「晴明、もう止すのだ」
苦しげな面持ちで声を掛ける武人に、晴明は生真面目にも言葉を返す
「何をおっしゃいますか!これはこの地に伝わる風習にございましょう?疎かになどできませぬ」
「否、しかし…」
尚も押し止めようとする頼光を、視線でもって制すと再びそれを含んだ
「くっ!晴明!!」
「!!」
勢いよく溢れた蜜を一気に飲み干すと、形の良い唇を指で拭った。
「これで良いでしょう」
満足気に微笑む彼女に、頼光は苦笑する。
「違うのだ、晴明。この習わしは、恵方に向かい太巻を食しその年の幸を願うもの…
何故その様に違われるのか?」
緩急した体を壁に預け、天井を仰ぎ見る。
「なっ!それは本当にございますか!しかし綱が…恵方に向かいて太物をと…」
彼女の顔が見る見るうちに紅潮して行く。
「からかわれたのだな」
溜め息一つ吐くと、羞恥で呆然としている彼女を抱き寄せ、慰めるごとく頭を撫ぜた。
「すみませぬ。はしたない真似を…」
彼の人の胸に顔を埋めながら(この礼は万倍にして返してくれようぞ)と心の底で誓う晴明であった。
が、一方の頼光は、騙されていたとは居え、彼女の意外な一面を見た様な…。
少なからず嬉しく思い(後程それとなく綱に礼をせねば)と思うのだった。