退屈な日常、学校での授業。  
今、僕は2時間目の化学の授業を受けている。  
いつもなら先生の話を上の空で聞きながら、ノートに適当なラクガキでもしているか  
教科書を読むフリをしながら人を殺す妄想で楽しむところなのだが、今日は少し様子が違う。  
正確には、「ある人物の」様子が違う。彼女の席は僕の左後方3mほどに位置しており、  
いつもは授業中は自分の手元をじっと見つめ、決して顔を上げない。以前そのことで先生に  
注意されたこともあるが、それでも彼女は顔を上げようとはしなかった。結局先生は根負けし、今では  
注意することもなくなっている。  
そんな彼女が、何故か今日は1限目の授業から顔を上げ、1点をじっと見つめている。  
なぜ今日にかぎってそんなにやる気をみせているのだろうか、と先生他クラスメイトは思っているだろう。  
授業中の今現在でも、あちこちでコソコソ話をする生徒たちがいる。  
教壇の先生も多少困惑気味のようだ。先程から誤字が目立つ。  
まあそれでも、これで本当に彼女が真面目に授業を聞いているのなら僕としても何の問題もないのだが、  
どうやらそうではないということがわかってきた。  
初めは気のせいだと思っていた。だが10分20分と経つうちに、疑惑が確信へと変わった。  
 
彼女の視線は黒板でも先生でも教科書でも窓の外を優雅に飛ぶ鳥でもなく、僕に向いている。  
 
間違いない。この首筋がチリチリする感じ。視線が突き刺さるとは正にこのことを言うのだろう。  
さて、何が原因だろうか。僕はここ1週間ほどの自分の言動を思い返すが、全く心当たりは無い。  
そもそも彼女なら、何か不満があれば直接文句を言ってくるであろうし、こんな遠まわしなやり方は彼女らしくない。  
では何だろうか。まさか視線で人が殺せるか、などという馬鹿らしい実験なんていうのではないか。  
彼女ならやりかねない。真剣な顔をしてギャグとしか思えないことをやる人間だ。(そしてそれを笑うともの凄く怒る)  
そうすると僕は彼女に対して何かリアクションをとるべきなのだろうか。  
しかし今は授業中である。これみよがしに「うわぁ〜」なんてことはできない。否、したくない。  
たしかに僕は学校では陽気な人間という設定だが、時と場所はわきまえているキャラだ。  
さて、どうしたものか…。  
とその時、背中に何かが当たる感触がした。後ろの席の人の手でも当たったか?  
まあいいや、とやり過ごそうとしたその時、2回目の感触が。  
3,4,5,6…これは手などではない。何か軽い玉のようなものが連発で当たってくる。  
背中に当たった何かが跳ね返って僕の足元に落ちた。これは…消しゴムの切れ端?  
なんでこんなものが…。一体誰が?…………心当たりは一人しかいない。  
そう考えている間にも、立て続けに僕の背中には消しゴムの切れ端がヒットし続けている。  
後頭部に当たった。これは今までのよりも大きい。消しゴム全体の1/3ほどはある。  
ここまでされてはもう無視はできない。僕は意を決して振り向いた。  
するとそこには、今まさに消しゴムのカスを投げようと振りかぶる彼女の姿が。  
僕と彼女の目が合う。彼女は瞬時に投球モーションを解除し、手元のルーズリーフに何やら書き始めた。  
おそらく僕の悪口だろうな、と思いながら彼女が書き終わるのを待つ。先生方の様子を見るが、板書の最中だ。  
彼女が書き終わったようだ。ルーズリーフを僕の方に見せてきた。  
そこには太い黒ペンでただ一言、  
 
「暇」  
 
とだけ書かれていた。  
森野……。僕にどうしろというのさ……。  
 
あと、どうでもいいことだけど、字下手だね……。  
 
この後、休み時間ごとにクラスメイトに森野との関係を問い質されることになったのは言うまでも無い。  
 
 

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