「し、知ってどうするの……あなたもそこに興味あるの?……」  
「ない訳じゃないけど……でも本格的にするとなると、色々下準備が必要らしいからなぁ……」  
 
平静を装って答える純太朗だったが、おずおずと尋ねる小夜に引っかかるものを感じていた。  
そして『あなた“も”』という言い回しについて考え、彼は妻の体にはもう処女の部分がない事を  
悟った。  
 
「いや、答えたくないのならいいよ。君のプライベートな問題だし……ごめんよ」  
 
純太朗は菊門を広げていた手を緩めた。だが互いの行為の無いまま気まずい沈黙が訪れる。  
しばし純太朗のペニスを見つめていた小夜は意を決したように口を開いた。  
 
「シルフィーヌとして言うけど……私、あなたが思っているほど綺麗な体じゃないのよ……」  
「……うん……分かっているよ……」  
「…あなたに話せないような事、いっぱいされて来たのよ……私の事、汚らわしいと思わないの?」  
「そんな事にこだわるようなら10年も待ったりしないよ……君がファンダヴェーレに戻っている間、  
 時折考えていたんだ……千年余りも生きていたなら、色々あったんだろうなって……」  
「あなた……」  
「君が望んでそうなった訳じゃないだろう? 調教とかされて、その時の“ご主人様”の味がいまだに  
 忘れられないってのなら話は別だけど」  
「そんな事ないわ!……この体を好きにしていいのはあなただけよ……」  
「君にそこまで言ってもらえるなら、私に君を拒む理由はないよ……じゃ、続けようか」  
 
純太朗はサバサバした口調で言うと小夜の体のほうへ両手を廻し、乳房を掴んだ。  
 
「あっ!……あな、た……はぁ……あぁ……」  
 
小夜の乳房を揉みながら純太朗は舌先で妻の女陰を舐める。小夜は甘く切ない声を漏らしながら  
自身も夫のペニスを再び口に含んだ。  
 
 
千年余り生きてきた時間の中で、シルフィーヌが強姦されたのは二度や三度どころではない。  
邪悪な魔導士に使役される魔物の触手に絡め取られ、乳房や膣内を嬲られ、汚らわしい体液を  
全身に浴びせられた事もあれば、魔力を封じられた上で輪姦、あるいは複数の男たちに挿入可能な  
部分を同時に攻め立てられた事もあった。  
獣欲に満ちた相手に目を付けられた、もしくは戦いに敗れた女魔法使いは概ねそんな憂き目に会う。  
若い娘は勿論、見た目がよければ年老いた女も恰好の餌食になった。  
いきり立つ男たちが求めるのは、ただひたすら性欲の解消と女の体を蹂躙する事によって得られる、  
根拠の無い自信と征服感。  
シルフィーヌはこの事に関しては相手が誰であろうと容赦なかった。  
彼女は自分を陵辱した連中の大半に射精の快感と引き換えに過大な代償を払わせたが、それでも  
彼女の心身に深い爪痕が残された事実に変わりは無い。  
いくら理解を示してくれてるとはいえ、具体的な事を純太朗に、ましてや草太にファンダヴェーレの、  
そして賢者シルフィーヌの暗部を話せるはずも無い。  
だが――。  
 
 
「……んっ……んむっ……はっ……あふ……んんっ……」  
 
小夜は一心不乱に口の中で夫のペニスを攻め立てる。思い出したくないのに次々と湧き出す  
忌まわしい記憶を振り払うように。しかしそれだけではなかった。  
 
“私……あなたが思っているほど綺麗な体じゃないのよ……”  
 
その一言は一歩間違えれば妻の座を失いかねないものだった。だが純太朗の心は揺るがなかった。  
人と人の心の絆は確かに強い時もあるが、それが些細な事で断ち切れてしまう場合もあるのを、  
小夜はこれまでの人生経験上、嫌というほど知っている。  
とりわけ“他の男の精液”は、夫婦や恋人たちの心の絆をいとも簡単に溶かし断ち切ってしまう。  
ときに魔法でさえ繋ぎ止める事が難しい、そのか細い絆を純太朗は素手で掴んで離さなかった。  
小夜はその事に強く心打たれていた。夫のものをしゃぶりながら涙があふれて止まらなかった。  
 
「小夜……もういいよ……そんなに激しくされると出ちゃいそうだ……」  
 
純太朗は無我夢中になっている小夜の尻を軽く叩き、フェラチオを止めるよう促した。  
 
「出していいわよ……飲ませてって言ったでしょ……」  
「うん、でも……一応コンドーム持ってきたけど、何か君の膣[なか]に出したくなった……」  
「やだわ、来る前からその気だったの?……でも私に任せてくれるのね、避妊……」  
「まあ、君も魔法を錆び付かせたくないだろうしね……今日は頼むよ」  
「分かったわ……ありがとう、あなた」  
 
小夜は夫から体を離し布団の上に寝そべった。純太朗はそこで妻の目の涙に気付いた。  
 
「どうしたんだい、その目……泣いてた?」  
「何でもないわ……あなたの攻めが激しくて感極まっちゃったの」  
「そう? いつも通りにしていただけなんだが……」  
「ね、それよりあなた……今夜じゃなくてもいいけど……興味があるというのなら……  
 私のお尻でしてもいいわよ……」  
「えっ?…でもそれは……」  
「魔法を使わせてくれれば、穴の周りも直腸[なか]もすぐに綺麗に出来るわ……私の体全てに  
 あなたの匂いを付けて欲しいの……」  
 
「……それで昔の事にケリを着けられる?」  
「何もかもという訳にはいかないけど……一番最後の相手があなただと思えば耐えられるから…」  
「分かった……楽しみにしているよ」  
 
戸惑いながらも純太朗は嬉しそうな笑みを浮かべた。世間広しといえど、妻にアナル・セックスを  
許される男などそうはいないだろう。もっとも小夜自身は必ずしもその気があった訳ではなかった。  
涙の意味を悟られたくなくて、話をそらそうと咄嗟に思いついただけだった。  
しかしこれでよかったのかも知れないと小夜は思う。純太朗に全てを許したかったのは事実だが、  
場所が場所だけに自分から求めるのははばかられた。夫に脈があると分かればこそだった。  
小夜は両手の指を内腿の間に向かって滑らせ、ゆっくりと股を開いた。  
純太朗は妻の脚の間に入って腰を引き寄せ、たっぷりと濡れた秘裂に亀頭の先端をあてがった。  
 
「行くよ、小夜……ううんっ」  
「あ……ふあぁぅっ…!!」  
 
湿った音を立てて純太朗のペニスは小夜の奥深くまで潜り込んで行った。慌てて口を塞ぐ小夜。  
純太朗は根元を小夜の股間に密着させ、結合の深さを実感してから溜息を漏らした。  
 
「ああ……直に入るのは10年振りだ…ヌルヌルで温かい……ここの温泉より癒されるよ……」  
「癒されるだけじゃ駄目よ……私をもっと熱くさせて……」  
「もちろんさ……」  
 
純太朗は小夜の膣[なか]に収めていたペニスをゆっくりと引き抜き、カリ首が露出する所で止めた。  
それを再びゆっくり秘裂の奥に沈めてゆく。熱く硬い剛棒が肉襞の中を突き進んでくる感触に、  
小夜はゾクゾクッと身を震わせた。  
 
「あ……あぁあ……怖い……私の膣[なか]……壊されちゃう……」  
「おいおい、まだ1ストロークもしてないよ」  
「ううん、来るの……あなたの熱い塊りが……そこを出入りして……私をふしだらにするの……」  
 
「そりゃけしからんな。どれ程ふしだらになるか見せてもらうよ」  
 
そう言って純太朗は小夜の両脚を引き寄せ、足首を掴んでVの字に開き腰を動かし始めた。  
グチュッ、グチュッという湿った音と自分を貫く生身の剛直に刺激され小夜の体がわななく。  
 
「あっ! あっ! あ……いや、こんなの……あっ! ああっ! いい……」  
「いいのか嫌なのか、どっちなの?」  
「だって…ああっ! いい! すごいの! はっ…ああっ、我慢できない! あああっ!!」  
「小夜、大きいよ声――」  
 
熱くなる一方の小夜を純太朗がたしなめたその時。  
 
「待って!!」  
 
草太がそう叫んで跳ね起きる音を聞いて、純太朗と小夜は息を飲み体を硬直させた。  
二人は恐るおそる草太の方に視線を向け、同時にしまったと思った。草太もまた二人を見ていた。  
緊張する純太朗と小夜。だが草太の視線が定まっていないのを見て自分たちが魔法で目の感度を  
上げているのを思い出した。草太から見れば部屋の中は真っ暗なはずだ。  
親たちが何をしているのか気付く訳がない――だがそう思い直しても気が気ではなかった。  
 
(草太……早く寝て……私たちのこんな姿見ないで……)  
(草太、頼むから寝てくれ……それが親孝行というものだぞ)  
 
二人の必死の願いが通じたのか、草太はゆっくりと頭を巡らし暗い部屋の中を見渡した。  
 
「……どこに行ったんだろう、マレーン……」  
 
そうつぶやくと草太はパタンと倒れ、再び寝息を立て始めた。  
それでも二人は油断しなかった。30秒ほど草太の様子を見て寝入ったのを確かめ息を吐き出した。  
 
「ふう……脅かしてくれる……マレーンって…サンドリヨンの昔の名前だよな?」  
「そうよ……どんな夢を見てたのかしら……」  
「何にせよ、夢を見ているって事は眠りが浅いって事だな……早いとこ済ませよう」  
「そ、そうね……あ、あなた? どうしたの?」  
 
抽送を再開すると思っていた小夜は純太朗が体を離した事に驚いた。  
 
「……今のでやられた……」  
 
純太朗のペニスは硬さを失っていた。草太が寝ぼけて起き上がった事で集中が途切れたらしい。  
彼は小夜の見ている前で自分のものをしごき始めたが、なかなか回復しなかった。  
恋人関係なら幻滅されかねない状況だが、小夜は笑いもなじりもせず心配そうに夫を見守った。  
彼女にとってはムード云々よりも夫との行為を継続出来るかどうかの方が重要だった。  
回復魔法を使えば手っ取り早く解決するのは分かっているが、なるべく魔法に頼りたくないという  
純太朗の意向を無下には出来なかった。それでなくても今夜は二つも特別に魔法を使う許しを  
得ているのだ。自分も手を貸すべきか――そう思った時、小夜の脳裏に閃くものがあった。  
 
「ねえ、あなた……あれを試してみたら?……」  
 
小夜はそう言って寝そべり、両手を頭の上に伸ばし両の手首を組んだ。  
 
「小夜、それは……」  
「分かってるのよ……こうするとあなたがすごく興奮するのが……」  
「……いいのかい? さっきの話の後じゃ……」  
「大丈夫よ……して……」  
「それじゃ……お言葉に甘えるよ」  
 
純太朗はペニスから手を離し小夜の上に覆いかぶさった。むき出しの乳房が彼の胸の下で潰れる。  
左手で小夜の手首をまとめて固めると純太朗は妻の唇に激しくむしゃぶりついた。  
いつもの甘いキスではなく、猛獣が生肉をむさぼるような暴力的なものだった。  
その一方で小夜も抵抗するかのようにわざと下半身をもがかせた。男の体の重みにおののき、  
侵入を拒むようなその動きに刺激され純太朗のペニスは再び怒張し始めた。  
 
「もういい、暴れるな」  
 
純太朗は控え目に小夜を恫喝した。いつもの彼とは思えないドスの利いた声音だった。  
小夜の動きが大人しくなる。  
 
「……犯されると思うな。俺たちはこれから一つになって愛し合うんだ……そう思えばまだ  
 気が楽だろう?」  
 
低い声ながらも興奮気味にささやく純太朗を怯えたような目で見つめていた小夜は唇を引き結び、  
やがて両の目も硬く閉じて下腹部に密着している熱い肉棒の侵入に身構えた。  
 
「いい子だ……俺たちは一つに繋がって愛し合う……怖がるな、体の力を抜け……」  
 
純太朗は悪ぶった言い草でペニスを妻の膣口にあてがって突入可能な状態にし、ペニスを掴んだ  
その手で彼女の口を塞いだ。小夜の鼻腔の中に酸味を帯びた塩っぽい匂いが広がる。  
純太朗は深呼吸をし、溜めをつくって腰を引いた。  
 
「行くぞ……ふんっ!!」  
「むぐぅッ!!」  
 
暴力的に肉棒を突き入れられ、小夜はくぐもった悲鳴を上げた。妻の悲痛な表情を見つめる純太朗。  
 
「……ありがとう。入ったよ……痛かったかい?」  
 
いつもの口調に戻って訊ねる純太朗に、口を塞がれたままの小夜は頭を左右に振って答えた。  
 
「……今まではただのプレイのつもりだったが、君は辛い記憶を刺激されていたんだろうね……」  
 
申し訳無さそうに言う純太朗に小夜はそんな事は無いと言いたげに頭を振った。  
 
「前にも言ったけど、私にも暗い衝動はある……君と愛し合っている最中にもいけない想像をして  
 いたりしたんだ……もちろん相手は君だよ。いい気はしないだろうけど……」  
 
取って付けた様に言う純太朗の言葉を小夜は話半分で受け取っていた。妻の体だけで満足するなら  
わざわざ陵辱プレイなどしないだろう。だがそれでもいいと小夜は思っていた。  
純太朗が他の女の事を妄想するのは面白くないが、浮気を実行に移さないだけもマシだった。  
そして小夜は分かっている。夫に強姦願望があるとしても彼はそれを実際にする事はない。  
純太朗はそれだけの自制心を持っている。その気持ちに応える為にも自分がガス抜きにならねば。  
 
(いいのよ……あなたのよこしまな欲望を受け止められるのは私だけ……そしてあなたがその  
 歪んだ欲望を吐き出していいのも私だけ……)  
 
「ちょっと息苦しいかも知れないが辛抱してくれ……始めるよ」  
 
小夜がうなずくのを見てから純太朗は抽送を開始した。いつもよりも強引に突き入れる。  
硬い肉棒が押し込まれる度に小夜は眉間に皺を寄せ痛がるようなうめき声を漏らす。  
 
「んんっ!…んうっ!…むぐぅっ!……」  
「辛いか? 辛いだろう? ンン? もうこんなのやめてって、心の中で思ってるだろう?」  
 
いやらしい口調で訊ねる夫を微笑ましく思いながら小夜は頭を振った。純太朗は女を強姦している  
つもりだろうが、実際にそういう目にあった事のある小夜から見ればまだまだ可愛いものだった。  
本気で女を肉便器だの肉奴隷だの、性欲処理の対象としか見ていない男たちは体臭からして違う。  
かたくなで腐敗しきった魂の持ち主は女の体はもちろん、邪悪な目つきや口調で心まで踏みにじる。  
それに比べればいつもより激しく突き入れるだけで、妻を気遣う純太朗はまだ優しく温かい。  
この人の為ならいくらでも体を開ける。“あの日”もそうした様に――。  
 
 
小夜の想像とは裏腹に、強姦プレイで純太朗が妄想している対象はあくまで小夜だった。  
彼にとって妻を犯すという行為は特別な意味を持っていた。10年前のあの日。  
母のおとぎ話を聞くうちに眠ってしまった草太を小夜はなかなか寝室に運ぼうとしなかった。  
何か様子が変だと思った純太朗が問いただすと、小夜は居住まいを正し、意を決して語り始めた。  
自分が異世界から来た魔女である事。  
『エルデの鍵』の力を持つ者を生む使命を持ってこの世界に来た事。  
そして封印を破って復活した暗黒魔女と戦う為、元の世界に戻らねばならなくなった事。  
 
小夜の言葉だけなら悪い冗談だと笑い飛ばす事も出来ただろう。だが彼女の呼びかけに応じて  
居間の壁の中から大賢者サルタンが抜け出てくるのを見て純太朗は言葉を失った。  
鷲鼻と長い耳を持つ異種異形の老人。小夜を迎えに来た彼はずっと異空間に身を潜めていた。  
魔法と異世界の存在を実感させるには充分過ぎるほどのデモンストレーションだった。  
妻の言葉が真実である事を理解した純太朗の頭の中に色々な思いが錯綜した。  
母親が突然いなくなった事を草太にどう説明すべきなのか。  
戦いに赴くという妻は本当にいつかまたここへ戻って来てくれるのか。  
やがて純太朗の考えはある一点に集中し始めた。彼はサルタンに男として頼みがあると言った。  
一時間、いや30分でいいから小夜と二人きりの時間を与えて欲しいと。  
純太朗の真剣な眼差しに感じるものがあったのか、サルタンは何も言わず再び壁の中に消えた。  
後に残された純太朗は小夜を引っ張って二人の寝室に向かった。  
部屋に入るや否や純太朗は小夜を押し倒し、ボタンを飛ばして彼女のブラウスを押し開いた。  
 
「あ、あなた!? 何をするの!? い、嫌ッ!!」  
 
ブラジャーをずり上げ露わになった妻の乳房に純太朗は激しくむしゃぶりついた。彼は更に小夜の  
スカートの中に手を突っ込み、強引にショーツを引き剥がした。  
 
「や、止めてあなた!! 一体どうしたの!?」  
「今日は“する”約束じゃないか。分かってるだろう!?」  
「だ、だからって…こんな乱暴なのは嫌よ!! 怒ってるの!? 私が嘘をついてたから!?」  
 
純太朗はそれには答えず唾を手に吐き、小夜の秘部に無理矢理塗りたくった。  
 
「あなたお願いやめて!! サルタン助けて!! 私がどんな目にあってるか知っているんでしょ!? ねえ!!」  
 
小夜は盟友に助けを求めたが、何の反応も無かった。純太朗はベルトを外しズボンを半脱ぎ状態で  
妻に伸し掛かり、怒張したペニスを一気に突き入れた。  
 
「あぐッッ!!」  
 
入り口にぬめりを与えられたとはいえ、小夜の膣内はまだ充分に潤っていなかった。  
乱暴な挿入による痛みに彼女は顔をしかめた。抵抗するようにもがいていた両脚の動きが止まる。  
純太朗も躊躇するようにわずかの間動きを止めたが、左右の手で小夜の手首を掴むと彼女の頭の  
両側で押さえ、それを支点にして体を前後に動かし始めた。激しい突き上げに嗚咽を漏らす小夜。  
 
「あっ……うぅ……ひどいわ……あなただけはこんな事しないと思っていたのに……」  
「私だって男の端くれだ……気持ちのたがが外れればこれくらい……」  
「ちゃんと…あぅ!……言ってくれればさせてあげたわよ…あっ!……あぅっ!」  
「どうかな? 自分の故郷の一大事を前に不真面目だって拒まなかったかな? ええ!?」  
「違う、きっと……私もあなたと…あっ!……同じ事を考えてた……もしかしたら今夜が最後に……  
 あ、あなた?……」  
 
自分の顔に滴り落ちた水滴に気付いて小夜はハッとした。純太朗の涙だった。  
 
「恐ろしい相手なんだろう?……行かせたくない……本当は行かせたくないんだ! 君を……」  
「あな、た……あっ、あ……」  
「でも行かなければならないんだろう? 二つの世界を守る為に……」  
「……ええ、そうよ……ごめんなさい、あなた……ごめんなさい!……」  
 
押さえつけられている両手の代わりに小夜は両脚を純太朗の腰にしっかりと絡みつけた。  
純太朗の行為はもう強姦ではなくなった。小夜は精一杯、夫の激しい動きを受け止めた。  
 
「戦いに勝ったとして…そこで使命は終わるのか? もう“小夜”には戻ってくれないのか!?」  
「確かに今日まで私は小夜という女を演じていたわ……でも約束する……生きて戻れたら必ず  
 本当の“鈴風小夜”になる……草太の母親に…あなたの本当の奥さんになるから!!」  
 
溢れ出す愛液をまとわり付かせて純太朗のペニスが早い出入りを繰り返す。彼は掴んでいた  
手首を離し、妻の体を抱きしめた。小夜もまた夫の背中に両腕を廻して離さなかった。  
 
「あっ!! あっ!! あっ!! あなたっ!! あなたぁっ!!!」  
「はっ、はっ、はっ、小夜っ、君を愛してるっ、愛してるんだぁぁっ!! ぅああああっっ!!!」  
「ああああーっっ!!!」  
 
小夜の膣内[なか]に純太朗の白い熱情がほとばしる。妻の体に自分の存在を刻み付けた彼は、  
同時に不安と悲しみと喪失感を憶えた。これが小夜との最後の夜になるかも知れないと――。  
 
 
あの時、何故小夜は“力ずく”で自分をはね飛ばさなかったのかと純太朗は不思議に思う。  
正体を明らかにした以上、魔法を使っても構わなかったはずだ。  
あんな目に遭っても彼女はあくまで“鈴風小夜”であろうとしていたのか。  
もしそうなら自分は大変な思い違いをしていた事になる。そう思い、純太朗は胸を痛めた。  
シルフィーヌは小夜という女を演じていた。それは事実だ。だが使命の為だけに異世界の住人の、  
何の取り得も無い男の妻になりその子を産み、甲斐甲斐しく尽くしたり出来るだろうか。  
何度かぶつかり合いもあったが、それでもお互いの気持ちをすり合わせ共に生きてきた小夜。  
『エルデの鍵』の守護の為、という名目でフェレナンド王は彼女にこちらに残る許しを与えた。  
だがそれは建前で実際は更迭か流刑のような扱いなのだろうと純太朗は考えていた。  
フェレナンドの伝言をハーメルンの口から聞いた時の反応を見る限り、小夜もそう思っただろう。  
不本意とはいえ、シルフィーヌはサンドリヨンに利用されファンダヴェーレに災厄をもたらした。  
フェレナンドの臣下にはその事を不快に思っている者たちもいるはずだ。フェレナンドの特別な  
計[はか]らいは、そうした連中の糾弾から彼女を遠ざけておく意味もあるのだろう。  
しかしシルフィーヌがそうした責めを負っているとしても、このエルデにいる限り何の問題も無い。  
夫との約束を果たす為、肩書きも過去も捨ててエルデに留まる覚悟を決めていた小夜にとって、  
むしろその処遇は渡りに船だったに違いない。後は純太朗自身の問題だ。  
故郷を追われたも同然の小夜。どうすれば彼女を幸せに出来るだろう――?  
 
 
 (続く)  
 
 

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