「ダ、ダメだよ……こんなところじゃ――」
最後まで言う前に口を塞がれる。
鼻腔に満ちる特有の甘い香り。
触れる程度の軽い口付け。でも、それだけで僕の腰は砕けそうになる。
それほどまでに僕は彼女に魅せられていた。
「だから……ダメだって…いばら…ぁ……ぅん……!」
突然、唇を割って舌が侵入してきた。
ぎこちなく、それでいて優しく。
まるで自らの意思を持っているかのように口内をまさぐり、僕の舌と絡み合うことを切望する。
このまま流されたい気持ちをグッと堪え、崩れかけた理性を必死に保った。
気が遠くなる時間が経ち、やがて卑猥な音をたてて唇が離される。
垂れ下がる唾液の糸は惜しむように僕といばら姫を繋いでいた。
「……どうしたの?」
僕が消極的なことに気づいたのか、上気したままの顔を向けながら彼女が訊ねた。
潤んだ翠の瞳が不思議そうに僕を覗き込む。
「だ、だって、ここ――」
言葉を濁し、僕はこの狭い個室を目だけで見渡す。
皮肉にも音は洩れにくいし、外からは中に誰が入っているのか分からない。
お世辞にも清潔だとは言い難い事を除けば、僕達の逢瀬の場にはうってつけの所である。
これほど都合のいい場所は僕の家には他にないだろう。
それでもあえて問題点をあげるとするなら――中央に鎮座する洋式便器が少し邪魔だということぐらいだ。
「……トイレだよ?」
密室が沈黙に包まれた。
いばら姫はしばし考えるような素振りを見せたものの、首を傾げて僕を見た。
「それが?」
思わずうなだれてしまう。
彼女にとって場所や状況などは些細なことらしい。
思い返せば、蜜月が始まって以来、いばら姫は暇さえあれば貪欲に僕を求めてきた。
隣で赤ずきん達が寝てるというのに強引に押し倒されて行為に至ってしまったことも