静寂が残されるのみ。  
 
去り際に残された白き巨妖の高らかな嗤い声が、晴明の脳裏にいつまでも響き渡っていた―――  
 
《了》  

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