「……ところで最近、変わった事はないかい?」  
 
夜半、鈴風夫妻の寝室。布団に入ろうとした矢先、純太朗にそう切り出されて小夜はドキリとした。  
草太と親子の一線を越えた翌日の事である。  
 
「……どうして?」  
 
小夜が乾いた声で問い返す。  
 
「何ていうか…いつもと雰囲気違うんだ、この部屋……私と君以外の誰かの匂いがする…という感じかな」  
「…………」  
「……ここで何かあったのかい?」  
 
夫の勘の鋭さに小夜は緊張した。強盗が押し入り、行きがけの駄賃に乱暴されたならまだ申し開きが出来るのだが。  
しかし誤魔化すのは得策ではないと小夜は思った。もし真実が明るみになれば夫の信頼を失う事になる。  
 
「…あなた御免なさい! 私、過ちを犯してしまいました……!!」  
 
小夜は純太朗に向かって居住まいを正し、土下座した。エルデの流儀に従って夫に頭を下げるのは今回が二度目だ。  
前回は復活したサンドリヨンと戦う為、自分の素性を明かし、彼と草太を残してファンダヴェーレに戻ろうとした時――。  
 
「相手は草太だね?」  
 
冷静な口調で訊ねる純太朗に小夜はハッとなり、思わず顔を上げた。  
 
「えっ!?……は、はい……でもどうして……」  
 
布団の上で胡坐[あぐら]をかいていた純太朗は深く溜息をつき、俯いて右手の中指で額を押さえた。  
 
「いつかはそうなるんじゃないかと思っていたんだ……前にも話したけどあいつは10年分の母親の愛情に飢えている…」  
「………」  
「それに実際の年齢はともかく今の君は若くて美人だ……あいつには母親というより年上のお姉さんに見えるかな」  
「……だからって……疑ってらしたの?」  
「すまない……それで、草太はまだその気でいるのかな?」  
「い、いえ……それについては厳しく釘を刺しておいたから、もう……ないと思うわ……」  
 
そう言ったものの、本当に草太が諦めたかどうか小夜は自信が持てなかった。  
 
「それならいいんだ……もしあいつが調子に乗っているようなら父親としてすべき事をしなければならないからね」  
「あなた!……あの子を責めないであげて……予兆はあったけれど、まさかと思ってたし…」  
「それに下手にあいつを拒んだら『エルデの鍵』の力が暴走する恐れがあった……だろ?」  
「えっ……ええ……」  
 
純太朗の洞察の鋭さに小夜は呆気にとられたままうなずいた。  
 
「ふぅむ……あいつも世間の猥雑な情報に晒される年頃だ……以前のように穏やかな心ではいられないだろうな……」  
 
夫は口にこそ出さないが厄介な子供を持たされたな、と言いたげな表情をしている――。  
少なくとも小夜はそう感じた。彼に対するすまなさで胸が張り裂けそうになった。  
 
「全て私が悪いの……サンドリヨンに先んじて『エルデの鍵』を確保するという使命を果たす為とはいえ…  
結果的にあなたから普通の人生を歩む道を奪ってしまった……草太からも……私さえ来なければ……」  
「それは違うよ、小夜さん」  
「えっ?……」  
「君にどんな思惑があったにせよ、私は君に私たちの子供を産んで欲しいと望んだ……草太の存在には私にも責任がある」  
「あなた……」  
「おいで」  
 
純太朗は微笑みながら腕を伸ばし、小夜を引き寄せて抱きしめた。夫の温かな胸に頬を預ける小夜。  
 
「君はファンダヴェーレのすごい魔女なんだろう? そんな君が私の前に現れ、妻となって子供まで産んでくれた……」  
「すごくなんかないわ、私…………」  
「いや……それがどんなに素晴らしくてありがたい事なのか、この歳になると身に沁みて感じるよ……」  
 
純太朗はそう言うと妻を抱く腕に力を込め、自分の頬を香りのいい髪に擦り付けた。  
夫の体と言葉の温もりを感じ、小夜の目から涙がこぼれ落ちる。  
 
「それは私も同じだわ……全てを知ってもなお私を受け入れてくれる人なんて、このエルデにそうそう居るはずないわ……」  
「君も辛い身の上だというのは分かっている……気の迷いでした訳じゃないなら責めるつもりはないよ」  
 
純太朗は小夜の顎にそっと手をやり自分の方へ向かせた。夫としばし見つめ合った小夜は静かに瞼を伏せた。  
頭をかがめ、妻に口付けする純太朗。小夜もまた彼の背中に腕を廻し、強くしがみ付く。  
ふと閃くものがあった小夜は唇を話すと夫に切り出した。  
 
「あなた……もし許してくれるというなら、私の願いを聞いてくださる? 回復魔法を使わせて欲しいの……」  
「おいおい、それとこれとは……」  
「虫のいい話なのは分かっているわ……でも妻なら夫の力になりたいと思うものよ。私ならそれが出来るわ……」  
「うーん……しかし……」  
「正直言ってここの所、あなたに抱かれなくて寂しかったの。体が満たされていれば草太に隙を与えなかったと思う…」  
「私のここに元気があれば未然に防げた……という問題でもないような気がするんだが……ふむ……」  
 
難しい表情で考え込む夫を見て小夜はまた地雷を踏んだような気がした。確かに今度に一件では彼に落ち度はない。  
しかしこんな時でもなければ回復魔法使用の許しを得る機会がないように小夜には思えた。  
魔法に頼らないという拘りさえ横に置いてくれれば、夫にも決して不利益にはならないはずなのだ。  
淫乱女だと思われても構わない。出来る事なら小夜はやはり夫と繋がった上で愛し合いたかった。  
 
「……分かった。考えた上で言っている事だと思う……君の要求を呑むよ」  
「あなた……」  
「その代わり、私の頼みも聞いてくれるかい?」  
「え?……そ、そうね……一方的にって訳にはいかないわよね……いいわ。で、何?」  
 
緊張気味に訊ねる小夜に、純太朗は含みのある笑みを浮かべて答えた。  
 
「まずは……この部屋に結界を張る用意をしてくれないか……草太に邪魔されない為にね」  
 
純太朗が部屋の明かりを消す。暗くなった部屋の中に唯一灯る枕元のフロアライトに小夜の立ち姿が照らし出される。  
 
「それじゃ始めようか」  
 
そう言うと純太朗はCDラジカセの再生ボタンを押した。ムードを盛り上げる為のBGMが流れ出す。  
ジャッキー・マクリーンのアルト・サックスが奏でる『レフト・アローン』。  
 
「この曲をこんな時に使ったらビリー・ホリデイに怨まれそうだな……」  
 
ローアングルで小型ビデオカメラを構えながら純太朗は自嘲気味に呟く。  
ネグリジェの胸元に手をやりながら小夜は戸惑いがちな表情を浮かべている。  
その表情を捉えながら純太朗はレンズを徐々にズームバックさせ小夜の全身をファインダーの中に映す。  
 
「……何だかこれって、アダルトビデオの始まり方みたいだわ……」  
「みたいも何も私はそのつもりだよ……それより何でアダルトビデオだって分かるの?」  
「前に一緒に見たじゃない……草太が生まれる前に……ラブホテルで……」  
「ああ、あの時か……よく憶えていたね」  
「私、あれですっかりビデオという言葉に悪い印象抱いたわ。動く画を記録する技術を何であんな事に使うのか……」  
「それで撮られるのを嫌がるようになったんだっけ……でも撮るのは結構平気だったよね?」  
「対象が草太だったからよ……もう脱ぐ?」  
「いや、さっき打ち合わせした様にゆっくりと回ってくれ……カメラを見ながら、オルゴール人形のように……」  
 
小夜は言われたように畳の上で体を捻りながらゆっくりと回って見せた。  
純太朗は彼女の膝の辺りからカメラを上げ、腰から背中へと写し取ってゆく。  
 
「いいよ……そんな感じだ……よし、そこで止まって、ボタンを外す……」  
 
カメラに対して半身になった状態で小夜はネグリジェの胸ボタンを一つ、二つと外していった。  
純太朗のカメラのファインダーはバストアップでその仕草を捉える。  
 
(この人……ずっと私にこんな事させたいと思っていたのかしら……?)  
 
君とセックスしている所をビデオに撮りたい――純太朗から言われた要求に半ば呆れつつ、小夜は胸元を開いた。  
ネグリジェが肩からスルリと足元まで落ちる。小夜はショーツ一枚だけの裸身を晒した。  
 
「よし、一旦止めるからネグリジェの外に出て……はい、そこで胸を隠すようにして……ゆっくりとカメラの方に向く……」  
 
小夜は純太朗の指示に従って両腕で胸をかき抱き、少しずつ夫の構えるカメラの方へ体を回していった。  
 
「止まって。そう……顔のアップをもらうから、少しカメラのレンズを見つめて……はい、胸から手を下ろす…」  
 
純太朗のカメラは小夜の困惑気味の表情を捉え、舐めるように露わになった乳房から腹部へパンダウンしてゆく。  
 
「……それから手をお腹の上を滑らせるように下ろしていって……ショーツの前に指を掛け…縁に沿って指を滑らす…」  
 
純太朗は続いて小夜に再びゆっくりと回らせ、背中を向けたところで止まらせた。  
 
「……そこでショーツを…少しずつ下ろしていく……」  
 
純太朗からそう指示を受けたものの、小夜はショーツの横に指を掛けたまま動かなかった。  
 
「…さっきから気になっていたんだけど、あなたの声が入っててもいいの?」  
「構わないよ。人に見せるものじゃないからね。気になるなら後で消せるし……それにしても意外だな」  
「何が?」  
 
尻をカメラに向かってやや突き出し、ショーツを少しずつ下ろし始めた小夜が背中越しに訊ねる。  
 
「君の動きさ。悩ましげな感じでいいよ……もっと素人くさく回ると思ってたんだが……」  
 
確かに背中をわずかに反らせたり腰を微妙にくねらせたり、小夜の動きには何気なくも官能的なものがあった。  
今もショーツに掛けてない他の指の広げ方や動きが純太朗の男心をくすぐる。  
 
「アダルトビデオのを真似ただけよ……昔に習った踊りの動きも入れたけど」  
「習った? 踊りを? 賢者様が?」  
「王様の相談役とか魔法の鍛錬の合間にそういう事もしていたの……エルデで言う生涯学習みたいなものかしら」  
「成る程ね……確かに千年もダラダラしているのは勿体無いな……ああ、全部脱がないで、そこで止める…」  
 
純太朗は小夜が膝までショーツを下ろした所で止めさせた。  
 
「そこから腰を下ろして、布団の上に横座りする……出来るかな?」  
 
布団までやや距離があったが小夜は器用に腰を下ろし、コペンハーゲンの人魚像のように横座りの体勢をとった。  
純太朗はそこでカメラを止め、小夜の前に回りこんだ。彼女の足の爪先のアップショットから再びカメラを回す。  
レンズは小夜の足元から徐々に視線を上げ、柔らかな恥毛の茂る陰部から上半身へ辿り、そして憂いをたたえた顔を映す。  
 
「いいよ、最高だ……才能あるよ小夜さん」  
「大げさね……何か恥ずかしいわ……」  
「そう、その恥じらいの表情のままショーツをまた少しずつ下ろして……そう、足を抜く……」  
 
小夜は横座りのまま片手でショーツをゆっくりと引っ張り、余韻を残しながら片足ずつ脱いだ。その様子をカメラがじっと捉える。  
純太朗はカメラを一時停止させて立ち上がり、今度は俯瞰撮影で小夜に布団に横になるよう命じた。  
身を横たえた小夜の裸身を再び足元から舐めるように映して行く。  
 
「……こうして見ると改めて素晴らしいと思うよ、君の体……今度は両手でオッパイを包むように隠して……」  
 
純太朗がアップショットで捉える乳房を小夜が遮るように両手で包む。  
 
「このオッパイに触れられる君の旦那は幸せ者だよ……いつもどんな風に揉んでくれるの?」  
「もう、旦那ってあなたの事じゃない……こんな感じで……」  
 
急に第三者視点で語りだす夫に苦笑しながら小夜は自分の胸を柔らかく揉み始めた。  
 
「ほぉう……でも揉むだけかな? 他にはどんな事されるの?」  
「お…オッパイ全体を舐め回したり……乳首を吸ったり咬んだり……」  
「咬む? ひどい旦那さんだなぁ。痛くされない?」  
「いえ…夫が乳首に立てた歯にだんだん力を込めてくると、痺れるような快感が広がってくる…んです……」  
 
夫の意図が読めてきた小夜は、アダルトビデオの中でインタビューされるAV女優のように答えた。  
自分でも乳首を指の間に挟み、きりきりと力を込める。  
 
「んんっ……う…ふぅ……はぁぁ……」  
 
そのつもりはなかったはずだが、自ら乳房をなぶる内に小夜は体の奥が次第に熱くなってくるのを感じた。  
 
「そのまま……揉み続けて……」  
 
純太朗は一旦カメラを止め、液晶モニターを展開して小夜の腹部から乳房越しに彼女の顔を捉えるアングルで撮影を再開した。  
 
「あ……うんっ……はんっ……はぁ……」  
「旦那さんはいつもこんな風に君の顔を見ながら胸を揉んでいるんだね……そのせつなげな表情を見ながら……」  
 
純太朗は再びカメラを一時停止させ、小夜の脇から頭の方へ移動し、今度は唇のアップから録画を始めた。  
 
「可愛い唇だ……厚過ぎず薄過ぎず、形のいい唇……これで旦那のモノを咥えるんだね……」  
「はい……頬張って出し入れしたり、中で舌を絡めたりするとあの人は気持ちよくなって口の中に射精[だ]してくれます……」  
 
そう言い終えると小夜は右手の人差し指と中指を揃えて唇に当てた。濡れた舌を出して指先をちろちろと舐める。  
 
「旦那の精液って美味しい?」  
「……ヌルヌルで生卵みたいですけど、私への肉欲と愛情が込もっていると思うと、美味しいって思えるんです……」  
「なるほど……でも精液ってのは本来ここで味わうものだよねぇ?」  
 
純太朗はカメラをパンさせ、小夜の腹部を映す。小夜もそれに合わせて両手を腹部に這わせてゆく。  
 
「もちろんそこでも味わってます……受胎するまで何回も中に出されました……」  
「中に出す!……いいね……受胎という事は、君は旦那の精液で妊娠したんだね? 旦那の子供を産んだんだね?」  
「そうです……夫と私の血が交わりあって出来た……可愛い男の子です……」  
 
草太を妊娠していた頃の事を思い浮かべながら、小夜は下腹部を愛おしげに撫で回す。  
そこで彼女は撮影中の夫の様子が変わったのに気付いた。卑猥な問い掛けを止め、じっとカメラ越しに腹部を見つめている。  
 
「そうだ……君のここには命を宿す神聖な場所がある……」  
 
一児の父親として小夜の言葉に何か感じるものがあったのかも知れない。彼女は夫の鼻をすする音を聞いた。  
しかしこれではアダルトビデオにならないのではないのか? 小夜は余計な気を廻した。何か話さなければ。  
 
「……あの……もう少しいいですか?」  
 
「ん? あ、ああ、いいよ」  
インタビューを受けるAV女優のノリのまま問い掛ける小夜の言葉に純太朗は我に返った。  
 
「確かにこのお腹の中は命をはぐくむ場所です……でもお腹の上は……夫の体を受け止める為にあります……」  
 
小夜はそう言ってゆっくり脚を開き、股間に指を伸ばした。恥毛をかき分け秘部の入り口を晒す。  
純太朗は素早く彼女の足元へ移動し、Mの字に開いた脚の間へカメラを向けた。  
 
「夫がここに入って……一緒に動きを合わせると気持ちよくなって……この人と身も心も繋がっていると実感出来るんです……」  
 
小夜は露わになった秘裂に沿って指を滑らせる。純太朗は無言のままその様子をカメラに捉える。  
 
「夫は魔力を持たない普通の人です……出合った頃の私に…そんな夫を見下す気持ちがなかったと言えば嘘になります…  
 本当にこの人でいいのか……こんな人を夫にしていいのか……そんな不安を抱いた事もあります……」  
 
独白を続ける小夜の呼吸が少しずつ荒くなってきた。秘裂をまさぐる指が湿った音を立て始める。  
 
「でもそれは杞憂でした…私が真実を打ち明けてもあの人は私を拒まなかった…正気を疑われても仕方のない話なのに…  
 そしてあの人は私が去った後、草太を育てながら10年間、私を待っていてくれた……とても嬉しかった……  
 夫が私を組み敷き…体を預けている時……その重みに私はこの人に求められていると実感します……  
 この人を選んで本当に良かったと、今は心からそう思っています……」  
 
語り終えても小夜の自慰行為は続いた。純太朗の視線が液晶モニターと妻の顔を交互に行き交う。  
 
「ごめんなさい……いやらしい事を話すつもりだったのに、言葉が自然に……邪魔なら消していいわ……」  
「いや、消さないよ……君の心からの言葉だ……このまま残しておくよ」  
「はしたないわね、私……あなたの前でこんな事……こんな姿でも気に入って下さる?……」  
「もちろんだよ……オナニーしている所も素敵だよ……」  
 
そう言われて安心したのか、小夜は愛液まみれの指を膣口の奥まで潜り込ませた。  
 
「あうんっ!……もういいでしょ、あなた……来て……ビデオ撮り続けていいから……あ…あんっ……」  
 
揃えた中指と薬指を激しく膣口に出入りさせながら、夫を誘うように小夜は腰をくねらせた。  
純太朗は液晶モニターから目を上げ、小夜の顔を見つめた。思いつめた表情で口を開く。  
 
「…私は別に魔法を嫌っている訳じゃないんだ…魔法を使うのが常態化して、それで君が魔女である事が世間に知れて…」  
「そのせいで私がここにいられなくなると思った?…あんっ……大丈夫よ、力の使いどころは分かっているわ……」  
「それならいいんだ……頼む、今夜だけは……避妊魔法を使ってくれないか…」  
 
その言葉に小夜の自分をなぶる指の動きが止まった。紅潮している頬に更に赤みが差し、目を潤ませる小夜。  
 
「ずっと待っていたのよ、その言葉……」  
「すまない……見てくれ……こんなに興奮するのは久しぶりなんだ……」  
 
純太朗は左手でトランクスごとパジャマの下をずり下げた。硬く屹立したペニスの先端から先走りが溢れている。  
 
(ああ……あんなになって……)  
 
興奮したのは小夜も同じだった。あれほど怒張したものに貫かれたら――。  
 
「このまま君に入りたい……いいね?…」  
「ええ、喜んで……」  
 
純太朗はビデオカメラを畳の上に置いた。パジャマの上を脱ぎ捨て、小夜の脚の間に陣取る。  
 
「それじゃ、君が上になってもらおうか」  
「えっ……ええ……」  
 
小夜はおずおずと起き上がり、それと入れ替わるように純太朗が布団に寝そべる。  
天を突き刺すようにそそり立つ夫のペニスの上に跨った小夜は、濡れそぼった恥毛をかき分け指で秘裂を広げた。  
もう一方の手で夫のペニスに手を沿えて先端部を膣口にあてがい、ゆっくりと腰を下ろす。  
純太朗はその様子を余す所なくビデオに収めている。  
 
「あっ……ううん……っあああっ!……はぁぁっ……」  
 
突入してきた純太朗のペニスの感触に小夜は甘い溜息を漏らす。  
純太朗もまた妻の熱くとろける様な膣内の肉襞を直に感じ、ぶるっと身を振るわせる。  
 
「ああ……久しぶりだ、この感じ……すごくいけない気分になるよ……」  
「何がいけないの…ああっ! あっ!あっ!あんっ!」  
 
おもむろに動き出した純太朗の腰に小夜は堪らず嬌声を上げる。  
 
「君を妊娠させたくてたまらないんだ……」  
「あっ! はあっ……二人目…欲しいの?……ああんっ!」  
「残念だが気持ちだけだよ……この歳で小さい子の面倒を見るのはキツそうだ」  
「あなたがそう言うなら…仕方ないわね…あんっ…草太も受験前に…下の子が出来たら落ち着かないでしょうし……」  
 
草太。その名を出して小夜の胸が疼く。純太朗に騎乗位になるよう言われた時に蘇った昨夜の記憶。  
草太と三度目に繋がった時もやはり騎乗位だった。彼は母親を突き上げながら尻の肉を掴み、乳房を揉んだ。  
そして小夜もまた、背徳感にさいなまれながら体を上下させ、腰をグラインドさせて快感をむさぼっていた。  
 
「ああっ……はっ……はぁっ……あなた……私、ゆうべ…」  
 
小夜が喘ぎながら言葉を続けようとした時、純太朗は空いている手の人差し指を出して制した。  
 
「君が何を言いたいのかは分かるよ……でもそれはさっき済んだだろう?」  
「ううん、やっぱり私うやむやに出来ない……あなた、私に汚い言葉を言って! 口汚く罵って!」  
「小夜……」  
「私に罰を与えて……あなたを裏切り、草太ので感じていたのよ……それでも許せるの……」  
 
純太朗はカメラを停止させ、妻を突き上げる腰の動きを止めた。  
 
「本音を言えば怒っているよ、君にも草太にも……でも感情を露わにした所でどうなるものでもない……」  
「………」  
「怒りや憎しみを心の宝物のように扱えば、それこそサンドリヨンみたいな化け物になる……  
 君が自分のした事の意味を自覚し、詫びる意思を示せるのなら、私はただ許すしかないんだ……」  
「あなた……」  
「こんなお人好しなやり方は他人[ひと]の共感を呼べないだろうけどね。世間には世間の都合があるだろうし」  
「……それでも……私……」  
「今の君に相応しい罰があるとすれば……このビデオ撮りに最後まで付き合う事……  
 そして……これからもずっと、私の妻であり続ける事」  
「!……あなた……」  
「最後のは君にとってかなりキツイ罰だと思うが……どうかな?」  
 
純太朗の言葉に小夜の肩が、夫の腹の上に置いた彼女の両手がふるふると震えた。  
両の頬を涙が伝い落ちる。  
 
「……そうね……すごく辛いと思うわ……一生掛けて…続けなければ…ならないんですもの……」  
 
小夜は泣き崩れ、夫の胸に顔を埋めた。純太朗はカメラを置いて妻の背中を抱きしめ、泣き止むのを待った。  
 
「……ごめんなさい……また邪魔をして……」  
「いいよ……気持ちは晴れたかい? 辛いだろうけどまた始めるよ…あっ、しまった…またやった……」  
「どうしたの……あらっ……あなた……」  
 
純太朗のペニスは気持ちの集中が途切れた為に、小夜の膣[なか]で萎えかけていた。  
こうなるとちょっとやそっとでは勃起しない。最近の彼は何度かこんな調子になっていた。  
 
「私の膣[なか]でグンニャリするなんて、許せないわね」  
「すまない……歳を食うとこんな感じなのかな……情けないよ」  
「ふふっ……そんなにしょげないで……力になるって言ったでしょ。今こそ回復魔法の出番よ」  
 
 
――30分後。  
純太朗は小夜の片脚の太腿を抱え、松葉崩しの体制で持ち上げていた。  
彼女の股間で激しくピストン運動を繰り返す。  
 
「あっ!あっ!ああっ!あんっ!もう許してぇっ! それ以上されたらっ、私っ、あはっ、ぁあんっ!」  
「まだだ、お前は何度でもイケる女だろう!?」  
「い、嫌っ! 私そんな女じゃないっ……あっあっあっ! あなたっ! あぁああぁああんんっ!」  
「無駄だ、旦那は爆睡中じゃないか、お前が何度喚いてもピクリとも動かねぇだろっ! 俺が起こすか?」  
「や、やめてっ、ぁはんっ!こんな所、見られたくないっ…はぅうんっ!」  
 
何やら会話の内容がおかしいが、これには訳があった。  
小夜が施した回復魔法によって純太朗の体は20代の頃のポテンシャルを取り戻した。  
 
“これが魔法の威力か…腰にF1マシンのエンジンが付いているようだ…ありがとう小夜”  
“あっ!あっ!あんんっ!……あなたに、喜んでもらえると、あんっ!…私も嬉しいわ…はぁんっ!”  
 
この30分の間に小夜は4回絶頂を迎えた。そして純太朗は小夜が2回目の時に1度膣内射精した。  
平時の彼ならこの1回で終わる所だが、魔法でチューンアップされた体はすぐに勢いを取り戻した。  
だが2ラウンド目、体位は何度か変えたものの抽送の単調さに飽きてきたのか、小夜に言葉責めを始めた。  
それがいつの間にか『夜中に押し込んできた強盗にレイプされる人妻』という小芝居に変わっていたのである。  
しかも純太朗にとって意外だったのは、小夜が犯される主婦をノリノリで演じている事だった。  
 
「嫌なら何で素っ裸で俺にハメられてるんだよ? 何で上と下の口からよだれを垂らしまくってるんだよ」  
「あっ!あぁっ! あ、あなたに何が分かるの!? あぅん! お願いだからもうやめて!」  
「やめてやるさ……お前の膣[なか]に射精[だ]したらな」  
「い、嫌ッ!膣はやめて!主人とはここ半年してないのっ……妊娠したら他の人としたのが分かっちゃう…」  
「なっ……ったく、だらしない旦那だな……なら俺が出て行ったらすぐヤれ。そうすれば誤魔化せるだろう」  
「嫌、嫌よ!主人以外の子供なんて産みたくない! あぅっ!ああんっ!」  
「ほら、泣き言はいいから這え! 痛い目に遭いたいか?」  
「うっ……うう……ひどいわ、こんなの……」  
 
屈辱感を滲ませて呻きながら小夜は純太朗と繋がったまま四つん這いになった。  
 
「いい尻だ……この丸みに滑らかな肌触り……」  
「い…いやらしい手つきで触らないで……」  
 
尻を撫で回す純太朗の手におののきながら小夜はもじもじと腰を動かす。  
 
「この尻は尻の神様が作った芸術品だ……こいつにハメまくってる旦那は幸せモンだなぁ」  
「下品な事言わないで……」  
「俺は褒めているんだぜ? 褒められると女は燃えるんだよな? 俺にも旦那と同じ思いさせてくれよ」  
 
そう言って純太朗はゆっくりと抽送を開始した。ビデオカメラが小夜の尻越しに結合部を捉えている。  
 
「あっ……あぅ……ああぁ……い、いやぁ……」  
「すごいぜ……俺のチンポがお前のよだれでヌルヌルになってお前の穴を出入りしているぜ……」  
「そんな言い方しないで……何でも言う事聞くから、膣[なか]だけはやめて……あっ!あっ!あっ!」  
 
純太朗はいきなりピストン運動のピッチを早めた。乳房を揺さぶって小夜の体が前後に動く。  
 
「そんなに膣は嫌か……じゃあ外に出すぞ。何処にかけられたい? 背中か?それとも腹か?胸か?」  
「ど、何処にもかけられたくな……ああっ!!」  
 
純太朗は強引に小夜の体をひっくり返し、今度は正常位に持ち込んだ。再び抽送を繰り返す。  
 
「言う事聞くんだろ? だったら答えろ。こっちはそろそろ本気で出そうなんだ……」  
「ま、待って! こんな形で妊娠するのは嫌!……あっ!あっ! な、何急いでいるの!?」  
 
純太朗の動きが早まった事におののく小夜。カメラはその怯えた表情をアップで捉える。  
 
「早く射精[だ]す為だよ……さあ、もう時間がないぞ。さっさと答えろ!」  
「あうっ、うう……お、お腹に……」  
「そうか、腹か……よぉし、イクぞ……うんっ、うんっうんっ」  
「あっ!あっ!あっ!やっ…あっあっあっああああああぁあああっっっ!」  
「そぉらイクぞ……顔だぁ!!」  
「えっ!? そんなっ、話が…あううっ!!」  
 
純太朗は射精直前の逸物を抜き取り、素早く小夜の頭の方へ寄ると勢いよく白い粘液を放った。  
 
「むっうぅ……いや……あふぅっ……」  
 
断続的に浴びせられる精液に小夜は顔をしかめ、息を詰める。  
 
「ハァ…ハァ……満足したか? 旦那とも生でヤれよ。妊娠したらまた遊びに来てやるからな」  
「う……うう……人でなし……」  
 
屈辱に唇を振るわせる小夜の顔のアップを収めて、純太朗はカメラを止めた。  
 
「よし、ご苦労様……いい画が撮れたよ……最後、本気で嫌がっていたように見えたけど?」  
「当然でしょ……あんなにまともにかけられたの初めてだもの……」  
「すまない……女性を侮辱する行為だから、今まであえてしないでいたんだけどね……  
 でもAVのフィニッシュったら、やっぱり顔射なんだよなぁ……」  
「……それよりあなた……私の事、変な女だと思った?」  
 
小夜は脱力したように寝そべったまま訊ねた。犯される主婦の熱演ぶりを気にしているらしい。  
 
「変とまでは言わないけど…随分慣れた感じだったね。アドリブ激しいから付き合うのに必死だったよ」  
「ファンダヴェーレでたしなんでいたのは踊りだけじゃないの。絵とか楽器とか、お芝居なんかも…」  
「お芝居か……成る程ね……おっと、悪いけど顔を拭く前にもう1カット撮らせてくれ」  
 
純太朗は再びカメラを構え、液晶モニターを小夜の顔に向けて反転させた。  
 
「わざわざ見せなくていいわよ……」  
「いや、感じを掴んでもらおうと思ってね……いつものイッた後のようなトロンとした目で…」  
「……こう?」  
「そう、それだ……始めるよ」  
 
カメラの前面にある赤い録画ランプが点灯する。口元のアップから目元へパンし、ズームバックする。  
モニターのフレーム一杯に小夜の顔が現れる。  
 
(…何て顔してるの……)  
 
液晶モニターの画面に映し出されている自分を見て、小夜は呆れたように胸の内でつぶやく。  
夫に浴びせかけられた精液を、顔一面にへばり付かせている女のだらしない顔。  
そこに王の側近として人々の信頼と尊敬を集めていた賢者シルフィーヌの面影はなかった。  
そこに映っているのは、強いて言えば――家族の絆の為に牝になる事を選んだ女の顔だった。  
 
「OK、これでお終いだ。付き合ってくれてありがとう……お詫びに一口……」  
 
ビデオカメラを置いた純太朗はそう言って小夜の頬を伝い落ちる精液をペロリと舐めた。  
 
「なっ!?…あなた……」  
「……うーん……やっぱりマズイか……」  
「……言っていい? あなた変態よ。自分のなんて……草太の事とやかく言えないじゃない…」  
 
嫌のものを見させられたと言わんばかりに険しい目つきで小夜は言った。  
 
「いやぁ、君がどんな思いでこれを飲んでいるのか、何となく知りたくなってね……」  
 
決まり悪そうに苦笑いしながら純太朗が答える。小夜はフンと鼻を鳴らした後、顔の緊張を解いた。  
 
「それに……これは全部私のものよ……たとえ出した本人でも勝手には舐めさせないわ」  
「はいはい、それじゃお願いします」  
 
純太朗は小夜に向かって頭を屈め舌を差し出した。小夜はその舌に吸い付き、残っている精液をしゃぶった。  
その後も純太朗は妻の顔に付いたぬめる粘液をすすり取り、口移しで与え続けた。小夜はそれを美味しそうに飲む。  
仕上げに純太朗は小夜の顔全体を執拗に舐め回した。小夜もまた嫌がる事なく夫の行為に身を任せる。  
身も心も溶け合う様な夫婦のひと時。  
ファンダヴェーレの人々は、自分がエルデの男とこんな痴態を繰り広げていると知ったらどう思うだろう――。  
王国の名を穢す者とそしられ、二度と帰る事は叶わぬかも知れない。しかしそれでもいいと小夜は思う。  
サンドリヨンの封印は新たな七賢者たちが引き継いだ。ファンダヴェーレでの自分の役目はもう終わったのだ。  
ならば愛する夫や息子と共に生き、このエルデに骨を埋めるという道も有りだろう。  
何より、かの地に自分の帰りを待つ家族は――もう誰もいないのだ……。  
 
「……どうしたの? 涙ぐんで……嫌だったかい?」  
「ううん……あなたとこうしているのが嬉しいの……」  
「んん?……これも君の言う変態的行為だと思うんだけどね」  
「女が嬉しいと言えば、それは嬉しい事なのよ」  
「ならいいんだが……しかし絶倫過ぎるのも考え物だな……永久ピストン運動なんて苦痛なだけだよ。  
 君は何度でもイケるからいいかも知れないけど…」  
「そうでもないわ……激し過ぎたら次の日に支障が出るもの。自分には回復魔法かけられないから……」  
「…何事も程々が一番だな…あ、でも…カスタマイズの必要はあるが、また回復魔法のお世話にはなりたいな。  
 硬さが持続するって素晴らしいよ、小夜」  
「そうね……あなたと奥まで繋がっているって感じがするわ……ふふっ、何言ってるのかしらね、私たち」  
 
小夜はそう言って純太朗と顔を見合わせ、少女のようにクスクス笑った。  
 
 
 (終わり)  
 

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