「……許さぬ!!!!!」  
纏わりつく蜘蛛を蹴散らし、憤怒を露に頼光が奉魂の剣を振り翳して飛び掛かる。  
蜘蛛の糸を縒り合わせた結界を一閃、粉々に破壊すると一息に汰地唐との間合いを詰めた。  
抗う隙を与えず剣を神速で薙ぎ、晴明を弄んでいた汰地唐に渾身の一撃を与える。  
「ぐあっ……!傀儡の分際で何たる事を!!」  
さしもの汰地唐も、頼光が油断ならぬ相手と気付き、晴明を弄るのを止め原型を現すと頼光に向き直った。  
「小童!!羽虫のごとく飛び回ろうと逃れられんぞ!!」  
間合いを取ろうとすると突進してきた汰地唐に跳ね飛ばされ、近付けば金蜘蛛の巫術が頼光を襲う。  
崖に叩きつけられ、炎の雨に打たれ、それでも尚頼光は果敢に挑み続けた。  
人間など所詮矮小なる存在と、高を括っていた汰地唐であったが、頼光は屈する事無く攻撃を続ける。  
―――そして軍配は、晴明を助け出さんとする一心で奮闘する頼光に上がった。  
致命ともいえる傷を負わされ、汰地唐は屈辱に満ちた眼で頼光を見据える。  
たかだか人間如きにここまで追い詰められるとは……力量を見誤った己の愚かさを呪った。  
「再びまみえたときは、生かしておかぬ!死支度を整えておくがよい!!」  
禍々しき捨て台詞を残すと、汰地唐の巨体が大きく跳ね、虚空へと消える。  
妖が場を去ったのを見届けてから、頼光は晴明に駆け寄った。  
「頼光……。」  
四肢を縛める糸を、晴明の身体を傷つけぬよう細心の注意を払って斬り裂いていく。  
粘つく糸を懸命に取り除こうとする頼光の指先が晴明の肌に触れる度、晴明の内にぞくり、  
と怖気にも似たものが走り抜けていった。  
この身を焼く疼きを悟られまいと、きつく瞳を閉じて堪える。  
主だった糸が取り払われ、ようやく呪縛から解放された晴明はその場にへたり込んだ。  
 
「……大事ないか。」  
身体を覆っていた糸がなくなり、あられもない姿となった晴明を直視出来ず、頼光は目を逸らせて問う。  
「はい……。」  
掠れた声で微かに答えた晴明だったが、頬を朱に染め、額に汗を浮かべて荒い呼吸を繰り返す晴明の姿に、  
頼光は何某かの異状を悟った。  
「何処か……痛むのか?」  
訝しがる頼光の問いに、しかし晴明は恥じ入った表情を見せると下を向き、首を振る。  
その様子と、晴明が今しがた汰地唐に受けていた行為とを鑑みた頼光は一つの結論に至った。  
「……もしや、……身体が、辛い……のか?」  
躊躇いがちの頼光の問い掛けに、晴明は俯いたままこくり、と頷く。  
己の胸元に手を押し当て、苦しさに耐えながら、小さく、消え入りそうな声で晴明が答えた。  
「私は……斯様な、感覚は……初めてゆえ。」  
汰地唐からの辱めに心ならずも乱された己が忌々しく、そして耐え難き羞恥に苛まれる。  
だが、如何ともし難い熱を未だ宿し続ける身を持て余し、どうすれば良いのか分からなかった。  
「……。」  
頼光は押し黙ったまま、晴明を抱き上げて運ぶと、柔らかな草の上を選んで横たえる。  
そして両の篭手を外すと、掌を彼女の顔へと伸ばした。  
「御身に宿る熱、そのままでは辛かろう。……失礼、つかまつる。」  
謝する頼光の言葉に、何を、と思った刹那―――  
「?!……ぅんっ…!!!」  
晴明の唇が、頼光の其れによって封じられた。  
突然の接吻に驚いた晴明は何とか逃れようと試みるが、頭を確乎りと押さえられてしまって敵わない。  
薄く開いた唇の隙間から、頼光の舌がそっと侵入し、晴明の舌を絡め取った。  
 
「んんっ…ふっ……っ…。」  
深く、濃厚な口付けに、頭の芯が蕩けそうになる。  
身の内の熱が更に煽られ、身体の奥からじわりと何かが溢れるのを感じた。  
先刻汰地唐にされた時とは全く異なる感覚に、晴明は戸惑いを隠せない。  
「っ……ふぅっ……。」  
ようやく唇が離されると、二人の間に透明な糸が引いた。  
幼子をあやすように、晴明の艶やかな黒髪を手で梳いていく。  
「……頼、光……。」  
慣れない悦楽に瞳を潤ませ、荒い息を繰り返しながら名を紡いだ。  
「本意にはあらぬであろうが……少々、我慢されよ。」  
頼光の指先が白き肌に延び、躊躇いがちに胸元に触れる。  
「……あ、っ……。」  
大きな掌がそっと晴明の胸乳を弄り始めると、唇から小さく悲鳴が上がった。  
刹那身体を強張らせた晴明であったが、優しく胸を揉みしだく掌の心地良い温もりに身を委ねていく。  
「はぁっ……あ、ぁんっ……。」  
せり上がった突起を摘み、捏ねるように転がされると、晴明の唇から切なげな声が漏れる。  
与えられる愛撫は、徐々に晴明の理性を侵食していった。  
頼光の手は柔らかな胸元から身体の線を辿りつつ、だんだん下腹へと降りていく。  
「あっ……。」  
大腿を撫で擦っていた掌が先刻汰地唐の指に蹂躙された秘部に触れ、晴明の身体が強張った。  
既にしとどに濡れそぼっている其処は熱く、ほんの少しの刺激にも過敏に反応し、蜜を溢れさせる。  
愛液を絡め取りながら指先で辿り、その入り口を探っていった。  
 
「っ……頼光…っ……。」  
壊れ物を扱うようにそっと花弁を押し広げると、湛えられた蜜がとろりと溢れ出る。  
「……あ、あっ……!!」  
頼光の指先がぷっくりと膨らんだ花芽を撫で、摘み上げると背中を怖気にも似た快感が走り抜けた。  
「や、あっ…ああっ……!!」  
やるせなげに首を振り、与えられる快楽に必死に耐える晴明の様は、酷く扇情的で。  
己の欲が昂ぶっていくのを必死で抑えながら、頼光は晴明への慰撫に専念する。  
「……ん…っ……。」  
そっと指を蜜口へと差し入れると、晴明が刹那眉を顰めた。  
異物を迎え入れる感触がおぞましくもあったが、薬の所為か痛みはなかった。  
「痛むか?」  
頼光の問い掛けにかぶりを振った晴明の様子に安堵し、奥へと指を進めていく。  
色好い反応を見せるところを探りながら、内腔を少しずつ押し広げていった。  
「ふっ……あ、あぁ……んっ……。」  
女陰を嬲りながらも、空いた手で乳房を弄り中心の突起を舌で舐る。  
頼光の節くれだった指を根元まで呑み込まされ、花芽を弾かれ、弱き箇所を余すところなく  
攻め立てられた晴明は、かつて感じた事のない悦楽の奔流に呑まれていく。  
「あ、あっ……あああぁ…っ……!!」  
押し寄せる何かにびくん、と大きく身体を震わせ、そして……絶頂を迎えた。  
脱力して荒い息を繰り返す晴明から指を抜くと、頼光は其処に纏わり付いた淫水を舐め取っていく。  
「……御身は……まだ、辛いか?」  
あくまで晴明の身を案ずる頼光の問い掛けに、涙で潤んだ瞳を向けた。  
 
一度は達したものの、まだ薬の効果の残る身体は貪欲に雄を求めている。  
頼光をじっと見つめる、男を誘うかの如き艶を帯びた晴明の眼差しが、頼光の中に芽生えていた情欲を煽る。  
「晴明……。」  
低く抑えた声で耳元に名を囁かれ、晴明の身体が微かに竦んだ。  
「貴女の苦しみに、我は付け込む……。最低な男よ、と謗るが良い。」  
頼光は手早く己の鎧を外し、衣を脱ぎ捨てると晴明を組み敷き、その上に覆い被さる。  
「……力を抜かれよ。」  
淫水で滑る女陰に逸物を押し当てると、おもむろに腰を進めていった。  
「ひっ……あ、ああぁっ……!!」  
身体が待ち望んでいた、雄の熱き肉棒が晴明の内へと侵入してくる。  
繋がった処からは、えも言われぬ多幸感が湧き上がってきた。  
押し寄せる快感に流され、己が己でなくなってしまいそうな不安に駆られて、晴明は必死で頼光の背に縋りつく。  
敏感に過ぎる反応を見せる身体の感覚に困惑はしているものの、苦痛は訴えない様子に安堵した頼光は、  
ゆっくりと動き始めた。  
「はぁっ…んっ……くぅっ……っ…。」  
抜き差しの度に甘い喘ぎを上げながら、晴明は恍惚とした表情を浮かべる。  
気高く清廉たる存在であった晴明が、斯くも艶やかに乱れる様は酷く淫らに映り、頼光の心を擽った。  
 
律動に合わせてあえかに啼く声はひどく甘く、妙なる歌声のようで。  
最早頼光は己の欲を抑える事叶わず、貪るように晴明の身体を掻き抱いた。  
腰を打ちつけるが如くの激しい律動に、それでも其処に悦楽を感じ取り、晴明は次第に高みへと導かれていく。  
「あ……っ…はぁ…あああぁっ……!!」  
一際甘く切ない嬌声を上げながら、晴明が絶頂を迎える。  
逸物をきつく締め付ける晴明に促されるまま、頼光も情欲をその内に解き放つのであった。  
強烈に過ぎる感覚に気を失った晴明から己を引き抜くと、注ぎ込まれた精と愛液が混じり合った粘液が溢れ出す。  
その様を目にした刹那、頼光の胸に罪悪感がどっと押し寄せた。  
「……。」  
幾ら媚薬の所為とはいえ、この行為は晴明にとって意に添うものではあるまい。  
取り返しの付かない事をしてしまったと思えど、時既に遅し。  
己が凶器で穢してしまった晴明の身体を、せめて外見だけでも清めようと、  
頼光は脱ぎ捨ててあった衣の袖を裂き、池の水に浸して湿らせると丹念に拭っていく。  
「ん……ぅん…っ……?」  
優しく身体を拭き清めていく布の冷たさに、晴明は目を覚ました。  
「……気が付いたか。」  
布の綺麗な部分を使って汗と涙で濡れた顔を拭うと、頼光は晴明の肩からそっと衣を掛ける。  
「……すみません。」  
掛けられた衣の襟を引き寄せ胸元を隠しながら、晴明は真っ赤になって俯いた。  
薬はようやくその効き目を失ったのか、狂おしいばかりの情欲は治まり、代わりに恥辱と悔恨の念に苛まれる。  
そのまま互いに言葉を発する事無く、重苦しい沈黙が辺りを支配した。  
 
「……頼光。」  
先に静寂を破ったのは、晴明の方であった。  
「一つ……お聞きしても、よろしいか?」  
こくりと頷いた頼光に、消え入りそうな声で問い掛ける。  
「薬の作用に苦しむ私を宥める為に……その為に、私を、……抱いたのですか?」  
確かに、一番の理由は其処にある。だが……彼女の悶え苦しむ様に、愚かにも劣情を催したのは否定出来ない。  
どう答えるべきか悩んだ末、頼光は静かに首肯した。  
「ただ、私の情欲を処理する為に、ですか……。私の気持ちなど、考えもしないで……。  
いっそ私などに構わず、捨て置いてくれれば良かったものを……。」  
ぽつりと呟いた晴明の姿が痛々しく、頼光の胸は締め付けられる思いに囚われる。  
「それは……まこと、すまない事をしたと思っておる。幾ら詫びても取り返しのつかぬ事ではあるが……すまぬ。」  
頭を下げる頼光であったが、晴明は眉を顰め、哀しげな眼差しを向けた。  
「……謝られても、最早詮無き事。……貴方は……最低な御仁ですね。」  
 
覚悟していたとはいえ、それでも現実に晴明の口から聞かされると衝撃も大きい。  
返す言葉もなく沈黙を守る頼光に、晴明は小さく溜息を付いた。  
「過ぎた事をとやかく言っても致し方ありませぬ。……此度の件、貴方の働きにて贖って頂きます。お覚悟の程を。」  
言いながらゆっくりと立ち上がり、腰の辺りを襲う鈍い痛みに顔を顰めながらも、覚束ない足取りで歩き出そうとした  
晴明であった……が。  
「っ……頼光!?」  
頼光の腕がふらつく晴明の身体を捕らえると、ひょい、と抱き上げる。  
「下ろしなさい、……一人で、歩けます……っ!」  
「……斯くも危うい足取り、見ておれぬゆえ。」  
抗おうとする晴明であったが、意に介さず頼光は歩き続けた。  
「……。」  
頬を朱に染め、しぶしぶながらもされるがままになる。激しい情交を終えたばかりの身体が辛いのも事実ではあった。  
 
―――本当に、私の気持ちなど分かっておられぬ。  
帰路を急ぐ頼光に抱えられた晴明は、胸中で頼光を毒突く。  
 
先刻のように抱かれたら、愛されていると履き違えてしまうではないか。  
斯様に優しくされたら、甘えてしまうではないか。  
己の刃……傀儡に過ぎない筈の男に、斯くも心乱されるなど……罷り成らぬ。  
 
涙が零れそうになるのを悟られないようそっと拭いながら、晴明はさりげなさを装って頼光の首に縋り付くのであった。  
 
《桜花・了》  
 

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