草木も眠る丑三つ時……というほどではないが、それなりに夜更け。涼風家の草太の部屋。最近になって急に増えた寝息の数以外は、静かなものだった。  
 人の立ち上がる音がして、ベッドの上の草太がぼんやり目を覚ました。誰かがお手洗いにでも立ったのだろうと思い、すぐに目を閉じた。  
 音の主は赤ずきんだった。  
 数分後、階段を上る足音、次いで部屋の戸が開く音。草太は半分以上眠った意識でそれを聞いた。  
 音は部屋の中を歩いて、ヴァルと白雪姫が寝ている布団――を素通りして、草太のベッドに潜り込んできた。  
「…………ん?」  
 違和感に草太が再び目を覚ました。それと同時に、背中へ柔らかい感触が。  
「ん〜……ムニャムニャ……」  
「え……あ、赤ずきん?」  
「くー……zzz」  
「な、なんで……?」  
 赤ずきんは、どうやら寝惚けて草太のベッドの中に入り込んできたようだ。何でまたそんな器用な寝惚け方をするのかこのアホの子は。……とは草太も言わない。  
 既に寝入っているらしい赤ずきんは、草太を抱き枕とでも思っているのか、背後から両手を回して抱きしめてきた。  
(うわ……!?)  
 焦る草太。背中へは確実にふにふにとした二つの膨らみを感じる。  
「ふにゃ……ん〜……」  
 ぎゅうう、と締め付けるように強く抱きついてくる赤ずきん。  
(う……苦し……)  
 なりは小さくてもやはり剣士。見かけよりずっと腕力がある。その力で締め付けられる草太はいい迷惑だったが。  
 草太も寝る時はついタオルケットや毛布を抱きしめる癖があるので、赤ずきんの気持ちは分かるが――  
 ……と、草太の肋骨あたりを締め付けていた腕が不意に緩んだ。  
(い、今だ!)  
 その隙を逃さず、草太は体をよじって赤ずきんと向き合った。  
(…………って、違う! 何やってんだ僕は!?)  
 自分で自分につっこむ草太。まず赤ずきんから逃れるべきであろうに、向かい合ってどうするのか。  
「んにゃ……」  
 またしても寝惚け赤ずきんが草太に抱きついてくる。しかも今度は前から。  
 部屋は暗いが見えないほどでもない。赤ずきんの無防備な寝顔が、草太のすぐ目の前にあるのがはっきり分かった。  
(うわっ……)  
 さすがにやばいと思った草太は何とか身を引いて距離を取ろうとする。ほとんど無駄な抵抗だった。  
 何より草太自身、考えまいとしてもこの状況に男子として反応せざるをえない。  
 追い打ちを掛けるようにやばいのは、暑いせいか赤ずきんのタンクトップがかなり上にずれていることだった。小振りな乳房の下半分が見えている。  
 もう少しずらせば乳首が見えてしまいそうなその姿に、草太はつい生唾を飲んだ。  
 ふと、草太の手が動いた。まるで無意識に吸い寄せられたように。  
(ぼ、僕は何を……!?)  
 慎重に、音を立てないよう、草太の手は赤ずきんの胸を目掛けて伸びていく。  
 そしてその一寸手前で静止した。  
 
(何を考えているんだ僕は――!?)  
 草太の中の理性が叫ぶ。だが本能はなお手を動かそうとそこに力を込める。  
(落ち着け! 落ち着くんだ涼風草太!)  
 赤ずきんの姿を視界から消そうと草太は目を閉じる。だが無駄だった。近すぎる寝息が強調されるだけだ。何となく良い匂いまでする。  
 葛藤に葛藤を重ねながら、草太の指先は徐々に、だが確実に赤ずきんの胸へ伸びていく。  
 草太の指先が最終防衛ライン、あるいは阻止限界点へ到達しようとしたその時……  
「ん〜」  
 赤ずきんが一瞬だけ腕を緩めてから、今度は草太の頭を抱えるようにしてきた。自分の胸元へ。  
「いっ……!?」  
 手で触れるどころではない。草太の顔面にタンクトップ越しの膨らみが思いっきり押しつけられた。  
 酸っぱい汗と、ほのかに甘いミルクのような匂いが交ざり合い、草太の鼻孔を刺激する。  
(うわぁ〜!)  
 草太は声にならない悲鳴を上げる。胸元に抱き寄せられ、身動きもままならない。  
 男として嬉しい状況でないのかといえばそうなのだが、動けない上に動けたところで何か行動が成せるはずもない。  
 股間のイチモツは勃起していたが、それを静めてやることもままならない。生殺しだ。  
(しかも眠れないよ、このままじゃ……)  
 心臓は破裂しそうに激しく脈打ち、体中が熱くなっている。  
「ムニャ……もう食べられないよ〜……zzz」  
 そんな草太の心情も知らず、赤ずきんは絵に描いたような寝言を呟いていた。  
(………………これだけ熟睡してるなら――)  
 いっぱいいっぱいだった草太の脳裏に、ふと邪な思考が走った。  
 赤ずきんの腕がまた緩むのを待って、草太は体を少し離した。  
 大きく深呼吸し、思い切って赤ずきんのタンクトップに手を這わせた。布越しに控えめな乳房の膨らみを感じる。  
(とうとう触っちゃった……)  
 草太の心が罪悪感に陰る。しかし、ここまで来た以上もはや退けない。むしろ退くなと自分に言い聞かせる。  
 手を胸の上に置いたまま、しばらく赤ずきんの寝息を窺う。起きそうな気配は無い。  
 お互い横に向き合っていた姿勢から、草太は身を起こして、赤ずきんを仰向けにする。自然、草太が赤ずきんに覆い被さるような格好になった。  
 草太は赤ずきんのタンクトップを上にずらす。二つの小振りな膨らみが露わになった。  
 野性的な艶のある乳房に、淡いピンクの乳首がつんと浮き立っている。  
「ふぅー……」  
 額に浮いていた汗を拭う。自分の心臓の鼓動で赤ずきんが起きるかもしれない。そんな心配をするほど草太の胸は高鳴っていた。  
 可能な限り心を静めながら、草太は赤ずきんの胸をおっかなびっくり撫でてみる。  
「ん……んぅ……」  
 赤ずきんが僅かに身をよじった。草太は体を硬直させた。  
「……くー……」  
 また安らかな寝息を立て始めた赤ずきん。大きな安堵の息をつく草太。  
 
 赤ずきんの胸に顔を近付けてみる。甘酸っぱい匂いに、頭の芯がぼーっとなった。  
 乳房に恐る恐る舌を伸ばす。舌先が乳首に触れる。赤ずきんの体が微かに震えたような気がした。  
 もう一度寝息を窺う。変化は無い。  
 何度目かの深呼吸してから、草太は赤ずきんの乳首を口に含んだ。  
「…………草太?」  
「っ!?」  
 声に、草太の体が強張った。からくり人形のようなぎこちない動きで視線を上げると……赤ずきんはうっすら目を開けてこちらを見ていた。  
「ん……何してるの?」  
 尋ねながら、赤ずきんは眠たげに目をしばたいていた。  
(ね、寝惚けてる……のかな?)  
 普段から……と言っては失礼だが……多少ボケた面を見せる赤ずきんだけに、草太は判断に迷った。  
「ムニャ……草太ぁ」  
「な、何?」  
「えへへ……草太、赤ちゃんみたいでかわいー」  
「うわっ」  
 胸に顔を寄せていた草太を、赤ずきんの腕が再びロックする。  
(こ、これは寝惚けてるよね完全に!?)  
 パニック寸前になりながら、草太は反射的に赤ずきんの腕から逃れた。  
「どうしたの草太……もっとおっぱい触っていいんだよ?」  
 とろんとした目で草太を見つめながら、赤ずきんがそんなことを言い出す。  
「草太が触らないなら、こっちから触ろうかなぁ……」  
「ええっ……!」  
 思わず大声を出しかけ、草太は慌てて口を噤んだ。同じ部屋で白雪姫とヴァルが寝ているのだ。騒げば起きてしまうだろう。  
「ほら、草太のこんなに……」  
 赤ずきんがにじり寄る。草太は身を引きかけたが、背後が壁だった。  
 赤ずきんの手が、草太の下半身に伸びていった。パジャマのズボンがテントを張っているその部分に、優しく指が触れる。  
「やっぱり大きくなってる」  
「あ、赤ずきん……」  
 思いがけない状況に、草太の動悸はこの上なく高まっていた。赤ずきんはパジャマの中に手を入れ、草太のものを直接さすってきた。たちまち最大まで勃起してしまう。  
「すごいカチカチ……溜まってたんだね」  
 赤ずきんの指が、草太のものを上下に擦り立てる。  
「うわっ……ちょっ……」  
「ふふ……もっとしてあげるね」  
 明るい笑みなのに、どこか淫靡さを漂わせている。赤ずきんは頓着なく草太のパジャマをぺろんと下げてしまった。  
(ほ、本当に寝惚けてるの!? それとも起きてる!?)  
 草太の頭に疑念が渦巻くが、そんなことはすぐにどうでもよくなってしまった。  
 
 手で草太を愛撫していた赤ずきんは、小さな唇を亀頭に寄せた。  
「ん……ちゅ……ちゅ」  
 小さな音を立てて、先端に何度もキスする。柔らかい唇がカリ首を刺激する。  
「う……ぁ」  
「ちゅっ……ん……ふぁ」  
 キスを繰り返していた赤ずきんは、今度は丹念に舌を這わせていく。暖かい舌と唾液が、草太のものをまんべんなく濡らしていく。  
「んん……んぅ」  
 先端から漏れていた先走りの液体を、赤ずきんの舌が舐め取った。そのまま舌先が鈴口を舐る。  
「うわっ……」  
 草太の背筋が震えた。痺れるような快感だった。  
 舌で転がすように舐め回しながら、赤ずきんの口が先端部をくわえた。  
「はむ……ふ……ちゅ……んっ……ちゅ」  
 口の中で亀頭を舐り、右手は根元、左手は精嚢を優しく愛撫する。  
「ん……ぷはぁ……草太、気持ちいい? もうイキそう?」  
「う、ん……すごく……気持ちいい」  
 草太が答えると、赤ずきんは満足げに微笑んで、また亀頭をくわえた。そして口に含んだまま、顔を激しく前後に揺らしはじめた。合わせて手の動きも激しくなる。  
「っ……あっ、ああっ!」  
 絶頂間近だった草太は、その激しい攻めであっという間に達してしまった。  
 精液が勢いよく溢れ出る。赤ずきんは目を閉じて、それを口の中に受け入れた。  
「んぅ……んんっ」  
「く、あ……」  
 赤ずきんの口内で、白濁の液が何度も脈打って出てくる。目の眩むような快感だった。  
 赤ずきんは精液をこぼさず飲み込んでいく。小さな口の中に、草太は最後まで出し切ってしまった。  
「んく……ふぅ……いっぱい出したね、草太……」  
 赤ずきんは口の回りについた白濁液を指ですくい、それをぺろりと舐めながら微笑む。堪らなく淫らな仕草だった。  
「ねえ、草太ぁ……」  
「な、なに……?」  
 熱っぽく目を潤ませた赤ずきんは、草太の首に腕を回してしなだれかかってきた。  
「あ、赤ずきん……ちょっ、待っ……!」  
 慌てふためく草太に構わず、赤ずきんはぐっと体重を預けてきた。柔らかく、心地良い重さだった。  
「赤ずきん……あの、僕は――」  
「くー……zzz」  
「へ?」  
 響き渡るいびき。草太は赤ずきんの体を揺さぶり呼びかけてみる。  
「赤ずきん? ねえ? ……寝たの?」  
 草太にもたれながら、赤ずきんは普通に寝ていた。  
「な……何なんだよ、もう……」  
 脱力して、草太はベッドの上に倒れ込んだ。自然と赤ずきんを抱きかかえるような姿勢になった。  
 赤ずきんの寝顔がすぐ目の前にある。穏やかであどけないその姿に、劣情が失せていくのを感じた。単に一発出したせいかもしれないが。  
「はぁ……」  
 大きな息をついて、草太は目を閉じた。これは全て、夢だったのかもしれない。そんな考えが頭によぎった――  
 
 割と寝坊助な草太が、この朝に限って目覚めがよかった。というのも、ベッドの傍に異様な殺気が漂っていたからだ。  
「……おはよう」  
「お、おはようりんご……どうしたの、恐い顔して?」  
 毎朝のように草太を起こしに来てくれるりんごは、いつになく険しい表情を露わにしていた。  
「草太……」  
「はい?」  
 りんごは草太のベッドを指さした。  
「こ・れ・は……どういうことなの?」  
「どうって――うわっ!?」  
 草太の顔から血の気が引いた。タンクトップをはだけさせた赤ずきんが、草太のすぐ隣で寝息を立てていたのだ。  
 やはり夢などではなかった。昨晩、草太もあのまま寝てしまったらしい。  
「そ〜う〜たぁ〜……!」  
 ゴゴゴゴゴゴゴ……と効果音を背負ったりんごが、殺る気満々なオーラを立ち上らせる。  
「ま、待ってりんご! 誤解だよ! 昨日の夜、赤ずきんが寝惚けて僕のベッドに入ってきて……それで、えっと、その……」  
 その後の出来事を説明できるはずもなく、草太は言葉を詰まらせた。事実を踏まえれば誤解でも何でもなく、りんごの怒りは至極真っ当とも言える。  
「あ、赤ずきん! ねえ、起きてよ! りんごの誤解を解かないと――」  
 草太に揺さぶられた赤ずきんは、  
「ん〜……草太ぁ……そんなに激しくしちゃだめだよぅ……ムニャ」  
 最悪な寝言をかましてくれた。草太の背中に冷たい汗がどっと流れる。  
「この……」  
 りんごが腕を振り上げる。  
「ド変態ーっ!!」  
 朝から特大のビンタを喰らい、草太はベッドに沈んでいった……。  
 

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