蓮の咲き乱れる静かな池のほとり。  
その美しき地に蠢き集うは、数多の異形―――都に攻め入らんとする土蜘蛛の眷属。  
おびただしき数の蜘蛛を相手にしていてはきりがない。  
長を叩けば統率を失い、配下の蜘蛛共は散り散りになろう。  
そう判断し、雑魚は無視して頭目へと狙いを定めた晴明達であったが……。  
 
頼光が頭領たる老白蜘蛛を吹き飛ばし崖に叩き付けた、その時。  
強大な妖気が近づいてくるのを感じた晴明は、己の過ちに気付く。  
頭目は、この蜘蛛ではなかった―――真に土蜘蛛一族を束ねし存在は、  
別に在ったのだ。  
「もはや逃れられぬぞ!!」  
地響きと共に崖の上に現れたは、土蜘蛛の真の長―――汰地唐。  
「貴様が今まで屠ってきた我がいとし子たちの怨み、今こそ果たしてくれるわ!!」  
八本の脚が力任せの攻撃をしてくると身構えた頼光であった……が、刹那の隙を突き、  
汰地唐が狙ったのは―――  
「くっ!!」  
巨大な脚が晴明の身体を掴み上げると、高々と掲げる。  
「長のみを叩くが良策、とは良く言うた!!ならば貴様を質に取れば、  
傀儡どもは手出し出来まい!!」  
「構う事などありませぬ!!頼光!!疾くこの妖を滅するのです!!」  
しかし、晴明に当たらぬよう攻撃を仕掛けようとすると、汰地唐は素早く晴明を盾にし、  
躊躇う頼光には打つ手もなく。  
「来ぬのか?くくっ……甘いのお。傀儡は見逃してやる故、この場より早々に去ね!!」  
言い残すと汰地唐は轟音とともに飛び上がり、晴明を捕らえたまま空の彼方へと消えていった。  
 
捕らえた晴明を広場へと連れ帰った汰地唐は、その四肢を糸で雁字搦めにし、岩に磔にする。  
「火焔の祀り場にて育みし我がいとし子らの卵、よくも屠ってくれおうた!!  
その怨み、晴らす日を待ち望んでおったぞ!!」  
汰地唐の憤怒と歓喜の入り混じった声が、辺りに響き渡る。  
「私はかの地に淀みし気を祓うたまで。火の気を喰らい、地脈を乱したは貴様らの咎。  
理はどちらに在るか、答えは明らかであろう。」  
だが、気圧される事無く冷ややかに言い放った晴明の言葉に、汰地唐の怒りは頂点に達した。  
「戯言を!!愚かしきニンゲン共の尺度で物事を測るとは、何たる傲慢!!」  
怒気を露にがなりながら、晴明を縛めた糸を操りその身を締め上げる。  
「…くっ……!!」  
苦痛に呻いた晴明の様を満足げに見やり、汰地唐は禍々しい笑みを湛えた。  
「我が同胞を数多死に追いやった貴様の身、八つ裂きにしても気が済まぬわ!  
一思いに殺して楽になどさせぬ!」  
「殺さぬ、か……ならば、如何すると?」  
「知れた事よ。まずは貴様が屠った土蜘蛛の子を、代わりにその胎に宿すが良い!  
貴様程の巫力に溢れし胎にて育まれし子は、さぞ強大な力を持ちうるであろう……!  
そうして時満ちて産まれた子らに、その血肉、生き餌として喰わせてやろう!  
亡骸も余すところなく、我らが巣の結界の礎として使おうぞ……楽しみよのお!!」  
「なっ……!!」  
思いも寄らぬ報復の内容に、晴明は愕然とする。  
「忌み嫌う、醜き我らの子を孕む事、誇り高き貴様にはこれ以上ない屈辱であろう!!」  
 
「……よくもまあ、その姿に見合ったおぞましい事を考え付くものよ。」  
些か青白い顔で、それでも気丈にも汰地唐を睨みつけながら晴明が評した。  
「おぞましい、か。……だが、そのおぞましい輩に今から蹂躙されるのだ……  
さぞかし口惜しいであろううなあ?」  
晴明の顔をねめつけながら、嘲り笑う汰地唐の声が辺りに響き渡り、晴明は眉を顰める。  
 
異形の者と人が交わり子を為す話はたまに耳にする。  
しかし、まさか己に降りかかろうとは思ってもみなかった。  
巫力に溢れたこの身を喰らおうと、襲ってきた妖は少なからずあったが、  
全て返り討ちにしてきた晴明にとって、このような事態は初めてであった。  
 
「さあ、我と交わり、その身に土蜘蛛一族の子を宿すのだ!」  
その言葉に刮目する晴明の前で、汰地唐の巨体がみるみるうちに人の姿へと変じていく。  
醜悪な蜘蛛の姿からは思いもよらぬ、整ってはいるが何処か禍々しい顔立ちを歪めて嗤ってみせた。  
「くくっ……人間の女というのは、仮令化物であっても、顔貌さえ良ければ悦んで身を委ねる。  
たかが面の皮一枚の造形に何の価値があろうぞ……まこと、浅ましきものよの。  
貴様はどうだ?……それとも美醜には拘らぬか?」  
「……。」  
黙して答えない晴明を見やりながら、汰地唐は懐から小さな壜を取り出す。  
晴明の顎を捕らえると、その口を無理矢理こじ開け、壜の中に入っていた蜜の如き物を注ぎ込んだ。  
「くぅ…ん…っ…何を!!」  
咄嗟に吐き出そうとしたが、汰地唐はそれを許さない。  
「我らが人間の女の胎を借りる時に使う秘伝の薬ぞ。余す事なく飲み込めい!!」  
「んんっ…っ…けほっ、…っ…。」  
飲み下すことを強要され、むせる晴明の様を汰地唐はにやにやと嗤いながら眺めていた。  
 
途端、身体の奥がじんわりと熱くなってくる感覚に苛まれた晴明は瞠目する。  
「くくくっ……身体が熱いであろう?」  
「っ……!!」  
今までに感じた事の無い、不可解な……疼き。  
身体の訴える変調に、晴明の背筋を嫌な汗が伝い落ちる。  
呼吸は荒く、鼓動は早くなり、身の内にはじりじりと燻る熱が生まれていた。  
汰地唐の手が狩衣に掛かり、力任せに引き裂くと、衣の下に隠されていた豊満な胸乳が露にされる。  
柔らかな膨らみの中央、紅色の突起は意に反して既に硬く立ち上がっていた。  
「この薬、その気があろうとなかろうと、即座に身体を順応させる物ぞ。流石の貴様も抗えまい?」  
言いながら汰地唐の指先が、色づいた突起をそっと撫でる。  
「くぅっ……あ、あっ…!!」  
ほんの少し触れられただけでも痺れるよう快感が走り、晴明は思わず嬌声を上げた。  
己の声とは思えぬその甘ったるい響きに、何より声を発した自身が驚いてしまう。  
「おやおや……随分と悩ましい声を上げるものよの。だが、斯様な声で呪など唱えられたら堪らぬ。」  
言いながら汰地唐は糸を束ねると、晴明の口に猿轡を噛ませた。  
「ぐっ……んんっ…!!」  
抗おうとする晴明であったが、強靭な糸を無理矢理咥えさせられ、言葉を封じられる。  
「…っ……!!」  
汰地唐の掌が胸乳を弄り、ゆるゆると揉みしだきながら突起を口に含んで舐め回す。  
その感触がおぞましくも心地良い、と感じてしまう自分が忌まわしかった。  
 
「ふっ……ぅんっ……。」  
鼻にかかった甘い息が漏れるのを嗜虐的な目で見つめながら、汰地唐は掌を胸元から腹、そして秘められし処へと下ろしていく。  
「…くっ……ぅんんっ……!?」  
他者に触れられた事などない、女の部分に汰地唐の指が延ばされる。  
その潤いを確かめるように擦ると、満足げに頷いた。  
「秘薬の効果は覿面のようだの。今度はこちらの口にも……たっぷりと飲ませてやろう。」  
下卑た笑みを浮かべながら、壜の中に残っていた秘薬を指先に絡め、晴明の女陰へと塗りたくる。  
汰地唐の指が愛液に滑る秘肉を掻き分けると、ぐちゅ、と湿った音を立てて侵入してきた。  
「ふ…っ……くぅ…んんん…っ……!!!」  
節くれだった指先が内壁を擦り、掻き乱す感触に、晴明は言葉にならない声を上げる。  
おぞましい筈の蹂躙は、しかし薬の所為でめくるめく快楽へと変じていた。  
与えられる屈辱と悦楽に、感極まりて零れた涙を、汰地唐が舌で舐め取っていく。  
「貴様に与えし秘薬、常人であればとっくに正気を失い、色に狂うておる量ぞ。  
まだ気を確かに持ちて抗うておるとは流石よの。……だが、いっそ狂うておった方が楽であったろう……。」  
嘲笑の中に、ほんの少しの憐憫の情を混ぜた表情で汰地唐が嘆息した、その時―――  
 
突然、轟音と共に洞穴の入り口を塞いでいた岩が砕け散った。  
土煙の中、浮かび上がったは剣を構えた一人の男―――頼光。  
数を頼りに襲い来る土蜘蛛の尖兵を蹴散らし、ようやくの思いで晴明の囚われている場所に辿り着いた頼光であった―――が。  
其処に繰り広げられている淫猥な光景に刹那目を疑い……絶句する。  
 
蜘蛛の糸を幾重にも張り巡らせた結界の向こう。  
四肢を絡め取られ、身動きの取れない晴明の身体を人外の男が嬲っていた。  
狩衣は無残にも引き裂かれ、露にされた白い肌を妖の手が、舌が弄っている。  
柔らかな膨らみや二の腕、太腿に糸が食い込む様が痛々しい。  
「おやおや、忠実なる傀儡の到着か……だが、些か遅すぎたようだな。」  
汰地唐は勝ち誇った視線を立ち尽くす頼光に向けると、轡を噛まされ声を上げることの出来ない晴明の顎を捕らえ、  
此れ見よがしにその唇に舌を這わせる。  
「この女、我らが一族を屠りし罪を贖うべく、土蜘蛛の子を孕む為に身を供しておる最中ぞ。邪魔だてするでない!」  
 
「……!!」  
湧き上がる怒りの感情に任せ、結界を断とうと頼光は奉魂の剣の柄に手を掛けた……が。  
「傀儡が!!己が主が色に狂い乱れる様、其処で黙って見ておれい!!」  
汰地唐の言葉が終わると同時に現れた、数多の蜘蛛が長の意を汲み、頼光の行く手を阻むべく取り囲んだ。  
「くっ……!!」  
一匹一匹の力は脆弱なれど、次から次へと纏わり付いてくる蜘蛛に手こずらされる。  
そうしている間にも、汰地唐は晴明の肉体を弄り、辱め続けていた。  
「ほうれ、見ろ……傀儡が貴様を救うべく奮闘しておるぞ?健気よのお。」  
「ふっ……んんっ……くぅ…っ…。」  
助けが現れた嬉しさよりも、己の無様で浅ましき様を見られた羞恥の方が勝る。  
止め処なく零れ落ちる涙を舌で拭いながら、汰地唐は晴明を貶める言葉を耳に注ぎ込み続けた。  
「ほほう……まこと淫らな身体よ。見られて感ずるか?我が指をきつく締め付けておるわ。」  
「…っ……ぅんっ…!!」  
否定しようにも、身体の奥から滾々と湧き出る愛液が汰地唐の手を濡らし、大腿に幾筋も伝い落ちるのを止める事叶わず。  
頼光の眼前で汰地唐の執拗な責め苦に苛まれ、晴明の心は乱れるのであった。  
 
      →badend:《木枯》 
      →goodend:《桜花》 
 

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