「今宵は何が有っても決して館の外には出られませぬ様」  
寝所を整え退室する際に、貞光が言い残して行った言葉だ。  
初めは然程気には留めなかった。  
寧ろ、晴明の留守を預かる身として何か有ってはならぬとの彼女なりの心使いであると思っていたからだ。  
だが、いざ床に就き眠ろうとすると、何とも例え難い違和感を覚えた。  
燈明の灯りに照らされた室内は普段と変わらぬ、だが何かが違うと己が肌を伝って感じる。  
火を吹き消すと、妻戸の僅かな隙間より月明かりが射し込む。  
頼光は目を閉じ、耳を澄まし意識を集中させた。  
 
 チャリ…ジャリ……  
 
中庭の玉砂利を踏む音であろうか…何かが居るのが判る。  
其れは音からしても小さい生き物である様な…。  
 『獣が迷い込んだか…』  
妻戸に手を掛けるが、貞光に言われた言葉を思い出す。  
暫し躊躇し考えるが、館の外に出ねば良いのだと結論付け、僅かに戸を開けた。  
そして外の様子を伺えば、眩いばかりの月の光。  
視線を巡らせれば銀色の光を淡く放つ一匹の狐が居た。  
 『何と見事な毛並であるか…』  
あまりに美しい姿に目を奪われ、息をするのを忘れそうになる。  
よく見ると、光を放って居たと思われたその体は、白く透き通る毛に月明かりが反射している所為だと気付いた。  
白狐は何をするでもなく、唯々静かな佇まいで空を仰ぎ見ている。  
 
何れ程の刻が経っただろうか…。  
暫し見つめて居ると、狐の体が霞掛ったかの如くぼやけ、光の中に包まれて行くかの様な…。  
頼光は目を擦り、再び外に視線を戻した。  
 「な…」  
思わず身を乗り出し、凝視する。  
朧になった狐の輪郭は、光と混じり形を変えて行く。  
そして成すは人の姿…。  
頼光は正に『狐に抓まれた』様な光景に呆気に取られていた。  
 
次第に明確になって来るその貌…。  
 
肌は狐の毛色と同じくして白く透き通り、美しい曲線にしてまろい肢体。  
顔は背を向けている為見えないが、恐らくは…。  
頼光は首を振り思考を絶つと、傍らの剣を手にした。  
 『姿に惑わされては為らぬ…此れはあやかしぞ…』  
頼光は一呼吸して後、勢い付けて庭に躍り出た。  
あやしの者は、僅かに首を横に向けたが、別段驚いた様子も無く、かと言って構える様子も無く…。  
 「其処なるあやしの者よ、何をしに此処へ参った?返答次第では容赦はせぬぞ」  
相手の出方を様子見て、頼光はそう言い放った。  
 「今宵は外へ出てはならぬと…貞光に言って有った筈だが…」  
聞き覚えの有る声に頼光は眉をひそめて、今一度問掛けた。  
 「お主…何者ぞ?」  
問われる彼の者は、溜め息を一つ付くと少し待つ様に言った。  
手を髪に運び、梳る様に数本抜き取ると、其れを符の代わりとして呪を唱えた。  
頼光は気を張り詰め、何時でも剣を構える事が出来る様にと柄を握り、其の者の仕草を注意深く見守って居た。  
彼の者は、呪より作りし衣をゆたりと纏うと、漸く頼光の方を向いた。  
 「待たせましたね…」  
振り向きしその顔に頼光は驚愕した。  
 
 「晴明…か…?」  
だが、そんな筈は無かろう思う所為も有り、剣の柄に手を掛けたまま…。  
 「正か貴方に斯様な姿を見られてしまうとは…」  
そう言い、『晴明』はゆっくりと歩み寄った。  
そして白い手を頼光の柄に掛けた手にそっと添えた。  
途端、脱力感に襲われてあわや剣を落としそうになるも、それを地に突き立て自重を支える。  
 「何をした…」  
訝し気に問うと  
 「済みませぬ…。ですが…」  
ちらりと剣を見やると  
 「信じて頂けましょうか…」と呟く。  
頼光は暫し考えると諾し柄より手を離した。  
 「して、其方は一体何者ぞ?」その場に腰を落ち着けると本題を切り出した。  
まだ警戒を解かぬのか、剣の横に侍る。  
 『成程…噂に違わぬ武人であらせられる。』  
晴明は小さく頷くと、ぽつりと話し始めた。  
 「先の事でお判りと存知ますが、私は只人に非ず。ですが…妖鬼とも言えぬ存在にござります。  
  …貴殿方が『月』と呼びし処からこの地に降りて参った者でございます」  
そう言い空を仰ぎ見る。  
頼光も自然とそれに習い、その白き玉輪と彼女の横顔とを交互に見比べた。  
 『成程。人を魅了する程の貌はそれ故か…』  
 
 「して、月の眷属を語る其方が何用でこの地に参ったのだ?そして何故私を現世に呼び給うた?」  
 「貴方を黄泉返らせたは…眠りの場で申した通り…あの言葉に偽りはございませぬ。この地に降りて参ったのは…」  
晴明は遠くを見つめると、少し考える素振りを見せた。そして淡く微笑むと  
 「人に焦がれ、人と成りたいとの想いが有ったからでございます。」  
月明かりに照らされた彼女の笑顔に、どうして疑いを持てようか?  
頼光は脇に突き立てた剣を引き抜くと、それを両手で差し出し深く頭を下げた。  
 「済まぬ…其方を疑ってしまった…」  
晴明は少し驚いた表情を見せたが、再び微笑むと  
 「信じて頂けて嬉しゅうございます。」  
と頼光の前に膝を付いた。  
 「して、もう一つお聞き致すが、其方は如何して斯様な時分に表へ?日中館には居らなんだ様子であったが…」  
頼光は面を上げると、先と同じく膝を崩して座した。  
 「はい…最早隠すつもりはございませぬ。お話し致しましょう」  
偽りは言わぬとの意志を示す為であろう、真っ向から視線を合わせて 晴明は語り始めた。  
 
 「この地に住まう者達に陽の光が必要な様に、月の者である私にはこの光が必要不可欠なのです。  
  この地の者らを昼の住人とするならば、私は云わば夜の住人…。私は月の力を身の内に蓄え巫力として居ります。  
  故に日中あまり討伐に出る事が出来ませぬ。」  
晴明が強大な力を持って居るのは知っていたが、然し、かと云って率先して討伐をしている訳では無く、  
どちらと言えば、助言や策を下したりと…。  
彼女自身が修伐すれば、妖鬼共は立ちどころに消え失せように…なのに何故…そう疑問に思って居ただけに酷く納得がいった。  
 「そうであったか。なれば今宵の月の如く望月なれば、其方の力もより強大なものになろうな…。  
  差詰め、遠き地にて一仕事終えて参ったと言った所であろう」  
労う様に笑い掛ければ、彼女は小さく頷いた。  
 「では、今宵はこれまでとするか…」  
腰を上げ館の内へ戻ろうとする頼光を手で引き留めると。  
 「この事はどうか内密にして頂きたく…それと…」  
やや躊躇し口ごもる。  
 「まだ何用か?」  
先を促されて、晴明は口を開いた。  
 「その…月陰の時は私は動く事もままなりませぬ故…其の時はどうか…」  
 「あい判った。其の時は必ずや力になろうぞ」  
頼光は強く頷くと館の内へ戻って行った。  
その頼もしい後ろ姿を見送り、そっとその背に語りかける。  
 『真…我が刃たるにふさわしき武人ぞ』  
 
一人中庭に残された晴明は満足気な表情で空を仰いだ。  
 『必ずやこの刃でお前を滅してくれようぞ』  
 
日を追う毎に増える妖鬼共の数、それに比例し討伐に赴く数も自然と増えていった。  
 「こうも立て続けに蟲退治とは、流石の儂でもいい加減嫌になるぞ。やはり元を絶たねばキリが無いか…」  
館に着くなり綱が言う。  
 「此所数日、晴明殿が奴らの塒を探って居った様じゃが…どうしたもんかのぅ」  
続いて季武が門を潜って来た。そんな二人を貞光が出迎える。  
 「晴明様は庵の方へ居られます。明後日には戻られましょうが…。討伐の件は伺っておりますので、公時が戻りましたら皆で話を…」  
 「頼光はどうした?」  
館の内を覗き込む様に見、綱が問いかけた。  
 「頼光様は遠くの討伐の地に向かわれるとの事で、今朝方晴明様と共に館を出られました」  
 
最も天に近く、そして最も清洌なる場所…  
天の麓…そう呼ばれる場所に辿り着いた時、一番最初に頭に浮かんだ言葉である  
 
 「大丈夫か…?」  
己の肩にしがみつき、今にも倒れそうになっている晴明を、頼光の逞しくも細い腕が支える  
 「情けのぅございます」  
晴明は薄く笑うと溜め息を一つついた。  
 「よし」  
頼光の声に何を?と顔を上げた時、不意に晴明の体が宙に浮いた。  
 「なっ…!何を!」  
頼光は晴明の体を軽々と抱きかかえると、そのまま歩きだした。  
 「庵までは後少し、自分で歩けます!降ろして下さいませ!」  
腕の中で暴れる晴明に  
 「後少しの距離を歩くのも危ういのだから、おとなしくして居られよ。さもなくば落としてしまうやも知れぬぞ」  
少々脅しを含んだその言葉に、彼女は閉口した。  
庵の側迄来ると、晴明は此処で降ろす様言った。  
 「この辺りからは呪が施して有る故…」  
頼光に支えられながら、印を切る。すると靄が掛っていると思われた辺り一帯の視界が開けて来た。  
 『成程…結界か…』  
再び抱き抱えようとする頼光に、首を振って断ると肩に手をかけ歩く様促した。  
庵の内に入ると、其れは僅か1間の部屋が有るのみで、その事からも彼女1人の為だけに在る建物だと言う事が判る。  
晴明は烏帽子を取り腰を落ち着けると、頼光にも着座を勧めた。  
 「此処は高地故に、月の力も幾分か強い。私には此処が一番落ち着くのです。」  
格子戸の隙間から僅かに射し込む日の光…  
其の光が短く消えゆく様子を見ながら、呟いた。  
 
 「して、此度は如何なる用件で此処へ連れて参ったのだ?」  
沈黙を破り、頼光が口を開いた。  
 「頼光…望月の夜に交わした言葉を覚えておられるか?」  
忘れ様筈も無い…。狐より人の貌と成りしあの光景…其れに信じ難い事実を突き付けられた衝撃と動揺…。  
今だ昨日の出来事の様にも思えて来る。  
 「嗚呼、だが月隠まではまだ日が有ろう?」  
 「そうですが…最近の妖鬼供の動き…早急に元を絶たねば取り返しがつかなくなるやも知れませぬ。」  
冷静に見える彼女の表情にも、些か焦りの色が伺える。  
 
確かに…。此処数日の間に、もう何十回と討伐に赴いている。  
頼光とて例外ではなかったが…、浄化の能力の違いからか、  
将又 仮初めの身体ゆえにか…差程疲れを感じては居なかった。  
然し、四天らの疲労は相当な物となっているのであろう。この間なぞ珍しく愚痴を零して居た。  
 
彼女なりの気遣いと云った所か…。  
 
 「その元へと、私に?」  
 「はい…ですが其処は結界により固く閉じられて下ります故、私も共に参ります。  
  討伐は、妖鬼供の力が弱まる月隠…ですから、直ぐにでも力の回復をせねば」  
意味する所を悟り、頼光は頷いた。  
 「判り申した。して…私は如何すれば良いか?」  
 「難しい事ではございませぬ。其方の身に宿る巫力を少し分けて下されば良いのです」  
そう言うと、頼光の肩に手を添えた。  
 
 「!」  
途端に合わされた唇…。  
あまりに突然の出来事で、頼光は只目を見開くのみでどうする事もできなかった。  
晴明は、困惑している頼光を気にも留めず、貪るかの如く唇を重ねる。  
が、頼光は正気に戻ると彼女の肩を掴み押し離した。そして口許を拭うと一喝。  
 「いきなり何を為さるか!其方は!恥を知るが良い!」  
晴明には、頼光が何を怒っているのかが判らず只呆然としているのみ。  
 「私は…只貴方に巫力を分けて頂こうと思ったまでの事。」  
掴まれた箇所が痛むのか、晴明は肩を擦りながら呟いた。  
 
 「巫力を?然し其方は妖鬼からは手を介して獲て居ったと思ったが…」  
やや壁際に後退りしながらも尋ねる。  
 「外皮より獲られる巫力など僅かに過ぎませぬ。  
  ですが、身の内ならばより多くの巫力を獲る事が出来ます。頼光…お嫌でしたか?」  
首を傾げ覗き込む様に問掛ける。  
頼光はわざと視線を反らすと  
 「そう言う訳ではござらぬ。然し…」  
判らないと言った表情の晴明に呆然となる。  
 
 『もしやこの者…この行為に如何なる意味が有るのか知らぬ訳ではあるまいな…』  
 
 「良いか?晴明…こう言う事は幾等私でも…」  
どう言えば良いのか考えあぐねていると  
 「力になって下さると申したでは有りませぬか?其れを今更断わるおつもりですか!」  
 「そうではない!斯様な行為は想いを寄せる者同士が致すもので…其方は判らぬのか?」  
おそらくは図星であろう…晴明の顔が朱に染まった。  
 「知らぬであったのならば、致し方無い。人あらざるなれば直の事」  
その言葉に気を悪くしたのか彼女は形の良い眉を吊り上げた。  
 「私は!人にございます!」然し、其の口調も弱まり  
 「人に……なりとうございます…」  
そういうと、力なくその場に臥してしまった。  
頼光は彼女にそっと近付くと優しく髪を撫でた。  
 「すまぬ…其方の気も知らず」  
 「頼光…教えて下さいませ。如何すれば人に成れましょうか?」  
そう問われても、頼光には答えられる筈もなく、ただ彼女をあやすかの如く頭を撫ぜてやるのみだった。  
 
二人の間を静かに刻が流れる。  
 
ふと晴明が顔を上げた。  
 「頼光、成れるやも知れませぬ!」  
ぱっと目を輝かせて、子供の様な顔で頼光を見やる。  
 「成れるとは…?人に…と申すか?」  
半ば信じられぬといった表情で後ずさる。  
其れは本能的であると言おうか、心の奥底で警鐘が鳴ったからなのかも知れない。  
次に晴明の口より発せられた言葉は、頼光を愕然とさせた。  
 「貴方の巫力溢るる精血を私に注ぎ込んで下さいませ。」  
 
 「ばっ、馬鹿を申すでない!その様な事、出来る筈無かろう!」  
白い顔を真っ赤に染めあげ、頼光は怒りと困惑の表情を露にした。  
 「何故でございますか?人と成ればこの様な煩わしい思いをせずとも…。私は…人に成りとぅございます。  
  お願いでございます。私の望み…聞いては頂けまいか?」  
壁際へ追いやられて観念したのか…晴明の望みに耳を傾ける気になったのか、  
頼光は深く溜め息を付くと姿勢を改め彼女に向き合った。  
 「良いか、晴明。その…其方の気持ちも判らぬ訳ではないが…」  
困惑の表情を浮かべ、視線を彷徨わせる頼光。  
それに苛立ちを感じたのか、晴明は瞑黙すると、すっと立ち上がり徐に自らの着物を脱ぎだした。  
頼光が止める間もなく露になる白い肌…。  
内着ははおったままであるが、薄明かりに透けまろい肢体が浮かびあがる。  
頼光は思わず息を呑んだ。  
 
晴明はゆっくりと頼光の前に歩み寄り膝を折ると、彼の人の頭を抱き込みそっと耳元へ囁く。  
 「此れが何を意味するかは存知て居ります。生前の想い人も居りましょう…ですが、  
  全て打ち明けた今、貴方にお縋りするしか無いのです。」  
僅かにくぐもった声に返す言葉も無く…頼光は肩に掛った彼女の腕をそっと外した。  
 「純潔を差し出す程の覚悟であられるか…然し…」  
彼女の肩に手を添わせると僅かにその身が疎んだ。  
晴明自身もに戸惑って居るのであろう。  
 「…判った…。然し私は己に気持が無い者を抱く事は出来ぬ。この一時、人として…想い人として身を委ねられよ。  
  私も其方を想い人として慈しむ事お約束致す。」  
 「…仰せの通りに…」  
小さく頷く彼女を見留めると、その頬に掛る髪をそっと払い、細い顎を捉えた。  
 「良いか…?」  
その問いに諾と答える代わりに、口接けを強請る様に目を閉じた。  
頼光は晴明の形の良い唇を指でなぞると、静かに自分の其れを重ねた。  
 
優しく触れ合う心地、伝って流れ込む巫の力…衣越しに彼の人の熱を感じる。  
触れるだけの口接けに焦燥感を駆り立てられたのか、晴明は彼の人の衣を引き更に深く唇を重ねた。  
背に回されていた腕が腰に落ちると、力で彼の人の胸に引き込まれる。  
そうかと思えば、其の身は傾ぎ床に倒れ込んだ。  
不意に離れた唇、晴明が目を開けると己を伺う様な表情の頼光が映る。  
 「如何がなさいましたか?」  
訝し気に問う晴明に、『何も』と首を横に振った。  
然し、頼光の脳裏に過ったのは、生前の遠い記憶。  
 
 『あの時も…同じであった…』  
 
気持を振り払う様に、今一度首を振ると心配そうに自分を見上げている彼女の頬に口接けた。  
 「何を考えておいでですか?話して下さいませ。」  
先程の間が余程気になったのか、晴明は怒った素振りを見せた。  
頼光は、誤魔化し等は通じぬだろうと観念し、身を起こすと彼女の側に横たわる。  
片腕は己の頭を支え、もう一方の腕は…胸元で組まれている彼女の手に。  
まるで幼子を寝かし付けるかの如く語り始める…。  
 
 
語るは古く遠い話…。  
 
己の宿命を受け入れる事を拒む男の元に、輿入れさせられた娘の話。  
それは男にとっては、枷としてであり、娘にとっては親の出世の道具としてのものであったが、  
それでも現実を互いに認めねばと…漸く思い始めたその頃…。  
朝より下されたとある命。  
 
 『源満仲に天寿を賜われ。』  
 
この身に流れる血を、運命を呪って居なかった訳では無いが、父は己にとって、人として誇りであり…  
亦唯一無二の存在であった…故に、命に背き全てを投げ出した。  
 
 
 「其の…彼の娘は如何なさったのですか?」  
静かに聞いていた晴明が不意に問掛ける。  
 「身投げしたと…追手の一人から聞いたが…真かは知らぬ」  
 「彼の娘の存在が…まだ貴方の心に在るのですね」  
 「否…」  
悲し気な晴明の視線に、否定する。  
 「気の毒な事をしたと思って居る、然し今ではもう…顔すら思い出せぬ。  
  彼の者も…想う人と添い遂げて居ったのなら、斯様な事にはならなんだであろう」  
 「私は、此度の事を悔いたり致しませぬ。寧ろ…本望にございます」  
真っ直ぐと己に向けられた眼差しは澄み、決意めいたものさえ感じる。  
そして彼女は両腕を…頼光を迎える如く延ばした。  
差し出された腕の片方を引き、彼女を胸に抱き寄せる。  
晴明は彼の人に跨りながら奪う様に口接けた。  
 「せ…晴明!其方の接吻はまるで噛みつかれて居る様だ」  
眉を寄せ呆れ顔の頼光に、少し怒った素振りを見せる。  
 「其の様に申されても…では貴方がして下さいませ」  
 
身を返して、再び晴明を捺し包むと、肩から漆黒の御簾が彼女を覆う。  
そして淡く…次第に深く重ねられる唇…。  
息苦しさに唇を開けば、彼の人の舌が滑り込んで来た。  
反射的に拒もうとする彼女の肩に手を掛け、なだめる様に擦る。  
晴明は、舌を絡み取られ、擦られ…嘗て味わった事のない感覚に戸惑いを覚えながらも、  
心地よい快楽の淵へと意識が引きずり込まれて行く…。  
息遣いは次第に荒く、吐き出される吐息は甘美なものへと変わっていた。  
 
 『嗚呼…、此れが…接吻と云う物なのか…』  
 
肩に添えられた手が、ゆっくりと降り、彼女の身を僅かに覆っていた衣を解いていく。  
口接けは瞼に…そして耳元へと施される。  
頼光の熱い吐息が首もとに掛り、晴明は擽ったいのか体をピクリと動かした。  
唇が首筋へと落ちるに至り、彼女の背筋をゾワリとしたものが走る。  
 「あぁ…」  
晴明は堪らずに声を上げた。  
それは今迄発した事の無い…色の有る声。思わず己の指を噛み、声を殺した。  
 
それは今迄発した事の無い…色の有る声。思わず己の指を噛み、声を殺した。  
手は肌を滑り柔らかい曲線を辿って行く。  
口接けは更に胸元へと落ち、そして時折軽く吸い上げ雪上に花を散らす。   
頼光が躊躇いがちに房に触れると、其れは今まで感じた事の無い程に柔らかく、思わず其の手に力を込めてしまった。  
 「ふっ…あぁっ…頼光…」やるせなげに身を捩りながらも、晴明は何かを訴え様とした。  
 「すまぬ…」  
彼女が痛がっているのだと受け取り其の手を緩めた。  
 「斯様な戯れなど…無用にございます。早く我が内に…注いで下さいませ。」  
…矢張りと言うべきであろうか…晴明の情交に対する感覚が今一つずれているのを感じ、頼光は溜息をついた。  
 「晴明…焦るのは判るが、このまま致しては御身を傷付け兼ねない…。初めて迎えるので有れば尚の事」  
 「傷…でございますか?痛いので有りましょうか?」  
首を傾げて問いかける彼女の姿に、一瞬苦い笑いを噛んだ。  
 「私は男故に判らぬが…出来うる限りは配慮致す。身を…委ねて頂けまいか?」  
 
頬を紅く染め、晴明はコクリと頷いた。  
頼光は優しく微笑むと、彼女の横髪を梳き頭を撫でた。  
 
然し、見るほどに引き込まれそうになる美しき肢体…。  
望月の夜に目にした時には、警戒心が先に出て、そんな心の余裕なぞ無かったが…。  
そして柔らかく滑らかな肌…。  
戯れは不要だと言っておきながら、触れる度に発せられる艶を帯びた声…。  
 『心迄をも囚われそうであるな…』  
豊かな胸の谷間に顔を埋めながら、今互いの間に情が無い事を些か悔いた。  
 
晴明は、次第に不可思議な心地をその身に感じ始めた。  
体中が熱に浮かされたが如く熱り、息が上がる。  
 『あ……!』身の内より熱い何かが流れ落ちる…。  
 「ら…頼光…」  
何やら不安を感じたのか、彼の人の背に腕を回し其の名を呼んだ。  
 「如何致した?」  
愛撫する手を止め彼女の顔を伺うと、今にも泣き出しそうな表情の晴明。  
普段の凛々しさは何処へ行ったのやら…。  
然し、其れが一層彼の人の情欲の焔を煽る。  
 「何か…おかしゅうございます…その…」  
顔を朱に染め、恥ずかしそうに口籠る。  
 
続く言葉を待つ頼光だが、彼女は固く目を…口を閉じ、耳までも紅く染めた。  
その様を見て、頼光は一つの結論に到った。  
 「もしや其方…感じておるのか…?」  
 「あっ…!!」   
図星とばかりに顔を背ける晴明、。  
 『何と分かりやすい…』  
頼光は思わず口の端を釣り上げ苦笑した。  
そして彼女の膝を折り脚を広げさせると、眼前に秘部が晒される。  
それには流石に抵抗が有るのか、晴明は抗議の声を上げた。  
 「やっ…斯様な格好……」  
然し頼光は意に介さず、晒された柔い秘肉をそっと掻きわけた。  
トロリと流れ出る蜜は、薄明かりに煌めき酷く艶かしい。  
 「何を為さるおつもりですか…」  
上擦った声で問い掛ける彼女に  
 「多少痛むであろうが…必要な事ゆえ…。失礼致す」  
そう言うと、そっと花弁を開き其所に口を寄せた。  
溢れる蜜を舐めとり未だ柔らかい花芽を舌先で転がす。  
鮮烈過ぎる刺激から逃れようと、背を反らせ脚を閉じようとする。  
然し彼の人の肩に乗せられた膝は閉じる事叶わない。  
 「あぁ…いや…あ、んっ…」  
 
身を捩り甘い声を漏らす彼女は、人の『女』其のもので、  
甘く絡み付く陰の気は頼光の理性を少しずつ溶かしていく。  
 
彼女の奏でる音色が虚空に放たれ、静まり返った闇に消え入る…  
 
唾液と蜜で蕩けた其処は、誘うが如く揺らめく。  
溢れる蜜を周囲に撫でつけ、緩く内を解き解していく。  
晴明が、挿し入れられる異物感に、漸く馴れ始めた頃、頼光はゆっくりと身を起こした。  
己が帯を解き、衣を落とせば、薄明かりに浮かぶ仮初めの白い肌。  
細面には画き難き体躯は、矢張り武人の物と言うべきか…。  
彼の様を見、晴明は息を飲んだ。  
 「良いか…?後には…退けぬぞ」  
彼女の意思を今一度確かめる。  
 「お願い致します…」晴明は小さく呟いた。  
頼光は彼女を漆黒の御簾で包み、口接けを落とす。  
指を絡め、床に縫い留めると、徐々にその身を彼女の内に沈めて行く。  
頼光は彼女を気遣い、始めは浅くゆっくりと抽挿していたのだが、  
それこそ妖しの気に浮かされたのか、次第に烈しくその身を穿ち、求めるようになっていった。  
 
 

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