「行ってきまーす」  
「行ってらっしゃい。気をつけてね」  
 
初秋の鈴風家。  
草太を学校に送り出した後、小夜は家の中の掃除にいそしんでいた。  
サンドリヨンを再び封印し、平穏な日々を取り戻してから2年が経つ。  
現在の彼女はこの町の地区センターでボランティア活動をしていた。  
地域に住む小さな子供たちの為に人形劇や絵本の読み聞かせをする子育て支援サークルである。  
今日も人形劇の舞台の設営があるため、家事を片付け昼までに出かけなければならない。  
必ずしも急がなければという焦りがあったわけではなかった。  
しかし草太の部屋でせわしなく掃除機を動かすうちに、ゴミ箱を引っ掛け中身を散らかしてしまった。  
 
「ああ、私ったらもう……」  
 
軽く舌打ちをしながら小夜は倒れたゴミ箱を起こし、ゴミを拾い集め始めた。  
その中の一つに手を伸ばそうとした小夜はハッとなった。  
指先にはテニスボールくらいに丸められたティッシュの塊りが転がっている。  
塊りの外側は所々、中から染み出している液体で湿っていた。  
小夜はそれが何なのかすぐに見当が付いた。恐る恐る塊りを開いてみる。  
白っぽい粘液がティッシュの内側に染み込み、余っている分がトロリと流れ出す。  
 
(…草太の……精液……)  
 
ハァ……と、それを見つめ何とも言えない溜息をつく小夜。  
息子が自慰行為にふけるのを不潔だとは思っていない。それは自然な成り行きである。  
草太ももう16歳の少年である。何もしてない方がおかしい。  
息子の成長は喜ばしいが反面、女を妊娠させる事の出来るその粘液が小夜を複雑な思いにさせる。  
――草太はどんな女性の胎内[なか]にこれを注ぎ込む事になるのだろう――?  
 
(りんごちゃん…とは……まだよ…ね……)  
 
そこまで考えて小夜はふと思った。オナニーには性的興奮を喚起するものが必要なはずだ。  
草太は誰を――いや、何を対象にしながら自慰していたのだろう?  
いわゆるエロ本か、アダルトビデオの類か。この部屋のどこかに隠している――?  
だが探している時間はない。手っ取り早く探る方法は一つしかない。  
彼女と夫の純太朗の間には、特別な場合を除いて魔法を使わないという不文律がある。  
しかしどういう状況を『特別な場合』とするかの取り決めはしていない。  
 
「これくらいなら……いいかしら?…いいわよね?…うん、いいわよ」  
 
半ば強引に自分を納得させると小夜は感応魔法をはたらかせた。感覚の鋭くなった指先で精液に触れる。  
ぬるっとした感触に小夜の体の中心をピン!とした緊張感が走った。  
頭頂から股間へ突き抜けるように――。  
この部屋のゴミは昨日の掃除の時に片付けている。とするとこのティッシュの中身は昨夜出したもののはず。  
“イキのいいうち”ならオナニーしている最中の草太の思念がこの精液から感じ取れるはずだが――。  
 
「ひゃっ!!」  
 
何かが脳裏に閃いた瞬間、小夜は小さく悲鳴を上げ、ティッシュの塊りを落としてしまった。  
濡れた面がペチャという音を立てて床に付き、流れ出した粘液で汚してしまう。  
だが小夜にとってそんな事は問題ではなかった。彼女は脳裏に閃いた草太の声に驚き戸惑っていた。  
 
「…草太……どういう事…?……」  
 
“お母さん、お母さん……”  
 
――それが指先から感じ取った草太の心の声だった。  
 
 
パラパラと雨粒が風呂場の窓を叩く音が聞こえる。風の唸りも夕方より増している。  
今夜は荒れそうだと、体を洗いながら小夜は思った。  
草太の部屋の思いがけない出来事から四日が経った。  
あの後、小夜は恥をしのんで10代の子を持つボランティア・サークルの仲間にその事を打ち明けた。  
実年齢こそはるかに下だが、子育ての実績では先輩格である彼女たちの意見を聞いてみたかった。  
もっとも草太が母親を想いながらしていた事はさすがに伏せていたが。  
結論からいえば、そっとしておいた方がいいというのが仲間の主婦たちの共通した意見だった。  
小夜は帰宅した純太朗にもその事を話したが、彼もそれについては同じ考えだった。  
思春期の男の子は家族に――とりわけ母親には自分の性欲の有り様を知られたくないと。  
さらに彼は気になる事を言っていた。  
 
“あいつは10年分の母親の愛に飢えているからな…女の人に歪んだ考えを持たなければいいが…”  
 
母親をオナニーの対象にするのは、その歪みの表われではないかと小夜は思う。  
彼女には二つの懸念があった。一つはその歪みの果てに『鍵の力』の暴走があるのではと。  
赤ずきんたちの話では怒りに駆られて草太が『エルデの鍵』の力を発現させた事があったという。  
幸い、サンドリヨンと対峙した時以外は大事に至らなかったがそれだけでも深刻な話だ。  
怒りまでとはいかなくても、心の飢餓感の果てにどんな感情を抱く事になるのか。  
もし万が一の事があったらフェレナンド王に申し訳が立たない。  
草太を守るという名目でエルデに留まる事を許してくれた若き王に会わせる顔がない――。  
もう一つの懸念は草太が本当に求めてきた時、自分はそれを拒めるのかと。  
草太の精液に触れた時、自分の体の奥が疼くのを小夜は感じた。  
 
(でも……そんな事があっていいの?……私が草太の初めての相手なんて……)  
 
体を洗う手が止まり、我知らぬうちに指が股間に伸びる。陰毛の中の花芯に指先が触れる。  
駄目、いけない――親子でそんな事――。  
 
 
「お母さん……ちょっといいかな……?」  
 
だしぬけに聞こえた声に小夜は身をすくませた。  
 
「そ、草太!? 何、いきなり!?」  
 
動揺しながら小夜は浴室のドアの方に振り向いた。ガラス越しに草太のシルエットが見える。  
 
「入っていい? 背中でも流してあげようと思って」  
 
何を言い出すのかと小夜は思った。よりによってこんな時に――。  
 
「い、いいわよそんな事……今さら……」  
「今さらじゃないよ。昔はよくしてあげたでしょ?」  
「昔は昔でしょ。あなた幾つになったと思っているの?」  
「だからさ…これから先、ますます一緒に入りづらくなるじゃない……ね、いいでしょ?」  
 
確かに草太の言う事にも一理ある。背中を流してくれるという気持ちも嬉しくはある。  
だが今の草太は4歳の幼児ではない。2年前は小柄だった体ももう自分と同じくらいに伸びた。  
母として、女として色々な意味で警戒心を抱かざるを得ない。しかし……。  
 
「分かったわ……背中を流すだけよ?」  
「ありがとう……失礼しまーす」  
 
母の了解を得ると草太はいそいそと着ている物を脱ぎ、腰にタオルを巻いた姿で浴室に入ってきた。  
どことなく顔を紅潮させながら母親の裸身をまじまじと見つめている。  
 
「それじゃお願いね」  
 
なるべく意識していないように振舞いながら小夜はボディソープの付いたスポンジを草太に渡した。  
前に向き直り草太が洗い始めるのを小夜は待ったが、何故か彼は何もしないまま沈黙していた。  
胸の内にひやりとする物が滑り込むのを感じながら、どうしたのと訊ねる小夜。  
草太は我に帰ったように母親の後ろにしゃがみ込み、背中を洗い始めた。  
 
「……こうして見ると綺麗だね、お母さんの背中……」  
 
そう言いながら草太は小夜の背中をスポンジでこする。時折押さえるつもりで肩や腰に手を当てる。  
それについては小夜は黙っていたが、やがて草太は横胸ぎりぎりの脇や尻の丸みにも手をやり始めた。  
小夜の胸の内に黄色信号が灯る。  
 
「はい、ありがとう。もういいわ、後は自分でやるから」  
「まだまだやれるよ。前も洗おうか?」  
「バカな事言わないの。子供だからって見ていいものじゃないわよ」  
「……でもお父さんには見せるんでしょ…」  
 
そうつぶやいて草太は母親の背中をこする手を止めた。小夜はしまったと思った。  
狩猟用の虎ばさみを踏んだ――あるいはエルデ流に地雷を踏んだと言うべきか。  
 
「お母さんはずるいよ……お父さんには見るのもさせるのも自由にしてるのに……」  
「草太……言葉が過ぎるわよ?」  
「だけど僕はもういい年だからって、抱きしめる事もさせてくれないじゃないか!」  
 
語気を強めてそう言うと草太は小夜の背中に抱きついた。突然の事に驚く小夜。  
 
「や、やめなさい!…駄目なんて言ってないでしょ。あなたさえ良ければいつでも抱きしめてあげるわよ」  
「赤ん坊にするみたいにかい?そうじゃないんだ、僕だってこうしたいんだ!」  
 
草太は母親の脇に回した右手を上げると乳房を掴み、激しく揉み始めた。  
それと同時に引き気味だった腰を小夜の背中に密着させた。腰のタオルはいつの間にか取られていた。  
小夜は尾骨のあたりに息子の怒張した熱いものが押し付けられているのを感じた。  
 
「そ、草太! いい加減にしなさい! いくら何でもやり過ぎよ!」  
 
小夜は草太を叱りつけ、腕を掴んで振りほどこうとした。だが草太の力は思いのほか強く、なかなか離れない。  
そして小夜が身をよじる度に密着したペニスがボディソープの泡を潤滑剤にして尻の辺りを這い回る。  
このまま前に押し倒されたら、後ろから――犯される――。  
駄目、駄目! それだけは絶対――。  
しかしパニックに陥りながら小夜は自分の股間が急激に熱を帯びるのを感じた。  
 
(嘘よ、私そんな事望んでない!)  
 
そんな小夜の動揺を見透かしたかのように、草太は母親の秘部に左手を伸ばした。  
 
「何するのっ、触らないでっ!!」  
 
小夜の股間を捉えた草太の左手は陰毛の中に潜り込み、秘貝の入り口を探り当てた。  
スリットに沿って中指を上下に滑らせる。  
 
「そ、草太っ!…あっ!……本当に怒るわよっ……!?」  
 
小夜はそう怒鳴ったが草太は意に介さず、一心不乱に強引な愛撫を続けている。  
魔法で草太をどうにかすべきか――小夜がやむを得ずそう思った時、草太の様子が変わった。  
 
「あっ!?……だ、駄目だ…まだだ、止まれ、止まれっ!」  
「な、何?……あっっ!!」  
 
小夜の背中と草太の腹の間で熱いものが迸った。更に二度、三度……。  
 
「あっ……あ……ああ……」  
 
切れ切れにそう呻くと草太は脱力したように小夜の背中にもたれ掛かった。  
 
「はぁっ…はぁっ……はぁっ……」  
 
小夜も身を硬くしながら息を吐く。背中にぬめるものが流れ落ちるのを感じる。  
実際の行為があったように二人の荒い息が浴室にこだまする。  
しばらく無言の状態が続いた後、草太が口を開いた。  
「…ごめん、もうちょっと持たせたかったんだけど、お母さんのアソコいじってたら急に勢い付いちゃって…」  
「…………謝るところはそこじゃないでしょ…」  
「えっ!?……」  
 
透明感がありながらも低く冷たい小夜の声音に草太はたじろいだ。  
普段の母からは想像もつかないドスの効いた声だった。  
 
「離して……」  
 
母親の重々しい言葉に促されて草太は腕の力を緩めた。やおら立ち上がると小夜はシャワーを引っ掴んだ。  
栓を開けるとやや熱い湯が迸る。が、小夜は構わずシャワーを背中に廻し、かけられた精液を洗い流し始めた。  
後ろ手に廻した左手の甲で力任せに背中をこする。飛び散らされる水滴にたまらず草太は立ち上がった。  
 
「お…お母さん、僕が洗って…」  
「いいから !!」  
 
小夜の厳しい声に草太はビクッと身をすくませ、狼狽しながら後ずさった。  
あらかた精液を洗い流した後、小夜はシャワーを止め具に戻し栓を閉めた。  
浴室内に数秒間、気まずい沈黙が流れる。  
 
「お母さん……怒ってる……?」  
 
先程の勢いはどこへやら、草太はおずおずと母親に問いかけた。  
小夜はシャワーの栓に手を掛けたまま草太に背を向けてうつむいていたが、やがて手を下ろすと小さくつぶやいた。  
 
「……後で私たちの部屋に来て……ちゃんと体を洗っておくのよ」  
「え?……お母さん、それって……」  
 
母の思いがけない言葉に草太は問い返したが、小夜は無言のまま息子の前を横切り浴室を出て行った。  
後に残された草太は安堵とも落胆とも付かない溜息をつき、ぶるっと身を振るわせた。  
 
 
(もっと荒れ模様になりそうね……)  
 
小夜と純太朗の寝室。  
わずかに開いていたカーテンを閉めなおす際、窓の外を隙間から見た小夜はそう胸の内でつぶやいた。  
風に煽られた雨粒がザラザラと窓ガラスを叩いている。  
 
(…あの夜もこんな感じだったかしら……)  
 
 
嵐の夜といえば、小夜には今も胸から離れない光景があった。  
いつの頃かは思い出せない。数十年、あるいは数百年前か。千年分の記憶の中の断片。  
ファンダヴェーレにある、どこかの城か屋敷の一室。窓の外には激しく流れる雨と稲妻の光、そしてとどろく雷鳴。  
小夜――シルフィーヌはその部屋にある天蓋付きの大きなベッドに全裸で横たわっていた。  
手足は天蓋を支える四隅の柱に紐のようなもので縛りつけられ、猿轡――布か、それ用の器具――を噛まされている。  
そしてシルフィーヌの上には、やはり裸になっている男が伸し掛かり、前後に体を動かしている。  
男のモノがゆっくり淫口を出入りする度に、シルフィーヌは自由にならない口からうめき声を漏らす。  
陵辱されているとしか思えない状況だが、小夜は何故かその記憶から屈辱感や恐怖を感じ取れなかった。  
むしろシルフィーヌは異様に興奮していた。男が突き入れるごとに快感すら感じている様に思う。  
しかし前後の記憶が出てこない為、どういう経緯でそうなったのか小夜にはさっぱり分からない。  
確かなのは、かつての自分にこのようなまともでない形で男と交わった経験があるという事だけだった。  
 
 
カーテンを閉めた後、小夜はバスロ−ブ姿のまま鏡台の前のスツールに腰を下ろし、所在無げに鏡を見つめていた。  
思い出したからという訳ではないが、小夜はあの時と今の状況はどこか似ているような気がした。  
自分の力ならあの程度のいましめからは充分抜け出せたはずだ。何故そうしなかったのか。  
相手は自分より強い魔法使いで魔力を抑えこまれていたのか。  
しかし年配の男という印象以外、顔も名前も思い出せないが彼とは親しい仲だった可能性もありうる。  
もしかしたら、あれはエルデで言う“拘束プレイ”だったのかも知れない。あまり趣味のいい遊びではないが。  
ひるがえって現在。今また自分は逃げようと思えば出来るはずなのに逃げようとしない。  
『エルデの鍵』を暴走させない為に自分を人身御供にする――それは理屈では分かる。だがそれだけなのか。  
草太の本気の求めに、この体は素直に反応してしまった。そして彼に誘うような言葉を投げかけた。  
 
(何を考えているの、私……)  
 
欲求不満のせいではないと思いたかった。小夜と純太朗はここ一ヶ月ばかり性行為をしていない。  
年齢や仕事の疲れもあるだろうが、12年前に比べると純太朗は明らかに淡白になっていた。  
最近では夜の営みもよくて半月に一回、下手をすると二ヶ月に一回という有様だった。  
回復魔法を使えば済みそうな問題だが、魔法に頼りたくないという夫の意思を尊重して今は封印している。  
純太朗は決して小夜に対する肉欲を失った訳ではないという。小夜もその言葉は信じている。  
だからせめてもの奉仕と、自然に溜まってくる夫のものをしばしば手と口で受け止めている。  
しかしそれでも小夜は純太朗に入ってきて欲しかった。繋がった上で夫と愛し合いたかった。  
心と体の渇きが自分を間違った方向へ導くのか。  
 
(だけど……こんな事、他の人に押し付けられない……私が引き受けるしか……)  
 
叶わない夢、裏切られた思い。それは時に人を化け物に変える。  
少女マレーンがいかにしてサンドリヨンになったか――そしてエルデにもそういう類の者がしばしば事件を起こしている。  
草太にはマレーンと同じ轍を踏ませたくない。ならば――。  
 
「…お母さん、入っていい?」  
 
部屋の外からの声に小夜は振り向いた。草太だ。  
どうぞと言って小夜は再び鏡に向き直った。  
戸を開けて入ってきた草太に感応魔法の波を送る小夜。帰ってきた“こだま”から感じられるのはいつもの草太だった。  
しかも何やら期待と不安が入り混じった気持ちで胸を高鳴らせている。  
浴室で怒鳴られた事を引きずっているのではと思っていたが、意外と早く立ち直っていた事に小夜は拍子抜けした。  
 
「……お父さんのも敷いているの? 今日は帰らないのに?」  
 
その言葉に振り向く小夜。パジャマ姿の草太の視線の先には二組の布団がある。  
 
「そうよ。お仕事で泊まりと言われても、不意に帰ってくるかも知れないでしょ。だからいつもお父さんの分も敷いておくの」  
 
夫婦であるとはそういう事だと小夜は言った。しかし草太はよく分かっていないのか、生返事を返しただけだった。  
小夜は気を取り直し、息子に布団の前に座るよう命じた。  
 
「聞きたい事は色々あるけど、今は一つだけにするわ……どうして私にそういう気持ちを抱くようになったの?」  
 
スツールから腰を上げた後、小夜は草太の前に膝詰めで正座しながらそう訊ねた。  
 
「どうって……う〜ん、2年くらい前かな……いや、厳密にはもっと後だけど…」  
「2年前?」  
「お母さんがこっちに戻ってきた、その次の日だよ」  
 
小夜はあっと小さく声を上げた。その日に何があったか心当たりがある……。  
 
「…夜中にトイレに起きてさ……帰りにふとお母さんの寝顔を見たくなってこの部屋に寄ったんだ」  
「……で? 覗けた?」  
「ううん、戸の前に来たら何か空気が粘っこくなって……息苦しくて……」  
 
結局草太は部屋の中を覗けなかった。小夜は勿論その理由を分かっている。  
 
「眠気のせいかとその時は思ったけど、後になって気付いた…お母さんは部屋に結界を張って、中でお父さんとしていたんだ……!」  
 
草太はそう言って小夜を厳しい目で見つめた。小夜は目を伏せ、深く溜息をついた。  
確かにあの日、この部屋に結界を張り自分と夫は激しく求め合っていた。まさか草太がすぐ外にいたとは――。  
 
「……そうよ…だって10年ぶりだったもの……」  
「いやらしいよ……僕だけでなく赤ずきんたちもいたのに……!」  
「その為の結界よ。余計な物音を聞かせたくなかったから……それがエチケットというものでしょ?」  
「だからってあんな小細工しなくたって……」  
「夜、お布団やベッドで仲良くするのは夫婦にとって大切な時間なの。たとえ子供でも、そこに踏み込んではいけないのよ」  
「だけどたまらないよ……いつも何気なく振舞っているお母さんが、夜にあんな事していると想像したら……!」  
「……それで居ても立ってもいられなくなって、とうとう……?」  
 
草太は伏せた顔をしかめ、膝の上の拳を握り締めた。大体の事情を飲み込めた小夜は微笑みながら言った。  
 
「きっとあなたの中で10年間私に甘えられなかった寂しさと、思春期の男の子の早く女を知りたいという気持ちが結びついてしまったのね…」  
「勝手に分析しないでよ……」  
 
吐き捨てるようにつぶやく草太。やり方は間違ってしまったが、しかし小夜はあれも息子の成長の証だと、むしろ清々した気持ちになった。  
再会した頃は本当に14歳の少年かと思うほど幼さを残していた草太。  
母親の不在で止まっていた息子の時間は2年前から少しずつ動き出したのだ。  
 
「それだけ心が敏感になっているなら、こんな恰好をしている女が部屋に招きいれた理由は分かるわね?」  
「えっ?……」  
「今夜、私はあなたの都合のいい女になるわ……何でも言う事を利くから、何をどうするかはあなた自身で決めて……」  
 
そう言いながら小夜は自分の布団に上がり、バスローブ姿のまま身を横たえた。  
 
「お母さん……」  
 
草太の戸惑いがちな声に小夜は少し突き放した態度を取ってしまったかとほぞを噛んだ。  
しかし越えてはならない一線を越えようとしているのだ。これ位のハードルをクリアできなければ実の母を抱く資格など無い。  
胸の動悸を草太に悟られないよう、小夜は目を閉じて静かに待った。  
 
草太の逡巡は続いている。時間にして30秒くらいだが、小夜にはもっと長く感じられた。  
覚悟はしたつもりだが、それでもまだ迷いはあった。  
逡巡の末に草太が思い直してくれれば――心の片隅で小夜はそう願っていた。  
不意に衣擦れの音がした。気配が近付いてくる。  
 
(草太……やっぱり諦め切れなかったのね……)  
 
そう思う小夜の顔に草太の息遣いが迫った。  
 
「…お母さん……キスするよ……」  
 
その言葉の後に荒い息が小夜の口元に吹きかかり、柔らかい感触が押し付けられた。  
 
「んっ……んふ……」  
 
最初はおずおずと、やがて積極的に草太は小夜の唇を吸い始めた。  
このまま腕を廻して息子の頭をかき抱こうか――小夜がそう思った時、草太の唇が離れた。  
 
「もう少し口を開けて……舌を絡め合おうよ」  
 
玄人みたいな事を言うと小夜は思った。初めてにしては大胆な要求だ。  
小夜は言われるまま口を半開きにした。草太は再び唇を重ね、舌を差し込んできた。  
小夜もそれに応え、息子の舌に吸い付く。  
 
「んむ……ふう……」  
「はぁ……あふ……んん……」  
 
しばらくの間、互いの口の中で舌を戯れさせる二人。やがて草太はバスローブの上から小夜の乳房を掴んだ。  
浴室での大胆さはどうしたのかと思うほど、ぎこちない手付きで揉みしだく。  
 
(草太……緊張してる……?)  
 
乳房から伝わる震えを感じ、小夜は薄目を開けて草太の顔を見た。  
近過ぎてよく分からないが、鼻息の荒さから必死そうな表情を想像できる。  
浴室の時のようにいきなり襲い掛かる方が度胸がいりそうなものだが、男はこういう形の方が落ち着かないのかも知れない。  
草太は舌の動きを止め、ゆっくりと唇を離した。  
 
「……今度は、前も見せてもらうよ……」  
 
ゴクリと唾を飲み込んで草太は言った。母親の乳房を揉むのを止め、バスローブの腰帯を解きに掛かる。  
軽く結んでいただけなので帯は片手でもあっさり解けた。身を起こすと草太はローブの合わせ目をはらりと開いた。  
小夜の成熟した裸身が露わになる。丸く形のいい乳房。腰から尻にかけての滑らかな曲線。そして股間を覆う栗色の茂み。  
それらを目で追う草太の視線を痛いほど感じる小夜。  
 
「ああ……お母さん…お母さん……」  
 
草太は再び母親の上に覆いかぶさると二つの乳房を掴み、その谷間に顔を埋めた。何度か頬ずりした後、乳首に吸い付く。  
 
「はっ!……あ……は……」  
 
十数年ぶりに息子に乳房を吸われ、小夜は切なげな溜息を漏らす。  
幼い頃を懐かしむかのように草太は執拗に二つの乳首を交互に吸い舐め回す。  
やがて彼は右手をそろそろと母親の股間に伸ばし、陰毛の中の秘裂に指を潜り込ませた。  
 
「あ……はぅ……草太……んんっ……あんっ……」  
 
胸や股間をぎこちなく攻める草太に初々しさを覚える小夜だが、次第にそればかり続く事にじれったさを感じてきた。  
男は乳房や陰部といった目立つ部分に関心が集中しがちだ。本物の鉱脈はもっと地味な場所にあるのに。  
 
「ねえ草太……太腿の内側を撫でて……そこが一番感じるの……」  
「え? そ、そうなの?」  
 
草太は戸惑いつつ秘裂から指を引き抜き、母親の内腿をそろそろと撫で始めた。  
 
「ふ…ううん……はうんっ!……」  
 
先程よりも強い刺激が太腿からざわざわと広がり、小夜は身震いする。  
母親の反応が変化した事に草太は驚いたが、やがてそれは自分の手で母を悶えさせているという愉悦に変わった。  
 
「そんなに気持ちいいんだ……こんな感じ?」  
「あうっ!…そうよ、お風呂のお湯をかき回すように……はぁ……あっ……ぁあんっ!」  
 
母親のあえぎ声を楽しみながら内腿に指を這わせる草太。繰り返し押し寄せる快感に小夜は何度も身をよじる。  
 
「……何か物足りないなぁ…」  
「え……何?……」  
「お母さんのリアクション……そうだ!…」  
 
草太は愛撫の手を止め身を起こすと小夜の足元に陣取った。  
 
「ちょっと脚を開いて……」  
「え? ど、どうするの……ああっ!」  
 
草太は小夜の両脚をMの字に開き、持ち上がった膝の下に自分の膝を入れた。  
 
「あっ…な、何この恰好……」  
「こうするとお母さんの裸がよく見えるからさ」  
 
草太の言うとおり、今の小夜は息子の眼前に自分の全てをさらけ出している。乳房も、脚の付け根も。  
その上バスローブがはだけている事により、無防備感がより強調される恰好になっている。  
 
「嫌だわ…恥ずかしいわよ、こんなの……」  
「恥ずかしがるお母さん、可愛いよ……ほら、僕のを見て…」  
「僕のって……あ…」  
 
小夜は自分の脚の間越しに草太の股間を見た。硬く屹立したペニスが上下に揺れている。  
おそらく草太がわざと力を込めたり抜いたりして揺らしているのだろうが、小夜にはそれが鎌首をもたげた蛇のように見えた。  
そしてその毒蛇の頭の先には、瑞々しい茂みに覆われた巣穴がある……。  
そんなイメージに耐えられず、小夜は両手で顔を覆った。  
 
「ど、どうしたの?」  
「怖いのよ……これから私の中にそれが入ると思うと……」  
「怖がらないでよ……お母さんも緊張してる?……気持ちよくなればリラックスできると思うよ。ほら……」  
「あっ……あぁ……はぁんっ……」  
 
母親を慈しむように草太は彼女の両の内腿を再び撫で始めた。  
細胞の一つ一つまで恥ずかしがっている体が内腿からの刺激によって更に熱くなってゆく。  
 
「ああっ……はぁ……はあぁっ!……草太っ……あっ! ああんっ!」  
 
押し寄せる性感帯からの刺激。身悶えする体を息子に視姦されているという実感。小夜は我知らぬうちに自ら乳房を揉みしだく。  
 
「気持ちいいんだね、お母さん?……オッパイもそんな風に出来るなら……自分でアソコもいじって見せてよ…」  
 
言われるまでもなかった。母親になんて事をさせるのかと思いながら小夜は股間に右手を伸ばし、愛液で潤った秘部をまさぐる。  
息子の眼前で自慰行為にふけるという痴態を晒しながら、指の動きをを止められないまま小夜は快感の渦に飲み込まれてゆく。  
潤んだ目を脚の間に向けると、その先には鎌首をもたげたペニスが先端から濡れた光を放って揺れている。  
 
「ああ……草太……はあんっ!……私……駄目……私っ……」  
 
熱く火照った小夜の体の内から身も世もない声がこだまする。  
欲しい。  
欲しい――。  
 
 
「お母さん、そろそろいい? もう限界だよ……お母さんがいじっているのを見てるだけでこんなになっちゃったよ」  
 
草太は待ちきれないという表情で小夜に訴えた。張り詰めて艶やかになった亀頭部の先端から先走りが糸を引いて滴り落ちている。  
逞しくなっているモノを見た小夜は紅潮した顔で草太に微笑んだ。  
 
「……いいわよ……そんな風になってくれたのなら、お母さんも恥ずかしい思いをした甲斐があったわ……中に挿れて……」  
「うん……」  
 
草太は意を決したように深呼吸すると、母の腰を掴んでグイと引き寄せた。反り返ったペニスを握り、よだれを垂らす秘裂にあてがう。  
 
「いくよ……」  
 
息を弾ませながら呼びかける草太。小夜はかすかに頷き、目を閉じてその時を待った。  
 
「……んぅっ……あ…ぁああああっ……」  
 
ズブ、ズブと草太のペニスが小夜の濡れた淫口に入ってゆく。草太は母親の陰部を見おろしながらゆっくりと腰を押し込んでいった。  
 
「すごい……まだ入ってく……」  
「…そうよ……もっと…んんっ……奥まで挿れて……」  
 
草太は少し勢いをつけて腰を入れた。グチュッという音を立てて草太と小夜の下腹部が密着した。  
 
「ああっ!……っはぁ……草太……私の中に……」  
「うん……入った……全部入ったよ! ありがとうお母さん! 入れさせてくれてありがとう!」  
 
感激した草太は母親にしがみ付いた。小夜は戸惑いがちな笑みを浮かべながら息子を抱きしめ頭を撫ぜる。  
 
「後はどうすれば分かるでしょう?……始めて…」  
「うん……じゃ動くよ……」  
 
草太は母親の脚の間で腰を動かし始めた。  
 
「んっ……んぅっ……あっ…あっ……あっ……」  
 
草太の動きに合わせて小夜は切なげな短い声を上げる。  
初めはぎこちなかった草太の動きも、コツが掴めてくるとリズミカルなものに変わっていった。  
 
「んんっ……あっ…あっ…あっ…はっ…はっ…草太……いい……」  
「……僕も気持ちいいよ……どうして女の人の膣[なか]ってこんなに気持ちいいんだろう……熱くて……ぬるぬるしてて……」  
「…赤ちゃんを作る為よ……男の人をその気にさせて……あっ……気持ちよくさせて………射精…させるの……」  
「そっか……じゃあ、僕もいっぱいお母さんの中に出してあげるからね」  
 
腰を動かしながら無邪気そうに言う草太の言葉に、ふと小夜は違和感を覚えた。  
 
(中に……出す……?)  
 
それが何を意味するのかを理解した小夜の顔から血の気が引いた。  
気分を高揚させ過ぎて肝心な事を忘れていた。  
 
「ちょ、ちょっと待って草太!……お願いだからコンドーム着けて、今出すから…」  
「え!? 今更そんな事言わないでよ。ムードぶち壊しじゃない」  
「ムードがどうとかいう問題じゃないでしょ! 赤ちゃん出来ちゃうわよ!」  
「でも魔法を使えば避妊できるでしょ?」  
「なっ……バカな事言わないで! お父さんはちゃんと着けてくれるわよ。魔法には頼らないって」  
「そうなの?……でも僕初めてなんだよ。最初の時ぐらい生でしたいよ」  
「そういう問題じゃないでしょ!」  
「大丈夫だよ、お母さんはそういう事の出来る人でしょ?……それに僕の言う事とおりにしてくれるんじゃなかったっけ?」  
「う………しょうがない子ね……分かったわ……」  
「ありがとう、お母さん」  
 
渋々ながら小夜が承諾すると草太は嬉々として抽送を再開した。  
確かに魔法を使えば最悪の事態は回避できる。しかし小夜が気にしているのはそういう所だけではなかった。  
草太は膣内射精の意味を軽く考えている。木ノ下りんごを含め、これから交際する女性に対してもそう接するつもりなのか。  
相手が嫌がっても膣[なか]に精液を出すのは当然の権利、と思っているのなら母親としては不安を抱かざるを得ない。  
 
(でもそれは草太に限った話じゃないけど、ね……)  
 
「お母さん……気持ちよくない? 何かムッツリしているけど」  
「えっ……そ、そう?」  
 
小夜のうわの空気味の返事を聞いて草太は腰の動きを止めた。  
 
「感じてくれてると思ってたのに……やっぱり中に出されるのは嫌?」  
「そうじゃないの……今のあなたを見ていると、私を含めて女の人に愛情を持って接する事が出来るのか心配になって…」  
「愛情って……ぼ、僕お母さんの事大好きだよ!」  
「ありがと……でも私の言ってるのは相手を思いやる気持ちよ。力ずくや我がままじゃ誰も好きになってくれないわよ」  
 
母親に責められていると思ったのか、悲痛な表情を浮かべる草太。  
小夜の膣内の怒張しているものがわずかに力を失う。  
 
「…ごめんなさい……風呂場の事も…」  
「いいのよ、分かってくれてるなら……後はもう何も言わないわ。思いっきり来て……私を妊娠させるつもりで」  
「え?……い、いいの? でもお母さんはそういうの嫌なんじゃない?」  
「大丈夫…それに私はさっきみたいに可愛がってもらえれば、いつでもイケるから……」  
「…あっそうか、太腿だね……それじゃ、最後までいくよ」  
「お願い……」  
 
小夜はそう言って草太の背中に腕を廻した。草太がキスをすると小夜も舌を差し出しそれに応える。  
 
「んっ……んむっ……んん……んふぅ……」  
 
舌を絡めあう内に草太のペニスは母親の膣[なか]で再び力を取り戻していった。  
 
「ああ……草太の、また大きくなって……あんっ! あっ、あっ、あっ、あっ!」  
 
再開された草太のピストン運動に小夜はリズミカルな甘い声を漏らす。  
調子を取り戻した草太はM字開脚している母親の内腿に片手を伸ばし、じわりじわりと指を這い回らせる。  
 
「ああっ! あっ、はあっ! すごいわ草太……はぁんっ! 体がザワザワ、する…んんっ、あああっ!」  
 
自分の下で身をよじる母親に草太は満足げな笑みを浮かべる。  
 
「感じまくってるね、お母さん……さっきも凄かったな…」  
「はっ、はぁぁっ……な、何が?」  
「自分でアソコをいじっている時さ……随分慣れた感じだったけど、もしかしていつもしているの?」  
「そっ……親にそんな事聞くもんじゃないって、さっき言ったでしょっ…」  
「僕はいつもしているよ、お母さんの事を思い浮かべながら……お母さんとこんな風にセックスするのを想像しながら……」  
「そこまで言わなくていいわよ…」  
「僕は話したよ…だからお母さんも教えてよ」  
「ズルイわ、そんな……あぅんっ!……ええ、しているわ……お父さんがいない日に……でも時々よ」  
 
言う事を聞くという約束があるとはいえ、何でこんな事まで話さなければいけないのか。小夜は愛撫とは別の理由で体を火照らせた。  
 
「やっぱりそうなんだ……お母さん、寂しい時は僕を呼んでよ。いつでもしてあげるから」  
「何言ってるの……親子でするものじゃないのよ…あんっ、ぁああんっ!」  
「ここまで来たら構う事ないよ。一緒に気持ちよくなろうよ?……」  
「そういう問題じゃないの、これは今夜だけ…んぁあっ! あっ、あっ!…」  
 
“言葉責め”という行為を草太が知っているかどうかは分からない。しかし彼が今やっているのは正にそれだった。  
こんな下世話な話にも言霊が宿るのかと思うほど、草太の誘いの言葉に引き摺られ、小夜は快楽の淵に溺れてゆく。  
口では拒んでも、もっと深みにはまりたいという無意識の力が小夜の理性の足を掴み、引きずり込もうとする。  
 
「ああ……もうそろそろだ……でもイキたくないよ……もっとお母さんとしていたい……」  
「あっっ、草太っ、あんっ、もう…あんっ、あんっ、あんんっ!」  
 
草太の抽送が早まるにつれ、小夜の快感も高揚してきた。息子の動きを妨げないよう、可能な限り両脚を開く。  
早くイって。早く出して。妊娠してもいいから早く膣[なか]に射精[だ]して。  
これ以上続いたら私、体だけじゃなく、心まで――。  
草太に突き入れられながら、辛うじて残っている小夜の理性が胸の内で叫ぶ。  
そして草太の方は理性をかなぐり捨て、最高潮の時を目指す。  
 
「もう駄目だ…イクよっ…ああっもっとしたい!お母さんとしたい! お母さんといっぱいセックスしたいっ!!」  
「あっあっ、やめてっ……今、あんんっ! そんな風に言われたらっ……その気になっちゃうぅっ……!!」  
「しよう! しようよ、お母さんっっ! ふんっっ!!」  
「ああっ!!  あっ、あっ……ぁ、あああああああっっ!!」  
 
二人が同時に高みに達した直後にドクッ、ドクッと草太の白濁した精液が小夜の膣[なか]に注ぎ込まれる。  
母親の子宮を満たさんとするかのように、草太のペニスは最後の一滴まで送り届けようと脈動を続ける。  
息子の熱い衝動を受け止めた小夜の意識は、光が弾けたように白く霞[かす]んでいった――。  
 
 
 
「……草太……分かっていると思うけど、私は身も心もお父さんのものなのよ。だからあの人を裏切る事は出来ないの」  
「うん……分かってるよ……」  
「何より私たちは親子なのよ……だから……こんな事してちゃいけないの……分かってる?」  
「うん……分かってる……」  
「ましてや、相手の体を気遣わずに、中に出したいなんて、言語道断だわ……ねえ草太、聞いてる?」  
「聞いてるよ……でもお母さん、こんな状況でそんな事言われてもあまり説得力ないよ?」  
「話の腰を折らな、ああんっ! あっ、あっ、あっ!」  
 
母親の小言を遮るかのように草太に強く突き入れられ、小夜は短く甘い悲鳴を漏らす。  
彼女は今、布団の上で四つん這いになり、草太に後ろから攻められていた。  
初体験の余韻も覚めやらぬうちに、草太は回復するや否や母親に二回戦目を挑んできた。  
虚脱状態だった小夜は抵抗する間もなく体をひっくり返され、バスローブを剥がされて背後から挿入された――。  
 
「ほら、お説教よりこの方がいいでしょ? そうだ、ちょっと腕を貸して…」  
「う、腕? あっ、何……痛ッ…」  
 
草太は母親の両腕を掴み、馬の手綱のように後ろへ引っ張った。小夜の体は上半身が宙に浮くような状態になっている。  
 
「やだ、何この恰好……どこで覚えたのよ? ちょっと苦しいわ…」  
「ごめんね……でもこうすると僕との一体感が増すでしょ? ほら、いくよ」  
「んあっ! あっ、あっ、あっ、だ、駄目ッ、あっ、あっ、あぁんっ!」  
 
草太の腰の動きに合わせて小夜の体が前後に揺すられる。二つの乳房が弾み、尻の肉が躍動する。  
そして気持ちの表側では嫌がっていても、小夜は久しく無かった刺激的な体位に興奮していた。  
 
(息子にこんな事させられているのに、拒む事もせず悦んでいるなんて……私、母親失格だわ……)  
 
「どう、感じる?……ねえ、お母さん、“草太のオチンチン、気持ちイイー!”って言ってよ」  
「いっ!?……嫌よ! 言える訳ないでしょそんな事…」  
「…お母さ〜ん、僕の言う事…」  
「あぅっ!……分かったわよ…言えば、あんっ!…言えばいいんでしょっ」  
 
小夜は渋々、草太の言った通りの言葉を口にした。草太は気持ちが入っていないと母親にもう二回言い直させた。  
全身が火を噴きそうな程の恥ずかしさに小夜は死にたくなった。  
 
母と子で繰り広げる浅ましい寝物語。  
――こんな自分を見たら、フェレナンドは軽蔑するだろうか。  
――もしサンドリヨンがこんな二人を見たら、無様な親子だと笑うだろうか。  
しかし、もう無かった事には出来ない。小夜の淫らな下の口は『エルデの鍵』を咥え込んでいる――。  
 
「これが終わったら騎上位でしようよ。僕に跨ったお母さんがオッパイを弾ませて腰を動かす所を見たいんだ…」  
「あっ、あっ……いやらしい言い方しないで……あんっ……まだこんな事続けるつもり?」  
「秋の夜は長いよ。そうでしょ? お母さん」  
 
“ファンダヴェーレでは草太の無神経さにみんな泣かされたもんだ”  
 
2年前、居候していた銀狼ヴァルがそんな風にぼやいていたのを小夜は思い出した。  
その母親を前にして不躾な事を言うと当時は内心憤りを感じたが、実際に草太のそういう所に触れると返す言葉がない。  
 
(…私が長い間そばに居なかったせいで、こんな性格になったのかしら……)  
 
あえぎ声を漏らし、乳房を揺さぶりながら困惑する小夜。  
そんな母親の惑いなど知る由もなく、草太は三たび射精の時を目指す。  
 
「ああ……ハァ…ハァ……また……またイクよ……今度も膣[なか]に出すからねっ……」  
「あんっ、あんっ、草太……あっ!あっ!あっ!あっあっあっあああああっ!!」  
「お母さんお母さん、お母さんっっっ……うんんっっ!!」  
「そうっ…あっ!……はぁぁあああああんんっ!!……」  
 
草太の煮えたぎる白い欲望が再び母親の膣内を犯す。  
背徳的な歓喜の涙を流す小夜の目に隣にある純太朗の布団が映る。  
体が疼く度に胸を弾ませて潜り込んだ夫の布団が――。  
 
(……あなた許して……私、もう………)  
 
 
 (終わり)  
 

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