鬱蒼とした森の奥深く。元は木こり小屋か何かだろう、小さな廃屋があった。
「……ん」
グレーテルはゆっくり目を開けた。薄暗い屋内を見るにつれ、ぼんやりしていた意識が一気に覚める。
「えっ、何……!?」
グレーテルの両手は頑丈な蔓草で絡め取られ、足は僅かに地面から浮いている。
拘束され、宙づりにされているのだ。
グレーテルには何故こうなっているのか分からない。
エルデの鍵を三銃士から奪うため戦いを挑み、奮闘虚しく撃退された。そこまでは覚えているのだが……
「ようやくお目覚めか」
「お前は……」
声の主はグレーテルの目前で超然と腕を組み佇んでいた。
「いばら姫! これは何の真似よ!?」
「罰だ」
「罰?」
「ああ。前にも思い知らせたはずだが、私は眠りを妨げられるのが何より嫌いでな」
つかつかと歩み寄ったいばら姫は、指でグレーテルの小さな顎を掴み持ち上げた。
その眼光は覚醒時にだけ見せる威厳と迫力に満ちていた。グレーテルは芯から身が竦んだ。
「エルデの格言に仏の顔も三度までとあるが、あいにく私は悟りを開くに程遠い俗人だ。三度も狼藉を看過する気は毛頭無い」
触れ合いそうなほど近くまで顔を寄せ、いばら姫は噛んで含めるように一語一句グレーテルに言い聞かせる。
「お前にはちゃんとしたお仕置きが必要だと思い、捕らえさせてもらった」
「ふ、ふざけないで! すぐにこれを解きな…きゃあ!?」
いばら姫の手から棘の鞭が飛んだ。直接当てはしない。グレーテルの背後の壁を叩いただけだ。
全く抵抗の出来ないグレーテルにとって、それでも十分な心理的効果があった。
「誰に口をきいているつもりだ。そもそもお前が命令出来る状況か?」
「くっ……」
蔓は手首に幾重も巻き付けられている。解くのも切るのも、宙づりの状態では不可能だろう。ミッシンググレイブも使えない。八方ふさがりだった。
「私を……どうするつもりよ?」
「言っただろう。お仕置きだ」
いばら姫が軽く手を上げると、数本の蔓がグレーテルの小柄な体に殺到した。
「ひっ!?」
一本一本が意志を持つように、蔓はグレーテルの体中を這いずり回る。やがて衣服の下にまで潜り込んできた。
「痛っ……いやっ! やめてっ!」
グレーテルの叫びも意に介さず、蔓の群れは下腹部にまでその先端を伸ばしていく。
「やっ……だめっ! お願いやめて!」
「ならばこうだ」
いばら姫が無言で命令を下すと、蔓は一斉にグレーテルの衣装を引きちぎった。
「いやぁぁぁぁ!」
一瞬で衣服のほとんどを剥ぎ取られたグレーテルは、無惨な姿となって悲鳴を上げた。
「泣きわめいても、ここには誰も来ない」
植物を操って、この廃屋周辺は一時的に周囲から遮断されていた。今頃は急に居なくなったいばら姫を探して、赤ずきん達が右往左往しているだろう。
グレーテルは羞恥で顔を真っ赤にしながら、目に涙を浮かべていた。裸身を他人に晒すなど初めてだった。
微かに膨らんだ乳房には、桜色の乳首がぽっちり浮かび、白い太ももの間には固く閉じた割れ目が露わになっている。
恥丘にはうぶ毛しか生えていない。幼い性器は未成熟ゆえに背徳的な淫靡さを漂わせていた。
無理矢理に破いたため、体には衣服の端々が引っかかっていた。その姿は妙に嗜虐をそそる艶めかしさがある。
「なかなか綺麗な体をしているな」
「っ……!」
虚勢ではあったが、それでも怒りを込めてグレーテルはいばら姫を睨み付ける。
「ふふ……反抗的な目だな。実にしつけ甲斐がありそうだ」
「へ、変態っ!」
「すぐその無礼な口をきけなくしてやろう」
蔓がグレーテルの足に絡み付いた。ぴたりと合わせられていた両足を、無理矢理開かせていく。
「いやーっ!」
グレーテルは叫びながら抵抗するが、万力のような植物の力に抗う術もない。そのまま、まるで蜘蛛の巣に捕らえられた蝶のような格好になった。
「さて、始めようか」
広げられたグレーテルの股間に、いばら姫の鞭がするすると伸びていく。先端の花が柔らかな動きで秘所を撫でた。
「っ……ぁ…」
グレーテルにとって生まれて初めての刺激だった。自分で触った事すら無いのだ。恥ずかしさで顔が真っ赤になる。
浅く、だが執拗にそこを弄ぶたび、グレーテルの押し殺した声が響く。
「はぁ……っ……ぅ」
「見かけによらず良い反応を見せるな。どれ……」
鞭での行為をやめると、今度は直接いばら姫の手がグレーテルの薄い乳房に触れた。
「やっ……!?」
「案ずるな、優しくしてやる。最初は、な……」
首筋にそっと舌を這わせる。首筋から、鎖骨、乳房と舐める場所をゆっくり移していく。
「う……」
ぞくぞくと、未知の感触がグレーテルの背筋を走る。
いばら姫が指先で小さな乳首を弾くと、グレーテルの全身がびくりと反応した。
「ああっ……」
「いいぞ。私も興が乗ってきた」
言葉通り、いばら姫の瞳も淫らな熱と潤みを帯び始めていた。
淡く色づいた乳首を口に含み、軽く前歯を立てる。
「あぅっ!」
痛さとそれ以外の何かを感じ、グレーテルは声を上げた。
いばら姫は左手をグレーテルの下腹部に伸ばした。股間の割れ目を沿うように指を潜らせる。その内側はしっとりと潤んでいた。
「も、もう……」
「ん?」
「もう、やめて……いや……」
羞恥と怒りに充ちていたグレーテルの頭を、未体験の行為に対する恐怖が支配していた。
「お願い……もうやめて……お兄様、たすけて……お兄様ぁ」
小さな子供のように泣きじゃくりながら、グレーテルは兄を呼び続けた。
「……ヘンゼルのことか」
「お兄様……うぅ」
「グレーテル。もしやお前は自分の兄に懸想しているのか?」
「っ!? ……違う、そんなわけ……無い」
否定の言葉は弱々しいものだった。
「嘘だな。お前は兄を男として好いている。そうだろう」
「違う……違う……」
グレーテルは必死で頭を左右に振る。
その様を見ていばら姫の口に微かな笑みが浮いた。
「……グレーテル、ここに居るのはお前の兄だ」
「……お兄様?」
「そうだ。この手はお兄様の手。この唇はお兄様の唇。さあ、思い描いてみろ……」
グレーテルの目を強く見据えながら、いばら姫は虚言を繰り返す。
その言葉はグレーテルの耳朶を通し、次第に心まで絡み付いてくる。
「お兄様……あ、ああ……」
いばら姫の指が、グレーテルの秘所をまさぐっている。もしこれが兄の……ヘンゼルの物だったら――
「あぁうっ!」
そう考えた途端、グレーテルの体が燃やされたように熱くなった。
「ふふ……兄にされていると想像しただけで、そんなに興奮してしまったか」
「違うっ! そんなんじゃ無いっ……!」
微かに残る理性が否定する。こんな事は、誰よりも慕う兄への冒涜だった。グレーテルは怒りと罪悪感で涙が止まらなかった。
だが感情と裏腹に、一度火が付いた体は火照りを抑えられない。
不意にいばら姫の唇がグレーテルのそれと重ねられた。
「んっ!?……んんっ」
いばら姫が柔らかな舌をグレーテルの口内に侵入させていく。二つの舌先が触れ合い、絡み合う。
「ん〜……っ!」
無理矢理に唇を奪われたグレーテルは首をよじり逃れようとする。だがいばら姫は逃すことなく、その唇と舌を吸い続ける。
まるでいばら姫の舌がグレーテルの口を犯しているようだった。
やがてグレーテルがその目に陶酔を浮かべてきた頃、いばら姫が唇を引いた。淫らな吐息を感じさせる口元から、どちらの物ともつかない唾液が糸を引いて落ちる。
「さあ、お兄様がお前の体を愛撫しているぞ」
いばら姫の言葉は砂に染みる水のように、朦朧としたグレーテルの思考に溶けていく。
「あっ……お兄様……っ」
一度想像してしまったせいで抑えが効かなくなったか、グレーテルは兄の幻影を描く行為を止められなかった。
いばら姫の指がグレーテルの秘所を執拗に弄り続ける。首筋や乳房へキスの雨を降らせる。
「んっ……いや……ふぁ、あ」
甘く乱れた息が声に混じる。いばら姫の愛撫を受けながら、グレーテルの脳裏には愛しい兄の面影ばかりがあった。
「お兄様……お兄様ぁ……ああっ」
ひたすら兄を呼びながら、いつしかグレーテルの顔は恍惚に染まっていた。
思考力の低下につれ、怒りより喜悦が、罪悪感より快感が勝ってきたらしい。
唐突にいばら姫は行為をやめた。
「……嬉しそうだな、グレーテル」
さっきまでと打って変わり、いばら姫の声音は淡々としていた。
「はぁ……はぁ……お兄様……」
グレーテルは汗ばんだ胸を上下させながら、おあずけを食らった犬のような目をしている。
「だが、これではお仕置きにならない」
パチリと指を鳴らす。途端、床下から夥しい数の蔓が生え出てきた。
「多少は加減するつもりだったが……気が変わった」
ぬらぬらと蠢く植物の群れは、従順な猟犬を思わせた。ひとたび主の命を受ければ、全力で獲物に食らいつくだろう。
「ひっ…」
グレーテルの目に、再び恐怖が宿る。
「やはり容赦なく辱めてやろう……やれ」
「いやああああああああっっ!!」
悲鳴は虚しく響きわたる。グレーテルの受難はこれからが本番だった。