御堂の内に逃げ入った白銀人を次々掃討し、頼光は最後の一匹となった白銀人を追い詰めた。  
仏像に憑依し操ろうにも、破壊の限りを尽くされた部屋の内には最早使えそうな像はなし。  
打つ手なし、と思った白銀人は、一か八かの賭けに出る。  
……窮鼠猫を噛む、とはこの事か。  
無謀にも、目の前に在る最上級の器―――頼光の体へと乗り移ろうと襲い掛かったのであった。  
「!!!」  
その意図を察して抗おうとした頼光であったが、剣を薙ぐよりも早く、目の前から白銀人の姿がすうっ、と掻き消える。  
刹那、頭の奥に他者―――白銀人の意識が入り込んできた。  
「くっ……!!」  
「頼光!!」  
額に手を当て、剣を支えにその場に蹲った頼光の傍に晴明が慌てて駆け寄る。  
『おお……まさか、斯くも上手くいくとは思わなんだ!!』  
驚愕と歓喜に打ち震えた白銀人の意識が、頼光を侵食せんと胎動を始めた。  
白銀人と頼光――― 一つの肉体の中で、二つの意識がせめぎ合う。  
『これも宿命ぞ……貴様の身体、大人しく我に明け渡すが良い!!』  
『断る!!』  
普通の人間であれば抗う事敵わず、直ぐに意識を喰われ、肉体を奪われてしまったであろう。  
だが、並外れた精神力を持ち必死に抵抗する頼光相手では、如何な白銀人とて容易くはいかなかった。  
しかし白銀人にとっては幸運な事に、仮初の身体である頼光の魂と肉体の繋がりは普通の人間程に密ではなく。  
白銀人は、頼光の意識を取り込むことは罷りならなかったものの、針の穴程の隙を突いて身体の自由を奪う事に成功した。  
 
「頼光……確乎りするのです、頼光!!」  
懸命に頼光の名を呼び続ける晴明の声に、頼光がゆっくりと額から手を離す。  
「……晴明……すまぬ、大丈夫だ。」  
顔を上げて答えた頼光に、ほっと安堵の表情を見せた晴明であった……が。  
其処に浮かんだ、常日頃の彼からはあり得ない禍々しい笑みに怖気が走る。  
「貴様……頼光ではないな!!」  
懐から双扇を取り出そうとした手首を凄まじき力で掴んでその場に組み敷くと、《頼光》はその上に圧し掛かった。  
『……貴様!!晴明に何をする気だ!!』  
其の身体の中で未だ形を保ち続けていた頼光の意識は、身体を操り晴明へと仇なす白銀人へと食って掛かる。  
「安倍晴明……我らに楯突く忌々しき女よ……。その巫力に溢れた身体、我が乗っ取ってくれようぞ!!」  
『笑止!貴様如きに晴明の身が奪える筈無かろう!!』  
『ふん、試してみなければ分からぬわ!』  
狙いが晴明の肉体だと知った頼光は恫喝するが、しかし白銀人は動じない。  
「貴様!!疾く頼光から離れるのだ!!」  
晴明は何とか《頼光》の腕から逃れようと思ったが、頼光の身体に憑依した状態の白銀人を攻撃しては、白銀人だけではなく頼光自身にも累が及ぶ。  
白銀人の本体を攻撃しないことには埒が明かない。それには、憑依を解かせなければならない……が。  
仏像と違い、まさか頼光の肉体を砕くという訳にはいかぬ。  
白銀人が本体を現した刹那の隙を突き、一気に滅せねば勝機はない。しかし……どうする?  
考えあぐねる晴明の両手首を押さえつけ、白銀人はその身体に乗り移らんと試みる。  
だが晴明の精神力は強大で、白銀人の侵食を許さない。  
「くっ……流石、都随一の陰陽師……その魂には一分の隙もないか。」  
忌々しげに呟く《頼光》であったが、ふと妙案を思いつく。  
「……ならば、隙を作るまで。貴様のその誇り、粉々に打ち砕き心を壊してくれるわ!」  
言いながら《頼光》は、晴明の衣に手を掛け、力任せに引き裂いた。  
「っ……!!」  
「己が傀儡に辱められたとあっては、如何な貴様とて平静でいられまい?貴様が自失するまで犯し尽くしてくれようぞ!」  
 
思いがけない言葉に、晴明が瞠目する。……驚愕したのは、身体の自由を奪われた頼光も同様であった。  
『貴様、何たる事を……!!』  
『五月蝿いのう……貴様はこの生意気な女が我が手で壊される様を、歯噛みして見ておるが良いわ!!』  
狩衣の下に隠された、柔らかな曲線を描く女の肉体が眼前に晒されると《頼光》は舐めるような目つきで検分する。  
「男勝りな性格とは裏腹に、随分といやらしい身体をしているものよ。」  
「くっ……!」  
豊満な胸を鷲掴みにして嘲る《頼光》の言葉に、晴明の頬が羞恥と屈辱で朱を帯びた。  
「この身体で、朝廷に……帝に取り入ったか?まこと浅ましき女よのう?」  
「……なっ……!!」  
『貴様、晴明を侮辱するか……!!』  
白銀人の言葉に憤る頼光であったが、しかし白銀人は意に介さず晴明の身体を嬲り続ける。  
「ふん……流石の貴様もこうなっては抗えぬか?」  
乳房の中心を指で摘み上げ、捏ねるように刺激しながら其処に顔を寄せ、舌でねっとりと舐り回した。  
「や……やめ、っ……いやぁっ!!」  
意に沿わぬ行為に対する恐怖と、辱めに対する憤怒が入り混じった涙が晴明の頬を伝い落ちていく。  
普段は気丈に振舞い続ける晴明との落差を際立たせる其の様が、更に白銀人の邪なる心を煽り立てた。  
「嫌か?ならば得意の巫術で我を跳ね飛ばせば良かろう?……尤も、さすればこの傀儡の肉体とて無事では済まぬが……。」  
「くっ……!!」  
唇を噛み、必死に堪える晴明の肉体を、頼光の掌が蹂躙していく。  
『我の事など構わず抗うのだ、晴明!!』  
声に出す事叶わぬ頼光の必死の呼びかけは、しかし白銀人の不興を買うのみで。  
『無駄よ……幾ら思うたところで、貴様の声などこの女には届かぬわ!』  
文字通り手も足も出せない頼光の眼前で、白銀人の陵辱が続けられていった。  
 

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