何時の頃からかなど、分からない。
だが、気が付いたら其れは己の目の前に、常に在った。
己と同じモノ。相反するモノ。そして―――強く、惹かれるモノ。
永き時を共にしながらも、決して交わることのないモノ同士。
互いを縛る障壁は、常しえに枷となり続けるものだと思っていた。
―――しかし。
均衡は、突然現れた一人の人間の男によって破られた。
初めて得た自由。そして……初めて近寄り、触れる事叶った、対なる存在。
彼のモノも、同じ思いであったと知った時。
内に生じた感情は、己でも御すること能わず。
気が付けば、全ての柵を捨て、共に外つ国へと身を躍らせていた。
慣れ親しんでいた場の気と明らかに異なる外つ国の気は、此の身を苛み蝕んでいく。
それでも、ただ共に……傍に在るだけで幸福であった。
再び引き離され、あの暗き間で永久に障壁に括られるなど、まっぴらで。
徐々に狂いゆくのを知りながら、それでも尚此の地に留まることを望んだ。
だが、天の理は其れを許さず。
二つのモノを解放した者の手によって、再び在るべき世界へと送り還されたのであった。
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「……我らも、同じ事。」
頼光の胸にしなだれ掛かりながら、晴明がぽつりと呟く。
「?」
訝しげな表情を見せる頼光に、少しだけ哀しげな瞳を向けた。
「あの妖も、我らも……同じ咎を背負った者。」
陰と陽、生者と死者、そして……男と女。
「互いの欠けた部分を埋めるかのように惹かれ合うは、我らも同じ。」
どちらからともなく唇を重ねると、再び身体を求め合う。
頼光が己の内を満たしていく悦楽に浸りながら、晴明は思いを巡らせる。
左目に埋め込んだ白珠の瘴気は、少しずつ、だが確実に己が命を縮めていく。
そうして、命運尽き果てる其の時を、此の腕の中で迎えられたなら。
いや、寧ろ此の手に掛かり息絶えられるなら。
其れは間違いなく、この上なき幸福の刻であろう……。
―――ああ、我も……少しずつ、狂うておる……。