それは、頼光が永き眠りより目覚めてから、初めて迎える月輪の日。
どこかそわそわと落ち着かぬ四天の面々の様に、訝しげな視線を向けていた頼光であった。
「ん?儂の顔に何ぞついておるか?」
頼光の視線に気付き、己の顎を手で探りながら訊ねてきた綱にゆっくりと頭を振ると、抱いていた疑念を口にする。
「いや……ただ、何やら今日は皆、気もそぞろのようであるゆえ……如何したのかと思うたのみ。」
「ああ、ぬしは知らぬか……今宵は、望月だからの。我ら四天が司る五行の気が、身の内にて昂ぶるゆえ……のう、公時?」
「……うむ。」
互いに意味ありげな表情を見せて頷きあう二人に、そういうものなのか、と納得する。
「他人事だと思っておるようだが……頼光、ぬしにも関わりの在る事であるぞ?」
「?何の事だ?」
「その……まあ、その時になれば分かる事ゆえ、儂らの口からは言えぬ。……では、また後でな。」
綱の言葉に眉を顰めた頼光であったが、そんな頼光の肩を軽く叩くと、二人はくるりと背を向けて去っていった。
後に残される形となった頼光は、暫し立ち尽くしていたが、我に返ると取り急ぎ後を追った。
夜が更けたとはいえ、真円を描く月の光は禍々しいまでに明るく。
何やら胸騒ぎがして目が覚めた頼光は、辺りを見回して異変に気付く。
共に寝ていた筈の四天の姿は其処に無く、夜具に触れてみたものの、温もりは感じられず、彼らが床を離れて暫く経っている事を示していた。
こんな夜中に、一体何処へ……?
考え込んだ頼光であったが、近付いてくる足音に気付く。
「……頼光さま。」
戸越しに掛けられるは、まだ幼さを残した少女の声―――貞光が、頼光を呼んでいた。
「起きていらっしゃいましたか……晴明さまが、お呼びでございますゆえ。」
「……これは、如何なる事ぞ?四天の面々は誰一人部屋に在らず。その上……斯様な時分に、晴明が我を呼んでおると?
……一体、何の騒ぎだ?」
事態を掴めず、頼光は貞光に詰め寄る。……が、貞光は動じず、静かに答えた。
「その事については、追々ご説明いたしますゆえ、今は妾と共に、おいでいただきたく存じまする。」
「……お主について行けば、分かるのだな?」
「はい。お召し物はそのままで結構で御座います。祭具も必要御座いませぬ。」
「……分かった。共に参ろうぞ。」
大きく溜息を一つ吐いて、頼光は立ち上がる。
……このままでは埒が明かぬ。晴明に直接聞いた方が早いのは確かだ。
貞光に付き従い、晴明の部屋に足を踏み入れた頼光は、其処で信じられない光景を目の当たりにすることになった―――
これは……何の冗談だ?
目の前で繰り広げられている痴態に、頼光は愕然とした。
晴明の寝所―――其処に、四天の面々もいた。そして彼らは……。
「彼らは……晴明は、何をしているのだ!?」
暫し呆気に取られていた頼光は、我に返ると信じられぬといった表情で傍らの貞光に問う。
季武の木の如き手足が、晴明の四肢を絡め取り。
綱の舌が、晴明の下腹を舐め回し。
公時の剛物が、晴明に口淫を促していた。
「晴明さまは、我ら四天の内に滾る気を、御身を以て鎮めてくださっているのです。」
眼前の淫猥極まりない光景にも目を逸らす事無く平然と答えた貞光は、淡々と言葉を紡ぐ。
「我ら四天が司るは五行の力。ですが……月の満ち欠けを経て増幅されるそれは、放っておけば己では律しきれぬ程に積み重なりますゆえ、時折解放せねば身が保ちませぬ。
ですから……晴明さまは、我らの荒ぶる気を鎮め、過剰となった力を御身に取り込み、昇華して下さるのです。
此れは……その為の、儀式に御座います。そして今宵は……頼光さまにも加わって頂きます、と……晴明さまの思し召しでお呼びした次第に御座います。」
戸口で呆然と立ち尽くす頼光に気付いた晴明が、肢体に群がっていた四天を制して立ち上がった。
白き裸体を惜しげもなく月明かりの下に晒したまま、妖艶な笑みを湛えて頼光を見つめる。
「よくぞ参られました、頼光。此れより行う儀、貴方にも関係の深い事ゆえ、御力添えを願います。」
「しかし、……我が、斯様な……。」
掠れた声で呟くと、悦楽で潤んだ瞳が頼光に向けられた。
「貞光が先に申し上げたでありましょう?あくまでこれは情交には非ず……儀式に過ぎませぬ。ですから……。」
晴明は一旦言葉を区切り、意味ありげに微笑む。
「仮に貴方に想う人がいらしたとしても、これは裏切りにはなり得ません。ご安心を。」
「……そういう、意味では……。」
淫猥な雰囲気を醸し出す晴明の姿を直視する事が出来ず、頼光は口元を押さえて顔を背けた。
その純朴さにくすり、と笑みを零すと、傍らの貞光に声を掛ける。
「ご苦労様でした、貞光。貴女にもすぐ手伝って貰う事になりますが、大丈夫ですか?」
「はい、晴明さま。」
さも当然の如くこくりと頷いた貞光の様に、頼光が眉を顰めた。
「……貞光も、これに……加わるのか?」
大人びているとはいえ、まだ年端もいかぬ少女が斯くも淫靡な空間に在る事自体が異質である。
「勿論です。貞光は『水』の気を司る四天ゆえ。」
あっさりと答える晴明に、頼光は釈然としない面持ちを湛えた。
「先刻から申し上げておりますが、此れは儀式という事、常に念頭に置いていただきたく存じます。」
晴明の顔からは笑みが消え、真剣な表情で頼光を見つめる。
強い意志を秘めたその眼差しに抗う事叶わず、頼光は小さく溜息を吐いた。
「……分かった。では……我は如何すれば良い?」
「まずは、我が身に四天の力を取り込みますゆえ、貴方は其処で今暫くお待ち下さいませ。」
勧められるままに頼光は示された円座に座する。その様を見届けると、晴明は背後に控えていた季武を振り返った。
「では、季武……まずは、貴方にお願い致します。」
「うむ。」
名を呼ばれた季武は小さく頷くと、部屋の中央へと歩み出し、晴明の前に立った。
神木と一体化した、足とも手ともつかぬ枝を伸ばすと、晴明の四肢へと絡めていく。
「くっ……んっ……ふ…ぅんっ……。」
ぞわぞわと手足を這い上がってくる蔓の動きがこそばゆいのか、晴明は小さく呻いた。
豊満な乳房を絡め取り、硬くせり上がった突起を擦られ、小さく身体を震わせる。
そうして晴明は、大きく脚を開いた状態で四肢を拘束された形となった。
あまりに淫靡なその光景から、しかし頼光は目を逸らす事が出来ない。
食い入るように見つめる頼光の目前で、季武の枝は晴明の身体を弄り続ける。
「あ、っ……。」
そうしているうちに、とりわけ太い枝が一筋晴明の大腿を伝い、秘めたる処へと伸び、そして蜜口を探るように周りをなぞった。
「では……失礼する。」
一言謝すると同時に、愛液の滴る其処に季武の枝がゆっくりと捻じ込まれていく。
「あっ…あぁっ……!!」
己が内に異物が入り込んでくる感触に、晴明は艶やかな声を上げて唇を戦慄かせた。
苦痛を感じたのか些か顔を顰めていたものの、すぐに其れは恍惚とした表情へと変じていく。
枝が蠢く度に卑猥な水音が発せられ、あえかな吐息と入り混じって響いていた。
「晴明よ……我が身に溢れし『木』の力、そなたに託そうぞ……!」
季武の体が淡き光を帯び、そして……枝を伝い、晴明の胎内へと『木』の気が注ぎ込まれる。
「あ……は…ああぁっ……!!!」
晴明も絶頂を迎えたかの如く、甘き嬌声を上げて身体を仰け反らせた。
そうして晴明の内を犯していた枝がずるり、と引き抜かれると、晴明は二、三度身を震わせて大きく溜息を吐く。
「……うむ……我が力の滾り、確かにそなたの内へ……。」
淫水に塗れ、月の光を受けて煌く枝を見やりながら、季武は満足げに頷いた。
荒い呼吸を繰り返しながら、晴明が妖艶な眼差しを公時へと向ける。
其の意を汲んだ公時は、未だ快楽の余韻に浸り身体を横たえたままの晴明の傍へと歩み寄り、膝をついた。
「公時……先刻の続きを致しましょう。」
晴明はゆっくりと身体を起こすと、先程口に咥えていた逸物にそっと手を添える。
中途半端な口淫で燻っていた其れは、指先による刺激に早くも再び硬さを取り戻そうとしていた。
「……かたじけない。」
頷く公時を慈しむように両手に包むと、其の先端へと唇を寄せ、ちろちろと舌を這わせ始める。
たっぷりと唾を絡め、殊更音を立てながら雁首から幹へと舌でなぞり、硬さが増してくるのを確かめると、柔らかな乳房の谷間に挟み込み、緩やかに揉みしだきながら時折鈴口を吸い上げた。
「……っ…むぅっ…。」
公時の身体に篭った火の気が其の一点に集中したかのように熱く、膨れ上がっていく。
次第に荒くなる呼吸に、晴明は公時の限界が近いのを悟った。
「く…っ……!!」
晴明が逸物を口いっぱいに頬張り一際きつく吸い上げるのを合図に、公時の身体が震え、口腔内に精気が放たれる。
「んっ……ぐ…ぅんっ……。」
零すまいと口元に手を当てると、瞳にうっすらと涙を浮かべながらも、晴明は少しずつ飲み下していった。
全てを余すところ無く飲み込むと、掌で口の端を伝う唾をそっと拭い取って微かに笑う。
「公時……貴方の『火』の気、頂きましたよ……。」
「さあ、貞光……貴女も、おいでなさい。」
慈愛の篭った眼差しを向けながら晴明が差し伸べる手を、貞光はごく当然のように取った。
「晴明さま……。」
うっとりとした表情を浮かべて其の名を呟くと、貞光はそのまま晴明の唇に己の其れを重ねる。
「んっ……ふぅ……っ…。」
深く濃厚な口付けを繰り返しながら、晴明は小さな胸の膨らみを優しく掌で包み、中央の突起を指先で擽った。
「あっ……晴明、さま……。」
与えられる刺激にひくり、と身体を竦ませる貞光の首筋に、鎖骨に、晴明の舌が這っていく。
「……貞光……全てを、委ねなさい……。」
まだ幼さを残した貞光の身体を膝に抱き上げると、その耳朶を甘噛みしながら囁いた。
「はい……。」
こくりと頷いた貞光のきめ細やかな肌を、晴明の手が壊れ物を扱うかの如く優しく辿る。
「きゃ、…あっ……あんっ……。」
其の動きがくすぐったいのか、時折小さく悲鳴を上げる様を愛おしむように目を細めながら、晴明は胸元から下腹へと、徐々に愛撫の手を下ろしていった。
そうして遂に秘めやかなる処へと伸ばされた指先が、そっと秘裂をなぞる。
「晴明さま……やぁっ……。」
白く長い指で花弁を押し広げると、湛えられていた蜜がとろりと零れ落ちた。
「……素直な、良い子ですね……貞光。」
言いながら晴明が貞光の女陰を弄り始めると、貞光の身体に溢れる水の気が其処を捌け口としているかの如く、とろとろと愛液を滴らせていく。
「ひゃあ!!あっ……ああっ……!!」
与えられる刺激に身体を竦ませ、思わず声を上げた貞光が慌てて口を塞ごうとした手を晴明が制した。
「我慢せずとも良いのですよ……。」
「……晴明、さま……あっ…はぁっ……ぁんっ…。」
指が貞光の内を掻き乱すように動く度にくちゅ、ちゅく、と湿った音が上がる。
其処に貞光の嬌声が入り混じり、えもいわれぬ官能的な響きを奏でていた。
次第に激しくなる晴明の指の動きに、貞光がだんだん高みへと追いやられていく。
「あぁ…っ……晴明さま、…妾は……わらわは……あ、あぁっ…!!」
訪れる快楽の漣に呑まれた貞光は、切なげな声を上げて晴明に縋りついた。
遂に絶頂に達すると、二、三度大きく身体を震わせて脱力し、荒い呼吸を繰り返す。
晴明がゆっくりと指を引き抜くと、名残惜しげに透明な雫が糸を引いた。
指先に纏わりつく愛液を、丹念に舌で舐め取っていく。
「貴女の『水』の気……確かに受け取りました。少し休みなさい、貞光……。」
まだ興奮冷めやらぬ貞光を柔らかな胸に掻き抱き、愛おしむように髪を撫でて囁くと、貞光は顔を赤らめてこくり、と頷いた。
「綱……残る四天は、貴方のみですね。」
呼ばれた綱は神妙な面持ちで前に進み出ると、待ってましたとばかりに晴明の身体を組み敷く。
その上に覆い被さると、豊かな乳房を鷲掴みにして獣の舌で舐り始めた。
「っ……あ、っ……。」
ぴくり、と身体を竦ませる晴明の胸元から腹、そして下肢へと舌を這わせていく。
「晴明……ぬしが乱れる姿、まこと欲をそそられるものよ。」
晴明の身体中を丹念に弄りながら、綱が呟いた。
「…っ……これは、情交ではありませんよ、綱……。」
頬を朱に染め、与えられる愛撫に絶え絶えに喘ぎつつも、晴明は綱をたしなめる。
「そうか?……儂はいつでも、これはぬしとの情交だと思うておるが。」
「戯れを……ぅ…んっ……。」
言いながら晴明の脚を開いた綱の舌がぴちゃり、と音を立てて女陰を舐め上げる感触に、晴明は身体を震わせた。
「ほれ……ぬしも、感じておろう?」
溢れ出す愛液を啜りながら、更に綱が指先で花芽を弾く。
「あ、あぁっ……っ……。」
敏感に過ぎる処へ与えられた刺激にあからさまに身を強張らせ、晴明が掠れた声で啼いた。
「晴明……今宵はまた、随分と淫らに濡れているのお……頼光が見ている所為か?」
「そんな……っ……。」
「より強い悦楽を感じるのは、良い事ではないか?」
「……っ……。」
真っ赤になった晴明の表情を窺いながら、綱が顔を上げる。
そうして充分に熟れた其処にそそり立った己を押し当てた綱を、晴明が慌てて制した。
「綱……その、今宵は……次に頼光が控えておりますゆえ……。」
「ん?……ああ、そうか。」
言葉を濁した晴明の意図を察し、綱は晴明をうつ伏せにさせると腰だけを高く掲げさせる。
柔らかな尻の肉に手を添えて、秘められし菊門を露にした。
「では、儂は此方で我慢致そう。」
女陰から湧き出る蜜を指で絡め取ると、それを潤滑油代わりに少しずつ後門を慣らしていく。
「っ…ふぅ……んっ……。」
綱の無骨な指が辿るたび、晴明が鼻にかかった甘い吐息を漏らした。
元々雄を受け容れる場所ではないが、それでも其処に悦楽を感じ取り、女陰からは愛液が滴り落ちていく。
徐々に綻び始めた菊門に、綱が蜜を絡めた指を咥え込ませた。
同時に空いた指で秘所も嬲り、前と後双方から攻め立てて晴明の官能を高めていく。
そうして緊張の解れた頃合を見計らって、綱は指を引き抜いた。
「そろそろ良いであろう……では、いくぞ。」
熱い昂ぶりを女陰に撫でつけ、愛液を存分に絡めてから後ろへと押し当て、ゆっくりと菊門を犯していく。
「くっ…ん、…ふぅっ……。」
普段とは異なる処を穿たれる感触に、晴明が眉根を寄せて苦しげに喘いだ。
全てを彼女の内に収めると、綱は大きく息を吐く。
「ほれ、もう少し力を抜かねば……これではぬしもきついであろう?」
なるべく負担をかけぬよう気を遣うものの、それでも欲が急いてしまう綱はゆるゆると動き始めた。
「此方は、女陰とはまた異なった悦楽があるものよ……のう?」
四つん這いになった晴明に綱が背後から覆い被さり、正に獣のような姿で交わる二人であったが、其れが却って奇妙な陶酔感を齎していく。
律動の度に揺れる柔らかな乳房を鷲掴みにされ、滅茶苦茶に揉みしだかれた晴明は堪えきれず酷く甘やかな嬌声を上げた。
「あ、あっ……はぁっ……あ、っ……。」
「……くぅっ……っ……。」
きつい締め付けに湧き上がる射精感を必死に堪え、腰を打ちつける綱の動きに翻弄され、晴明は言葉にならない喘ぎを漏らし続ける。
綱の抽送は次第に激しさを増し、晴明もまた呼応するように昇りつめていった。
「っ……晴明、もう……っ……!」
「あ、ああっ……!!」
小さく呻き声を上げると綱は腰の動きを止め、背筋を震わせあえかな声で啼きながら果てる晴明の内に欲を放つのであった。
「……ぅん…っ……。」
今しがた精を放ったばかりの綱の陽根がずるりと引き抜かれる感触に、晴明は微かに鼻を鳴らした。
「ふむ……身体を重ねる度に、ぬしは女としての魅力を増していくのう。」
晴明の白き大腿を精が流れ落ちていく様を眺めながら、綱が心底感嘆した顔で評する。
「綱……戯言が過ぎますよ。此れは情交に非ず……儀式に御座います。」
「儂は本気で言っておるのだが……我が思いの丈を信じて貰えぬとは、まこと切ないものよの。」
眉を顰めて綱を振り返る晴明の様に、綱は大仰に溜息を吐いて身体を離した。
「……。」
頼光は今しがた眼前で交わっていた二人を無言で見比べる。
一族郎党の復讐を果たすべく獣にその身を変じた、激情を秘めし男。
その滾りを全身で受け容れ、包み込む慈母の如き女。
これは『儀式』だと女は言う。……だが。
男は『情交』だと思っていると言った。
ならば……やはり、これは『情交』なのだと頼光は思う。
……我はこの『儀式』に、どのような思いを抱いて臨めば良いのだろう?
「頼光……待たせましたね。」
晴明はゆっくりと身体を起こすと、答えの出ぬ自問を考えあぐね呆然と立ち尽くす頼光へと手を伸べる。
四天全ての精気をその身に浴び、悦楽を帯びた笑みは、喩えようも無く蠱惑的で。
いっそ払い除けてしまえれば良かったのであろうが、しかし頼光は操られたかのように晴明の手を取った。
「これで……四天の身より溢れし気が、全て我が身に宿りました。」
言いながら晴明は、そっと頼光の両頬に手を添えると、己の唇で頼光のそれを塞ぐ。
途端、純然たる巫力が口移しに伝わってくるのを頼光は感じた。
「如何ですか?……これは、私の身の内に滾る気の、ほんの一部に過ぎませぬ。」
名残惜しげに透明な糸を引く唇を指先で拭うと頼光の身体を組み敷きながら、晴明は艶やかに微笑んでみせる。
「我が身に溢るる精気を、これより貴方に差し上げましょう。」
白魚の如き指先を夜着の裾から忍ばせ、頼光の大腿を擦り上げてそっと陽根に触れた。
「ああ……我らの交わりに当てられ、貴方も猛っておられましたか。」
其処が既に硬さを持ち、頭をもたげ始めている事に気付いた晴明は嬉しそうに囁く。
「……。」
晴明の指摘に気まずそうに俯き、押し黙った頼光の逸物を包み込むと、そのまま上下に扱いていった。
「頼光……恥じ入る必要などありませぬ。寧ろ、有難い事に御座います。」
仮初の物とはいえ肉体に直接与えられる快楽は強烈なまでに情欲を煽り、頼光は眉を顰め微かに息を荒げる。
「っ……!」
更に晴明が身体の向きを変え、そそり立つ雄に顔を寄せて躊躇う事無く其れを口に含むに至り驚愕した。
温かな口腔が真綿の如く柔らかに絡み付く感触に加え、舌が巧みに動いて更なる劣情を駆り立てる。
「ああ、頼光……暫し堪えてくださいませ。」
既に何時精を放ってもおかしくない頼光の様子に、晴明が唇を離して顔を上げた。
「続きは……此方で。」
おもむろに頼光の身体を跨ぐと己の女陰に手を添え、蜜を滴らせる花弁をそっと押し広げて屹立する逸物へと押し当てる。
「な、……晴明……?!」
其の意味するところを察した頼光は慌てて制しようとするが、晴明は構う事無くゆっくりと腰を落としていった。
「くっ……ふぅ…ぅんっ……。」
四天との交わりで濡れそぼった其処はさしたる抵抗もなく、いやらしい水音を立てて頼光を呑み込んでいく。
しっとりと潤った蜜壷は熱く蠢き、頼光を心地良く締め付けてきた。
「…ん…っ……。」
そうして根元まで咥え込むと、晴明が甘やかな溜息を吐いて悦楽に潤んだ瞳を向ける。
「頼光……良いのですよ、さあ……。」
「……っ……。」
暗に射精を促す晴明であったが、しかし頼光とて男の意地というものが在る。挿れて直ぐに達してしまったとあっては面目が立たぬ。
故に込み上げる欲を辛うじて抑え、頼光は彼女の肢体を暫し味わう事にした。
「此れは、何か……特別な作法などは……あるのか?」
努めて平静を装った表情で問う頼光であったが、晴明はそんな頼光の葛藤を知ってか知らずか笑って答える。
「いいえ……普通に、抱いてくだされば結構です。それとも……女人を抱くのは、初めてですか?」
「……。」
からかうような口ぶりに憮然とした頼光は黙って上体を起こし、晴明の身体を抱き寄せると顎を捕らえてその唇を塞いだ。
「…っ……ふぅっ…んんっ…。」
舌を絡め合い、互いに貪るように濃厚な口付けを繰り返しながら、手を晴明の柔らかな胸乳へと添える。
「あ、っ……んっ…。」
きめの細かい肌はしっとりと汗ばみ、掌に吸い付いてくるかの如き感触で心地良い。
そのままゆるゆると揉みしだくと、晴明の頬が紅をさしたように染まっていく。
「頼光……斯様な、戯れは……無用に御座います。……貴方の欲を満たす事を、優先なさいませ……。」
晴明が頼光を煽るようにゆるゆると腰を揺らめかせると、繋がった処が卑猥な音を立てた。
淫らな蜜を塗され、ぬめりを帯びた雄に晴明の秘肉が貪欲に絡み付いてくる。えもいわれぬ快感が、頼光の劣情を強烈に煽った。
「くっ、……。」
晴明の方はといえば、口淫を施した際には既に爆発寸前と思われた頼光が未だ達しないとあって、訝しげな表情を浮かべて頼光の顔を見遣る。
「頼光……好くありませぬか?」
寧ろ必死に堪えなければ呆気なく果ててしまいそうな状態ではあるが、其れを悟られる訳にもいかない。
「……否。」
辛うじて一言呟くと、再び頼光は晴明の身体に愛撫を施す事に専念する。
「んっ……あ、あっ……。」
奥深くまで貫いたまま赤子のように乳房を舐め、硬く勃ち上がった中央の突起を口に含むと晴明からあえかな声が上がった。
胸乳に与えられる刺激に呼応してきゅっ、と内が締まる度に頼光は耐え、微かに身を震わせて甘やかな吐息を漏らす晴明を更なる高みへと導くべく掌を、唇を這わせていく。
「あ、っ……はぁっ……ぅんっ……。」
晴明がやるせなげに首を振るのに合わせて艶やかな黒髪が揺れ、頼光の胸元を擽った。
胸元に散らされた赤い痕が、酷く目に鮮やかに映る。
身体中から立ち上る芳しい雌の香気が、肺腑を満たしていく。
力を込める度に手の内で形を変える豊満な乳房の感触が愉悦を齎す。
一つに繋がった処が奏でる淫らな水音が、やけに響いている気がする。
薄紅色に染まった肌の、何処に舌を這わせても蕩けるように甘く感じる。
五感で捉える晴明の全てが―――そして何より、晴明の纏う極上の気が、次第に頼光を酔わせていく。
最早欲を制する事能わず、頼光は湧き上がる衝動に任せて抽送を早めていった。
淫猥な音を立てて激しく抜き差しされる度に、頼光の首に回した晴明の腕に力が込められる。
互いに限界が近い事を察し、互いを貪るかのように何度も繰り返し唇を重ね、舌を絡め合った。
「あっ……頼光……や、あぁっ…あああっ……!!」
強烈に過ぎる快楽の奔流に呑まれた晴明が甘やかな嬌声と共に背を弓なりにしならせ、おとがいを上げて二、三度大きく身体を震わせると同時に咥えていた頼光をきつく締めつける。
「う……くっ……。」
促されるままに頼光も達し、其の最奥に思うさま精を放つ。頼光の欲の全てを己が胎内に受け容れ、晴明はうっとりとした表情を浮かべていた。
「……ふぅ…んっ……。」
繋がったまま暫し快楽の余韻に浸り、暫し荒い呼吸を繰り返していた頼光が身体を離す。
内を満たしていた雄がずるりと引き抜かれ、注ぎ込まれた精が愛液と混じって伝い落ちる感触に、晴明が小さく鼻を鳴らした。
「ああ……流石、古の大巫術士と謳われた御方……まこと、素晴らしき儀で御座いました。」
悦楽に蕩けて潤んだ瞳で頼光を見つめる晴明の姿は酷く煽情的で、頼光の内に更なる劣情を催すには十分すぎるものであった。
「ですが……貴方の身体は、未だ満ち足りておられぬようですね。」
一度は達して脱力していたものの、再び首をもたげ始めている頼光に気付き、晴明が艶やかに笑う。
「良いでしょう。四天の力を束ねし我が身に満ちた巫力、心ゆくまで味わいなさいませ。」
言いながら立ち上がった晴明は、二人の交わる様を見守り続けていた四天を見遣った。
「貴方達の身の内にも、未だ気が溢れておりましょう?……さあ、共に頼光へと捧げましょう。」
誘うように晴明の手が伸べられるのを合図に、四天の面々はおもむろに晴明の傍へと歩み寄る。
唖然とする頼光の眼前で、季武の枝が音を立てて蠢き、晴明の身体を捕らえて其の場に組み敷いた。
「晴明さま……妾も、お手伝いいたしまする。」
跪いた貞光が、豊満な乳房に顔を寄せると幼子のように吸い付き、小さな手で懸命に弄る。
「晴明……頼む。」
公時の声に頷くと、晴明は公時の逸物を掌で包み込み、ゆっくりと上下に扱き始めた。
「では……儂はこちらで致して貰おうぞ。」
もう一方の手に綱が陽根を握らせる。薄く開いた唇の隙間からは季武の枝が侵入していく。
「っ……んっ……頼光……さあ、貴方も……おいでなさいませ……。」
季武が晴明の意を汲み、柔らかな腿に絡み付けた枝で晴明の脚を大きく開かせる。
先刻まで頼光を咥え、其の滾りを注ぎ込まれた女陰が蜜と精に塗れ、差し込む月の光を受けて妖しく淫らに煌いていた。
「……。」
小さく溜息を吐いて頼光は腹を括る。晴明の腰に手を添えると、既に猛っていた己が楔を押し当て、一息に貫いた。
「あ、ああっ……!!」
歓喜の声を上げる晴明に、各々が思い思いに欲望を叩きつけていく。
さながら花に惹かれる蝶の如く、妖光に集まる羽虫の如く、四天王と頼光は晴明という艶やかな肢体に群がり、貪り続けるのであった―――
「!!!」
はっ、と目を覚ました頼光は、慌てて辺りを見回す。
格子から差し込む月明かりに照らされた室内は、しんと静まり返っていた。
頼光は大きく安堵の溜息を吐くと、額に浮き出ていた汗を拭う。
……何やら、酷く禍々しい夢を見ていた気がする。
今となっては其の内容までは思い出せぬものの、忌まわしきものであった事は確かであろう。
……たかだか夢如きに、斯くも心乱されるとは不甲斐ないものよ。
頼光は微かに自嘲の笑みを浮かべると、邪なる何かを振り払うかのようにゆっくりと首を振った。
暫しの間の後、ようやく落ち着きを取り戻し始めた頼光であったが、しかし其処で場の異状に気付く。
不自然なまでの静寂に支配された部屋―――其処には、床に就く前には確かに在った筈の四天の姿が無かったのだ。
頼光の背筋を、再び嫌な汗が流れ落ちる。……この既視感は、何だ?
早まる鼓動を宥めようと大きく深呼吸を繰り返していた頼光の耳に、部屋に近付いてくる足音が届き戦慄する。
―――近付いてくる者の正体を、其の理由を……我は、知っている。
刹那軽い眩暈を覚えて、頼光は思わず額を押さえた。
「……頼光さま。起きていらっしゃいましたか……晴明さまが、お呼びでございますゆえ。」
まだ幼さを残した少女の声が、静寂の中、何処か遠い処の言葉のように響いたのだった。
―――月の光に狂わされし者達の宴は、まだ始まったばかり―――
<了>